冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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42話 孤独の中の変化

 シードは、少女の無垢な言葉と行動を冷静に受け止めながらも、その中に自分の知らない何かを感じ取っていた。

 

 理屈では説明できない何か――彼の知る世界には存在しないはずの温もりのようなものが、少女の声に宿っているようだった。

 

「シードさん、おともだちと喧嘩しちゃったんだ……。私にはおともだちがいなかったから、よくわかんないけど……また仲直りできるといいね!」

 

 少女は朗らかに微笑みながら、何の疑いもなく言った。

 彼女の考える喧嘩とは、一時的なすれ違いであり、仲直りは当たり前という認識なのだろう。

 

 無邪気に微笑む彼女を見つめながら、シードは一瞬だけ黙り込む。

 少女の言葉は、冷徹な論理で動く彼にとってはあまりにも純粋で、まっすぐで――理解を越えたものだった。

 

「君がそう思うのは勝手だ。僕が孤独を選んだ理由は、単に『誰かと喧嘩した』からではない。必要があってそうしているだけの話だ」

 

 そう言いながらも、どこか違和感を感じていた。

 まるで、自分自身を納得させるために言葉を並べているような、そんな感覚だった。

 

 シードは僅かに眉をひそめた。

 「必要だから」と言い切ることで、何かを押し殺すような痛みが胸の内に滲み込む。

 

「仲直り……そんなものに意味はない。僕たちが争った理由は、単なる感情や誤解などではなく、互いの存在そのものが相容れなかったからだ」

 

 少女は彼の言葉に小首を傾げたが、それでも曇りない笑顔を見せる。

 

 むしろ、彼の言葉のすべてを受け止めたうえで、それでも信じているような、そんな穏やかな笑顔を浮かべていた。

 

 シードは彼女の無邪気な仕草を目にしながら、ゆっくりと続ける。

 

「……だが、それを君に説明しても意味はないだろう。君の言う『仲直り』という言葉に何かしらの価値があるのか――それは僕自身にもわからない」

 

 そう言い終えた後、彼は少女の姿に目を落とし、小さく息をついた。

 彼女の笑顔が、彼の冷え切った精神にじわりと染み込んでいくのを感じた。

 なんの打算もない――ただの温かさだ。

 

「……君がいる間だけは、確かに『ひとりぼっち』ではないかもしれない。それがどういう意味を持つのか……もう少し考えてみる価値はありそうだ」

 

 そう言いながら、シードはそっと手を伸ばし、少女の頭に軽く触れた。

 少しだけ驚いたように見上げる少女の瞳に、彼は静かに問いかけた。

 

「君は僕と一緒にいることで、本当に『ひとりぼっち』から救われたと思うのか?」

 

 少女は一瞬考え込むように視線を彷徨わせる。

 目を伏せ、指を顎にそっと添える、どこかで見覚えのあるような身振り。

 

 やがて紫色の瞳を輝かせて微笑んだ。

 

「私は、あなたと会えて今すごく嬉しい。他の誰かじゃなくて、『あなた』だからだと思うの。理由はよくわかんないけど……ずっと前からそんな気がして……。だから、今は全然さびしくないよ!」

 

 少女のあまりにも純真な答えに、シードは一瞬言葉を失った。

 理屈ではない。自分とはまるで正反対の、雪のような純粋無垢の白。

 彼女の答えは、彼の中の失われたものをそっと指でなぞるようだった。

 

 少女はきっと何も知らない。それでも、彼の存在に意味を見出そうとしている。

 彼女の混じり気のない気持ちが、シードの内側で微かな波紋を広げていく。

 

「……そうか」

 

 短く答えたあと、彼は少女の言葉を反芻する。

 

「他の誰かではなく、僕であることに意味がある……か」

 

 ――彼女がそう感じるのなら、それは彼女自身の価値観だ。

 彼には、それを否定する理由はなかった。

 

 だが、迷いなく言い切った少女の言葉が、過去の扉を叩くように響いた。

 かつて自分を望み、生かそうとしたあの存在のように。

 

 シードは少女の無邪気さに僅かに呆れたように小さくため息をつく。

 

「……だが、君は無防備すぎる。僕は『嬉しい』や『寂しくない』という感情を基準に存在しているわけではない。僕が君に何を与えられるかもわからない」

 

 淡々とした言葉だが、彼自身に向けたものでもあった。

 

(僕が、この少女に与えられるものとは何だ?)

 

 ――孤独と虚無の果てに生きるこの身が、誰かに何かを与えることができるのだろうか。

 

 答えは出ないままシードは一呼吸置くと、彼女の髪をそっと指先で梳いた。

 細く滑らかな白髪が、骨ばった指の隙間から絹糸のように零れ落ちていく。

 

 ほんの一瞬、過去の記憶が微かに胸を過る。

 

 ――懐かしい。

 

 だが、それが何に対する感情なのかは、やはり分からなかった。

 

 手の動きはぎこちなく、戸惑いを孕んでいた。

 彼はそんな自分に気づかぬふりをして、少しだけ柔らかな声で続けた。

 

「……だが、今は、君がここにいることで、僕の静寂が少し変化していることだけは事実だ。それが君にとって意味のあるものなら、僕もそれを否定しない」

 

 そう締めくくりながら、シードは少女を見つめる。

  彼女は銀色の瞳を見上げながらにっこりと笑った。

 

「……君がここで過ごす間は、安心していればいい」

 

 少女の微笑みに対し、彼の声音はあくまで理知的で冷静に響く。

 彼にとってはただの事実の提示に過ぎないからだ。

 

 それでも、その声に隠された無自覚な優しさを、少女は確かに感じ取っていた。

 紫色の瞳を細めながら、彼女は柔らかく微笑み返した。

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