冷酷死霊術師とわがまま女神のリスタート 〜殺し合いの因縁を超えた先の、あまりにも短い幸福〜 作:えびふぉねら
かつて人間だった異形の神は、戦い続けた。
いつ終わるとも知れぬ戦いを。
いつ救われるとも知れぬ呪いを抱えたまま。
神界から送り込まれる死客の神々を次々と返り討ちにし、無数の屍の山がラナスの大地に築かれていく。
剣戟と雷鳴、血と絶叫が繰り返される中、彼が救いの手を差し伸べることはなかった。
* * *
神々の血に染まったその手は、もはや「守護者」のものではなかった。
積み重なった殺戮と罪の果て、彼の魔力は穢れ、ついには神性をも歪み始めた。
彼は、不死性を得ていた――だが、それは祝福ではなかった。
刃が心臓を貫こうとも、身体を両断されようとも、気づけば肉体は修復される。
致命傷を受けても倒れない。痛みは確かにあるが、決して命が尽きることはない。
――いつからこうなっていたのか。彼自身にも記憶はなかった。
あまりに長い時の中で、死と再生の境界すら曖昧になっていた。
ただ一つ確かなことは、彼がもはや「神として正常な存在ではない」ということだった。
神が持つべき本来の性質――「魂が死後、再誕の循環に還る」という摂理――その恩恵すら、彼には適用されなくなっていた。
死ぬことも、生まれ変わることも許されない。
たとえ心が折れようと、魂が朽ち果てようと、彼はただ存在し続けるしかない。
永遠の命――しかし、それは純粋な祝福ではなく、歪んだ形での「呪い」とも言えるものだった。
* * *
異形の力、不死の肉体。
その圧倒的な存在が彼をラナスの守護者たらしめる一方で、神界は決して彼を神として認めることはなかった。
「神々を殺し続けた男」「死霊を従えた恐怖の化身」――その名に相応しい忌避と畏怖を一身に背負い、彼はさらに孤独の深淵に沈んでいった。
それでも彼は、ただ守り続けた。
ラナスの大地を、人々の命を、そして――かつて彼が誓った彼女との約束を。
* * *
女神ラナスオルが滅びてから、気が遠くなるほどの一万年――。
その長き孤独の果てに、いよいよ彼女の再誕の日が訪れようとしていた。
ラナスの空には不思議な光が満ち始め、大地は静かに息づき、花が咲き乱れる。
再び彼女の笑顔を見られる日が来るのだろうか――その期待を胸に抱きながらも、彼の銀の瞳には昏い影が差していた。
何千、何万と殺めた命の残響。
決して癒えない、心臓を焼き尽くすような罪の感覚。
そして、長すぎる時間の中で積もり積もった、拭い去ることのできない疲労。
彼はふと大地を見下ろし、掠れた声で呟いた。
「僕はまだ……この手で答えを掴むことができるのだろうか」
その問いは風に乗り、どこか遠い彼方へ消えていった。