金槌をテーマにした短編小説です


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金槌の呪い

### **金槌**

 

高橋翔太は、祖父の家を整理するため、久しぶりに田舎を訪れた。祖父が亡くなって半年、空き家になったその家は、埃っぽく、どこか湿っぽい臭いが漂っていた。幼いころ、夏休みのたびに遊びに来ていた場所だが、今となっては古びた壁や軋む床がやけに不気味に思えた。

 

翔太は片付けを進めるうちに、物置の奥で見覚えのない木箱を見つけた。黒ずんだ蓋には、かすれた筆文字で「開けるな」と書かれている。しかし、こう書かれていると、かえって興味をそそられるものだ。翔太は迷うことなく蓋を開けた。

 

中には一本の金槌が入っていた。鉄の頭は鈍く光り、木製の柄には誰かの手の跡が染みついているようだった。何気なく手に取ると、ぞわりと背筋が寒くなった。

 

「なんだこれ……?」

 

その瞬間、頭の奥で誰かの声が囁いた。

 

── お前か。今度はお前なのか。

 

翔太は思わず金槌を床に落とした。鼓動が早まる。誰もいないはずの部屋で、確かに聞こえた声。辺りを見回しても何もない。気のせいだろうか。

 

しかし、その夜から翔太の身に奇妙なことが起こり始めた。

 

### **金槌の音**

 

寝ていると、夜中に「コン……コン……」という微かな音が聞こえた。まるで誰かが壁を金槌で叩いているような音だ。最初は気のせいだと思ったが、毎晩同じ時間にその音が響く。

 

我慢できず、翔太は音のする方へ向かった。暗闇の中、音は物置の方から聞こえてくる。息を殺し、そっと扉を開けた。

 

そこには、金槌を握った見知らぬ男がいた。

 

男は顔をこちらに向け、にたりと笑った。

 

「お前も……」

 

翔太は悲鳴を上げ、後ずさった。しかし、次の瞬間には男の姿は消えていた。ただ、床にぽつんと金槌が落ちているだけだった。

 

これは夢なのか、それとも……?

 

### **祖父の日記**

 

恐怖に駆られた翔太は、祖父の遺品を調べた。そして、古びた日記を見つける。震える手でページをめくると、そこにはこう書かれていた。

 

**「あの金槌は呪われている。使った者は皆、何かに取り憑かれ、狂ってしまう。私の父も、兄も、そして友人も……最後には自らの頭を打ち砕いて死んだ」**

 

翔太の手が止まる。嫌な予感がした。ゆっくりと視線を上げると、鏡に映る自分の姿が目に入った。

 

しかし、その手には、いつの間にかあの金槌が握られていた。

 

翔太は、笑っていた。

 

###

 

翔太は鏡をじっと見つめた。自分の顔のはずなのに、どこか違う。唇が不自然に吊り上がり、目は見開かれ、まるで他人のような表情をしている。

 

「俺……笑ってる?」

 

そう呟いた瞬間、鏡の向こうの「翔太」がにたりと笑い、金槌を振り上げた。翔太は反射的に鏡から離れ、後ずさった。

 

「なんだよ、これ……!」

 

ふと気づくと、実際の自分の手にも、あの金槌が握られていた。力を込めていないのに、指が硬直して開かない。手のひらから、じわじわと冷たい汗が滲む。

 

── 叩け。

 

どこからか、またあの声が聞こえた。

 

「叩け……って、何を……?」

 

足元で「コン……コン……」と微かな音が響く。翔太は恐る恐る床を見る。何もない。ただ、音だけが続いている。

 

── 叩け。ここを。

 

「やめろ……!」

 

翔太は耳を塞いだが、音は止まらなかった。それどころか、どんどん大きくなる。床下から何かが蠢くような音。まるで「そこ」に何かがいるようだった。

 

**「叩け! ここを開けろ!」**

 

叫び声と同時に、翔太の腕が勝手に動いた。金槌を振り上げ、床を叩く。

 

── コン!

 

**「やめろ!」**

 

止めようとしても、腕が言うことを聞かない。金槌が勝手に動き、何度も床を叩く。

 

── コン! コン! コン!

