転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す   作:暁刀魚

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百二十 そして決戦へ

 鈍い音が響く。

 剣にまとわせた魔力が、ひたすら瘴気の塊を叩くのだ。

 対する瘴気の塊も、自身の瘴気を私に向けてぶつけてくる。

 殴り合いだ。

 これは、ただただ純粋な殴り合いだ!!

 

「あは! あはははは! あっっはははははは!!」

『クソ、やめろやめろやめろ! そのバカみたいな笑いをやめろぉおおお!』

 

 しかし、対する憑威はお気に召さないご様子。

 こんなにも楽しいのに、どうして嫌がってしまうのだろう。

 うへへへへ、楽しいなぁ楽しいなぁ! もっとボコボコしあいたいなぁ!

 

「いいですよね、純粋な殴り合いというのは。ただただ力を誇示するためだけに、己が拳を振るうのです。強さを求める者が、頂きを目指すためにぶつかり合うのです!」

『そもそも貴様は剣を振るっているし、ほぼ試合は一方的だろうがぁあああ!』

「剣に魅入られた身です故!」

 

 確かに、少しばかり一方的な試合運びかもしれない。

 憑威は瘴気をぶつけようとするが、私の剣がそれよりも早く叩きつけられるせいで、半ば防戦一方だ。

 ただただガードを続ける様子は、どこか情けなく観客に見えてしまうかもしれない。

 

「ですが安心してください! 私は貴方のことを好ましく思っていますよ!」

『話の脈絡が何も繋がっていないではないかぁ!!』

 

 かもしれません!

 思考から言葉が垂れ流されているだけだから、ほとんど自分が何を言っているのかもわかっていないのだ。

 ちょっとえっちなことを考えたら、そっちに言葉がそれてしまうかもしれない。

 

「それにしてもいい瘴気してますねぇ、ゴツゴツしていて、ゴツゴツしていて、ゴツゴツしています!」

『言い方が厭らしい上に語彙がないぞ!』

「おっといけないいけない」

 

 しまった、どうやら実際にそうなってしまったようだ。

 でも関係ない、とにかくここは攻撃あるのみ!

 

「確かに魔力は瘴気を弾くことしかできません。ですがどうしてでしょう、おかしいですねぇ。貴方は少しずつ弱っていっているようですよぉ?」

『ぐ、この……!』

「幻象と同じですねぇ、精神が弱っているのです! このまま行けば、遠からず貴方は私に根負けする!」

 

 瘴気を魔力で叩くというのは、気が遠くなりそうな行動だ。

 なんともかんとも、とにかく攻撃の効率が悪い。

 こりゃあもしも”次”があったら、何かしら対策を考えなくてはいけないだろう。

 しかし、今はとにかく叩くべし、叩くべし、叩くべし!

 

『ぐ、この……なめ、るなよぉ! 我は六大宿痾だ! この世界の頂点に立つ存在なのだぁ!!』

「もうその言葉の時点で貴方は”弱い”ですよ。確かに能力は強かったですが、それだけです。あまりに――あまりにも精神が貧弱です!」

『ふざ、けるなぁ!!』

 

 だからこうして、私の暴力に屈服しかけている。

 その様子をみていると、なんというか……察してしまうのだ。

 この六大宿痾が、一体どのようにしてこうなったのか。

 

「――梵賦に煽てられてきたのでしょう?」

『ぬ、う!』

「持ち上げられて、褒め称えられて、おべっかだけを受けてここまで来た。来てしまったのです!」

『なに、を……!』

 

 能力は、これまで出会ってきた六大宿痾の中で最も厄介だ。

 倒しにくいし、汎用性も高い。

 でも、本当にそれだけ。

 あまりにも精神が発達していない。

 どれだけ梵賦が、この憑威という宿痾の主を駒としてしか見ていなかったか、わかるというもの。

 

「――惜しいですね」

『……っ!』

「強いのであれば、最強を目指すべきです。最強の自負があるなら、それを守るために戦うべきです。でも、あなたにはそれがない」

『……ふざ、けるな』

「もったいないですね、――本当に」

 

 そして私は、これが最後であると確信して疾討を振り上げる。

 全力の一撃だ。

 それは、確かに憑威を穿つだろう。

 

『ふざ、けるなぁああああ!』

 

 ――その瞬間、私は身動きが取れなくなった。

 

『我は六大宿痾の一角! 憑威だぞ! やろうと思えば、これくらい――――』

「ああ、惜しい」

 

 けど、それは一時的なものだ。

 だって、読めているから。

 こいつはただ、私の服を支配しただけだ。

 つまり――

 

「――こんなもの、こうしてしまえば何の意味もない」

『な――』

 

 憑威は私を止めた後、逃げようとしていた。

 そんな憑威が、背中を向けながら振り返り唖然としているのがわかる。

 けど、もう憑威にできることはない。

 私は――

 

 

 服を脱ぎ捨てて、デカパイを揺らしながら憑威に最後の一撃を叩き込んだ。

 

 

