冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
神と神の力がぶつかり合い、空が悲鳴を上げる。
破壊と創造。
相反する二つの絶対的な力が衝突するたび、大地はひび割れ、精霊たちの命が塵となって消えていく。
ラナスオルの破壊の右手が振るわれれば、その余波だけで周囲の山々が崩れ落ち、創造の左手が輝けば、死に絶えた大地が瞬時に蘇る。
だが、そのすべてを蝕むように、シードの異形の魔力が広がっていた。
もはや、ここは戦場とは呼べなかった。
神と神の衝突が、世界そのものを刻一刻と書き換えているかのようだった。
その激しい戦いの中心で、シードは氷の彫像のように佇んでいる。
ラナスオルの神術の奔流を受けながらも、まるでその渦中にいる自覚がないかのように。
そのさなか、ラナスオルが独り言のように呟いた。
「『無』とは全ての終わりのはず。光も音もない、肉体と魂が消え去る永遠の静寂であるはずだ……」
彼女が放つ破壊の力は、ことごとくシードの魔力に遮られる。
「だが、『無』は私ですら完全に理解できていない概念……。君は『無』の中で何を見たというのか……。私のような存在から力を奪ったとしか考えられない。神を殺したとでもいうのか……?」
ラナスオルは
シードは彼女の言葉を冷たく聞き流しながら、押さえ込まれる自らの魔力を見下ろした。
「……神を殺した、か。興味深い発想ですね」
一瞬、創造の力に歩みを止められるが、彼はその力を真正面から受け止め、魔力を高めて押し返し始める。
(生と死、存在と消滅の概念を失った先の絶望など……あなたに理解できるはずもない)
シードの表情に、乾いた虚無感の名残のように影が差した。
彼の中に、感情と呼べるものなど残っていない。
荒涼とした大地が軋み、精霊たちの断末魔が響き渡る。
「あなたの『無』は確かに全ての終わりだった……ですが、それは人や神が理解できる範疇の話だ」
青白い炎が再び燃え上がる。
「あなた自身が言ったように、『無』はあなたにも完全には理解できない。だからこそ、僕はその中で真実を見出したのです」
言葉とともに一歩踏み出す。
そのたびに足元の大地が黒く変色し、異形の魔力が広がって女神の力で再生されたすべてを塗り替えていく。
「創造の力で押さえ込もうとするのは良い判断だ。ですが、あなたの『力』は所詮、僕がすでに知り尽くしたものに過ぎない」
彼は冷酷に言い放ち、空を撫でるように右手を軽く振る。
ラナスオルの創造の障壁がひび割れ、光が崩れ落ちた。
「……っ、フェルジア……!」
ラナスオルは左手を見やる。
霧散する創造の光の粒子を指先で握り締めるが、諦めない。
再び拳を掲げ、魔力を放った。
「……神を殺したと言われても構わない」
彼の声に誇りも狂気も宿っていない。
ただ、己の存在という事実を冷徹に突きつけるのみ。
「むしろ、それこそが僕の証明だ。『無』を超えた存在として、僕はここにいる。それが真実」
それは否定しようのない宣告だった。
彼が今ここにいること自体が、どうやっても覆せない現実だ。
ラナスオルは息を呑み、拳を握り締める。
怒りと悲しみが混じった複雑な色が紫の瞳に浮かんだ。
シードはそんな彼女の表情を観察するように見つめた。
「ラナスオル、あなたが神として再びこの地に立つ理由は何です? 『使命に縛られるだけ』の存在として、僕を葬ることがそんなに重要ですか?」
問いが重なる。
「……それとも、まだ何か別の理由があるのですか?」
煽るような言葉だが、内心には僅かな興味が混じっていた。
それが感情なのか、単なる好奇心なのか、彼自身にも分からない。