代星-我らが母国はいかにして勝利したか、あるいは我らの祖国はいかにして滅びたか- 作:ライト鯖
統一暦243年(西暦2693年)11月30日
"ディスティニア第一家族英雄居住区"
彼女に残された末の息子、優も、大人しく待ち続けている。
彼もずっと楽しみにしていたのだ。
殆ど生き別れとなってしまっていた兄に会えることを。
午後三時。
門扉が開かれ、外の荒涼とした荒野をバックに、パリッとした、おろしたてだろう軍装に身を包み西日によって薄く影を作り出しながら、彼は、"青木祐輔"は、優芽達の方へと向かい来る。
優芽は既に感極まっていた。
しかし、まだその時ではないと溢れ出るものを抑えながら、一歩、息子の方へと足を踏み出す。
「…何年ぶりだろうね」
幾年ぶりかの息子の声に、最早抑えきることは出来ず、決壊する。
「祐輔!」
「良かった…本当に…!また会えて…」
優芽が足早に"青木祐輔"へと近寄ったことで、逆光に隠れていた彼の顔は、優芽と優にしっかりと認識可能となっていた。
「俺も嬉しいよ。"お母さん"。優も、元気だったかい?」
次に彼の口から発せられた言葉。
自然な会話である筈の、疑う余地のない普通の言葉選び。
しかし、優芽は、いや優芽と優は、微かな違和感を感じ取っていた。
『…母さん。優。行ってきます』
息子と最後に交わした言葉。
そして、目の前の彼の発する言葉。
違和感。
「……変わったね祐輔」
違和を振り払うようにして優芽は言う。
きっと、長く会っていなかったからだ、と自らに言い聞かせる。
しかし、それでも、"祐輔"を、自らの息子である筈の彼を抱きしめようとしていた腕は、それ以上動かせず、宙へ中途半端に浮かぶような格好となった。
違う。
違う。この子は、いえ、彼は…こいつは、祐輔じゃない。
脳内に、警鐘が、どうしようもない不快感と強烈な嫌な予感を鳴り響かせる。
どうにか、どうにか誤魔化さなくちゃ。
優芽は、政治的な論理だとか、センスではなく、人間としての本能、或いは独裁国家に生きる被差別階級としての反射で、目の前の"これ"に悟られてはいけないと察したのだ。
目玉だけを僅かに揺らし、誤魔化す手段を模索する。
そして、気付く。
優が自分の後ろに回り、ズボンの裾を掴んでいることに。
同時に、彼女は賭けに出る。
優も、同じ本能を、反射を共有している、と。
「…優。お兄ちゃんよ」
不自然かどうかは分からない。
しかし、笑わねばならない。
優芽はぎこちない苦笑を浮かべ、優の視線を祐輔の方へと向けようとする。
彼女はそれで悟った。
優はある程度自らと同じ感覚を共有していた、と。
しかし、子供故に、共有出来ない部分もあったようだ。
警戒感を顕としてしまっている。
「怖がってるのか?」
"祐輔"は姿勢を低くさせ、そう笑いかけた。
とても、自然な、ともすればそれが、本物であると思いたくなる程に。
「最後に会ったのが小さな頃だから、よく覚えてないのかもしれないわね」
そうだ。もう何年も経っている。
だから、私の気のせいかも。
自然過ぎた"祐輔"の微笑みに、つい、彼女は希望を抱いてしまう。
優も幼かったが、自分も年を取った。
5年近く前なのだから、祐輔が変わるのも当然だ。
さっきの笑顔が、偽物だなんてこと、あるはずない、と。
理性は、そうでないことを叫び続けている。
しかし、感情は、希望に縋ろうとしていた。
「そっか…。でももう小学六年生になってるだろ?ほら、おいで」
"祐輔"の笑み、優芽の感情。
彼女の、末の息子を家族を守らんとする強固な理性は、それならば、と感情を抑えつけるための理を作り出そうと、ある嘘を発した。
試す為に。
「……ほら、この子人見知りだからねえ」
一瞬、ほんの一瞬。
優芽を上目で見た一瞬、その中にある更なる刹那。
普通なら誰も気付かないだろうその瞬間。
"祐輔"の瞳に虚無のあることを優芽は見て取った。
そして、その次が全てを決定してしまう。
「"そうだったね" 。まあ顔もあんま覚えてないのかな?」
優が人懐こい事は、貴方がよく知っていた筈だろう。と、優芽は叫び出したかった。
ほいほいと知らない人に向かっていく警戒感の無さを心配し、優から片時と目を離そうとしなかった貴方が!