 

すると、床板にひびが入り、暗い隙間ができた。そこから、何かが覗いていた。

 

**「目だ……」**

 

ぞっとした瞬間、床が大きく裂け、翔太は引きずり込まれた。

 

### **地下室**

 

目を覚ますと、翔太は真っ暗な地下室にいた。かび臭く、湿った空気。壁には無数の傷跡があり、古びた手形がべったりとついている。

 

「どこだよ、ここ……」

 

立ち上がろうとした瞬間、足元で何かが動いた。

 

「お前か……開けてくれたのは……?」

 

ひどく掠れた声だった。翔太は恐る恐る顔を上げた。

 

暗闇の中、何かがこちらを見ている。

 

人の形をしているが、皮膚がただれ、骨がむき出しになっている。異常に長い指、血走った目。その生き物は、ゆっくりと翔太に近づいてきた。

 

「俺を……埋めたのは……お前の……祖父……」

 

翔太は凍りついた。

 

祖父の日記を思い出す。あの金槌を使った者は、狂い、やがて死ぬと書かれていた。しかし、そこにはもう一つ、重要なことが記されていた。

 

**「金槌は、あるものを封じるために存在する。もし解放してしまったら……」**

 

翔太は絶望的な気持ちで呟いた。

 

「開けちゃ……いけなかったんだ……」

 

── **コン……コン……**

 

その瞬間、金槌が勝手に動き、翔太の頭へと振り下ろされた。

 

### **翌日**

 

祖父の家の前を通りかかった村人が、異変に気づいた。玄関が開いている。最近誰も住んでいないはずなのに。

 

恐る恐る中に入ると、物置の前で一人の男が立っていた。

 

「……?」

 

男は、静かに振り返った。

 

それは翔太だった。

 

しかし、その顔には、生気がなかった。

 

彼の手には、しっかりと**あの金槌**が握られていた。

 

そして、ゆっくりと呟いた。

 

「……次は……誰だ……?」

 

###

 

村人の一人、佐々木は翔太の異様な様子に気づいた。

 

「おい、大丈夫か?」

 

声をかけると、翔太はぎこちなく首をかしげ、にたりと笑った。

 

「……大丈夫さ……」

 

その声は、翔太のものとは思えなかった。乾いていて、低く、どこか別人のような響きがあった。

 

佐々木は背筋が寒くなった。翔太の目は、まるで生気を失ったかのように濁り、しかし、その奥で何かが蠢いている。

 

「なあ、佐々木さん」

 

翔太が、金槌を持った手をゆっくりと持ち上げた。

 

「叩いてみないか?」

 

「は……?」

 

「気持ちいいんだ、これで叩くとさ……全部、消えるんだよ……」

 

次の瞬間、翔太の手が閃いた。金槌が佐々木の頭を目がけて振り下ろされる。

 

「うわっ!」

 

佐々木はとっさに後ろへ飛び退いた。金槌は空を切り、玄関の柱にめり込む。鈍い音が響いた。

 

「翔太! 何してんだ!」

 

「ははは……はははは!」

 

翔太は、まるで楽しそうに笑った。

 

「叩けば、楽になるのに……どうして逃げるんだよ……?」

 

佐々木は恐怖に駆られ、一目散に家を飛び出した。

 

### **村の記憶**

 

佐々木は、すぐに村の長老である中村老人の元へ駆け込んだ。

 

「おい、中村さん! まずいことになった!」

 

「どうした?」

 

「翔太が……おかしくなってる! あの金槌を持って、俺を……!」

 

中村老人は、佐々木の言葉を聞くと、顔色を変えた。そして、静かに呟いた。

 

「……またか」

 

「また?」

 

「……あの家はな、昔からそういう場所なんだ。あの金槌は、ただの道具じゃない。**封じるためのもの**なんだよ」

 

佐々木は息をのんだ。

 

「封じる?」

 

中村老人は重いため息をつくと、昔の話を語り始めた。

 

「あの家の地下にはな……昔、ある**男**が閉じ込められていたんだよ」

 

「男?」

 

「もう何十年も前のことだ。村の記録にもほとんど残っていないが……そいつは、村に災いをもたらした。人を狂わせ、何人も殺させた。最後に残った村人たちは、何とかしてそいつを捕らえ、地下に閉じ込めた。そして、その封印のために置かれたのが……**あの金槌**だったんだ」

