冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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68話 ともに歩む永遠の時

「私に……やり直す機会をくれるのか……?」

 

 掠れるような声で紡がれた問いが、そっと風に溶けていく。

 ラナスオルの目は伏せられ、震える瞼の奥に懺悔と願いが交錯していた。

 

 荒れ果てた世界の中心で、全てを壊してしまった女神。

 彼女が今差し出すのは、心からの後悔と希望の欠片だった。

 

 対するシードは、無言のまま佇んでいる。

 その銀の瞳は氷のように冷たく澄んでいたが、ラナスオルの視線と交わることで、彼の中で何かが静かに動き始めていた。

 

 沈黙の中、彼は彼女を見つめ返す。

 雲の隙間から差し込む光が、シードの銀色の瞳を淡く照らす。

 ラナスオルには、その瞳の奥で「幻のラナスオル」が微笑んでいるように見えた。

 

 それは記憶の残滓か、魂の共鳴か――いずれにせよ、その微かな光に心が救われるようだった。

 

「ありがとう……」

 

 涙の滲む声で、ラナスオルはそう呟いた。

 ひび割れた大地に膝をついていた彼女は、よろめきながら立ち上がる。

 震える膝に手を添え、ドレスの裾を整えた。

 

 失ったものの大きさも、過ちの重さもすべてを抱きしめるように――紫色の瞳に確かな志を宿して。

 

「千年……永遠を生きる神にとって、この時間はまだ僅かひとときにすぎないだろう。時間は限りなくある……私は……ゆっくりと答えを探したい。幻の私も、人間の私も、そして女神である私自身も、それを望んでいる」

 

 幻のラナスオルの優しさ、人間のラナスオルの純粋さ、そして今ここに立つ女神ラナスオルの決意――

 それらが一つの意志として彼女の言葉に重なる。

 

「だから君も……『生きて』ほしい。たとえ、人を捨て去った異形の神であっても……この『ラナス』で生まれた一つの尊い命として、私は隣に立ち、君を愛そう……」

 

 そう言いながら、ラナスオルはそっと手を差し出した。

 シードの無骨で冷たい手を、両手で優しく包み込むように触れる。

 

 彼女の指先は小さく震え、守ろうとしてすべてを失った女神の弱さをさらけ出していた。

 だが、そこに込められた温もりは、千年もの孤独の暗闇にいたシードの心を静かに溶かしていく。

 

 シードは、何も言わずその手を見つめていた。逃れようとはしない。ただ、彼女の温もりを受け止めたまま立ち尽くす。

 まるで初めて「触れられること」を許されたかのように。

 

 その瞬間、彼の硬く閉ざされた心に微かなひびが入った。

 

「……生きろ、と」

 

 彼は目を伏せ、呟くようにその言葉を繰り返した。その意味を、彼は長い間見失っていた。

 

 生きることとは何か。

 

 それはきっと、愛され、愛し返し、ともに時を重ねることなのだろう。

 幻や人間のラナスオルが当たり前のように示してくれた――しかし、彼にはあまりにも遠い真実。

 

(彼女たちが託した愛の意味を、生きることの意味を……僕は見つけられなかった……)

 

 だが今、目の前には手を差し伸べてくれる存在がいる。

 かつて自分を「無」へと追いやった女神が、今は一人の女性として、その命を慈しもうとしていた。

 

 深い沈黙の中、シードはゆっくりと顔を上げた。銀の瞳がラナスオルをまっすぐに捉える。

 

「ラナスオル……永遠の命を持つ者にとって、生きるという言葉は皮肉そのものです。時間が無限にある中で、何を意味として見出すのか、それを探し続けることそのものが呪いに他ならない」

 

 千年を超える苦しみを吐き出すように語りながら、彼はそっとラナスオルの手に力を添える。

 自らの意志で彼女の手を握り返したこと――それは彼にとって小さな一歩かもしれない。

 だがその一歩こそが、永遠の孤独と虚無に裂け目を生じさせた。

 

「……ですが、あなたがそう言うのなら……そして、幻の彼女や人間だった彼女も、それを望んでいるというのなら――」

 

 彼は少し間を置き、微かな希望を孕んだ声で言葉を紡いだ。

 

「……この永遠の中で、答えを探す時間を持つのも悪くないかもしれない」

 

 そう告げた後、シードは一瞬だけ視線を遠くへ向ける。

 荒廃した大地と静まり返った空。その全てが今、自分たちの選択によって変わるのだと心の中で悟る。

 

 そして再び、ラナスオルに目を向けた。

 

「……ラナスオル。あなたが隣にいると言うのなら、それが本当に愛と呼べるものなのか――それを見極めるためにも、僕はこの道を選ぶ」

 

 冷徹な光を宿す銀色の瞳の奥に、長く閉ざされていた光が映る。

 

「ともに探ろう。その答えが、この『ラナス』にどのような形をもたらすのかを」

 

 静寂の中、二柱の神の手が重なり合う。

 そこにあるのは、かつて憎しみで交わった視線ではない。これからともに答えを探し続ける希望の始まりだった。

 

 永遠の命を持つ存在として、そして孤独を知る者として、二人の間に新たな絆が生まれようとしていた。

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