冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
戦場が胎動するかのような轟音が響き渡った。
破壊の右手セヴァストが振るわれた瞬間、空気が悲鳴を上げるように軋む。
空をも覆わんとする衝撃波が渦を巻き、破壊の魔力が竜巻のごとくシードへ襲いかかる。
「まだ、その力を振るうつもりですか?」
シードが手をかざすと、異形の魔力が奔流となって解き放たれる。
それはラナスオルの破壊の力を蝕み、その性質を塗り替えるかのように霧散させていった。
ラナスオルは咄嗟に右手を振り抜く。
(この力は……)
胸に湧いた動揺を必死に抑え込む。
(彼の力が、私の破壊を侵食している……)
それは単なる魔力の干渉ではない。
「破壊」そのものを上書きする異質な力。破壊と創造を内包しながら、それすら超越する「何か」だ。
彼女はシードの瞳を見据え、鋭く言い放った。
「かつての君は、洗練された魔術で私を圧倒した。純粋に力を追い求め、美しさと強さを極めようとする姿勢に、私ですら敬意を抱いた。だからこそ、私は君と全力で戦えた……」
刹那、乾いた風が吹き抜ける。
荒廃した大地で、二人は対峙していた。
だが、今の彼は――違う。
「一体何が君をそうした? なぜ、君の中に私と同じ破壊と創造の力を感じるのだ!?」
人間だった頃の彼が宿していた純粋な強さの輝きは、もうどこにもない。
今はただ、見る者を蝕むような異質さだけが残る。
黒衣を纏い、青白い炎に揺らめく姿は、死の神のようにさえ映った。
ラナスオルは目を伏せ、抑えきれぬ感情を言葉にする。
「今の君は……あまりにも禍々しい……」
その声には怒りと悲しみが混じる。
自らの手で葬ったはずの存在が、歪んだ形で蘇ったことへの嘆きだった。
(もう一度……「無」を……。だが、彼はもはや「無」すら超越した存在……)
創造の左手フェルジアの光で異形の魔力を押さえ込みながら、彼女は内心で恐怖さえ抱いていた。
神である自分が、破壊と創造を内包する異形を前にして足がすくむ――その事実が彼女を苛む。
シードはラナスオルの問いに僅かに首を傾げた。
「何が僕を……?」
答えを探すように呟きながら、彼は一歩ずつ近づく。
青銀の瞳には感情がなく、すべてを見透かすような光だけが宿っている。
「答えは単純です」
そう言うと、彼はゆっくり手を伸ばした。
指先が空中をなぞると、周囲の空間が砕け、次の瞬間には再び繋がれる。
まるで現実そのものを書き換えるかのように。
ラナスオルは目を見開いた。
(これは……私と同じ「創造」の力? いや、それとも……)
彼は低く声を響かせ、手を軽く広げながら続ける。
「あなたが僕を『無』へ葬った、その瞬間にすべては始まっていたのです」
その言葉に呼応するように、異形の魔力が膨れ上がり、螺旋を描いた。
「『無』は終わりではなく、ただの始まりに過ぎなかった……」
彼の声に怒りも悲しみもない。
無に飲まれ、理から外れながらも、知られざる世界の理を語る冷たい存在のようだ。
「破壊の右手セヴァスト、創造の左手フェルジア……そして『無』。あなたが三位一体の神として統べる力の意味を、僕は『無』の中で悟ったのです」
彼の脳裏に、無の中で自分のすべてを託した幻がよぎるが、すぐに消え去る。
ラナスオルの手に宿る光を一瞥し、シードは微かに口角を上げた。
その笑みは――かつての彼のものではない。
壊れた者だけが浮かべる、異形の微笑みだった。
「皮肉なものですね。あなたが僕を滅ぼすために振るった力こそが、僕をこの姿に変えたのです」
彼の手から放たれる魔力が、さらに周囲を侵食し始める。
ラナスオルは息を飲んだ。
(私の力が彼を……?)
目の前にいるのは、もはやかつてのシードではないことを否応なく思い知る。
「僕は『破壊』でも『創造』でもない。そして『無』ですらない。ただ全てを超えた『異質な存在』となった」
彼は手を下ろし、ラナスオルを真っ直ぐに見据えた。
銀の瞳に迷いは一片もない。
「ラナスオル……この『答え』を前に、あなたはどうしますか?」
冷徹で鋭い声音が響く。
「再び僕を『無』へ葬るのか。それとも、使命を捨て僕の前に屈するのか――選ぶのはあなたです」
ラナスオルは短く息をつき、全身に力を込めた。
(私が迷えば、この世界は終わる……!)
彼が何者になろうと、どれほど異質な存在へと変貌しようと――彼女の使命は変わらない。
破壊と創造、そして宿す使命――すべてをかけて、再び立ち向かう覚悟を決めた。
それが、神として生き続ける自分に課せられた唯一の意味だと信じて。