西暦2015年7月30日。それは全てが始まり、一度全てが終わった日。
後に『バーテックス』と呼ばれる、世界を破滅に追いやった異形の存在が空から無数に降ってきたあの夜、兵庫県東部の大地で勇者の力に目覚めた少女が一人。
その少女の名前は華原小町。彼女の数奇な物語もまたこの日に始まり、彼女の人生もまたこの日に終わったと言えるものだった。
* * *
小町は気づけば寂れた神社の境内に立っていた。自分でも何故ここに居るのかわからない。両親と例の化け物から逃げているうちに自分だけがこの神社に迷い込んでいた。
しかも手には名もなき刀のようなものを抱えている。これは神社に奉納されてあったものだが、見つけた次の瞬間には自然と手に取っていた。
「サムライみたいな刀だね!」
手にした刀をじっと見つめながら途方に暮れていると、背後から少女の声が聞こえてきた。そっと振り返るとそこには見知らぬ少女が立っている。
「私はミコト! そこで何をしているの?」
「わからない……気づけばここに居たんだ」
「そっか。じゃあ私と同じだ!」
話によると、ミコトと名乗る少女は何かに導かれるようにしてここに辿り着いたらしい。
小町は軽く自己紹介をしてからミコトに刀のことを話した。この刀を使えば、あの化け物と対等に戦えるかもしれないと。実際、小町はこの刀を手にしてから溢れんばかりの力が漲っている。
「キグウだね。私も力に目覚めたかもしれないんだ」
「力……?」
「私ね、オバケの居場所がわかるかもしれないの」
ミコトはそう告げると近くの化け物の居場所をピタリと当ててみせる。小町もその化け物を刀で両断し、力が本物であることを証明してみせた。
「すごい! これなら安全な場所まで逃げられるかも!」
「でも安全な場所なんてあるのか?」
「私のカンでは四国が安全だと思うんだ」
ミコトの直感によると、四国が比較的安全な場所らしい。実際にSNSを使って確認してみると、四国地方での被害報告は他と比べて極端に少なかった。
「それで私とお前で逃げるのか?」
「違うよ。私たちと、みんなで!」
「みんなって?」
「それは今から募集するんだよ!」
ミコトは目を輝かせながらそう言うと、スマホを取り出してSNS上に『生き残りたい者たちは集え! 戦闘のプロと案内のプロが兵庫県民を安全な四国まで案内する!』と投稿する。
「大勢を守りながら逃げる自信なんてないんだけど……」
「小町ちゃんなら大丈夫!」
「なんでそんなことが言えるんだよ……」
「これも私のカン!」
舌を出して笑うミコトに小町は彼女の勘を信じていいのか不安になる。
しかし本当に化け物の居場所がわかるのならミコトといた方が安全だろうし、フォロワー0人のアカウントが投稿した怪文書が人目につくはずもないので、結局二人で避難することにはなるだろう。
……そう思っていたのだが、翌日集合場所の広場には小町とミコトを除いて6人もの人が集まった。
(う、嘘だろ……)
藁にも縋る思いなのかもしれないが、どうして選りに選ってあんな奇怪な文章を書くヤツなんかに命を預けようと思ったのか。
やはりみんなを最後まで守りきる自信はなかったが、こうなった以上は仕方ない。小町は心の中で覚悟を決めた。
「この度は日も昇らない中、多くの方々にお集まりいただき誠にありがとうございます!」
「えー、ここからはこの私、華原小町と……」
「ミコトがミナサマを導きますね!」
ミコトは挨拶に続いてみんなに避難経路の説明をする。ここから四国へは明石海峡大橋を渡ればすぐなのだが、ミコトによれば淡路市に化け物が集中しているらしく、遠回りでも瀬戸大橋を渡るルートで避難する方が安全らしい。
説明が終わると、少し離れた場所で話を聞いていた一人の女性がミコトに手を振りながら叫ぶ。
「きゃ〜! ミコト〜! 頑張って〜!」
「あの喧しいのは?」
「私のママだよ。うん! 頑張る〜!」
「L・O・V・E・ラブリー・ミコト!!」
「すごいな……」