心中に渦巻く叫びを呑み込み、立ち上がった"祐輔"へ目を向ける。
私がやれることは、ただ一つ。
"これ"を"祐輔"として扱い、今日をやり過ごすこと。
優を守る為に。
起源国の、正確には"平等派"の道具、それを使う為の材料として扱われ続けてきた彼女は、政治的なセンス、ましてや真実等必要とせず、守るべきもののために成すべき事を理解していた。
それでも彼女には、分かっていることがあった。
"これ"がここに来たということは、息子である祐輔は、恐らく──。
耐えきれず、くるりと後ろを向く。
あくまで不自然にならないように、方向転換をしただけかのように。
「ここで長話もなんだし、行きましょうか。今の我が家へ」
涙を瞬時に拭い去った左目だけを"祐輔"へと向け、笑いかける。
「ああ、そうだね。行こうか」
この段になって、優も気が付いていた。
"祐輔"が何者か、ということではない。
母が、優芽が、堪えるようにして、目の前の"ナニカ"と向き合っているということに。
それ故に彼は、優芽の裾を離し、いつものように、足を動かす事を心がけた。
この瞬間、他人が三人を見れば、本物の家族に見えただろう。
しかしそれは、三人其々が、理由は異にしながらも、そうあらんとしていたからである。
そして、十分程歩いた後、青木と表札された門扉を潜り、ここに来るまでに通り過ぎた家々を平均した場合、明らかに上位へと入るだろう、"名誉起源民"のそれとは思えないような広々とした住宅へと三人は入るのだった。
「さあ、今日は貴方の好きなもの作ったわよ」
「…楽しみだ」
貼り付けた笑顔の"祐輔"に、優芽も鉄面皮に塗りたくった笑顔で返す。
優は、幼さ故にそれは出来なかった。
しかし、それでも母の邪魔はしないように、と"人見知り"の優を演じ続けている。
本心を、目の前の異物に感じる恐怖を隠しきることは出来ない。
だからこそ、無理のないカモフラージュであったと言えるだろう。
「ハンバーグ、好きだったよね」
「俺もう二十歳越えてるぜ?」
「…そうね。でも、良いじゃない」
一見すると単なる団欒。
そこに染み渡る緊張と欺瞞は、この一軒家を満たし、束の間の、そして、偽りの閑話を生み出した。
「…軍はどう?辛く…ないわけないよね」
「ごめん。話せないことも多くてさ」
「そうよね…。優?大丈夫?」
未だに口を開かない末っ子への気遣い。
そう見えように彼女は振る舞っている。
優は、祐輔によく懐いていた。
まだ、偽物の存在=で兄の運命を察することは出来ないだろう。
しかし、目の前で兄のフリをし続けるナニカにいつまでも耐えきれないだろう、と憂慮していたのだ。
「大丈夫…」
「美味しくない?」
「…ううん。"いつも通り"」
一瞬、笑おうとしたのか、唇がピクリと震えたが、しかし、微笑みよりも先に、目尻から溢れてはならないモノが溢れそうになり、優は目を落とす。
そしてまた、黙々と食事へ手を伸ばすのだった。
「…すっかり怖がっちゃってるなあ…」
「はじめましてみたいなものだからよ」
「仕方ないか。ま、数日いる予定だから、ゆっくり慣れてもらうよ。…優、暫くごめんな?」
ああ、本当に腹が立つ。
その作られた微笑みは、偽物だと分かっているのに、あの子の面影を感じさせる。
まるで、祐輔が笑っているみたいに。
姿をそっくりそのまま真似させて。
趣味の悪い。
憤りが口からまろび出ないよう細心の注意を払わねばならない場面ばかりであり、食事の終わった頃には、優芽の精神も疲弊してしまっていた。
だが、彼女らは乗り切った。