 

佐々木の背筋に冷たいものが走った。

 

「じゃあ……翔太は……?」

 

中村老人は、厳しい表情で首を横に振った。

 

「もう遅いかもしれん。だが……やるしかない」

 

### **封印の儀**

 

夜。村人たちは数人で集まり、翔太の祖父の家へと向かった。全員、手に護符やお札を持っている。

 

「中にいるのか……?」

 

佐々木が震える声で尋ねると、中村老人は静かに頷いた。

 

「間違いない。だが、慎重になれ。中の"翔太"はもう翔太じゃない」

 

家の扉をそっと開けると、中は暗闇に包まれていた。しかし、奥の物置から、**コン……コン……**という音が聞こえてくる。

 

「あの音……」

 

「準備はいいな?」

 

中村老人が小さく合図し、村人たちは護符を握りしめながら奥へと進んだ。

 

そして、物置の扉を開けると──

 

そこに翔太がいた。

 

彼は床に向かって、ひたすら金槌を振り下ろしていた。

 

**コン……コン……コン……**

 

床には、大きな穴が開いている。その下には、黒い影が蠢いていた。

 

「間に合わなかったか……!」

 

中村老人が叫んだ。

 

翔太がゆっくりと顔を上げる。その顔は、人間のものではなかった。口が裂けるほどに笑い、目は虚ろで、声が異様に低い。

 

「……邪魔をするな」

 

「封印を……解いてしまったのか……!」

 

「フフフ……お前らも……楽になれよ……」

 

その瞬間、翔太の体が異様に膨れ上がり、何かが飛び出した。黒い影が、村人たちに襲いかかる。

 

「おおおおお……!」

 

「護符を! 早く!」

 

村人たちは一斉に護符を投げつけた。

 

黒い影はギャアアアアと悲鳴を上げ、弾き飛ばされる。しかし、翔太はまだ笑いながら立っている。

 

「封印を……元に戻さなければ!」

 

中村老人は叫び、佐々木に合図を送った。

 

「金槌を! もう一度、封じるんだ!」

 

佐々木は震える手で、翔太の足元に転がっていた金槌を拾い上げた。

 

翔太が、ゆっくりとこちらを向いた。

 

「お前も……仲間になれよ……?」

 

「……悪いが、遠慮する!」

 

佐々木は、翔太の頭ではなく、床を叩いた。

 

── コン!

 

黒い影が悲鳴を上げる。

 

── コン!

 

翔太の体が崩れ始める。

 

── コン!

 

「ぐあああああああ!!」

 

翔太は絶叫し、床の穴へと落ちていった。

 

そして、穴は自然に閉じ、金槌が力なく転がった。

 

**すべてが、静寂に包まれた。**

 

### **その後**

 

村人たちは、封印を再び強化し、あの家を完全に封鎖した。

 

翔太は、戻らなかった。

 

だが、ある夜。

 

家の前を通りかかった村人が、確かに聞いたという。

 

**コン……コン……コン……**

 

それは、地下から響く音だった。

 

###

 

村人たちは封印を終え、あの家を完全に封鎖したはずだった。しかし、数日後──またしても、あの**音**が聞こえ始めた。

 

── **コン……コン……コン……**

 

村人たちは恐れ、誰も近づこうとしなかった。翔太が落ちた穴は閉じたはず。封印も施した。それなのに、なぜまだ音がするのか。

 

ある夜、佐々木は悪夢を見た。

 

真っ暗な地下室。自分は金槌を握っている。目の前には翔太が立っている。彼の顔は青白く、笑っていた。

 

「お前も……こっちに来るんだよ……」

 

佐々木は悲鳴を上げて目を覚ました。額には冷たい汗が滲んでいる。

 

── これは、終わっていない。

 

佐々木は決意し、再びあの家へ向かった。

 

### **再び、地下へ**

 

家は静まり返っていた。しかし、扉を開けた瞬間、鼻を突くような異臭が漂ってきた。まるで何かが腐ったような匂い。

 

「やっぱり……まだ終わってないのか……」

 

意を決して物置の前に立つ。そこから微かに聞こえる。

 

