犬が雷狼竜に転生するのは間違っているだろうか   作:カマクラカスタ

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燃やせ、狩魂!!

 

「ワオォォンッ!!」

 

嘗ての主の言葉を想起し、雷狼竜は本能のままに雄叫びを上げた。幼いが、力強い咆哮が洞窟中に木霊する。それと同時、その威勢を後押しする様に体に変化が起こった。

 

吼えた声に呼応するように青い虫――雷光虫が十匹程体に取り付き能力の活性化を促す。

 

体中の毛が天高く聳え立ち、戦うための力を蓄えていく。碧色の電流が利用しろと言わんばかりに体中に迸る。

 

だが、無闇に突っ込みはしない。相手は六匹、そして遠距離攻撃を持っている。分が悪いと蓄えた理性が訴える。

 

『狩り』は狡猾にそして慎重に、だ。

 

「グワァオォッ!」

 

背後、そして左から放たれた二発の火球を雷狼竜は高く跳躍し回避する。宙に滞空している間にその二発は自身の真下で爆裂し、先刻の場に焼き跡を残す。

 

――あれを三発食らえば炭になるだろう。

 

これまで以上に危険に敏感な体が何度も警鐘を鳴らしている。狩人は火球の警戒を最大限に引き上げ、地面に軟着陸すると、背後に目を向ける。

 

大きく囲まれている今、一人一人に注力すればきっと集中砲火を浴びるだろう。ならと考え狩人はまず穴を開けようと画策。

 

狩りの段取りを纏め、雷狼竜は周りながらこちらの様子を窺う敵の意表を突くように、体の敏捷性に任せ全速力で背後の敵に近付き、喉に噛み付く。

 

「――ヒャンッ!!?」

 

噛み付かれてから気付いた様だがもう遅い。突進の勢いに任せ敵の喉に噛み付いたまま、自分の体を宙に投げ出し、体全体を回転させる。

 

ブチブチと肉の千切れる音の発生と同時に火球が放たれ迫ってくるが、それよりも早く首の肉を抉り取り、群れを無視して前方へと駆けていく。

 

これは嘗て雷狼竜が狼犬だった時代に編み出した『狩り技』の一つ。肉に噛み付いたまま体を回転させ抉り取る――所謂デスロールだ。

 

本当は傷を負わすだけでよかったがこの体の勢いのおかげでこれまでにない程回転でき、一瞬で狩ることができた。

 

走りながら噛みちぎって口内に溜まった血肉を吐き出す。同族の肉は不味いと思いつつ、扇状に広がる三つの分かれ道、その左側へと迷いなく突き進む。

 

「ガゥウ!ガゥッ!!」

 

背後から響く怒号を合図に雷狼竜は狩りのステップを一段階上げた。周りの別れ道だらけの地形を狩りに利用する。

 

複数の分かれ道を潜っては少ない水分を絞り出すように、放尿し自身の匂いを色んな所にバラけさせる。

 

自分を追うためリーダーは当然群れを分隊させるだろう。それを見越して狩人は鋭く重く発達した前脚を入口の傍で既に構えていた。

 

この体は牙だけじゃなく爪と尻尾も攻撃に転用できると思えたのだ。更に前脚に小さな電力を帯びさせる。

 

息を殺し、敵が顔を出す瞬間をジッと待つ。

 

「ハァ⋯ハァ⋯」

 

入口の奥から若干息を切らした個体が一匹で此方に近付いて来るのが聞こえた、が、飛び出さず前脚を構えて堪える。

 

「ハァ⋯ハァ⋯」

 

――キタ

 

狩場に頭が見えた瞬間、雷狼竜は声を上げながら渾身の『お手』を敵の頭部へ叩き込んだ。鈍器で殴ったような鈍い音と小さな雷鳴が鳴り響き、地面に叩き付けられたヘルハウンドの頭蓋骨がひび割れる。

 

そしてダメ押しとばかりに、頭部に雷光が追撃。ひび割れた箇所から脳に文字通り電流が走り、微量ながらも脳細胞を幾つか壊死させ、即死させた。

 

その感覚を小さな捕食者は吸収すると、新たな狩り道具へと変え、次の狩場へと進んでいく。

 

息を潜め、ゆっくり、ゆっくりと。

 

 

 

 

ヘルハウンドのリーダーは錯綜していた。鼻を頼りに獲物を追おうと別れ道に入った瞬間、四方から獲物の臭いが発生していたのだ。

 

こんな場合どのように追い詰めれば効果的か分からず、四匹の部下達はそれぞれ匂いの発生源を追って分隊。ヘルハウンドのリーダーも匂い追う。

 

