立てばヒーロー 座ればヴィラン 歩く姿はクソ無能   作:ハスハス

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第3話 ロマンチックな結末

 

 服の下から取り出したのは、一見すると普通の剣──だが、その実態は違った。

 

 刃渡りはおよそ一メートル強。見た目は細身の長剣だが、刀身を軽く振ると、カチャリと不穏な音を立てる。瞬間、刃がバラバラと分裂し、鎖で繋がれた複数の刃片が空中で揺れた。

 

 そう、これはただの剣ではない。

 

 ──【蛇腹剣】

 

 かつてPUGYA-の仲間の一人、【蛇牙のヤンスヤンス】から勝手に借りた(もらった)、すっごいカッコいい武器だ。

 あいつは、『これはお前みてぇな素人には扱えねぇでヤンスヤンス』とかほざいてたけど、まぁ俺くらいになると余裕だろう。剣術習ったことないけど。

 

 蛇腹剣は、剣と鞭の性質を併せ持つ武器だ。

 通常時は剣として扱えるが、刀身が分裂することで遠距離攻撃や変則的な軌道での攻撃が可能になる。巻きつける、振り回す、相手の武器を絡め取る──まさに無限の可能性を秘めたロマン武器。

 

 その歴史は古く、かつての戦場では限られた達人のみが扱える特殊な武器として名を馳せていたらしい。

 まぁ、実際には使いこなせる奴がほぼいなかったせいで、普通の剣のほうが強いってことで廃れたけど。

 

 だが、ロマン武器は浪漫があるからロマン武器なのだ。

 使いこなせれば最強、弱いわけがない。むしろ、俺の手にある時点で最強が確定してしまっている。

 

 負けるわけがありませんね。使いまくっていきましょう。

 

 

「殺れ」

 

 

 合図とともに、黒服たちが一斉に動く。

 全員が流れるような動きで懐に手を突っ込み、次の瞬間には無駄のない動作で銃を構えた。

 

 ハンドガン、サブマシンガン、ショットガン。

 それぞれが最適な武器を持ち、寸分の迷いもなく俺に照準を合わせてくる。

 

 黒服は全部で七人。

 三人が正面のレジカウンターを囲むように立ち、至近距離で狙いを定める。二人が店内の通路を挟む形で左右に分かれ、俺の動きを封じている。残る二人は入口付近に待機し、逃げ道を完全に塞いでいた。

 銃口が一斉に俺へと向けられる。

 

 ……あ、これちょっとヤバイな。蛇腹剣を使う隙が無い。

 

 

「あ~、お客様? 店内への銃火器の持ち込みはお控えいただけると──」

 

 

 俺の軽口を遮るように、無数の銃口から数多の弾丸が飛び出した。

 至近距離から放たれた弾丸の雨が、俺を身体を無慈悲にも貫く──わけがない。

 

 

「無視ですかそうですか!!」

 

 

 刹那、俺は咄嗟に目の前のカウンターを蹴って跳び上がった。

 銃弾が紙一重で俺の足元を掠め、レジスターや棚が無惨にも穴だらけになっていく。撃ち抜かれたモニターの画面が砕け、レシートが紙吹雪のように宙を舞った。

 

 

「あ゛っ゛!! 店の備品が!! 俺の時給で弁償とかになったらどーすんの!?」

 

 

 思わず文句を並べたくなる。だが、そんなことを言ってる暇はなかった。

 着地する前に、俺はさらに天井の梁へと蹴りを入れた。反動を利用して体を横へとスライドさせると、すぐさま照明器具を掴んでぶら下がる。

 

 

「チッ、ちょこまかと!」

 

「上だ、狙え」

 

 

 黒服たちの判断は的確だった。次の瞬間、俺がぶら下がっていた照明が蜂の巣になった。

 だが、その頃には俺の姿はすでにない。天井を蹴り、俺はすでに棚の上に移動していた。

 振り向きもせず、身を低くして移動。狭い通路の天井すれすれを飛ぶように駆け抜け、弾丸を避けながら次の足場を探る。背後から弾丸が飛んでくるが、それを察知してさらに移動する。

 

