メカゴジラ×ガイガン フールマン・インスペース   作:アイアイホイホイおさるさん

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某怪作はゴジラ二次創作界のゾット帝国だと思う事にした


#1

 空が燃えていた。

 ビルが破壊され、倒れる。

 人々は泣き叫び、破壊の中へと消えてゆく。

 人が死んだ、いっぱい人が死んだ。

 

 少年はただ、瓦礫の山の前に立ち尽くすしかなかった。

 忙しい土建屋の仕事の合間を縫って街に遊びに来させてくれた父は、肉と内臓をぶちまけながら瓦礫の下で眠りについた。

 

 眼前での肉親の死という鮮烈な光景は、その破壊をもたらした大いなる巨神(taitan)と共に、少年の記憶に刻み込まれる事になる。

 今まさに高層ビルを破壊しながら現れた、砲弾すら通じぬ黒い体表に刃物のような背鰭。

 肉食恐竜を思わせるシルエットのそれこそ、原発を襲う道中進行方向にあった街を滅ぼし、たった今少年の肉親である父親を奪った………

 

「ゴジラ………ッ!?」

 

 気がつけば、街も破壊も消えていた。

 眼前に広がるのは特殊合金の壁に何本も走るコードと、身体を覆う寝袋の感覚。

 あれは現実だった。だがその一方で過去の出来事を再生した夢でもあったと理解したのは、男が自分の身体が少年から成人のそれに変わっていたと感じた時。

 

「………夢かよ」

 

 なんて夢だ。と脳内で毒づきながら、男は壁に固定された寝袋から出る。

 米国成人男性の基準で作られたそれは、日本人男性である男にとっては大きすぎたが、足が伸ばせる点は気に入っていた。

 

「………ひでえ顔だ、元からか」

 

 無重力エリアを渡って重力ブロックの洗面台に来た男は、鏡に映るひどく窶れた状態の、少なくとも女性が寄ってくる事はないであろうゾンビのような自分の顔。

 古い表現になるが「キモメン」「ブサメン」と呼ばれるそれだ。なんとなく、鬼滅の刃という漫画に出てくる妓夫太郎というキャラクターに似てないでもない。あれにメガネをかけるとこんな感じと言うか、悪落ちして大人になったのび太のよう。

 

「ま、だからこんな仕事任されたんだろうが………な」

 

 自嘲しながら男は顔を洗う。

 その後の体力維持のためのトレーニングと朝食を終えた後、どうするかを考えながら。

 今現在地球から1億キロ離れた宇宙空間を航行中の、移民探査船ハヌーシュ号での出来事であった。

 

 

 ***

 

 

 巨神(taitan)

 奇跡の光により超常現象を引き起こす女王、モスラ。

 燃える翼により眼下の全てを薙ぎ祓う炎の悪魔、ラドン。

 それらを統べる地球の化身にしてキングオブモンスター、ゴジラ。

 ムートー、ベヒモス、スキュラ、メトシェラ、ティアマト、その他諸々。

 

 怪獣とも呼ばれる彼らは、人類と長きに渡り地球の覇権をめぐり戦いを繰り広げた。

 だが人類のあらゆる武器も彼らを打ち倒すには至らなかった。

 そして長い長い戦いの中、人類の中に3つの思想による派閥が生まれていた。

 

 巨神が人類の自然破壊に対して怒る大自然の化身であるとして、文明を縮小して「つつましく」生きようと考える「共存派」。

 ありとあらゆる手段を使い、巨神に対して徹底抗戦を掲げる「抗戦派」。

 そして………巨神に勝てぬなら、この星を捨てて地球外に逃げてしまおうという「逃亡派」。

 

 最後の逃亡派により立ち上げられた地球外逃亡計画「スターライト計画」は、抗戦派の関心が巨神や人類同士の内輪揉めに集中していた為スムーズに進んだ。

 移住先に選ばれたのは、木星圏にある衛星「X星」。

 事前の調査により地下に水がある事と豊富な鉱物資源、そして何よりコンピューターの弾き出した計算により、ゴジラの熱線の射程圏外であるという事が明らかになった事から、移住先に抜擢されたのだ。

 そして一先ず、調査と開拓のために人員を向かわせ前線基地を建てる事になった。

 途中、共存派が差し向けたであろう環境テロリストによる妨害により、調査に向かう宇宙飛行士のほとんどが殺害されるというアクシデントがあったが、紆余曲折あり開拓の第一陣である宇宙船・ハヌーシュ号は打ち上げられた。

 

 して、このハヌーシュ号であるが、宇宙船と言っても外見は各ブロックを組み合わせた棒状の本体に推進剤と太陽電池をつけた………誰が呼んだか「トンボ」に例えられるような、どちらかと言うと宇宙ステーションのような外見をしている。

 

 地球〜X星の長い航海のための物資と環境から換算して、かなり大きい宇宙船であるが乗組員………乗せる人員は一人のみ。

 上記の通り候補に挙がった宇宙飛行士のほとんどが殺される中ただ一人生き残った男。

 日本人男性の「ニノミヤ・イツム」ただ一人が。

 

