冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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41話 神の居城

 シードは、少女を自身の居城へと迎え入れた。

 

 そこは、彼自身が築き上げた結界に守られた場所だ。外界から完全に遮断され、誰一人として踏み入ることのできない孤独の城。

 

 城の内部は広大かつ荘厳で、無機質な静寂に満ちていた。

 壁にかけられた絵画も、美しい大理石の床も、時の流れが凍りついたかのようにただそこに佇むだけ。

 

 ここには人の温もりもなければ、生命の気配もない。

 彼が望んで選び取った、一人だけの世界だった。

 

「わあ、広いし、きれいなお部屋!」

 

 少女の弾むような声が、広間の静謐な空間に響き渡った。

 

 彼女は両手を広げ、くるくると回りながらはしゃぐ。

 白い髪が柔らかく宙を舞い、差し込む光に淡く輝いた。

 

 弾けるように溌剌とした無邪気な姿は、かつてシードが知る誰かの面影を否応なく思い出させた。

 

「うふふ、まるで神様みたーい!」

 

 少女は楽しげな笑みを浮かべながらぱたぱたと窓辺へと駆け寄る。

 少しだけ身を乗り出して、眼下の椋実区の街を眺めながら大きく息を吸い込んだ。

 シードはその姿を目で追いながら、微かに銀の瞳を細める。

 

「ねえ、シードさんは、どうしてこんなところでひとりぼっちなの? あなたのパパやママ……家族やおともだちはどこにいるの?」

 

 ふと、純粋な紫色の瞳が彼へ振り返った。

 悪意の欠片すら感じられない、まっすぐで、無垢な問いかけ。

 

 シードは視線を窓の外へと向け呟く。

 

「……ひとりぼっち、か」

 

 ――孤独。

 

 彼にとって当然で避けられないもの。そして選び取るべくして選び取ったものだ。

 しかし、少女の何気ない一言が、彼の心の底に沈澱していた何かに響いた。

 

 少しの間考え込んだ後、どこか遠くを見るような眼差しで語り始める。

 

「ここは『神』として存在するための場所だ。広く、静かで、何者にも干渉されない空間――それが僕にとって必要だからだ」

 

 そう言いながら、彼は視界の端に少女の姿を捉える。

 彼女はじっと自分を見上げていた。疑問と好奇心を紫色の瞳に宿して。

 

 シードは僅かに目を伏せ、低い声で続けた。

 

「……だが、君が言うような父親や母親、あるいは『家族』と呼べる存在は、僕にはいない。そんなものは最初から存在しないし、作る必要も感じていない」

 

 シードは感情を伴わない声音で告げたが、その言葉を口にした瞬間、胸の奥に小さな棘が突き刺さるような感覚があった。それが何かは、彼自身にもわからない。

 

 少女は眉をひそめ、そっと彼のそばに歩み寄る。

 

「なんだか、難しくて、よくわかんないけど……」

 

 彼女の声はほんの少し沈んでいたが、すぐにふわりとした笑顔を取り戻す。

 

「私と同じなんだね。ひとりぼっち。あ……でも、今は私と一緒だから違うね! うふふ!」

 

 その笑顔はあまりにも眩しく、そして目を逸らすことができなかった。

 まるで、閉ざされた世界に差し込む一筋の光。

 

(ひとりぼっち……同じ、か……)

 

 孤独を当然のものとして受け入れてきた彼が、同じ孤独を抱える者と出会う――それは必然なのだろうか。

 

 シードは短くため息をつき、彼女の純粋すぎる言葉に対峙するように、ほんの僅かに声を柔らかくした。

 

「おともだち……そうだな」

 

 彼は少しだけ目を伏せ、記憶を手繰り寄せるように語る。

 

「かつて、僕に敵対した存在が一人だけいた。その者とは最終的に互いを消し去る戦いをした。そして――」

 

 言葉を切り、一瞬黙り込む。胸の奥が微かに疼く。

 だが、シードはその感覚を冷たく押し込め、再び少女を見つめる。

 

「――その者が今どうなっているのか、君にはまだ話すべきではないだろう。だが、僕がひとりぼっちでいる理由は、それで十分説明できる」

 

 シードは息をつき、窓辺に歩み寄った。

 目を閉じると、透き通るような風が肌を撫でていった。まるで遠い昔の誰かが、耳元で何かを囁くように。

 

 瞼を開き、銀色の瞳が広がる無限の空を映し出す。

 そして、低く穏やかな声で言葉を締めくくった。

 

「この場所は、僕が選び取った『孤独』だ。そして君がここにいる今、それがどう変わるかは……僕自身にもわからない」

 

 再び静寂に包まれた城の中、風の音だけが響く。

 

 窓の外を見つめ続ける背中に、そっと少女の気配が寄り添う。

 

 ――懐かしいあの気配。

 

(ラナスオル……)

 

 かつてこの腕をすり抜けて消えていった、温かな光の小さな名残。

 その残響は今もなお消えずに彼の中で揺らめいていた。

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