冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
「……私が本当に守りたいものだと? 理解不能な質問だな。これが全ての答えだ!」
ラナスオルの声が天を裂くように響き、怒りと決意が凝縮された破壊の力が一気に解き放たれた。
肌を刺すような殺気が周囲を満たすと、破壊の右手セヴァストの灼熱の閃光がシードへと降り注ぐ。
周囲の空気すら焦げつき、砕け散った大地の破片が烈風に吹き上げられる。
しかし、その圧倒的な力の奔流の中でも、シードの表情に一切の動揺はなかった。
迫り来る破壊の波を見据える瞳には底知れぬ虚無が張り付き、異形の魔力を纏いながら冷たく呟く。
「……理解不能、ですか」
彼が片手を軽く振り上げると、魔力が破壊の力を撫でるように退けていく。
行き場を失った力が周囲の大地を波立たせ、瓦礫が宙を舞う。
「あなたが守ろうとしている『使命』とやらも、結局は空虚なものに過ぎない」
彼の無感情な言葉が、彼女の胸の奥に突き刺さるようだった。
「あなたが神として守るべきものが『使命』そのものだというのなら、それは結局自己満足なのではありませんか? あなたの本質は、その繰り返しの中で閉じ込められているに過ぎないのです」
破壊の力を完全に押し返しながら、シードはゆっくりと前に歩を進める。
魔力が彼の足元から波紋のように侵食し、命の残滓すら残さず大地を蝕んでいく。
生まれるたびに奪われる命。
芽吹くたびに枯れゆく大地。
無意味に繰り返される、破壊と再生――。
ラナスオルの創造の力がいくら抗おうとも、彼の存在そのものが、すべての命を静かに終わらせていく。
――存在するだけで、終焉をもたらす異形。
「ならば、君がこの千年で見出した答えは、一体誰のためのものだ? それこそ、ただの君の自己満足のためではないのか!?」
怒号とともに、ラナスオルの全身から放たれる光が彼を包み込む。
その光は彼の魔力を押し返し、再び均衡を生み出したかのようだった。
「ラナスオル……僕には答えが見つからなかった。だから今もこうして力を追い求めている。あなたには本当に答えがあるのですか? その『使命』とやらが、あなたを満たしているのですか?」
シードの声は冷たく、乾いていた。
彼だけが知る、答えが見つからなかった者の虚無と諦念が異形の炎の中に揺れる。
(なぜ、彼女は諦めない……?)
その執念じみた使命への意思が、シードにはどうしても理解できなかった。
「もしその答えが『理解不能』というのなら、あなたもまた呪われた存在に過ぎない。そしてその呪いこそが、僕たちをこうして永遠に縛り付けているのではありませんか?」
おぞましい魔力がさらに広がり、ラナスオルの放つ力にじりじりと迫る。
彼女の表情には微かな疲労の色が浮かぶが、その瞳は闘志を失わない。
シードは鋭い視線を送りながら、冷たく言い放った。
「……さて、あなたの次の一手を見せてください。それが本当に『守りたいもの』を証明するものであるのなら、僕も少しは納得するかもしれません」
異形と光の力が拮抗し、緊張が極限に達する中、二人の視線が再び交錯する。
「呪われている……? 私が閉じ込められている……? 君にいったい何がわかる!」
ラナスオルの叫びが世界を揺るがした。
破壊の右手――セヴァストが荒々しく燃え上がり、神性を纏った波動が暴風のごとく周囲を薙ぎ払う。
閃光は森を焼き払い、命の残滓すら許さない。大地は穿たれ、無数の焦げ跡が刻まれていく。
「君は何を考えている。言葉遊びで私を籠絡するつもりか?」
破壊の衝撃が空に輝いていた精霊たちの命を次々に奪い去る。
荒涼とした光景は、彼女の怒りがもたらす終末そのもののようだった。
「言葉などもはや不要と言ったはずだ……。君はこの世界の『異物』……故に排除する。それ以外に君に答えることなどない!」
矢継ぎ早に吐き出される言葉は、自分を否定する彼への拒絶であり、同時に僅かな動揺を覆い隠す鎧でもあった。
大地と精霊たちの命を巻き込み、狂気を帯びた破壊の力が咆哮の如くシードに襲いかかる。
シードは青い光を湛えた銀色の瞳で冷たくその光景を見据えた。
魔力が彼の周囲で渦を巻き、荒ぶる破壊の力を静かに受け止める。
その場には、かつて二人が交えた戦いの記憶が蘇るような緊張感が漂っていた。
彼は散りゆく精霊たちに目をやるが、一切の感情を感じさせない。
その態度には冷酷で計算された美学すら漂っている。
「ラナスオル……言葉を拒むのは、あなた自身が心の中に揺らぎを抱えているからではありませんか?」
荒れ狂う力が迸る中心に、底冷えする程静かな声が響いた。
しかし、その声音にはどうしても知りたい答えを探るかのような、執拗な探求心が滲む。
「揺らぎ……?」
破壊の力を放ちながらも、ラナスオルは僅かにその動きを鈍らせた。
シードはその一瞬の迷いを見逃さず、さらなる力を受け止めながらゆっくりと歩を進める。
「『異物』だから排除する。それは単純明快な理由ですね。ですが、僕がここにこうして立っている以上、それがどれほど虚しい行為か……あなたも理解しているはずです」
彼の魔力が破壊の力を押し返し、空を淀ませながら広がっていく。
その様子を見つめるラナスオルの瞳には、怒りの中に僅かな迷いが見え隠れする。
「……あなたが僕を本当に排除できると言うのなら、やってみるといい。その力がどれ程のものか、見極めてみせます」
シードの声には確信すら宿っていた。
自分が殺される可能性すら、今の彼にはどうでもいいことだった。
重要なのは――答え。
(仮に僕がここで消えたとしても、何も終わらない。同じことを繰り返すだけだ。ラナスオル、あなたとてそれはわかっているはず……)
彼は軽く手を上げ、異形の魔力をさらに増幅させる。
その力が青白く明滅し、ラナスオルの破壊の力と激しくぶつかり合う。
「ラナスオル……言葉が不要だというのなら、あの時のように力で語るといい。あなたが本当に守りたいものが何なのか、それを証明してみせてください」
その瞬間、二つの力が空を割るような衝撃を生み出した。
破壊と異形の力が激突し、轟音が世界に響き渡る。
ラナスの美しい自然が、精霊が、命が――次々と輝きを失い、枯れ果てていく。
その中でシードの青銀の瞳は冷酷な光を放ち続けていた。
「私は君を止める。それが使命のためでも、感情でも関係ない。このラナスを、精霊たちを、人々を守るために――君を超える!」
その宣言とともに、ラナスオルの全身から放たれる破壊と創造の光がこれまで以上に輝きを増し、シードを包み込む。
しかし、シードの魔力もまた、その光を押し返し再び均衡を生み出す。
二柱の神の力の交錯が、ラナスの大地を激しく振動させ、裂け目が走るように揺れ動いていた。