── **コン……コン……コン……**

 

「くそ……!」

 

佐々木は震える手で扉を開けた。

 

そこには、**穴はなかった。**

 

しかし、床に無数の手形が残っていた。爪で引っかいたような跡が壁や天井にも広がっている。まるで、何かが逃げ出したかのように。

 

「……翔太?」

 

その瞬間、背後から冷たい息が吹きかけられた。

 

**「……佐々木……」**

 

ゾクリと背筋が凍る。

 

振り向くと、そこには──翔太がいた。

 

**ただし、頭が割れていた。**

 

### **呪いの拡散**

 

翔太の顔は半分以上崩れ、血まみれだった。それでも、彼は笑っていた。

 

「封印は……不完全だったんだよ……」

 

佐々木は息を呑んだ。

 

「どういうことだ……!」

 

翔太はゆっくりと金槌を持ち上げた。

 

「"あいつ"は……もう地下にはいない……お前らが封印したのは……ただの**抜け殻**だ」

 

**「"本体"は……もう、外に出てるんだよ」**

 

佐々木の血の気が引いた。

 

── じゃあ、今村のどこかに……?

 

「もう手遅れだ……フフフ……」

 

翔太がゆっくりと近づいてくる。

 

「お前も、楽になれよ……」

 

佐々木は、最後の力を振り絞り、翔太を突き飛ばした。翔太の身体は壁に激突し、そのまま崩れ落ちる。

 

だが──その瞬間、床下から無数の黒い手が飛び出した。

 

**「見つけた……」**

 

声が響いた。

 

それは、翔太のものではなかった。

 

**それは、翔太を操っていた"何か"の声だった。**

 

佐々木は必死で逃げようとした。しかし、気づいたときには、手首を黒い腕が掴んでいた。

 

「ぐっ……!」

 

力が抜けていく。

 

── **コン……コン……コン……**

 

金槌の音が、耳の奥で響いた。

 

### **終焉**

 

翌日、村人たちは不審に思い、佐々木の家を訪れた。

 

しかし、そこに彼の姿はなかった。

 

あるのは、一つの金槌だけ。

 

血まみれの金槌が、玄関の前に転がっていた。

 

その夜。

 

村のあちこちで、金槌の音が聞こえたという。

 

── **コン……コン……コン……**

 

それは、村の終わりを告げる音だった。

 

###

 

── **コン……コン……コン……**

 

その音は、夜になると必ず村のどこかで響くようになった。

 

最初は森の奥で。次は廃屋で。やがて、民家のすぐそばで聞こえるようになり、村人たちは恐怖に怯えた。

 

「この村は……もう駄目かもしれん……」

 

年老いた中村老人は、そう呟いた。

 

佐々木が消えてから、村の様子は明らかにおかしくなっていた。家畜が突然死に、井戸の水は濁り、夜には誰もが悪夢を見るようになった。

 

その夢の中には、必ず──

 

**「金槌」を持った誰かが現れる。**

 

### **村の消失**

 

ある朝、隣村の者がこの村を訪れた。

 

しかし、そこにあったのは**無人の村**だった。

 

家はそのまま。生活の痕跡もある。だが、人の気配が一切ない。

 

「おーい! 誰かいないのか?」

 

返事はなかった。

 

不思議に思った男が、村の中心まで来たときだった。

 

── **コン……コン……**

 

「……?」

 

背後で微かに音がした。

 

振り向くと、村の入り口に一本の**金槌**が落ちていた。

 

そして、血のような黒い染みが、村の至るところに広がっていた。

 

それは、人の足跡のようにも見えた。

 

男は、無言で村を離れた。

 

それが、この村が存在した最後の日だった。

 

### **終わりではない**

 

それから数年後、都市のとあるアパートで、一人の男が奇妙なものを拾った。

 

古びた、手に馴染む金槌だった。

 

「こんなところに……なんだろう?」

 

男がその金槌を手に取った瞬間──

 

── **コン……コン……コン……**

 

どこからか、微かな音が聞こえた。

 

**金槌の呪いは、まだ続いている。**

 

###

 

── **コン……コン……コン……**

 

古びたアパートの一室で、その音が響いた。

 

金槌を拾った男──田中誠は、妙な胸騒ぎを覚えながら、それを手に取った。

 

