立てばヒーロー 座ればヴィラン 歩く姿はクソ無能   作:ハスハス

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第1話 ぼくアルバイトォォォォオオ!!

 

 連日──ニュースは【北空道戦線】の話題で持ちきりだった。

 

 

 

『政府組織アマテラス、北空道の犯罪組織PUGYA-を壊滅!』

『多数の犯罪者を拘束! 逃亡した残党は現在も捜索中!』

『PUGYA-の幹部 死神 、消息不明』

 

 あれから約2週間──俺はなんとか逃げ延びていた。

 あの日、本拠地が爆発し、戦場が崩壊した瞬間。俺は全力で戦略的撤退を行った。「仲間? 戦況? マジでごめん! 俺の命が最優先だから!!」と、己の本能に従い、爆発音をBGMに全力疾走。地獄のような戦場をスルスルっと抜け出した俺は、行くあてもなくひたすら南へと逃げた。

 

 そしてたどり着いたのは【十州】。

 この国の南端に位置し、かつては豊かな文化と温暖な気候に恵まれた観光地……だった。

 今では政府の管理が追いつかず、独自の文化とルールが形成された無法地帯。

 美しい自然と温泉、そして犯罪者たちが共存するカオスな街。

 ヤクザ、殺し屋、詐欺師。果ては傭兵までが『まぁまぁ、温泉でも入って落ち着けや』とか言いながら暮らしている。

 要するに、犯罪者にとっては最高の隠れ家ってわけだ。

 

 現在、そんな場所で俺は── 深夜のコンビニバイトをしていた。

 

 

 

 

 

 

「へい、ラッシャイ!! 本日はどのタバコにしますか!?」

 

「……メヴィウス」

 

「メヴィウス入りました~~~っ!! ありがとうございま~~~すっ!!」

 

 

 勢いよくタバコをカウンターに置き、全速力でレジのキーを押す。

 俺の全力接客に、客のオッサンが「なんやこいつ……」みたいな顔をしてるが、そんなの気にしない。接客は勢いが大切だ。

 

 戦闘だってそうだった。迷ったら死ぬ、考える前に動け、勢いでなんとかしろ。俺はそうやってなんとか今の今まで生き延びてきたんだ。

 だから接客も同じノリでやっている。

 

 

「お客さん、俺、昨日気づいたんですけど! この仕事、銃弾飛んでこないんですよ! すごくないですか!?」

 

「そらそうやろ」

 

「しかも、敵に狙われることもないんです!! 安全!! 最高!!」

 

「普通のバイトはそんなもんや」

 

 

 戦場で銃弾をかいくぐっていた俺が、今はレジ打ちしてる。

 世の中、わからないものだ。

 

 

「お会計、820円になりま~~~す!」

 

 

 客が財布を探している間、俺はバックヤードに目をやった。

 

 逃亡中の暇に困った俺が、適当に見つけたのがこの深夜バイトだった。時給は安いが、住み込みで働けるし、シフトに入ってる間は身分を問われない。一時的に身を隠すには最適だった。

 

 とはいえ、ただ隠れてるだけじゃ退屈だ。どうせ働くなら楽しまないと。

 コンビニ王に!! 俺はなるッ!! 

 

 

「へい、お待たせしましたぁ!! ありがとうございました~~~!!」

 

 

 俺は客にタバコを渡しながら、満面の笑みでレシートとお釣りを手渡す。

 

 

「え、あ、あぁ……」

 

 

 客のおじさんは俺のテンションについていけないのか、少し戸惑いながらもタバコをポケットに突っ込み、そそくさと店を出ようとした。

 

 

「また来てくださいね~~! 今日も一日お疲れ様でした!!」

 

 

 俺が元気いっぱいに手を振ると、オッサンは小さく片手を上げて店を後にした。

 よし、完璧な接客だな!! 

 

 

「……君、やるねぇ」

 

 

 営業スマイルを店の出口へ向けていたら、背後から声をかけられた。振り向くと、そこには腕を組んだ店長がいた。

 

 店長は四十手前くらいの男で、黒縁メガネに白いエプロンをつけている。どこにでもいるような普通の筋肉モリモリマッチョマンのナイスガイなのだが……実はこの十州という土地で何十年も店を続けている、ある意味レジェンド的存在だ。

 ここでは、店長が知らないことはあんまりないと言われている。

 そんな店長が、俺をジッと見つめながら腕を組んでいた。

 

 

「接客態度は満点、やる気も十分。ただ……」

 

 

 少し間を置いて、店長はニヤリと笑う。

 

 

「テンションが高すぎるのが玉に瑕だけどね」

 

「えっ!? そんなことないっすよ!! この店のモットーは笑顔と活気ッスから!!」

 

「そんなモットーはないんだけど……」

 

「今作りました!!」

 

 

 店長は苦笑いしながら、俺の肩をポンと叩いた。

 

 

「まぁ、お客さんも楽しそうだったし、いいんじゃない? でもな、あんまり目立ちすぎると──」

 

「と?」

 

「……妙な奴らを引き寄せるよ」

 

「妙な奴ら?」

 

 

 俺がオウム返しに尋ねた、その瞬間だった。

 チリンっと、店の入り口に取り付けられたドアベルが小さく澄んだ音を響かせる。店の自動ドアが開く。

 それは普段なら、俺が「いらっしゃいませぇ~~!!」と元気よく迎える合図のはずだった。

 

 ──だが、なぜかその音が、やけに耳に残った。

 

 夜の闇を背景に、数人の黒服がズカズカと店内へと入ってきた。

 ガタイのいいスーツ姿の男たち。サングラスをかけた奴もいれば、耳にインカムをつけている奴もいる。明らかに一般の客ではない。

 

 俺は何も言わずに、いつもの営業スマイルを顔に浮かべる。

 場の空気が変わる。店内に流れていた陽気なBGMが、やけに場違いに感じた。

 彼らはゆっくりと店内を見渡し、レジカウンターの俺の方へと視線を向ける。

 俺と店長は、同時に彼らへと目を向けた。

 

 

「……ほら、言わんこっちゃない」

 

 

 店長が小声でボソリとつぶやいた。




【Q2 ニポンって何?】
世界と比べて犯罪率がエゲつなく高い島国。北空道、十州、五国、沖網などで構成されている。

日本ではない。決して、日本ではない。
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