冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
ラナスオルは、シードの冷酷な視線を真正面から受け止めながら、一切の動揺を見せずその問いに応えた。
彼女の声には鋭い決意が宿り、紫の瞳には千年の時を経ても燃え続ける、神としての責務を全うする揺るぎない光が灯っている。
世界が破壊と再生を繰り返し、大地が呻き、空が裂けようとも――その声音は一筋の剣のように確かな意志を滾らせていた。
「そうだ……使命だ」
重い一言が、世界に刻み込まれるように響く。
「私は女神。この
言葉と同時に、彼女の右手から膨大な破壊の力が解き放たれる。
光の奔流がシードの異形の魔力を相殺し、次々に塗り潰していく。
黒く枯れた大地がその光を浴びるたび僅かに色を取り戻し、消えかけた精霊の囁きが風に乗って舞い戻る。
「……しかし君は違う!」
鋭い声が響いた。
「君は『無』を超えた存在だと言い張るが、そのためにどれだけの命を踏み潰してきた!? どれだけ世界を灰にした!? その答えすら、君は持っていない! 自らを『無』より生まれたものだと標榜しながら、君はその実、ただの破壊者に過ぎない!」
威厳に満ちた声とともに、創造の神フェルジアの守護の力がさらに高まる。
精霊の輝きが風に乗り、空の裂け目から漏れる光が希望の兆しのように地上を照らし始めた。
だが――
その光景を前にしても、シードの銀色の瞳は、冷たく、乾いていた。
(僕自身の答え……)
彼は内心で反芻する。
(もはやそんなものに縋りはしない)
ラナスオルの言葉は確かに届いている。
だが、それは凍てついた湖面に落ちた小石のように心の底に沈むことなく、冷たい残響として意識の奥で震えるだけだった。
沈黙の中、再びラナスオルが口を開く。
「君はかつて人間だった。だが、その終わりを拒んだ。この永遠があると知りながら、なぜ神の力を受け入れた? そしてなぜ永遠を断ち切ろうとする……?」
抑えきれぬ苛立ちと焦燥が混じる声で叫ぶ。
「この矛盾を、自覚しているのか? 千年の時を経て、君が導き出した答えが……それなのか!?」
雷のような声が大地に鳴り渡り、創造の光がさらに輝きを増す。
破壊の力もがシードの魔力を相殺し始め、彼はその様子を観察するように目を細めた。
そして彼女の焦燥を見透かすかのように、僅かに口角を上げる。
「……ラナスオル、僕が『矛盾』を恐れるとでも?」
冷たい声を落としながら、彼は一歩踏み出す。
その足元で、魔力に侵された大地が再び灰色に枯れ、命の気配を失っていく。
銀色の瞳が、彼女を射抜くように見据える。
そこには挑発的な光と、何よりも揺るぎない確信が宿っていた。
「確かに、僕は人としての終わりを拒んだ。そして、あなたが与えた神の力――いや、『呪い』を受け入れた。それがどうしたというのです?」
――あなたが与えた力。
その言葉を紡ぐ時、シードの胸に過去の記憶が微かに疼いた。
――あの日、命を燃やすようにして彼に差し出された温かな手。
それは、今目の前に立つ女神の幻影だったのかもしれない。
彼女はシードに力と命を与えた、救いの手であったはずだった。
だが、同時に彼を永遠に縛り付ける呪いでもあった。
(この力は……終わるためのものだ)
かつては、その意味を理解していなかった。
だが今は、嫌という程分かっている。
神の力は、世界を守るために存在するものではない。
世界を破壊し、再生させ、終わりなく循環させ続ける枷でしかなかった。
だからこそ、シードはその力を手にした。
永遠の輪を断ち切るために――己の存在そのもので、その理を否定するために。
彼の周囲に、青白い異形の魔力が再び渦巻く。
ラナスオルの放つ破壊の力を相殺し、さらなる闇を生み出すように。
「ラナスオル、あなたは『永遠』を使命として受け入れた。それがあなたの存在理由。……ですが、僕にとってその永遠はただの牢獄です。命も、神も、世界すらも繰り返しの中に閉じ込め、終わることを許さない、悪夢の輪廻でしかない」
彼の声音は、感情がないながらも徐々に鋭さを増していく。
自らの言葉で、自らを再確認するかのように。
「僕が永遠を受け入れたのは、それを断ち切る手段を探すため。あなたが創造者としてこの世界を守ることに価値を見出すのなら、僕は力の極致にこそ価値を見出す。あなたに与えられたこの力、それが何をもたらそうと、僕はそれを貫く」
彼は両手を広げ、内に渦巻く異形の魔力を示す。
あらゆる命の気配を喰らい、侵す絶対的な虚無。
「僕の答えが『矛盾』だとして、それがどうした? 矛盾も含めて、僕の存在そのものが――力の証明です」
一瞬の沈黙。
ラナスオルの創造の光と、シードの侵食する闇が二人の間でせめぎ合う。
その間に流れるのは、言葉にならない痛みと、断ち切れぬ過去の残滓。
彼の内に巣食う虚無が、再び世界を蝕むべく広がり始めた。