「変なものを拾っちまったな……」

 

重さは普通の金槌と変わらない。しかし、握った瞬間、手のひらにじんわりと冷たい感触が広がった。

 

まるで、何かが手の中に染み込んでいくような……。

 

ふと、誠の耳元で、微かな囁きが聞こえた。

 

**「……叩け……」**

 

「え?」

 

誰もいないはずの部屋。だが、確かに聞こえた。

 

振り向くと、壁に奇妙な染みができていた。

 

それは、まるで"手形"のような形をしていた。

 

**「叩け……ここを……開けろ……」**

 

誠の手が、無意識に金槌を持ち上げる。

 

ダメだ、叩いちゃいけない──!

 

そう思った瞬間。

 

── **コン!**

 

気づけば、金槌は壁を叩いていた。

 

### **都市での異変**

 

誠がその夜、何かに取り憑かれたように壁を叩き続けた翌日、奇妙な出来事が都市で起こり始めた。

 

まず、近所の住人が次々と悪夢を見るようになった。

 

夢の中には、古びた金槌を持った**誰か**が立っている。

 

そして、その人物は、ゆっくりと金槌を振り上げ──

 

── **コン……コン……コン……**

 

その音とともに、夢は終わる。

 

やがて、悪夢を見た者たちが**行方不明**になり始めた。

 

最初は一人、次に二人、そして五人、十人……。

 

### **拡散する呪い**

 

ある夜、監視カメラに**奇妙な映像**が映った。

 

アパートの廊下に、何かがいる。

 

それは……黒い影のようなものだった。

 

いや、違う。

 

それは**無数の"人影"が重なったような存在**だった。

 

その影は、ふらふらと歩きながら、手に持った**金槌を振り下ろしていた。**

 

── **コン……コン……コン……**

 

翌朝、そのアパートの住人は**全員消えていた。**

 

部屋には何もなく、ただ、床の上に**金槌**だけが転がっていた。

 

そして、そこには一つのメッセージが残されていた。

 

**「次は、お前の番だ」**

 

── **コン……コン……コン……**

 

**あなたの後ろで、その音がしなかっただろうか?**

 

###

 

── **コン……コン……コン……**

 

その音は、都市のあちこちで囁かれるようになった。

 

最初に異変を感じたのは、警察だった。

 

「最近、行方不明者が急増してる……?」

 

繁華街、住宅街、工事現場、学校……どこも同じだった。

 

**忽然と人が消え、現場にはただ、一本の金槌が残されている。**

 

そして、消えた人々の家の壁には、必ず"手形のような染み"が浮かび上がっていた。

 

### **怪異の調査**

 

オカルト雑誌のライター・藤木は、この奇妙な事件を追っていた。

 

ネットにはこんな噂が広がっている。

 

**「夜、コンコンという音が聞こえたら、決して振り向いてはいけない」**

 

**「もし拾った金槌が少しでも冷たく感じたら、すぐに捨てろ」**

 

**「夢の中で金槌を見たら、それはもう"始まっている"」**

 

藤木は、都市伝説として取材を進めるうち、ある事実にたどり着いた。

 

行方不明者の一人──田中誠が最後に持っていた金槌が、**"ある村"から発見されたもの**だということを。

 

その村の名を調べたとき、藤木は震えた。

 

**「……佐々木の村……?」**

 

そう、**"金槌の呪い"が始まった村の名前だった。**

 

「まさか……そんなはずは……」

 

藤木は急いで関係者に連絡を取ろうとした。

 

しかし、その瞬間、彼の耳元で音がした。

 

── **コン……コン……**

 

「……?」

 

室内には、誰もいないはずだった。

 

なのに、明らかに"何か"がいる気配がする。

 

藤木は恐る恐る振り向いた。

 

そこには──

 

**壁一面に無数の"手形"が浮かび上がっていた。**

 

そして、床には**一本の金槌**が転がっていた。

 

### **最初の犠牲者**

 

翌日、藤木は行方不明になった。

 

彼の部屋には、何もなかった。ただ、黒い染みが壁に広がっているだけだった。

 

そのニュースを見ていたある男が、思わず呟く。

 

「また、増えたのか……」

 