まだあと数回はこの地獄を切り抜けなければならない。
しかし、どうにか今日は乗り切った。
優芽は"祐輔"が寝室へと入るのを見た瞬間、膝から崩れ落ちそうになるのを堪え、どうにか自分の寝室へと戻る。
この時点での、"青木祐輔"は"家族"の違和感に気付いてはいなかった。
これは"青木祐輔"を選んだ上層部のミスとも言えるだろう。
家族の何たるかを知らない者に、見抜ける筈も無かったのだ。
そして、数時間後。
すっかり夜も更け、周囲の家々からも明かりの消えた頃。
青木優は自室で、ぼんやりと1枚の紙を広げ、眺めていた。
それは、今の彼に取っては稚拙に思える、かつての自分が描いた絵だった。
祐輔が出ていってすぐの頃、これを描いて『兄ちゃんが戻ってきたら見せるの!』と母に見せたことを覚えている。
その時に母の浮かべた物悲しげな、憂いのある微笑みも、鮮明に記憶していた。
「………」
もう二度と、この紙を開くことは無いだろうと、彼は薄々察していた。
ずっと、ずっと我慢していたモノが溢れ、目尻を伝う。
抑えきれない嗚咽と共に、彼はポツリと漏らす。
「兄ちゃん…帰ってきてよ…あいつは、誰なんだよ…!」
本来、誰にも聞かれるはずの無かった嗚咽は、しかし、ここが起源国であり、彼等が"名誉起源民"であり、青木祐輔の家族であるが故に、情報として、拾われてしまう。
これは、優のミスだろうか。
いや、もう十を越える歳とは言え、まだ小学生。
彼に責任があるなどとは言えないだろう。
では、優芽だろうか。
しかし、予想も注意も出来ないだろう。
家の何処か、どころではなく、どんな些細な発言も漏らさぬように至る所へ仕込まれたマイク、カメラ。
その存在全てを把握し、一人、愛する者を失った悲しみを顕にする事すら管理し、止めることなど出来はしなかっただろう。
あらゆる発言に危険が伴う世界であっても、人は感情を抑えることなど不可能だ。
少なくとも、彼女等は、他者に本心を顕にすることは無かった。
本来、それで充分であったはずだ。
故に、責任があるとするならば、それは──。
"青木祐輔"は優芽がずっと綺麗に保ち続け、もう絶対に来ることのない"いつか"に備えて用意していた祐輔の部屋へと入り、眠ることはないものの、家族が入ってきたりした場合、不自然とならないようベッドに入り、毛布を被る。
少なくとも、今日は眠るつもりはなかった。
彼としては、"青木祐輔"として親しい者達に懸念を抱かれないかを知ることが今回の目的であったからだ。
まだ、何かあるかもしれない、と暗闇に包まれた、全く何の感慨を抱くこともない、他人の用意した、他人の息子を想ってあつらわれた部屋をぼんやり眺めている。
『青木祐輔大尉。聞こえているか?返答可能ならば耳から首元にかけての何処かを2回叩け』
何時間経っただろうか、時計は丑三つ時となっており、
素早く耳を2回叩き、彼はスルリと起き上がる。
「此方青木大尉。通信、問題ありません」
『そうか。残念ながら大尉、任務はパターンβへ移行する』
「!…気付かれていた、と?」
『そのようだな。いやはや、君や我々を半日も騙し通せた事は素直に驚嘆に値するな』
「母親ですか?それとも子供?」
『子供は間違いないな。映像を送る』
『兄ちゃん…帰ってきてよ…あいつは、誰なんだよ…!』
「なるほど。いつバレたのでしょうね。…ともすると最初から、か」
『さあな』
「子供は間違いない、ということは、母親の方も?」
『確証はないが、怪しいな。何せ、ベッドに腰掛けて何もない虚空をかれこれ3時間は見つめている』
