冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
ラナスオルの慟哭が、不意に静寂を破った。
「私は人間で、あなたは神……! 私はいずれ歳をとって、あなたの元からいなくなる。だから、今……あなたを精一杯愛したい! この感情が私を縛り、苦しめることになっても……私が生きている限り、あなたを孤独にはさせない……それが、私が選んだ道だから……!」
彼女の叫びは、儚く、力強く、そして美しかった。
涙は尽きることなく溢れ続け、細い肩が小刻みに震えている。
無限の時を生きる存在であるシードにとって、彼女の命を懸けた叫びはあまりにも鮮烈だった。
彼を抱きしめるラナスオルの姿は、定められた運命に抗おうとするただの一人の人間としての強い覚悟を映し出していた。
儚い肉体で、限りある命で、不滅の存在である彼を包み込もうとしていた。
シードは彼女の言葉を静かに聞きながら、細い腕の温もりと溢れる涙の熱を胸に感じていた。
それは、いつか緩やかに消えていく温もり――。
神である彼には、それはあまりにも遠い感覚だ。
しかし今、自分を抱きしめるこの腕の震えだけは確かに感じられる。
――なぜ、ここまで必死になれるのか。
人間の愛というものが、なぜこれほどまでに痛々しく、苦しく――そして輝いて見えるのか。
彼にはまだそのすべてが理解できなかった。
「……君は、本当に愚かな選択をしたものです」
その言葉は冷たく響いたが、決して突き放すような声音ではなかった。
銀色の瞳が、涙に濡れるラナスオルを静かに見下ろした。
「君は有限の命を持ちながら、それを僕のために捧げる覚悟を持っている。それは確かに君の選んだ道……ですが、苦しみになると知っていながら進むとは……人間とは本当に不可解です」
シードは彼女の背中にそっと手を回し抱き返す。
壊れ物を扱うかのようなぎこちなさだが、微かな優しさがあった。
「……しかし、その選択が君自身の意志である以上、僕はそれを否定しない。君が僕のそばにいることで何かを見つけたいと願うのなら、それに応えることもやぶさかではない」
彼女の震える肩に触れながら、シードは胸の奥で鈍い痛みを感じていた。
この感覚の正体を探ろうとするが、彼が知るはずもない感情を掬い取ることはできず、答えには辿り着けない。
「僕が孤独かどうか……そんなことは君が気にするべきことではありません。ですが、君がそう思うのなら――その愚かさに応えてやるのも、僕の役割です」
シードはゆっくりとラナスオルの髪に指を滑らせた。
長い白髪が月光を受け、淡く儚く輝いた。
彼女の選択がどれ程愚かであろうと、理解できなくとも。
彼にはそれを否定する理由がなかった。
彼女が選んだ道を踏みにじることはしたくなかった。
「君がどれだけの時間を生きるとしても、君が選んだ道を見届けましょう。そして、君の言う『愛』という感情の意味を……少しだけ知る努力をしてみましょう」
シードの言葉には、僅かではあるが確かな温もりが込められていた。
それは、孤独を選んできた神が有限の命を持つ人間の想いに向き合おうとする、ほんの一歩の変化だった。
「愛」とは何か――彼にはまだわからない。
それでも、ラナスオルが涙を流しながらも、自らの意志で傍にいることを望むのなら――
その理由を知ろうとすることは、決して無意味ではないのかもしれない。
彼女が限りある命のすべてを懸けて彼を愛そうとするのなら、彼はそれを理解しようと努める。
それが、彼にとっての「生きる」ということに繋がるのなら。
ラナスオルの涙は止まらなかった。
しかし、その紫色の瞳には小さな光が宿っていた――この先、残された時間を彼と共に生きると決めた、静かな決意のように。