あんな一歩間違えればトラブルメーカーになりかねない人まで守らないといけないのか。先行きに不安を募らせながらふと視線を逸らすと、その先でミコトの父親らしき人物が他人のフリをしているのが見えた。
「ほらほら、お父さんも応援応援!」
「や、やめろ……私を巻き込むな……」
「パパは相変わらず恥ずかしがり屋さんだねっ」
「お前たちはもう少し恥を知るべきだ……」
可哀想なお父さんのことは放っておいて、小町は自分のスマホを確認する。昨日から親に何度もメッセージを送っているが、未だ既読すらついていない。もしかするともう化け物に殺されてしまったのかもしれない。
そんな恐ろしい想像をしていると、近くにいた二人組の少女のうちの一人が小町に話しかけてきた。
「あの、小町さん!」
「……ん? どうかした?」
「私たちの友達が来てないんです!」
詳しい話を聞くと、どうやら少女たちは友人も誘っていたのだが、「準備するから少し待ってて!」という返信以降、連絡が取れなくなったらしい。
最後の返信から察するに、その友人は今も家にいるか、ここに来る途中で化け物に殺されたかのどちらかだろう。
「ミコト、今いるここは安全か?」
「少なくともこの近くにオバケはいないみたいだよ」
「わかった。じゃあ私は少し様子を見てくるよ」
「え? ドコに?」
「すぐ戻るからミコトたちはここで待っててくれ」
安否不明の友達を心配する少女たち。奇しくも今の小町と重なる部分があったので、小町は家の住所を聞いて急いでその場所へと向かった。
*
十分以上走って到着したのは鄙びたという言葉すら似合わない、街から大きく外れた場所に位置する小さな一軒家。家の窓はカーテンで閉めきられており、周りの景色とも相まって人の気配は一切感じない。
「すみませーん! 誰かいませんか!」
玄関前に立って声をかけるが返事はない。試しにドアノブに手をかけると、しっかり鍵がかかっている。
既に逃げ出した可能性も考えられるが、小町は念のためにドアを叩いて本当に人がいないか確かめる。それも何度も何度も力強く。
(いない……かな?)
いくら叩いても反応がない。となるとこれは家を出た後に殺されたパターンかもしれない。
二人組の少女には何と伝えるべきか。そう思ったその時だった。中から少女の声が聞こえてきた。
「帰って!!」
誰もいないと思わせといてからの少女の声。しかも少女は何故か激昂している。
小町は不意を突かれながらも、扉を隔てて少女に優しく話しかける。
「お友達が心配してたよ。連絡が取れないって」
「私のことなんかほっといてよ!」
「でもこれから一緒に避難するんだよね?」
「いいからほっといて!」
「いやそうは言っても……」
「だからほっといてよ!!」
小町は一緒に逃げようと説得したかったが、相手は放っておけの一点張りで全く話を聞いてもらえない。
(な、なんだこいつ……)
みんなを待たせている中、この少女一人のために余計な時間を割くことはできない。いると分かった上で置いていくのは心苦しいが、小町は諦めてみんなの所へ戻ることにした。
*
二人組の少女にはどう伝えるべきか。頭を悩ませながら戻ってくると、少女たちの方から話しかけてきた。
「あ、あの、私たちの友達なんですけど……」
「先にお母さんと避難してるみたい。ついさっき連絡がありました」
「えっ……?」
「様子を見に行ってもらったのにごめんなさい……」
「そ、そうか……無事なら良かった」
あの少女は確かに家にいた。だからそれが友達を安心させるための嘘であることはわかっている。でも少女は何故一緒に逃げることを拒んで家にこもっているのだろう。
「おかえり。そろそろ出発しないとだよ?」
「……ああそうだな。待たせて悪かった」
「よーし! それじゃあミナサマ、出発ですよ!」
結局その疑問は解消されることなく、四国に向けて小町とミコト一家、二人組の少女、筋骨隆々の男、メガネの青年の計8人での避難が始まった。