「全く、自信がなくなってきますね。」
苦笑する"祐輔"。
しかし、恐らくニコリともしていないだろう通信相手は続ける。
『しかし、これではっきりした』
「ええ。本当、全くいつから気付かれていたのやら…」
『それの重要度は低い。どうでも良いことだ。今後のリスクを知ることが出来た。それで充分』
「そうですね」
よし、と通信相手は言う。
『では、"青木家"は排除せよ。他の"青木祐輔"と関係の深かった人間については此方で随時処理しておく』
「はっ。…それでは」
『ああ、頼んだ』
通信の切れた事を確認し、"青木祐輔"は部屋をスルリと出る。
「しかし、そうだな」
呟きつつ、彼は策を練る。
各個撃破で良いかもしれないが、万一下手に抵抗され、違和に気付いた何方かに逃げられては面倒だ。対象が増えてしまう。
であるなら──。
"青木祐輔"はコンコンと扉をノックする。
「…はい」
警戒を滲ませた幼い声が返ってきたのを確認し、彼は口を開いた。
「優。夜遅くにごめんな。少しだけ言っておきたいことがあって。開けてくれるか?」
言いつつ彼は、扉に鍵のついていないことを確認し、ドアノブに手を伸ばす。
「明日じゃ、ダメ?」
「ああ、出来れば、今」
「……何?」
「開けてはくれないのか?」
「このままでも良いでしょ?」
フッと鼻を鳴らし、祐輔はドアノブを回した。
「ちょっ」
静かに、しかし素早く飛び込み、後退ろうとしていた優の口を掌で塞ぐ。
「…っ!!」
数分後、青木優芽の目の前には、首元にナイフを当てられた優と、何の感慨も抱いていないような、虚ろを瞳に浮かべながらそのナイフを手に持つ"青木祐輔"の姿があった。
「優…」
「声は出さないでくれるかい?お母さん?」
「……貴方に、母と呼ばれる筋合いはないわ」
「全く。厄介だね親子ってのは?まさか気付かれるとは」
でも、と研ぎ澄まされ、暗闇でも光沢に輝いているかのごとく見える銀の刃を優の首へ僅かに押し付け、"青木祐輔"は嗤う。
「念の為の試験としては良い学びになったよ」
「……っ」
「さあ、青木優芽。大人しく殺されてくれるかい?」
はっはっという荒い呼吸。
しかし、青木優芽は、直ぐに呼吸を落ち着かせた。
恐怖に慄き、最早声すら出せなくなっている息子の姿を見、そして、もう一人の、優や自らを守る為に犠牲となることを選んだ子の後ろ姿を思い浮かべる事で、自らの恐怖に、生への渇望に、打ち勝たんとしている。
「優は、解放してくれるのよね?」
「勿論だとも!彼には孤児院へ行ってもらい、記憶処理と"矯正"を受けてもらうだけさ」
「…っ」
最早、それを拒絶する選択肢は優芽にはなかった。
せめて、命だけでも、と藁にすがるしかなかったのだ。
無論、"青木祐輔"の口にしたことは全て偽りである。
優芽を殺してから優を殺し、そしてこの家を荒らして強盗を装ってから後にするつもりであった。
そも、記憶処理等、彼等の技術でも不可能である。
正確には、特定の記憶だけを選択して処理する、という類いのことは出来ない。
記憶の全てを混濁させ、意識も意志もあやふやとなる、廃人同然となるリスクを負う処置なら可能ではあるが、そこまでのリソースを青木優に割く理由などない。
青木優芽も薄々と分かっているだろう。
しかし、万に一つ、優を生かせる選択肢は、最早一つしかないことも自明である。
故に、彼女は、ただ静かに、受け入れる。
「賢明だ」
"青木祐輔"はナイフを持つ手で優の首を絞めるようにして拘束し、反対の腕でホルスターからテーザー銃を取り出す。
