冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
4話ほどで終わります。
次に私たちが向かったのは、アーケードゲームコーナーだ。
対戦格闘モノに落ちモノ、他には麻雀やクイズゲーム、四人協力アクションゲームに、よくわからない世界の偉人を戦わせるカードゲームのようなものがある。
硬貨を積み上げてしのぎを削る者たちを掻き分け、私はふとある格ゲーの前で立ち止まった。
「ふふ、シード。ここであの時の戦いの決着をつけようか?」
私がいたずらっぽく笑いかけると、彼はほんの少し興味深そうに見つめ返して。
「格闘ゲームでの勝負、というわけですか。あなたらしい発想ですね。しかし……僕はゲームに興じる習慣を持ちません。まともに対戦が成立するかどうかは、やや疑問ですが」
「それなら心配いらない。この『ストリート・ビクトリー2』なら、私も完全初見だ。これで対等だろう?」
「なるほど……条件としては均衡している、か。いいでしょう」
……こほん。かくして、女神と死霊術師の戦い第二幕、格ゲー勝負がスタートするのであった!
クレーンゲームでの勝利(?)から間もなく、私たちは格闘ゲーム筐体の前に座っていた。
その名も「ストリート・ビクトリー2」。様々な武器を纏ったキャラクターたちが街中で超常の技をぶつけ合う、人気の対戦型アーケードゲームだ。
硬貨を入れて、キャラクター選択。私は迷わず、黒髪に刀を持った中性的なキャラ「ミンティア」を選んだ。直感的に、攻撃特化のキャラクターだと思ったからだ。
私の格ゲースタイルはとにかく「攻め」。実際、彼との戦闘でも攻めによる短期決戦であれば、私が負けることなどないはずだ。
だが、あの男は小手先の技を使ってじわじわ長期戦に持ち込もうとする。デバフ特化とでも言うのか、本当にいやらしい戦い方だ。おそらく、このゲームでもそんな姑息な戦法を使ってくるに違いない。
向かいの席で彼もキャラクターを選択完了したようだ。
……「モッツァレラ」? 妙な名前のキャラクターだな。眼鏡をかけてどことなくひ弱そうな、学者風の身なりをしている。つまり脳筋タイプではないということ。なるほど、やはりそう来るか。
ゲーム開始の合図とともに、私の選んだキャラクター――黒髪で刀を携えた剣士「ミンティア」が、スタイリッシュに画面に登場した。
一方、シードが選んだ眼鏡をかけた白衣の学者「モッツァレラ」。筐体ポップの説明によると、武器は持たず、魔方陣によるトリッキーな妨害技を得意とする、いかにも扱いが難しそうな防御系キャラだ。
「君は、よくそんな癖の強そうなキャラを初見で選べるな……」
「むしろ、攻撃一辺倒のあなたには相性が良いと判断しました。防御特化型でなければ、数合もたないと見ていますので」
攻撃一辺倒……なんだか少し馬鹿にされている気がするのは気のせいだろうか。
そうこうしているうちに、画面に軽く火花が散った。
1ラウンド目。私のミンティアは、刀によるリーチとスピードを活かしたラッシュで攻勢に出る。ふむ、やはりこれだ。私は武器こそ使わないが、こうした戦い方が性に合う。
そして連続斬撃からの空中追撃、複雑なコマンドによる必殺技を叩き込む。
のだが――。
(……反応速度、的確すぎないか?)
シードのモッツァレラは、バリア展開による無効化、瞬間転移での背後回避、さらには設置型トラップで私の動きを封じ、攻撃の流れを切ってくる。
そしてこちらが攻めるたび、僅かな間合いのずれとタイミングを突いてカウンターをお見舞いしてくるのだ。
「ふん……回避と反撃に終始する姑息な戦法。実に君らしい」
「あなたの行動パターンは、初動の五秒でおおよそ把握しました。ミンティアは反撃に弱いのが欠点です。正面から受けるのは合理的ではありません」
「ぐぬぬ……」
やっぱり、やりにくい。
現実の戦いでもそうだが、この男――シードの分析力は常軌を逸している。私の神術による「物理的破壊力」を、妙な魔術と理屈でいつも無力化してくるのだ。その厄介さが、まさか本当にゲームの中にまで及ぶとは。
「普段ゲームに興じない」などと、よくも言えたものだ。あれは絶対に嘘だ。
そうでなければ、あそこまで冷静に私の動きの癖やコンボを読めるはずがない。どこまで隙がないのだ、この男は。
そして次の瞬間――。
必殺技同士が激突し、画面が眩い光に包まれ――「DRAW」の表示が浮かび上がる。
互いのライフゲージは同時にゼロ。どうやら、完全な相打ちのようだった。
「ふむ。ひとまず、五分といったところですね」
「くっ、次は負けないぞ……!」
初見とはいえ、格ゲー経験者の私を相打ちにまで追い込むとは。まるで実戦の勘が、そのままゲームに反映されているかのようだ。
――君は、どう考えても初心者ではない。断言しておく。
2ラウンド目。今度は慎重に攻める。設置トラップを誘導しつつ距離を詰め、空中攻撃からフェイントを交えてガードを崩す。
ようやく一撃が入り、そこから怒涛のコンボのラッシュを叩き込む。
「よし、いけるっ……!」
ミンティアと一体化するかのように、レバーを握る手に力が入る。