避難は徒歩で行い、小町たちはその道中で地獄のような光景を目撃した。
崩壊した家屋に、道端に転がる大量の屍。少し歩けば靴底に知らない誰かの血が付着し、少し呼吸をすればどこからか漂ってくる死臭が鼻を突く。
気が狂いそうな光景がずっと続くが、そんな中でもミコトはみんなに明るい声で話しかける。
「お兄さんのキンニクすごいですね!」
「まあな。化け物の前ではただの美味い肉でしかないのが残念だよ」
「でも重たい荷物を持ってくれて助かってます!」
「その言葉はそこの兄ちゃんにかけてやりな」
ミコトのすぐ後ろではメガネの青年が非力なくせして筋骨隆々の男と張り合おうと、リュックに非常食をパンパンに詰め込んで歩いている。
「お兄さんもカッコイイですよ!」
「僕もこのくらいは役に立たないとですから……ハハハ……うぅ……」
男性陣は荷物持ちがメインの一方で、二人組の少女はミコトが感知できない災害情報をスマホで調べてくれていた。
「調べた感じだとこの辺は安全ぽいね」
「ただ画面が時々くるくるしてて、ネットが使えなくなるのも時間の問題かもです……」
少女たちが集めた災害情報とミコトの化け物感知能力をもとに常に最適なルートを更新し、小町はどうしても避けることのできない化け物と戦った。
その一方でミコトの両親はというと……
「もうすぐ昼時だというのに全く日が昇らないな」
「どうしちゃったんだろうね、お日様」
「お日様ならここにあるじゃない! ミコトはいつだって私たちの太陽よ!」
「……今そんな話はしてないんだが」
「私が眩しすぎて話が見えなくなってるのかも」
「あいつにはもう少し現実を照らしてやってくれ」
家族漫才をやってるだけであまり役には立っていない。父は最適な避難経路の構築に少しは貢献しているが、母に至ってはなんの役にも立っていない。
それでも不和が生じることなく避難は順調に進み、日付が変わる前には廃ビルではあるものの、安全と言える寝床を見つけられた。
「今日は運良く安全な寝床を確保できたが、明日以降はどうなるかわからない。だからここでしっかり休もう」
小町は就寝前にみんなに一言声をかける。するとそこにミコトが割り込んできた。
「というわけで、私がみんなのために歌います!」
「話聞いてたか? 明日のために今日はもう休……」
「車で駆けてこっ♪」
小町の言葉は呆気なく遮られ、ミコトはキャラメル気分で歌いだす。明日に響かせないためにも小町はミコトを止めようとしたが、みんなは手拍子をとりながら穏やかな顔でミコトの歌を聞いている。
(…………)
小町はその様子を見てミコトの凄さを思い知った。こんな地獄のような環境下でもミコトは常に明るく、周りに笑顔を与えることができる。
そしてそんな笑顔を見ていると、小町はみんなに愛着が湧いていた。これもミコトの力なのだろうか。
しんみりとした気分になっていると、それをぶち壊すかのようにミコトの母がいきなり声をあげた。
「私も混ざるわ!!」
ミコトの独唱に母が加わり、母と娘のユニゾンが始まる。しかし母の方はお世辞にも歌が上手いとは言えず、せっかく気持ちよく聞いていたみんなの顔から徐々に笑顔が消えてゆく。
「「カニ食べ行こう♪」」
あの二人が組み合わさると、もう誰にも手がつけられない。結局二人の斉唱はその後一時間もの間続いた。
*
みんなが寝入った後、小町はビルの屋上でもしもに備えて見張りをしていた。
屋上から地上を見下ろすと、そこには荒れ果てた大地が広がっており、逆に空を見上げてみると、遠くの空で蠢く化け物の姿が見える。どこに目をやってもそこにあるのは地獄だけだ。
(…………)
突如として奪われた日常。その現実から目を背けたくなりながら静かに見張りを続けていると、背後からミコトが声をかけてきた。
「見張り交代しよっか?」
「別にいいよ。そんなに疲れてないし」
「でも小町ちゃんも休んでおかないとでしょ?」
「それはそうだけど……」
「なんなら私が一曲歌って癒そうか!?」