男の部屋の隅にも、一本の金槌が置かれていた。

 

彼はそれをじっと見つめながら、静かに微笑んだ。

 

── **コン……コン……コン……**

 

### **次は、誰の番か?**

 

金槌の呪いは、止まらない。

 

すでに、それは"あなたの街"にも届いているかもしれない。

 

そしてもし、夜中にどこからか微かな音が聞こえたなら──

 

**決して、振り向いてはいけない。**

 

── **コン……コン……コン……**

 

###

 

── **コン……コン……コン……**

 

その音は、どこからともなく響いてくる。

 

都会の喧騒の中でも、誰かの耳にだけ届く、不気味なリズム。

 

最初に聞く者は、ただの生活音だと思う。

 

しかし、二度目に聞く者は、何かが"近づいている"ことに気づく。

 

そして、三度目に聞いた者は──

 

**もう、逃げられない。**

 

### **ある男の記録**

 

都内のマンションの一室で、一人の男がパソコンに向かっていた。

 

彼の名は**倉田雄二**。

 

オカルト事件の調査を趣味とするブロガーであり、最近ネットで囁かれる"金槌の呪い"に興味を持っていた。

 

数日前、彼の元にある情報提供があった。

 

**「夢の中で金槌を見た。振り下ろされた瞬間に目が覚めた。だが、部屋の中に"誰か"がいた気がする」**

 

**「壁に黒い手形が浮かび上がっていた。気のせいかと思ったが、翌日には天井にも増えていた」**

 

**「そして、ある夜……あの音が聞こえた。"コン……コン……コン……"」**

 

その情報を送った人物は、それを最後に行方不明になった。

 

倉田は、事件の真相を暴くため、自ら検証することにした。

 

しかし──

 

その夜、彼は"夢"を見た。

 

### **夢の中の金槌**

 

暗闇の中、倉田は立っていた。

 

前には、一つの影がある。

 

**それは、金槌を持った男の姿だった。**

 

「……誰だ?」

 

問いかけるが、男は答えない。ただ、ゆっくりと金槌を持ち上げる。

 

── **コン……コン……**

 

「……待て……」

 

倉田は後ずさる。

 

男の顔は見えない。ただ、歪んだ笑みだけが闇に浮かんでいる。

 

── **コン……コン……コン……**

 

金槌が、倉田の頭上に振り下ろされた。

 

その瞬間、彼は飛び起きた。

 

「はぁっ……はぁっ……!」

 

胸が苦しい。汗が噴き出している。

 

「夢……だったのか……?」

 

安堵しかけたそのとき。

 

── **コン……コン……**

 

「……!?」

 

耳を疑った。

 

部屋の外から、微かに音がする。

 

まさか、そんなはずは──

 

その瞬間、ふと壁に目を向けた。

 

そこには、真っ黒な"手形"が浮かび上がっていた。

 

「う……嘘だろ……?」

 

背筋が凍る。

 

倉田は恐る恐る、ドアの peephole(のぞき穴)を覗いた。

 

廊下には、誰もいない。

 

しかし──

 

**ドアのすぐ向こうに、"影"が立っていた。**

 

### **来訪者**

 

倉田は息を殺した。

 

影は微動だにせず、ただ、そこに"存在"している。

 

そして、ゆっくりと手を伸ばし、ドアを**ノックした。**

 

── **コン……コン……コン……**

 

「……」

 

倉田は震えた。

 

これは……"普通のノック"ではない。

 

**あの音だ。**

 

夢の中で聞いた音と、全く同じリズム。

 

── コン……コン……コン……

 

影は、ただ待っている。

 

まるで、倉田が扉を開けるのを"知っている"かのように。

 

**開けるな。**

 

本能が警告を発する。

 

しかし、気づけば手が勝手にドアノブに伸びていた。

 

「ダメだ……開けちゃ……」

 

だが、身体が言うことを聞かない。

 

カチリ。

 

**ドアの鍵が、"勝手に"回った。**

 

「やめろ!!!」

 

倉田は必死で抵抗した。

 

しかし、ゆっくりと、確実に、ドアは開いていく──。

 

そこには、何がいたのか。

 

倉田の姿を見た者は、もういない。

 

### **消えた都市**

 

