転生者、娯楽に餓えて強さを求め、天衣無縫の修羅と化す 作:暁刀魚
鈍い音が響く。
剣にまとわせた魔力が、ひたすら瘴気の塊を叩くのだ。
対する瘴気の塊も、自身の瘴気を私に向けてぶつけてくる。
殴り合いだ。
これは、ただただ純粋な殴り合いだ!!
「あは! あはははは! あっっはははははは!!」
『クソ、やめろやめろやめろ! そのバカみたいな笑いをやめろぉおおお!』
しかし、対する憑威はお気に召さないご様子。
こんなにも楽しいのに、どうして嫌がってしまうのだろう。
うへへへへ、楽しいなぁ楽しいなぁ! もっとボコボコしあいたいなぁ!
「いいですよね、純粋な殴り合いというのは。ただただ力を誇示するためだけに、己が拳を振るうのです。強さを求める者が、頂きを目指すためにぶつかり合うのです!」
『そもそも貴様は剣を振るっているし、ほぼ試合は一方的だろうがぁあああ!』
「剣に魅入られた身です故!」
確かに、少しばかり一方的な試合運びかもしれない。
憑威は瘴気をぶつけようとするが、私の剣がそれよりも早く叩きつけられるせいで、半ば防戦一方だ。
ただただガードを続ける様子は、どこか情けなく観客に見えてしまうかもしれない。
「ですが安心してください! 私は貴方のことを好ましく思っていますよ!」
『話の脈絡が何も繋がっていないではないかぁ!!』
かもしれません!
思考から言葉が垂れ流されているだけだから、ほとんど自分が何を言っているのかもわかっていないのだ。
ちょっとえっちなことを考えたら、そっちに言葉がそれてしまうかもしれない。
「それにしてもいい瘴気してますねぇ、ゴツゴツしていて、ゴツゴツしていて、ゴツゴツしています!」
『言い方が厭らしい上に語彙がないぞ!』
「おっといけないいけない」
しまった、どうやら実際にそうなってしまったようだ。
でも関係ない、とにかくここは攻撃あるのみ!
「確かに魔力は瘴気を弾くことしかできません。ですがどうしてでしょう、おかしいですねぇ。貴方は少しずつ弱っていっているようですよぉ?」
『ぐ、この……!』
「幻象と同じですねぇ、精神が弱っているのです! このまま行けば、遠からず貴方は私に根負けする!」
瘴気を魔力で叩くというのは、気が遠くなりそうな行動だ。
なんともかんとも、とにかく攻撃の効率が悪い。
こりゃあもしも”次”があったら、何かしら対策を考えなくてはいけないだろう。
しかし、今はとにかく叩くべし、叩くべし、叩くべし!
『ぐ、この……なめ、るなよぉ! 我は六大宿痾だ! この世界の頂点に立つ存在なのだぁ!!』
「もうその言葉の時点で貴方は”弱い”ですよ。確かに能力は強かったですが、それだけです。あまりに――あまりにも精神が貧弱です!」
『ふざ、けるなぁ!!』
だからこうして、私の暴力に屈服しかけている。
その様子をみていると、なんというか……察してしまうのだ。
この六大宿痾が、一体どのようにしてこうなったのか。
「――梵賦に煽てられてきたのでしょう?」
『ぬ、う!』
「持ち上げられて、褒め称えられて、おべっかだけを受けてここまで来た。来てしまったのです!」
『なに、を……!』
能力は、これまで出会ってきた六大宿痾の中で最も厄介だ。
倒しにくいし、汎用性も高い。
でも、本当にそれだけ。
あまりにも精神が発達していない。
どれだけ梵賦が、この憑威という宿痾の主を駒としてしか見ていなかったか、わかるというもの。
「――惜しいですね」
『……っ!』
「強いのであれば、最強を目指すべきです。最強の自負があるなら、それを守るために戦うべきです。でも、あなたにはそれがない」
『……ふざ、けるな』
「もったいないですね、――本当に」
そして私は、これが最後であると確信して疾討を振り上げる。
全力の一撃だ。
それは、確かに憑威を穿つだろう。
『ふざ、けるなぁああああ!』
――その瞬間、私は身動きが取れなくなった。
『我は六大宿痾の一角! 憑威だぞ! やろうと思えば、これくらい――――』
「ああ、惜しい」
けど、それは一時的なものだ。
だって、読めているから。
こいつはただ、私の服を支配しただけだ。
つまり――
「――こんなもの、こうしてしまえば何の意味もない」
『な――』
憑威は私を止めた後、逃げようとしていた。
そんな憑威が、背中を向けながら振り返り唖然としているのがわかる。
けど、もう憑威にできることはない。