「やめてくれ、疲れる」
「じゃあせめて隣にいてもいい?」
「……まあ」
小声の返答を聞いたミコトは微笑みながら小町の横に並ぶ。小町は目の前の光景に気分が沈みかけていたが、ミコトが隣にいることでいつの間にか安らぎを覚えていた。
「……ミコトはすごいな」
「何が?」
「目の前がこんななのにずっと明るくて元気で……」
「それに関しては私のママの方がすごいよ」
「確かにアレもすごいけど……でもミコトはなんというか周りに安心感を与えてくれる」
ミコトに対する尊敬の言葉が口を衝いて出る。突然の褒められにミコトは不思議そうに小町の顔を覗き込んだ。
「何? 私を褒め殺そうってコンタン?」
「なんだよ魂胆って」
「でもそうはいかないよ。だって私はオバケと戦える小町ちゃんの方がスゴイと思ってるからね!」
「でも私にはみんなで逃げるって発想はなかったからな。ミコトはどうして人を集めようと思ったんだ?」
「なんでだろ……思いつき?」
ミコトは顎に手を当てて考え込む。その様子からして咄嗟の思いつきだったのは本当なのだろう。
「考えなしに行動しちゃうのは私の悪いクセだよね。巻き込まれた小町ちゃんからすると堪ったもんじゃ……」
「いいんだ。確かに最初は嫌々だったけど、今は一緒に避難できてよかったと思ってる。途方に暮れていた私に目的を与えてくれたのはミコトのおかげだ」
今になって気づいたことがある。小町は化け物に全てを奪われた世界に絶望していたんだと。そして、守るべき人がいることで、小町の心はかろうじて壊れずに済んでいるんだと。それを思うとミコトに感謝せずにはいられない。
「……そっか。ならよかった」
ミコトは意外にも小町たちを巻き込んでしまったことに罪悪感を抱いていたのか、珍しく顔を少し曇らせるが、小町の言葉を聞いてすぐにいつもの調子が戻った。
「じゃあゼッタイ避難を成功させないとだね!」
「……ああ。ミコトと出会えて良かったよ」
「ところで、さっきからそんなに改まってどうしたの? もしかして私に惚れちゃった? チューでもする?」
「……するわけないだろ」
その後も二人はしばらく屋上で語らい、やがてみんなの起床時間になった。
小町とミコトは廃ビルの入り口前にみんなを集めて簡易的な朝礼を行う。
「ミナサマおはようございます!」
「今日だけど、ミコトが言うにはこの先しばらく化け物がいないらしいんだ。だから今のうちに距離を稼いで、今日中には岡山県に入りたい」
「つまり今日は昨日よりもハイペースです! みんな気合い入れていくぞーーっ!!」
「「おおーーっ!!」」
ミコトが発破をかけると、威勢のいい返事が返ってくる。まだ一日しか経っていないが、すっかり固い絆で結ばれているようだ。
それから間もなく出発するが、ペースをかなり上げてもみんなしっかりとついてくる。昨晩ゆっくり休めたことで精神状態が良くなったのか、昨日よりもみんなの足取りが軽いように感じる。
「それにしても小町さんは、私たちを守りながら戦えるなんてすごく器用ですよね」
「マルチタスクの人だよね。私には無理だなあ」
「人の脳はそもそもマルチタスクに向いてないって言うし、小町ちゃんの頭がおかしいだけだよ!」
「それって褒めてるんだよな……?」
「俺みたいな筋肉がなくとも化け物とやり合えるなんてな。ほんとどうなってるんだ」
「僕は見た目通りのもやしっ子だったんで憧れますよ」
「外側は非力で中身はパワフル。小町ちゃんは言うなればピーマンの肉詰めっ子だね!」
「空っぽの中身に詰まった肉……お前さん、それはどちらかと言えば脳筋を意味すると思うのだが」
「やっぱりミコトだけ褒めてないよな……?」
会話も弾み、避難も順調に進んでいる。このままいけば半日ほどで赤穂市までは行けるだろう。この場にいる誰もがそう思っていた。
しかし、順調だった旅に突如として暗雲が漂う。
「ん? あれは……?」
ふと何かに気づいたミコトの父が空に向かって指をさす。その先に漂っていたのは、暗雲ではなく……