それから数週間後。

 

倉田が住んでいたマンションの住人は、全員行方不明になった。

 

部屋には何も残されていなかった。

 

ただ、壁一面に"黒い手形"が広がり、

 

**中央には、一本の金槌が転がっていた。**

 

そして、その都市では、夜になると奇妙な音が聞こえるようになったという。

 

── **コン……コン……コン……**

 

金槌の呪いは、止まらない。

 

次にその音を聞くのは、"あなた"かもしれない。

 

**決して、ドアを開けてはいけない。**

 

**決して、振り向いてはいけない。**

 

── **コン……コン……コン……**

 

###

 

── **コン……コン……コン……**

 

音は止まらない。

 

それどころか、さらに広がっていた。

 

都市で、村で、学校で、工事現場で。

 

誰もが、どこかで**"あの音"**を聞いている。

 

だが、人々は気づいていない。

 

**気づいた瞬間、もう手遅れだからだ。**

 

### **異変を追う者**

 

オカルト専門のジャーナリスト、**水谷涼**は、この奇怪な事件を追っていた。

 

消えた人々、壁に浮かび上がる手形、そして、どこからともなく響く"金槌の音"。

 

彼は数多くの目撃証言を集めた。

 

**「夜中、家の外で誰かが壁を叩いていた。でも、覗いても誰もいなかった」**

 

**「アパートの天井裏からコンコンと音がした。翌日、上の階の住人が消えていた」**

 

**「悪夢を見た。金槌を持った男が私を見下ろしていた。次の日、親友が行方不明になった」**

 

すべては点と点だったが、つなぎ合わせると、ひとつの結論に至る。

 

── **"金槌の呪い"は拡散している。**

 

水谷は、自らも危険だと知りながら、この謎を暴こうと決意した。

 

しかし、その夜。

 

**彼は"音"を聞いてしまった。**

 

### **侵食**

 

── **コン……コン……コン……**

 

深夜2時。

 

水谷の住むワンルームマンションに、微かな音が響く。

 

彼はハッとして目を覚ました。

 

**これは、単なる生活音ではない。**

 

これまで何度も証言で聞いた、"呪いの音"だった。

 

耳を澄ます。

 

音の出どころは……玄関の方。

 

誰かが、**ドアの向こうで金槌を打ち鳴らしている。**

 

水谷は、恐る恐るドアスコープを覗いた。

 

廊下には誰もいない。

 

だが、**足音がする。**

 

── **コン……コン……**

 

ゆっくりと、こちらに近づいてくる。

 

水谷は息を殺した。

 

── **コン……コン……コン……**

 

音が、すぐそこまで来た。

 

そして、ドアの前で……止まった。

 

「…………」

 

静寂。

 

しかし、水谷は確信していた。

 

**"何か"が、向こう側にいる。**

 

ドアを開けるな。

 

開けたら終わりだ。

 

そう思った瞬間──

 

ドアが、"勝手に"開いた。

 

「うわぁぁ!!」

 

水谷はとっさに後ずさった。

 

しかし、そこには……

 

何もいなかった。

 

ただ、玄関の床に、一本の金槌が置かれていた。

 

水谷は戦慄した。

 

── **次は、自分の番だ。**

 

### **広がる呪い**

 

水谷はすぐにこの出来事を記事にし、ネットに公開した。

 

**「金槌の呪いは実在する。もし音を聞いたら、絶対にドアを開けるな」**

 

記事は瞬く間に拡散された。

 

しかし、その日を境に、水谷の消息は途絶えた。

 

彼の部屋を訪れた友人が見たものは、何もない部屋。

 

ただ、壁一面に**黒い手形**がこびりついているだけだった。

 

そして、机の上には、"新しい記事"のタイトルが書かれた紙が残されていた。

 

**「次に音を聞くのは、あなたかもしれない」**

 

その紙には、黒い染みがついていた。

 

まるで、誰かの手が触れたように。

 

### **そして……**

 

この記事を読んだあなた。

 

今、あなたの背後で**微かな音がしなかったか?**

 

もし聞こえたなら、決して振り向いてはいけない。

 

── **コン……コン……コン……**

 

**"金槌の呪い"は、あなたのすぐそばにいる。**


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