私は――
服を脱ぎ捨てて、デカパイを揺らしながら憑威に最後の一撃を叩き込んだ。
迫りくる脈動するデカパイが、憑威の視界に移った最後の光景である――
+
「ま、こんなものですね」
「お見事だねぇ」
「さ、最後のはどうかとおもいますけど……」
「部屋の中だと基本下着しか着てないマギナに言われたくないねぇ」
疾討を鞘に収め、消滅した憑威のいた場所へ視線を向けながら、吐息をこぼす。
まぁなんというか、アレでしたね、ハイ。
とはいえ、だ。
「問題は――
その言葉に、アルケ様とマギナ様が口を閉じる。
多分二人も、なんとなく感じ取っていたのだろう。
――理由は簡単、弱すぎるからだ。
「瘴気の量が少なすぎます。おそらく能力等は据え置きなのでしょうが、それ以外は完全に劣化している模造品ですね」
本来の六大宿痾は、倒したらとんでもない量の瘴気をぶちまける。
しかし今回はそんなこと一切無く、普通に消滅してそれで終わりだ。
だから、きっとこれは――
『おやおや、そこまでお見通しでしたかぁ』
不意に、声が聞こえた。
聞き覚えのある声――
「――梵賦!」
『お久しぶりでございます。カグラ様、アルケ様。――そちらのマギナ様とは初顔合わせですわねぇ』
声だけが響く。
おそらく、
『わたくしの仕掛けた遊びは、楽しんでいただけましたかぁ?』
「そうですね……まぁ、暇つぶしにはなりましたよ」
『うふふ、お褒めにあずかり光栄です。こちらとしても、丹精込めて準備したかいがあったというものですわ』
楽しげな様子で、梵賦は笑う。
私は挑発するように、言葉を投げかけた。
「ですが残念でしたね、見事に貴方の送り込んだ偽の憑威は敗れました。何の成果も得られていないでしょう」
『あらあら、まさか解っていないのですか? いえ、解った上で強がっていらっしゃるのですね? でしたら、こちらからお伝えして差し上げますわ』
そして、梵賦は――
『これで、幻象への
勝ち誇ったように、告げる。
マーキング。
道具を憑威の支配下に置くということだ。
そして支配下に置かれた道具は、二度と憑威の前で使えなくなる。
「別に使えなくたって、何ら問題はないでしょう。幻象をあなた達との戦いに直接投入しなければいいだけです」
『魔物の大群も、これから攻めてくることですしねぇ』
「そちらに関しても予測済みです。こうして私が憑威探しで遊んでいる間に、マギナ様が手筈を整えてくださいました」
宿痾教団が消滅した。
憑威の存在が知られた。
――梵賦は、これら二つの要因から決戦を挑んでくるだろう。
それは最初から読めていたのだ。
準備は、滞り無く済んでいる。
幻象が梵賦達との戦いに使えないなら、魔物との決戦に使えばいい。
やりようは、いくらでもあるのだ。
『ですが、解っていらっしゃるでしょう? 何よりもあなた達にとって絶望的なのは――』
「もしかしてまだ解っていないのですか? 貴方は私達に絶望を与えるべくこうして通信しているようですが――」
私たちは、まるで互いが互いの次の言葉を理解しているかのように、シンクロして言葉を重ねる。
そして、宣言するのは。
『――私たち六大宿痾と戦えるのは、カグラ様、貴方しかいないということです』
「――この戦いには、私という切り札がいて、それがあなた達と戦えるということを」
勝つのだ、私は梵賦という名のこの宿痾の主に。
確かに、道具を支配できる憑威という宿痾の主を前に、マギナ様もアルケ様も、ほかの強者も直接的な戦闘は不可能。
戦えるのは、武器を失わず戦える私だけ。
――それがどうした?
私がいるのだ。
たとえ幻象は使えなくとも、戦えるのが私だけでも。
なぜなら――
「――最強は私です。それを、貴方たちの敗北でもって証明します」
『であればお返ししましょう、最強はわたくしです。それを、わたくしの勝利でもって証明いたします』
かくして、梵賦、憑威との戦いが始まる。
状況は決してよろしくはない。
少なくとも、これまでで一番の激戦になることは間違いないのだ。
それでも――
「――――楽しみです、ええ、とても」
楽しみで、楽しみで仕方がない。
梵賦からの返事はなかった。
通信はすでに途切れ、向こうは行動を起こしているだろう。
ああ、まったく。
はやく――はやく暴れたくて、仕方がないな。
というわけで魔境編は次章で終わる予定です。
よろしくおねがいします。