だが、彼はライフゲージを半分削られたところで超必殺技を発動。キャラが一時的に消失し、画面上の設置型魔法が一斉に誘爆して私のミンティアを吹き飛ばす。
「ここで超必……ッ!?」
「……悪手ではありませんが……想定していたより代償は大きい、か」
試合時間は残り十秒。鍔迫り合いの接戦の中、必死に距離を詰めて斬りかかる。シードも魔方陣を展開して喰らいつく。
「そこだッッ!」
「間に合いませんね」
最後の一撃が同時にヒット。スローモーションの演出から互いにライフゲージがゼロになり――画面に大きくDRAWの文字。
……まさかの二戦連続のドローだった。
「……嘘だろう……」
私が呆れてコンパネの上に両手を置いて俯くと、シードは向かいの台から冷静に言葉を投げかけてくる。
「あなたの動きは確かに理に適っています。ですが、その直感的な思考が逆にこちらの予測を困難にしています。なかなか興味深い」
「……真面目に分析しないでくれたまえ。これはゲームなのだぞ」
その時、後ろから拍手と歓声が湧いた。気づけば、私たちの周りには小さなギャラリーができているではないか。
興奮した学生たちが「なになにカップル対戦?」「すげー、二回連続ドローだってよ!」「あのねーちゃんの空中コンボ超うまいじゃん!」「男の人はモッツァレラーか、珍しいな」などと口々に騒いでいた。
中にはスマホで動画を撮ってる者までいる。これはあまり芳しくないぞ。
「……おい、君のせいでなんか大変なことになってる」
「……この様子だと、すでに『スト2店内対戦・実況付きまとめ動画』でも作られていそうですね」
くっ、この状況で一体どこにそんな余裕があると言うのだ。
私のプレミ狙いの心理作戦か?
というか、なぜ君がストリート・ビクトリー2の略称が「スト2」だと知っているのだ?
まあ、今はそんなことはどうでもいい。すべては次の最終ラウンドにかかっている。 絶対に負けられない。ギャラリーに、神としての意地とエンタメを見せねばならない。
――そして、運命の最終ラウンド。
私の指先は、コンパネのボタンを激しく叩くたびに次第に熱を帯びていった。
画面の中では、私のミンティアと彼のモッツァレラが激しくぶつかり合っている。
そう、まるで――あの日の戦いのように。
気づけば、キャラたちの姿が私たち自身と重なって見えた。
背景は街中のはずなのに、そこにはラナスの美しい大地と海が広がっているようで――
そして私は、ついに彼のコンボの起点を捉えた。
刀がモッツァレラの魔法障壁を貫き、カウンターを崩す。
今度こそ、決着をつけてやる――。
「そこだぁッ!」
叫びながら、私は一気にボタンを叩き込む。
そしてすかさずコマンド入力、↑↑↓↓←→←→強パンチ! ミンティアの超必殺技が発動!
刀を振り抜く演出に移行する……が、その瞬間。
右手に奇妙な違和感が走った。
熱い……?
コンパネが熱を持ったような……いや違う。私の右腕だ。
カーディガンの袖の中で、破壊の衝動が疼いているのだ……!
(まずい……)
それは破壊の右手――セヴァストの兆候だった。
私の怒りや興奮に呼応するように、破壊の神性が露わになろうとしていた。ゲームという遊びの中にいるはずなのに、私はいつの間にか本気になってしまっていたのだ。
「ラナスオル」
冷静でいて有無を言わせぬ強さで、向かいの席からシードの声が飛んでくる。
気づけば彼はコンパネから手を離し、筐体から立ち上がっていた。
「……あなたの力が漏れています。このまま続ければ筐体が……いえ、この建物自体がもちません」
その言葉に私はハッと我に返り、慌てて右手を引く。
コンパネのボタンが沈みかけ、ほんの少し焦げ付いてしまっているのを私はそっと指先で撫でた。
「……すまない、つい。少しだけ……熱が入ってしまった」
「『少し』であれば、画面から魔力の波動を感じることはないはずですが」
「君が挑発的でまるで手加減なしだからだろう。ああもう……」
私は立ち上がり、軽く右手を振って深呼吸。
画面では攻撃演出が途中で止まり、戦闘が中断されたままだった。
試合はそのままタイムオーバー、未決着となった。
真後ろで観戦していた、紫色の髪の中学生らしき少年が「えー、今のなんでやめたの? なんかすげぇオーラっぽいの感じてくっそムラムラした!」と息を荒くする。
ごく稀に、こうした「魔力に敏感」な人間がいるから注意しろと、シードに釘を刺されていたことを今になって思い出した。
危うく、セヴァストの力を公にするところだった。私は結局また、彼に助けられてしまったのだ。
「はぁ……君に勝ちたかったな」
ゲームに勝てば、少しでも彼に認めてもらえる。そう思っていた。
だから……ほんのちょっと意地になってしまっただけだ。
ぼそっと溢した私の言葉に、彼は僅かに口元を緩めて答える。
「その意志は受け取りました。続きは……ラナスの戦場で」
「……君というやつは、どうしてそう、真顔で余計なことを……」
火照った身体を隠すために、逃げるようにその場を後にする私たちを、ギャラリーが名残惜しそうに拍手で見送っていた。