だが、見つからない。あのふざけた獲物が見つからないのだ。

 

「グウゥウッ!!」

 

あの獲物の見せた行動に臓腑が煮え滾る。早く追い詰めてこの憤怒を奴にぶつけてやりたい。そんな産まれて初めて感じる激情。

 

ヘルハウンドのリーダーはこれが何に対する怒りなので

か理解はしていない。だが、獲物は必ず殺さなくてはならないということだけは理解していた。

 

怒りを抱え、リーダーはまた獲物の匂いの発生源を追う。新たな発生源は眼前に見える一際広いルームを抜けた先。

 

ルームは四匹のヘルハウンドが同時にいても行動に支障をきたさない程の部屋である。

 

リーダーはルート通りその部屋を通過し、発生源に向かおうと決める。素通りしようと、一際広いその部屋にリーダーは足を踏み入れた。刹那――

 

「ガウッ!」

 

「――ッ!?」

 

突如訪れた首元の鋭い痛みに、リーダーは目を白黒させた。痛みの原因を突き止めようと痛みを耐え、視線を首元に移そうとするが、暇もなく――

 

リーダーは何か棒状のようなもので体全面に衝撃を食らう。その余波で三メートル吹き飛んだ。

 

訳も分からず地面をのたうち回り、痛みに喘ぎながらリーダーは先刻の地点に目を向けた。そこには、

 

「――ガルルッ」

 

白の体毛と自分達に存在しない甲殻に稲妻を迸らせ、自身を狩ろうとしている雑種の姿があった。

 

「――ッ!!」

 

目撃した瞬間、ヘルハウンドのリーダーは心の底から獲物を、選択を後悔した。目の前の獲物、否、狩人から発せられる圧倒的な威圧感にヘルハウンドは萎縮する。

 

狩人の青い眼光が、鎌のように鋭利な爪が、牙が、自身の死の恐怖を駆り立てる。今すぐにでも逃げ出したい、だがその意思に反して体は恐怖に従順だ。

 

――ニゲタイ、ニゲタイニゲタイ

 

備え付けられた理性がそう訴え掛けるも本能は恐怖の鎖に繋がれている。故にヘルハウンドの理性はこの場で取れる最善を生存方法を選択した。

 

 

 

 

目下の光景に僕は冷ややかな視線を向ける。敵は僕のしたことと同じ『失態』をしていた。腹を天高く向ける、服従のポーズだ。

 

「グウゥ⋯」

 

だが、その行動に応えて狩人は手を引いたりはしない。もう二度と――過去の失敗は犯さない。相手が自分をじしんが相手を敵として定めたなら、狩るか狩られるかその二択だけだ。

 

過去の記憶を想起が雷狼竜の狩猟本能を強く呼び起こす。古の悔恨が、温存していた電流を全て小手へと注ぐ。

 

幼い雷鳴が高く鳴り響き、その音と比例するように雷は威力を上げていく。

 

「⋯ウッ!ウゥゥゥ!」

 

慈悲の余地はないと気付いたのか、ヘルハウンドの長は死に物狂いといった様子で、牙を雷狼竜へと向ける。

 

「グワァァァァ!!!」

 

唾液を撒き散らし、特性の炎すら用いずヘルハウンドは大口を開け、捨て身の突進をする。それを迎え撃つは研ぎ澄まされた刃。

 

しかし、肉薄した所で捨て身のヘルハウンドの凶牙が相手を貫く筈もなく、

 

「――ァ」

 

落雷がヘルハウンドの頭部を粉砕した。

 

 

 

「ワン!」

 

狩りを手伝ってくれた虫達に僕は感謝の気持ちを込めて一吠えする。迸る電流が鳴りを潜めると体からは雷光が消え、体毛も逆立つのを止めた。

 

能力のおかげでここまで狩りが優位になるとは思ってもみなかった。尻尾も攻撃に使えるし良い物を貰ったかもしれない。敵を吹き飛ばせたのも尻尾を攻撃に転用した賜物だ。

 

武器となる尻尾を満足気に振るい狩りも終わったので水と人探しを再開しよう、と後脚で耳を掻きながら思っていると、

 

「ウゥン?」

 

視界に映っていた敵の死体が埃のようになり、紫紺の石ころが目に入った。なんだろうと思い嗅いでみるが、これまた無臭。

 

とりあえず食べてみる。

 

――ガブリ、ガリガリ

 

噛み砕き何度も咀嚼するが、無臭に加え無味ときた。ただ生まれ持っての硬物好きであるので嫌いでは無い。

 

――ゴクン

 

不味くも無いので飲み込むと、体がじんわりと熱くなり切れたはずの電流が一瞬全体を駆け巡る。しかし、迸るのは碧色の電流ではなく黄金色のようだった。

 

――ちょっと、強くなった?

