冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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54話 無を超えた異質

 戦場が胎動するかのような轟音が響き渡った。

 

 破壊の右手セヴァストが振るわれた瞬間、空気が悲鳴を上げるように軋む。

 空をも覆わんとする衝撃波が渦を巻き、破壊の魔力が竜巻のごとくシードへ襲いかかる。

 

「まだ、その力を振るうつもりですか?」

 

 シードが手をかざすと、異形の魔力が奔流となって解き放たれる。

 それはラナスオルの破壊の力を蝕み、その性質を塗り替えるかのように霧散させていった。

 

 ラナスオルは咄嗟に右手を振り抜く。

 

(この力は……)

 

 胸に湧いた動揺を必死に抑え込む。

 

(彼の力が、私の破壊を侵食している……)

 

 それは単なる魔力の干渉ではない。

 「破壊」そのものを上書きする異質な力。破壊と創造を内包しながら、それすら超越する「何か」だ。

 

 彼女はシードの瞳を見据え、鋭く言い放った。

 

「かつての君は、洗練された魔術で私を圧倒した。純粋に力を追い求め、美しさと強さを極めようとする姿勢に、私ですら敬意を抱いた。だからこそ、私は君と全力で戦えた……」

 

 刹那、乾いた風が吹き抜ける。

 荒廃した大地で、二人は対峙していた。

 

 だが、今の彼は――違う。

 

「一体何が君をそうした? なぜ、君の中に私と同じ破壊と創造の力を感じるのだ!?」

 

 人間だった頃の彼が宿していた純粋な強さの輝きは、もうどこにもない。

 今はただ、見る者を蝕むような異質さだけが残る。

 黒衣を纏い、青白い炎に揺らめく姿は、死の神のようにさえ映った。

 

 ラナスオルは目を伏せ、抑えきれぬ感情を言葉にする。

 

「今の君は……あまりにも禍々しい……」

 

 その声には怒りと悲しみが混じる。

 自らの手で葬ったはずの存在が、歪んだ形で蘇ったことへの嘆きだった。

 

(もう一度……「無」を……。だが、彼はもはや「無」すら超越した存在……)

 

 創造の左手フェルジアの光で異形の魔力を押さえ込みながら、彼女は内心で恐怖さえ抱いていた。

 神である自分が、破壊と創造を内包する異形を前にして足がすくむ――その事実が彼女を苛む。

 

 シードはラナスオルの問いに僅かに首を傾げた。

 

「何が僕を……?」

 

 答えを探すように呟きながら、彼は一歩ずつ近づく。

 青銀の瞳には感情がなく、すべてを見透かすような光だけが宿っている。

 

「答えは単純です」

 

 そう言うと、彼はゆっくり手を伸ばした。

 

 指先が空中をなぞると、周囲の空間が砕け、次の瞬間には再び繋がれる。

 まるで現実そのものを書き換えるかのように。

 

 ラナスオルは目を見開いた。

 

(これは……私と同じ「創造」の力? いや、それとも……)

 

 彼は低く声を響かせ、手を軽く広げながら続ける。

 

「あなたが僕を『無』へ葬った、その瞬間にすべては始まっていたのです」

 

 その言葉に呼応するように、異形の魔力が膨れ上がり、螺旋を描いた。

 

「『無』は終わりではなく、ただの始まりに過ぎなかった……」

 

 彼の声に怒りも悲しみもない。

 無に飲まれ、理から外れながらも、知られざる世界の理を語る冷たい存在のようだ。

 

「破壊の右手セヴァスト、創造の左手フェルジア……そして『無』。あなたが三位一体の神として統べる力の意味を、僕は『無』の中で悟ったのです」

 

 彼の脳裏に、無の中で自分のすべてを託した幻がよぎるが、すぐに消え去る。

 ラナスオルの手に宿る光を一瞥し、シードは微かに口角を上げた。

 

 その笑みは――かつての彼のものではない。

 壊れた者だけが浮かべる、異形の微笑みだった。

 

「皮肉なものですね。あなたが僕を滅ぼすために振るった力こそが、僕をこの姿に変えたのです」

 

 彼の手から放たれる魔力が、さらに周囲を侵食し始める。

 ラナスオルは息を飲んだ。

 

(私の力が彼を……?)

 

 目の前にいるのは、もはやかつてのシードではないことを否応なく思い知る。

 

「僕は『破壊』でも『創造』でもない。そして『無』ですらない。ただ全てを超えた『異質な存在』となった」

 

 彼は手を下ろし、ラナスオルを真っ直ぐに見据えた。

 銀の瞳に迷いは一片もない。

 

「ラナスオル……この『答え』を前に、あなたはどうしますか?」

 

 冷徹で鋭い声音が響く。

 

「再び僕を『無』へ葬るのか。それとも、使命を捨て僕の前に屈するのか――選ぶのはあなたです」

 

 ラナスオルは短く息をつき、全身に力を込めた。

 

(私が迷えば、この世界は終わる……!)

 

 彼が何者になろうと、どれほど異質な存在へと変貌しようと――彼女の使命は変わらない。

 破壊と創造、そして宿す使命――すべてをかけて、再び立ち向かう覚悟を決めた。

 それが、神として生き続ける自分に課せられた唯一の意味だと信じて。

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