 迫りくる脈動するデカパイが、憑威の視界に移った最後の光景である――

 

 

 +

 

 

「ま、こんなものですね」

「お見事だねぇ」

「さ、最後のはどうかとおもいますけど……」

「部屋の中だと基本下着しか着てないマギナに言われたくないねぇ」

 

 疾討を鞘に収め、消滅した憑威のいた場所へ視線を向けながら、吐息をこぼす。

 まぁなんというか、アレでしたね、ハイ。

 とはいえ、だ。

 

「問題は――()()()()()()()()()()()ということですか」

 

 その言葉に、アルケ様とマギナ様が口を閉じる。

 多分二人も、なんとなく感じ取っていたのだろう。

 ――理由は簡単、弱すぎるからだ。

 

「瘴気の量が少なすぎます。おそらく能力等は据え置きなのでしょうが、それ以外は完全に劣化している模造品ですね」

 

 本来の六大宿痾は、倒したらとんでもない量の瘴気をぶちまける。

 しかし今回はそんなこと一切無く、普通に消滅してそれで終わりだ。

 だから、きっとこれは――

 

 

『おやおや、そこまでお見通しでしたかぁ』

 

 

 不意に、声が聞こえた。

 聞き覚えのある声――

 

「――梵賦!」

『お久しぶりでございます。カグラ様、アルケ様。――そちらのマギナ様とは初顔合わせですわねぇ』

 

 声だけが響く。

 おそらく、()()()()()()()()()が消滅したら、自動的に通信ができるように設定されていたのだ。

 

『わたくしの仕掛けた遊びは、楽しんでいただけましたかぁ?』

「そうですね……まぁ、暇つぶしにはなりましたよ」

『うふふ、お褒めにあずかり光栄です。こちらとしても、丹精込めて準備したかいがあったというものですわ』

 

 楽しげな様子で、梵賦は笑う。

 私は挑発するように、言葉を投げかけた。

 

「ですが残念でしたね、見事に貴方の送り込んだ偽の憑威は敗れました。何の成果も得られていないでしょう」

『あらあら、まさか解っていないのですか? いえ、解った上で強がっていらっしゃるのですね? でしたら、こちらからお伝えして差し上げますわ』

 

 そして、梵賦は――

 

 

『これで、幻象への()()()()()は完了いたしました。わたくしたちとの戦いで、貴方は幻象を使えません』

 

 

 勝ち誇ったように、告げる。

 マーキング。

 道具を憑威の支配下に置くということだ。

 そして支配下に置かれた道具は、二度と憑威の前で使えなくなる。

 

「別に使えなくたって、何ら問題はないでしょう。幻象をあなた達との戦いに直接投入しなければいいだけです」

『魔物の大群も、これから攻めてくることですしねぇ』

「そちらに関しても予測済みです。こうして私が憑威探しで遊んでいる間に、マギナ様が手筈を整えてくださいました」

 

 宿痾教団が消滅した。

 憑威の存在が知られた。

 ――梵賦は、これら二つの要因から決戦を挑んでくるだろう。

 それは最初から読めていたのだ。

 準備は、滞り無く済んでいる。

 幻象が梵賦達との戦いに使えないなら、魔物との決戦に使えばいい。

 やりようは、いくらでもあるのだ。

 

『ですが、解っていらっしゃるでしょう? 何よりもあなた達にとって絶望的なのは――』

「もしかしてまだ解っていないのですか? 貴方は私達に絶望を与えるべくこうして通信しているようですが――」

 

 私たちは、まるで互いが互いの次の言葉を理解しているかのように、シンクロして言葉を重ねる。

 そして、宣言するのは。

 

 

『――私たち六大宿痾と戦えるのは、カグラ様、貴方しかいないということです』

「――この戦いには、私という切り札がいて、それがあなた達と戦えるということを」

 

 

 ()()()()

 勝つのだ、私は梵賦という名のこの宿痾の主に。

 確かに、道具を支配できる憑威という宿痾の主を前に、マギナ様もアルケ様も、ほかの強者も直接的な戦闘は不可能。

 戦えるのは、武器を失わず戦える私だけ。

 ――それがどうした?

 私がいるのだ。

 たとえ幻象は使えなくとも、戦えるのが私だけでも。

 なぜなら――

 

「――最強は私です。それを、貴方たちの敗北でもって証明します」

『であればお返ししましょう、最強はわたくしです。それを、わたくしの勝利でもって証明いたします』

 

 かくして、梵賦、憑威との戦いが始まる。

 状況は決してよろしくはない。

 少なくとも、これまでで一番の激戦になることは間違いないのだ。

 それでも――

 

「――――楽しみです、ええ、とても」

 

 楽しみで、楽しみで仕方がない。

 梵賦からの返事はなかった。

 通信はすでに途切れ、向こうは行動を起こしているだろう。

 ああ、まったく。

 

 はやく――はやく暴れたくて、仕方がないな。




というわけで魔境編は次章で終わる予定です。
よろしくおねがいします。
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