 

色の違いに首を傾げつつも、これは強くなるための糧だとそう勘が訴える。それに美味しくはないけど小腹は満たせる。集めれば食料として役に立つかもしれない。

 

犬とはいえ転生を繰り返してきたワン公の思考は明晰だった。隠し穴を掘り、尿でマーキングして食料庫を作るところまで算段もついている。

 

しかしやはり先決なのは水と人を見つけることだ。

 

――僕の使命を果たさないと!

 

人の顔を舐め、撫でてもらう愛犬としての使命を胸に雷狼竜は迷宮を下って行った。

 

 

 

 

「ブルルル⋯⋯ッ」

 

牛の頭に人の体の生物が通り過ぎるのを雷狼竜は岩陰で持っていた。道中、他の生き物達は互いに争わないが自分を見たら目の敵かってぐらい襲ってくるのだ。

 

この体の速さで撒くことができるから何とかなっているが、全力で走れば疲労は蓄積されて体力も使う。故に隠れて会敵は極力避ける方向で雷狼竜は進んでいた。

 

――よし、行った!

 

牛頭の生物が通り過ぎ、雷狼竜はそそくさと走り出す。四方を確認し他生物がいないことを確認すると通路の中央に軌道を戻し、地面に鼻を押し付ける。

 

――この匂いは、やっぱり!

 

地面に残る目的の匂いに、雷狼竜は尻尾を激しく振るう。薄れているが現在の通路に人の匂いが残留していた。その上匂いは通路の先に行く程強くなっている。

 

人懐っこい犬にとってこれほど嬉しいことは無い。人間に会える嬉しさに雷狼竜は胸を高鳴らせ、疲労すら忘れて走り出す。

 

硬い地面を蹴り、飛び跳ねるように洞窟を駆けていく。坂道を下り、また進み雷狼竜は大広間――『嘆きの大壁』を越え、果たして人々の匂いが最も濃い所へと辿り着く。

 

速度を落とし雷狼竜は断崖へ身を乗り出すと、目先の景観を見渡した。聳え立つ大樹の下に敷かれるように生い茂る草木に透き通った湖、上を見上げれば太陽と呼べる光源が結晶として存在していた。

 

初めて訪れた人間なら感銘を受けるだろう美しい景色。しかし犬とって感銘や感慨などという感情は存在しない。有るのは早く撫でられたいという欲望のみ。

 

――今会いに行くよ!新しい飼い主!

 

雷狼竜は断崖を飛び降り、しなやかに地面に着地すると鼻を全力で機能させる。

 

――草、木、オシッコ、またオシッコ、

 

気合を入れ余計な探知範囲を削ぎ落とし、集中する。そうすると、

 

―お花みたいな人の匂い!

 

湖に続く道にそんな香りが細く残留していた。雷狼竜は期待を胸にその花のように甘い香りを目指し、獣道を進んでいく。

 

暗く影を落とした林を進むと、視界の先に光明が見え始めた。恐らくあの先に人がいるのだろう。進む度強くなる香りがそう言っている。

 

果たして雷狼竜は暗い林を抜け、光明へと飛び出した。そして目的の人物を鼻ではなく視界に捉える。

 

「〜〜♪♪」

 

花のような香りの正体は滑らかな赤い髪をポニーテールにした少女だった。どうやら鼻歌を歌いながら湖から水を汲んでいるようで、こちらには気付いていない。

 

自分は今すぐにでも顔に飛び込みたいが、押し倒れて湖に転落してしまっては危険なため、雷狼竜は衝動をグッと堪えるが、せめて存在は悟ってもらおうと口を開く。

 

「ワンワン!」

 

子犬らしい高い鳴き声が辺りに響く。

 

「え?」

 

本来人以外存在しない筈の場所でその鳴き声聞き、赤髪の少女は音のした方を振り向くと緑の目を見開く。

 

 

 

ダンジョン十八階層――『迷宮の楽園』にて雷狼竜は正義の使徒――アリーゼ・ローヴェルと邂逅したのだった。

 





独自設定で魔石を食らうとジンオウガが強化されます。

成長速度の促進と電気袋の発電強化。

成長の果てにジンオウガがどんな変態を遂げるのか、お楽しみに
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