冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜   作:えびふぉねら

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※前回、冒頭が抜けていて意味不明な文章になってしまい申し訳ありませんでした。


69話 創造の刻

 精霊と魔法に満ちた美しい世界――ラナス。

 荒廃した世界は、二柱の神の手によって再び光を取り戻していた。

 

 大地の緑は鮮やかに蘇り、空は澄み渡り、海は輝きを宿す。

 精霊たちが舞い戻り、命の営みがゆっくりと息を吹き返していく。

 

 人々は、伝承として語り継がれてきた神の帰還に驚き、喜びの声を上げた。

 

 女神ラナスオルと、異形の神シード。

 相容れなかった二人がともに歩むことを選んだ瞬間、世界の運命もまた変わり始めていた。

 

 かつてシードが神として君臨していた日本の椋実区を模した街並みも、創造の力に導かれ再構築されていく。

 

 長い時を経てようやく訪れた「赦し」と「再生」。

 ラナスは、ついに夜明けを迎えたのだ。

 

 そして――数百年が緩やかに過ぎ去る。

 

 人間にとっては何世代もの歴史が積み上がる長さだが、神にとっては世界が少し変わった程度に感じられる時間だった。

  

 

   * * * 

 

 

 とある日、ラナスの神の居城にて。

 

「君は創造の力を持っているんだし、私は少しぐらいサボってもいいだろうな。今日はカフェ・オネイロスに新作のティラミスが入荷したのだ。早く行かないと売り切れてしまう」

 

 石畳の広間の窓辺に佇むラナスオルが、嬉しそうに澄んだ空を見上げながら言う。

 淡い陽光が彼女の白髪を優しく照らし、穏やかな微笑みを柔らかく縁取っていた。

 神としての役割を放棄していない彼女だが、人間の文化に馴染み、楽しむようになっていた。

 

「ティラミス、私の力で創造できればいいのだがね。……私は細かいことが苦手なのだ。ふふっ」

 

 そう言ってラナスオルは隣のシードを見上げる。

 長い白髪がふわりと揺れ、小さな唇がいたずらっぽく微笑む。

 その無邪気な表情は、神であることを忘れさせる程人間らしさに満ちていた。

 

 シードは彼女の隣に立ち、外の景色を眺めている。

 街の向こうには、果てしなく続く緑の大地と澄んだ空が広がっていた。

 

 孤独と虚無に生きていた神が、今は女神とともに「日常」を見つめている。

 

「……創造の力をティラミスのために使おうとする。ラナスオル、あなたは本当に『神』なのですか?」

 

 彼は軽く眉をひそめてみせたが、皮肉めいた声には以前のような刺々しさはない。

 代わりに、どこか諦め混じりの柔らかさが微かに溶け込んでいた。

 

「神とて万能ではないし、腹も減るものさ」

 

 ラナスオルは肩をすくめ、悪びれる様子もない。

 かつて使命に囚われていた迷いや痛みはなく、平穏な世界への喜びと彼の隣にいる安堵が彼女を包んでいた。

 

 彼女が生きる「今」は、使命も孤独も過去のものだ。その過去を受け入れたからこそ、彼女は穏やかに笑えるのだろう。

 

 シードは彼女の言葉を淡々と受け流しつつ、窓の外に広がる大地を見つめた。

 再び命が巡る世界。その中で彼は低く呟く。

 

「……まあ、今のあなたを見ていると、神であることすら疑わしくなるのも無理はありませんね」

 

 シードは皮肉を交えつつも、彼女の変化を見守ることに抵抗がなくなった自分に気づいていた。

 

「ですが、あなたが望むなら、あのカフェのティラミスを食べに行くのも悪くないかもしれません」

 

 彼は軽く肩をすくめ、少し冗談めかした口調で付け加える。

 

「……ただし、ティラミスが品切れだった時、僕に八つ当たりをしないのであれば、ですが」

 

 その一言に、ラナスオルは吹き出すように笑った。長い時間をかけて育んだ信頼の証のような、屈託のない笑顔だった。

 鈴のような楽しげな笑い声が静かな居城に響き渡る。

 

「まったく、君という奴は本当に失礼だな。……しかし、なんだ。君もティラミスが欲しいのか? 君の好物はプリンではなかったかね?」

 

 彼女はシードに近づき、そっと彼の肩に身を預ける。指を絡めてその手を取り、温もりを確かめるように静かに息をついた。

 

「まあ、君が言うなら一緒に行ってやらんことも……ない……」

 

 恥じらいが混じった声に自分でも驚いたのか、ラナスオルは頬を染めてそっぽを向き、すぐに誤魔化すように言葉を続ける。

 

「……売り切れだったら、その時は君に『作って』もらうさ。君は私よりも遥かに料理が得意だろう?」

 

 シードは肩に寄りかかるラナスオルの温もりを感じながら、小さくため息をつく。

 彼女の上目遣いとからかうような言葉に、少しだけ首を傾げた。

 

「……あなたは本当に、誰にでもこうして甘えるものなのですか?」

 

 彼は冗談めいた口調で問いただす。

 

「そんなこと、あるわけないだろう……」

 

 その一言に、彼女の信頼と愛情がすべて詰まっているようだった。

 

 シードの手は、そっとラナスオルの手を握り返した。かつて誰にも触れさせなかった神の手が、今は一人のぬくもりを求めるように。

 

「売り切れだった時の八つ当たりを避けられるのなら……考えておきましょう」

 

 冷たく、それでいて少し優しげな彼の声が、ラナスオルの耳に心地よく響いた。

 

 窓の外では精霊たちが舞い踊り、ラナスの大地が新たな命の芽吹きを歌っている。

 かつて世界を滅ぼしかけた二柱の神は、今は隣り合い、ともに統治し、小さな日常を分かち合っていた。

 

 互いの孤独を知り、互いの傷を抱え、一緒に生きることを選んだ二柱の神。

 ティラミスひとつの話題でさえ、彼らにとっては永遠の中の小さな光。

 

 居城の窓から降り注ぐ穏やかな陽光が、二人の姿を静かに包み込む。

 数百年を経た世界の再生――その中で新たな時を歩み始めていた。

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