 棚から棚へ、まるで都市に巣を張るクモのように飛び移りながら、俺は黒服たちの弾幕をかいくぐっていった。

 

 

「やっべ、やっべ、やっべ。マジで殺す気じゃん」

 

 

 即座に視線を走らせる。ここは何でも揃っている天下のコンビニエンスストアだ。使える物はそこら中にある。

 俺は跳躍しながら、一番近くにあったカップ麺の陳列棚を蹴り倒した。

 

 

「店長ごめん!」

 

 

 ズザァッと大量のカップ麺が床にぶちまけられる。

 

 

「っ!!」

 

「邪魔くせぇ!!」

 

 

 崩れ落ちるカップ麺の山に足を取られた黒服たちは、一瞬だけ動きを止めた。

 

 

「はい隙あり!!」

 

 

 俺はすかさず隣のジュース棚を蹴る。

 缶ジュースが勢いよく転がり、今度は黒服たちの足元を不安定にさせた。

 

 

「うおっ!」

 

「こいつマジでふざけっ!!」

 

 

 ──使うならこの隙だな。

 

 俺は転がる缶ジュースを踏まないように着地し、瞬時に体勢を整えた。

 足元は安定している。横に薙ぐ際に邪魔になるであろう棚は倒れている。十分な間合いも確保できている。

 

 完璧だ。

 

 俺は満を持して、手にしていた蛇腹剣を構える。

 

 

「全員、一斉にぶち転がしてやる」

 

 

 黒服たちは即座に反応した。

 

 

「右だ備えろ!」

 

「居合い警戒!」

 

 

 無数の銃口が再び俺を捉えようとする。先ほどの混乱で間合いは開いたが、依然として囲まれている状況は変わらない。だが、問題はない。

 

 俺には最強の蛇腹剣がある。

 

 

「くらえっ!!」

 

 

 そう叫ぶように言い放ち、俺は勢いよく蛇腹剣を横に振う。

 

 ──俺の脳内には、完璧な未来図が広がっていた。

 まず、蛇腹剣の刃がしなるように伸び、黒服どもの銃を絡め取る。驚いた隙に腕を引き、武器を弾き飛ばす。そしたら後はこっちのペースだ。無防備になった奴らを一人ずつぶっ飛ばして……。

 勝ったな。俺の蛇腹剣デビュー戦、大勝利確定。

 

 そう思いながら、俺は渾身の一撃を振るった。

 

 

 ──ガッッッ!! 

 

 

「ん?」

 

「……?」

 

「……あ?」

 

 

 まず最初に、何かが何かに突き刺さったような鈍い音が鳴り響いた。次に、俺と黒服達のなんともまぁ間抜けな声が店内に響き渡った。

 

 …………ん? 

 

 店内は先程とは打って変わって、静寂に満たされていた。

 黒服達全員が、ほぼ同時にゆっくりと鈍い音の発生源へと視線を向ける。

 

 いや、まさかそんな。あんな完璧なタイミングと状況でやったのに、そんなことがあるはずが……。

 

 黒服達に続くように、俺はゆっくりと顔を向ける。

 するとそこには──俺の蛇腹剣の先端があった。壁に深々と突き刺さったまま、微動だにしない蛇腹剣の先端が。

 

 

「…………」

 

「…………」

 

「…………」

 

 

 全員が、同時に、何が起こったのかを、察した。

 

 

「…………撃──」

 

 

 瞬間、俺は蛇腹剣から手を離し、前へと全力で踏み込んだ。

 

 

「なっ! テメ──」

 

 

 俺が踏み込んだ次の瞬間、黒服どもは咄嗟に銃を構えた。だが、それよりも早く──まずは一撃。

 

 最も近い黒服の拳銃を手で弾き、その腕を捻り上げる。苦痛に顔を歪めた相手の鳩尾へ膝蹴りを叩き込み、銃を落とさせた。床へ転がる前に、そのまま後頭部へ掌底を一撃。

 一人目、沈黙。

 

 

「クソっ!!」

 

 

