ポケモンなんて存在しない世界からやってきた主人公、クスノキ。
この世界はどこで、なんでここにきたのかと叫びたくなるけれど、誰もそんなことは知らないのでとりあえず生きるためにカフェを経営中である。
最近やっと、平穏というものに飽き飽きしてきた。
平和で穏やかな、優しい日常の連続に慣れたときに訪れる、若干の嫌気。
無駄なような、怠惰なような、たまにちょっと急ぎたくなるようなそんな感覚は、みんなも知ってるだろう。
それを変えたくて、でも変えられなくて愚痴を吐くような友達のことを思い出した。何年も前にした、教室のすみっこでやった会話を。
僕もそのときはなんとなく肯定するような返事をしたと記憶しているけれど、今彼と話せるならばハッキリNOと言えるだろう。平穏が1番で、刺激なんて無いくらいが1番だと。
学校にテロリストなんて来ない方がいいし、空から女の子が降ってきたならば、体を捻ってかわしてしまえばいいのだ。
ちょっと話がそれてしまったかもしれない、そう、最近平穏を飽きるほど味わえているって話だ。頑張って頑張って必死になって、やっと平穏に飽きるくらいの状況に戻れたって話。
なんでそんなことになったかと考えれば、高校から大学とか就職へ向かったり、両親の再婚で新しい人と家族になったり、結構な大怪我をしてしまったなんて考えるだろうけれども、全く心配しなくてもいい、僕は余裕でそれ以上に突飛で、理解のできない状況に陥っている。
カランコロンと、来客を知らせるベルの音が心地よく鳴った。
ゆっくりと準備をしていたら朝日はずいぶんと前に登っていて、少しまばゆい光が、早朝の少し眠たい僕を励ましている。
店のなかで大きく体を逸らせると、ポキポキと骨が小気味いい音を立てて、首を傾けると似たような音がした。
寝ても起きても、やっぱり仕事はやってくる。そんな当然の事実にどこか安心しながらも、僕は今日もお客さんへと挨拶をするのだ。
「いらっしゃいませ。ポケモンカフェ、クスノキへようこそ」
クスノキ・キキョウ18歳。謎の生物がいるこの異世界で、今日も営業中である。
⭐︎⭐︎
ある朝のことだった。
「あ〜めんどくさい〜」
カウンター席にぐったりと上半身を倒れ込ませながら、若い金髪の女性が、こっちまで憂鬱になるような声をあげていた。
僕はいつもどうりのエプロンを着けて、トーストで2枚のトーストを焼きながらじっくりとコーヒーを作っている。
どうにかやってはいけるけれども、繁盛しているとは到底言えない。
そんな僕1人だけでも暇になるようなこの店で暇つぶしになるようなものは、ときどきやってくるお客さんとの雑談くらいのものだった。
それなりにここは広いし、テーブル席だってある。僕と話したくないならそっちの席で座ればいいのだが、彼女は毎回このカウンター席に座って、さも話を聞いて欲しそうにうなり声をあげるのだ。
「スズさん、今日もいったいどうしたんですか?」
今日は、ではなく今日も、なのがミソだ。
そんな若干の皮肉もかき消して、うなり声の主はこちらをチラリと向いた。
カウンター席のお客さんに出すモーニングの準備はバッチリで、パンはトーストに入れた。コーヒーも待つだけ。客観的に見ても僕は明らかに暇そうだ。
それを眺めて「相変わらず暇そうねぇ〜」と、悪意もなく呟いた彼女に若干の怒りを覚えなくもなかったが、じっと黙って話の本題を話してもらおうと促す。
「ジムにくる子たちが生意気なのよ、それもけっこうな割合で」
淡々と話す彼女はそれほど怒ってはいなさそうで、さっきの言葉のとおりただ面倒くさいといった感じであった。
ジムというのはここの地方や他の場所でも多く存在している場所で、ポケモンを扱うトレーナーのレベルを認定するために作られている建物だ。
彼女、スズさんはそのジムの一員である新人のジムトレーナーといった役職で、レベル認定の試験はそのジムトレーナーをいくらか倒した後、凄腕のトレーナーであるジムリーダーを倒すと試験クリアとなる。
もちろんトレーナーのレベルを認定するために優秀な目を持つジムリーダーを置いているだけで、本気で相手するわけではないらしい。戦えばだいたい分かるだなんて、なんだか昔見ていたバトルマンガみたいだ。
こういう話を聞くと、毎日がポケモンバトルだなんて大変そうだなと常々思う。
僕だって今店の中をうろうろしているエーフィを相棒にしているけども、アイツとバトルしたことなんて20もないんじゃないだろうか。
そんな他愛無いことを自然と考えながら「へぇ」と適当に相槌をうつと彼女は続ける。
「丁度いいポケモンでこっちは実力を測るように負けてるってのに、まぁ勝ち誇ったような目で見てきて、中には口にだすヤツらまでいるのよ。新人だから早く慣れないといけないんでしょうけど、なんだかねぇ〜」
勝ちを求めるはずのポケモンバトルで、負けるのが仕事。たしかに異質な職業だと思わないこともない。いくら仕事だと言ってもどこかくるものがあったのだろう。
そのままぼんやりとジムについて考えていると、より不思議だと思わされる。
「じゃあジムリーダーの人とか凄いですよね」と僕が言おうと、それは不思議なことではなかった。
それを聞いたスズさんも「まぁ、確かに」と共感してくれる風だ。
地方でも有数の強者であり指導者、立場もそれなりにたるあの人たちのやる事が負けることというのには中々違和感がある。
「なんであの人たちは文句のひとつも言わないんでしょう」
「自分が強いと分かっているから自信が揺らがない、戦いすぎて負けることに慣れた、とか?」
「成長していくトレーナーを見るのが堪らなく好き、とかもあるかもしれませんね」
「なんか先生みたいでカッコいいわね〜あ、そうだ。今日先輩のジムトレーナーにでも質問してみようかな?」
なんて雑談をしていると、パンを入れていたトースターがチンと鳴った。カウンター席にいるお客さん用のやつだ。
「じゃあ、ちょっと準備しますね」
「あーごめんごめん、話聞いてくれてありがとね」
そんな彼女からの声を聞き流しつつ、僕はモーニングセットの盛り付けに取り掛かった。
久しぶりに描いてみました。2000文字書くことすら難しくてハーメルンの人たちはやっぱ凄いと想わされます。もっとオチとかもつけたいのに...
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