「化け物だ! しかも大量にいるぞ!」
ミコトの感知能力ではいるはずのない場所に大量の化け物が浮遊している。筋骨隆々の男が叫ぶと化け物たちは一斉に襲いかかってきた。
「お、おいこっちに来るぞ!」
「なんで……!? そんなはずは……!」
「ミコトのミスは私がカバーする! ミコトはみんなを安全な場所へ!」
小町は刀をしっかりと握り、化け物たちと交戦する。ミコトは小町が戦っている間にみんなを安全な物陰へと避難させた。
みんなの避難が完了し、あとは小町が逃げるだけ。そう思いながらタイミングを見計らっていたその時だった。
「小町ちゃん危ない!」
「え……がっ!?」
化け物による死角からの突進が小町の体を直撃し、小町は地面を大きく転がった。
幸いにも化け物はそのままどこかに飛んでいったが、小町の腕からは鮮血が流れている。
「大丈夫!?」
「問題ない……ただのかすり傷だ」
「ここは危険だから近くの建物に隠れてやり過ごそう」
ミコトの提案でみんなは近くのショッピングモールに身を隠し、すぐさま傷の手当てを行った。
「ありがとう。それで化け物はまだ近くにいるか?」
「うん……さっきまではいなかったハズなのに……」
ミコトは絶望顔でそう口にする。ここまで精神的に参っているミコトの姿は初めてだ。だからこそ事態の深刻さがより鮮明に伝わる。
「全部私のせいだ……」
「そんなことないですよ。僕たちはここまでミコトさんの力に助けられてきたんです」
「そうよ! ミコトは悪くないわ!」
「でも私たちどうなっちゃうのかな……?」
「くそっ! 俺らが戦えないばかりに!」
みんなが混乱している中、小町は周りの安全を確認する。流石に屋内に化け物の姿はなかったが、電気が通っていないこともあってほとんど先が見通せない。
外も危険だが、ここに居続けるのもまた危ない。いつでも移動できるよう準備だけは整えておこう。そう思ったその時だった。ミコトが不穏な言葉を口にする。
「近づいてきてる……」
「ん……?」
「まずい! 来る!!」
次の瞬間、化け物が壁を勢いよく突き破り、その衝撃で小町たちは吹き飛ばされた。
「がはっ……!?」
小町は柱に激突し、ほんの一瞬意識が飛ぶ。
……そして目を覚ました時に見た光景は、仲間が化け物に食い殺される瞬間だった。
「や……やめろおおお!!」
小町は地面に転がった刀を拾い、すぐさま化け物に向かって飛びかかるが、全く間に合わない。化け物は最後に残ったミコトを喰らおうとしている。
「ミコト!!」
「小町ちゃん……ごめんね……」
ミコトが小町の目を見てそう呟くと、化け物はミコトの上半身を噛みちぎった。
「う……うああああ!!」
小町はミコトを殺した化け物を斬り伏せる。これで脅威は去ったが、もう小町以外に誰も生きてはいなかった。
中には吹き飛ばされた衝撃で頭を強く打って死んだ者もいれば、化け物に上から押し潰されて死んだ者もいる。ほんの一瞬の惨劇。小町は誰一人として守りきることができなかった。
「くそっ……くそぉおおお!!」
小町の嗚咽が大きな穴の空いた壁を抜けて真っ黒な空に響く。
化け物と戦える力があるというのに、自分が守りたいと思った人すら守れない。変わり果てた姿で転がる仲間の屍に囲まれながら、小町は自分の無力さを苦しいほどに痛感した。
(これからどうしよう……)
小町は再び途方に暮れる。誰も守れはしなかった。そんな気持ちを抱えたまま、自分だけが四国に避難することなんてできない。かといって今の自分に他にするべきことがあるかと言えば……
……いや、まだだ。まだ"あの子"がいる。
二人組の少女が気にかけていたお友達が。
(せめてあいつだけでも……)
守れなかった仲間たちの分、せめてあの少女だけは守り通したい。そう心に決めた小町は刀を強く握りしめ、急いで少女のもとへと向かった。
華原小町 → ハーデンベルギア(小町藤)
花言葉は「運命的な出会い」「奇跡的な再会」