 反応した別の黒服が至近距離から発砲する。弾丸が空を裂くが、すでに俺の体はそこにはない。すれ違いざまに相手の手首を掴み、銃口の向きを無理やり変えさせる。続けざまに肩へ肘を叩き込み、腕の自由を奪った。力が抜けた瞬間を狙い、銃を奪い取る。

 だが、使わない。代わりに奪った銃のグリップを握りしめ、そのまま側頭部へ鈍器のように叩きつけた。意識が飛び、黒服の身体が崩れ落ちる。

 二人目、撃破。

 

 背後から殺気がした。振り向かずに低く沈み、背後からの拳が頭上にて空を切る。そのまま床を蹴り、相手の懐へ。肘で腹部をえぐるように打ち抜き、さらに首元へ鋭い打撃を叩き込む。喉を押さえながら崩れ落ちる黒服を確認する暇もなく、次の動きへ移行。

 三人目、終わり。

 

 

「近づけさせるなっ!!」

 

 

 残る四人は、一斉に距離を取って銃を構えていた。だが、距離を取ればそれだけ、俺に選択肢が増えるだけだ。

 

 横の壁を蹴り、跳躍。黒服の死角へ回り込みながら、天井の梁を蹴って軌道を変える。二方向からの銃弾を回避し、着地と同時に跳び込んだ。

 

 

「この野郎っ──」

 

 

 至近距離で発砲しようとした黒服の肘を掴み、銃口を横へ逸らさせる。零距離で弾丸が別の黒服の肩を撃ち抜く。悶えた相手を盾にしながら、無理やり銃を捻り、手のひらで拳銃を弾き落とす。続けざまに顎を蹴り上げ、一撃で沈めた。

 四人目、脱落。

 

 また包囲される前に、俺は床を蹴った。一瞬で懐へ潜り込み、もっとも近い相手の腕を取る。強引に捻り、腕ごと銃を背後の仲間へ向けさせ──引き金を引かせる。銃弾が別の黒服の足を撃ち抜く。悲鳴とともに膝をつく黒服。そのまま手首を折るように捻り、銃を落とさせた。倒れ込む黒服の背を蹴り、前方の黒服へとぶつける。二人同時に、壁へと叩きつけられた。

 五人目、六人目、制圧。

 

 最後の1人だ。

 俺の正面、数メートルの距離で銃口を構えたまま、そいつは動かずにいた。

 

 

「……凄まじいな」

 

 

 あの特にガタイの良かった、リーダーっぽい男だ。

 

 俺は無言で間合いを詰めた。最後の黒服は反射的に引き金を引く。だが、俺はすでに横へ回避していた。

 

 撃ち尽くされたマガジンが空の音を鳴らした瞬間──俺は最後の一撃を放った。

 拳が顎を捉え、黒服の意識が飛ぶ。静かに前へと倒れ込む。

 七人目、終了だ。

 

 

「……はぁ」

 

 

 俺は軽いため息をひとつ吐く。

 店内には、倒れ伏した七人の黒服と、わずかに残った硝煙の匂いだけが漂っている。

 

 ──時間にして、約二十秒。

 たったそれだけの時間で、全員を沈めることができた。

 最初の一撃から最後の拳が決まるまで、息をつく暇すらない一瞬の嵐だった。だが、俺にとっては妙に長く感じた。

 

 静寂が訪れる。

 店内のスピーカーからは、何事もなかったかのように軽快なBGMが流れ続けている。大小様々な弾丸に撃ち抜かれた棚から、カップ麺がひとつ転がり落ちた。

 

 俺は、壁に深々と突き刺さったままの蛇腹剣へと目を向ける。無傷で、まるで最初からそこにあったかのように、ただ突き刺さっているだけだった。

 しばし、それを見つめる。

 

 そして、ふっと力を抜き、ポツリと呟いた。

 

 

「……俺にはまだ早かったでヤンスヤンス」

 

 

 

 




【Q4 蛇牙のヤンスヤンスって?】

懸賞金 3200万の殺し屋。蛇腹剣とかいうロマン武器を自在に扱えるすごい人。
病気の姉を救うために、金の稼げる殺し屋になったらしい(真偽不明)。

ちなみに、どこぞの死神のせいでアマテラスの最高戦力にしばかれて捕まった。
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