ちょっと思い立ってミトスに会いに(+お世話になったオフィーリアさんにも会えるかなと考えて)フレイムグレースに行ってみれば…何故か聖火守指長たちとごはんを食べることに。
メニューは魚のクリーム煮。
どうやらこれが好物の人がいるようですが…?
軽くてふんわりした雪が舞う日ほど寒いもの。そんな日はシチューに限ります。
でも今日は良い魚が届いたので、おさかなのクリーム煮になりました。
ちいさいミトスが好きなのは鶏のスープと果物ですが、煮込み料理全般問題なく好きなのでにっこにこです。珍しいメニューなのでよりいっそうにっこにこです。
嬉しいしおいしいしで、ちいさな足はぱたぱたが止まりません。
「ちょ、こらミトス! 暴れるなって!」
「おいし!」
お目々をきらきらさせて、振り返ってばんざいしてみせるミトス。これは彼女の最上級の“おいしい”表現です。
これを向けられたのがロンドだったら、満面の笑みでミトスを撫でるのでしょうけれど……
「わかったから、落ち着けって! 皿ひっくり返したくないだろ?」
「…!」
ばんざいのまま固まったミトスを、テリーは正面を向くように抱き直しました。
「じゃあ次はこの――いやどれもデカいな…?」
一匙掬ったにんじんをミトスの口元に運ぼうとして、彼女の口には大きすぎると気付いたテリー。クリームの中に沈む野菜をころころと転がしてみますが、どれもミトスが食べるにはちょっと大きいようです。
仕方ないなぁと、クリームを跳ねさせないようにしながら、慎重に小さくしていきます。それを見ているミトスは早く早くと体をゆらゆらさせていますが、隣に座るロンドの微笑ましそうな目には気付いていないみたいです。
「てりー、おしゃかなー」
「ん、魚がいいのか? にんじんもうまそうだぞー? きれいなオレンジだし、よく煮込まれてて柔らかいしさ」
「にんじんたべゆ!」
「いい子だなーミトス。はいあーん」
「あー」
「はい、ぱくー」
「はうー。……ん!」
「ああああ、だから足ぱたぱたストップ…!」
おいしい! を全力で表現するミトスは無邪気でかわいらしいのですが、それは傍から見ていたらの話。彼女を膝に乗せているテリーは、ミトスが落ちないよう抱きかかえるのに必死です。
そうして奮闘するテリーを見ていたロンドは、思わず小さな笑いを零しました。
「ふふ、代わりましょうか、テリーさん」
「あ、えっと…大丈夫です! ミトス、ちゃんと言うこと聞いてくれるし、好き嫌いしないし。……一口ごとに足ぱたぱたするの止めてくれたら、もっといいんだけど。これくらいなら全然」
嘘でも誇張でもなく、本心から言っているのがわかる声音でした。
それにサザントスは感心したように息を漏らしました。ちょうど静かになったところだったので、その吐息はミトスにも聞こえて。彼女は不思議そうな顔で向かいに座るサザントスを見つめました。
「慣れているのだな」
「うーん、慣れてる……のかなぁ。俺、八つ子なんですけど、長女にメニーってのがいて。あいつの方が世話焼くの慣れてると思います。あ、ミトス、一回口のまわり拭こっか」
「んむゅ」
八つ子…!? と声もなく驚く聖火師弟をよそに、テリーはミトスの口元を丁寧に拭いていきます。
「よし。次どれ食べたい?」
「おいも!」
「芋ね。じゃあこれも半分の半分…もうちょい小さくてもいいかな…?」
「おいもー」
「はいはい、あーん」
「あーん……んふふ」
「お。芋だと足ぱたぱたしないんだな」
「んむ!」
「いや、してほしいわけじゃなくて…!」
驚きから立ち返った師弟は、じゃれ合うミトスとテリーを見て、片や穏やかな笑みを浮かべ、片や一見普段と変わらない様子で、それぞれのクリーム煮を食べ進めました。
それを今度はミトスがにこにこと見ています。もちろんお野菜とおさかなを食べさせてもらいながら、ですが。
「…………。」
「…ミトス、どうかしたのか」
ずっとにこにこと見つめてくるミトスに声をかけたサザントス。
クリーム煮を気に入ったのなら、こちらなど見ずにクリーム煮に夢中になっているだろう。久しぶりに会う――例え覚えていなくとも、奥に残る感覚が――久しぶりに会う仲間と過ごせて嬉しいのなら、やはりこちらを見るのではなく振り返って話をしたりする筈だ。実際、この神官が今日訪ねてきた時、ミトスは興奮して神官の足元をうろちょろとしていた。
いったい、どうしたというか……。そう思ってのことでした。さて、ミトスの答えは…?