既にセーフティは外れていた。
「優。ごめんね。…貴方なら、きっと、強く…」
「発言は許可していないが?」
ごめんなさい。祐輔。優。
心中で優芽は謝罪を幾度も重ねていた。
しかし、責任があるとするならば、彼女ではない。
責任があるとするならば、祐輔が軍に行かざるを得なくした"青木健吉"。そして、起源国という国家そのものに他ならない。
"青木祐輔"が引き金に指をかけ、力を籠めんとした瞬間、警報がけたたましく鳴り響いた。
どうやら、住宅に設置されている侵入者検知の警報のようで、廊下の一部は赤いランプが明滅し、数秒遅れてから真っ暗な家全ての明かりが点灯し、家中にいる一人の人間を除き、全ての者に唐突なる昼間を提供した。
"青木祐輔"も咄嗟のことで反応が遅れ、突如入ってきた大量の光に目が眩む。
「っ…!!なんだ?!」
「はああ!」
同時に、両腕へ衝撃が走る。
強く殴られたようで、反射でナイフとテーザー銃を取り落とす。
一瞬の後、今度は横腹に、腕の倍以上の衝撃が加わった。
「がっ…!?」
壁にしこたま身体を打ち付け、目の眩みと身体に走った衝撃で、意識こそ保っていたが"スタン"させられる格好となる。
「ボク。大丈夫?立てる?ごめんけど、ちょっと乱暴に行くよ」
優も視界はぼやけ、明るさに脳も混乱していたが、確かに分かったことがある。
それは、声の主が照明を背に立っていたからかもしれないし、気のせいかもしれない。
しかし、声の主の優しげな目は、優を安心させろうとしているのだろう、柔らかな、しかし、今にも崩れてしまいそうな笑顔は、確かに彼に見えていた。
そして、優は声の主に本当に若干乱暴に背負われる。
「お母さん!こっちです!手を!」
優芽は声の主が味方か何か等、考える暇もなかった。
しかし、そんな時間は必要ないと言わんばかりに、強く、だが、必ず助けるという意志を伝えるかのように丁寧に掴まれた腕の感覚に従って、優芽は、光の中へと駆け出すのだった。
『おい!青木祐輔!どうした?!』
「邪魔が…侵入者です…!」
『何?!こんな時に…!レジスタンスか?』
恐らく、通信相手は"青木祐輔"の答えを期待して発したわけではなかっただろう。
恐らく、近くにいる仲間に確認を取らせるための言葉。
だが、"青木祐輔"には確信があった。
「今の声…
『はっ…?李樱花だと?!』
「間違いありません。…そうか、くそっ。彼女にもバレていたのか?」
点と点が繋がり、漸く光に慣れてきた彼の目と同時に、脳の視界も開ける。
「舐めていた…カマをかけられていたのか?」
『まさか…いや…しかしもし本当に彼女なら…』
「追いますか?」
混乱する上司に"青木祐輔"はともかく提案する。
『!…いや、良い。直ぐに保安隊が駆け付けるだろう。
全てが我々のコントロール下にあるわけではない。今はここを去るんだ。δ地点でランデヴーだ。車を向かわせる』
「Remember Origin」
"青木祐輔"は取り落としたナイフとテーザー銃を広い、近場の窓を開け、脱出する。
裏道を抜け、居住区を脱出するのだった。
「はっはっ…」
体力の限界が来た優芽の様子に気付いた樱花は歩を緩め、速度を落とす。
「はっは…」
優芽は目で謝意を表しつつ、呼吸を静める。
そうしてから、彼女は漸く聞きたかったことを尋ねる事が出来た。
「貴方は…?」
「私は李樱花と申します。祐輔さんの……」
樱花は暫し迷った様子を見せてから少し寂しげに、言うのだった。
「友達です」
──と。