「しゃじゃうえししょう! おしゃかな、しゅき?」
「!」
「ああ、言われてみれば。いつもより雰囲気が柔らかいような気がしますね」
「え、そうなんですか? 俺、全ッ然わかんないっす…」
わかってたまるか、と心の中で返しつつ、サザントスはなるべく普段通りに口を開きました。
「気の所為だ。普段と変わらぬ」
「うえししょうだゃったよ…?」
頭に「?」を何個も浮かべながら、体ごと首を傾げるミトス。ちょっと傾けすぎたのを、すかさずテリーがガードしました。八つ子のお兄ちゃんが輝いてます。
一方、純粋な瞳と言葉に追い詰められたサザントスは、フッと視線を逸らし、パンを一口サイズに千切りながらミトスに答えました。ちょっと声のボリュームが落ちているのは、たぶん無意識でしょう。
「まあ、この料理は…嫌いではないのでな」
その一言に、サザントスの向かいに座る三人の内二人がガタッ!と腰を浮かせました。ミトスはやっぱりテリーにガードされてしまいましたが。
「サザントスさんこれが好物だったんですか!!?」
「しゃじゃしゅきなの!! みぃもしゅき! いっしょ!!」
「うわっ! ミトス落ち着けってば!」
「だから好物というわけでは……」
わあわあと顔を輝かせるロンドとミトスを前に、サザントスは深い溜め息をついて否定を諦めました。別にこの二人と神官一人に知られるくらい、どうということもないか、と。
「他の料理よりは好みというだけで、特別これが好きだというわけではない」
「そっかぁ……サザントスさんはシオダラのクリーム煮が好きなんですね。クリームに塩味が溶け出しておいしいですもんね」
「シオダラに限らぬがな。ニジザケやハネウオでもかまわぬ」
「あ、じゃあ魚のクリーム煮が好き……他より好み? って感じなんですかね?」
「そうだな」
「ハッ!! それならシチューの具を魚にすれば――!」
「シチューは別だ」
「うっ……」
名案! とばかりに拳を握ったロンドでしたが、皆まで言わせぬサザントスの返しに、あえなく沈んでしまいました。
ロンドの好物はシチューですから、魚のシチューならどっちの好物にもなると思ったのでしょうけれど……結果は残念なことに。
さて一方でミトスは
「いっしょ、いっしょ。んふふふ」
と、サザントスの好物を知って、ずっとゴキゲンにゆらゆら揺れています。でもその言葉に、今度はサザントスの方が不思議そうに尋ねました。
「そなたの好物は鶏のスープではなかったか?」
「しゅーぷしゅき! おしゃかなしゅき! くりーむしゅき! いっしょ!」
「ええと、つまり、鶏のスープも魚のクリーム煮も好き、ってことですか?」
「うん!」
「はー、本当に好き嫌いしないんだなミトス。偉いなー」
「えへへー」
褒められてよりいっそう嬉しいミトス。もし彼女に動物の耳やしっぽがあったら、ぴこぴこぱたぱた揺れていたことでしょう。
その様子は、萎れていたロンドが復活するくらい微笑ましいものでした。
「じゃあミトスさん、残さず食べられたらもっと偉いですよ?」
「たべりゅ! ぜんぶたべゅもん!」
「…無理はせぬようにな」
「う!」
こうして四人は、少し賑やかで温かいひとときを過ごしたのでした。