 

 ***

 

 

 圧迫感を感じる程に狭い宇宙船に一人詰めて、片道一年ちょっとのいつ帰れるかも知れぬ………もっと言うと計画が失敗し、宇宙に置き去りにされるというリスクを抱えた作戦を敢行させる。

 よくよく考えてみればスターライト計画は非人道の極みのような計画である。

 

「まあだから、俺が抜擢されたんだろうけど………」

 

 そこを考えると、今ハヌーシュ号の機器をチェックしているイツムは適任と言える。

 彼は過去の怪獣災害によって唯一の肉親である父親を失い、おまけに宇宙飛行士仲間の中でも影が薄い、誰とも関わろうともしないいわゆる陰キャ。

 そんなだから結婚もしていないし恋人もいない。

 その上アジア人である彼はアメリカ人中心のNASAでは"地球に帰れなくなっても問題ない人間"と判断されたのだ。

 

「ハヌーシュ号より本部、ハヌーシュ号より本部、こちらイツム・ニノミヤ。現在火星の横を通過、これより小惑星帯に突入する。宇宙船に異常なし、空気循環システム正常、残り食料十分」

『了解了解、引き続き任務続行されたし』

 

 今日は周に一度の定期連絡を入れる日。

 通信機の向こうのNASAの通信使に任務の経過進捗を知らせる。

 ほとんど誤差なくリアルタイムで会話できるのは、流石はNASAと言った所か。

 

「地球の様子はどう?」

『なんか最近きな臭いんだよ。ほら、おたくの国の総理のカドナガ?モンナガ?って奴がアメリカ(こっち)とバチバチで………』

「ああ………抗戦派の」

 

 上記の怪獣の殲滅を掲げる抗戦派は、なんとイツムの祖国日本が中心となっている。

 怪獣の襲撃が他国に比べて多い事を考えると当然と言えるが、それを利用して世界の覇権を握ろうとする不届き者がいるのだ。

 

「俺が帰ってくる頃には日本無くなってたりしてな、ははっ」

『………冗談でもそういう事は言うもんじゃないぞ』

「悪い、口が滑った」

 

 その時、ピーンと機械音が響き、モニターの表示が変わる。

 

「………そろそろ小惑星帯に入る」

『オッケイ。小惑星帯では電波通信が阻害される。抜けたらまた連絡してくれ』

「ああ、定時連絡を………」

 

 定時連絡を終えようとした、その時。

 

『………イツム………ちゅわん………』

 

 声が聞こえた。通信士のものではなかった。

 低い、女の声だった。

 

「………今何か言ったか?」

『いや、何も………どうした?』

「いや………ちょっと疲れてるみたいだ」

 

 イツムはそれを幻聴と片付ける事にした。昨日の悪夢もあり、精神的に疲れているのだと考えたからだ。

 

「それじゃあまた」

『ああ、よい夢を。イツム・ニノミヤ』

 

 通信機を切り、イツムは眠りにつく事にした。

 今日は疲れた。もう悪夢を見ないように精神安定剤をいつもより少し多く飲み、眠りにつく事にした。

 これから、人の声を聞く事もめっきり減るのだから。

 

 ………自身を通気孔の隙間から見つめる、赤い複眼に気づかずに。

 

 

 ***

 

 

 記憶の中でイツムは、あの時の悪夢よりもずっと時間を遡っていた。

 ここは昔通っていた小学校。そして今は、親のしている仕事について調べて発表するという内容の授業が行われている。

 

 イツムは父子家庭だった。母親は物心つく前に死んだらしい。

 父も滅多に家に帰らなかったが、仕事の話を色々してくれたので資料作成には困らなかった。

 少なくともイツムはこの時も、そして今も父の建設業という仕事を誇りに思っていた。

 

「つまりイツムくんのお父さんが自然を壊して建物を建てるせいで、ゴジラが怒ってるのよ」

「えっ………」

 

 しかし教師の放った一言は、イツムの幼い心を粉々に打ち砕いた。

 ………当時は分からなかったが、この教師は共存派。人類の科学文明こそが罪であり、それを捨ててゴジラに許しをこうべきだと考える思想の持ち主だった。

 

「そうだよ!テレビでたくさんの人が死んだって!」

「わたしのイトコもゴジラにころされた!ぜんぶイツムくんのせいだ!」

「あやまれ!!」

 

 そして一度集団のスイッチが入った民衆が恐ろしいのは、子供も変わらない。

 クラスメート達はまるで大悪人を見るかのような冷たい目でイツムを取り囲み「あやまれ!」の大合唱を浴びせる。

 

「「あやまれ!あやまれ!あやまれ!あやまれ!あやまれ!」」

 

 幼いイツムは何が起こっているか分からなかった。

 怯えながら訳が解らないまま、両手を床について頭を下げ、土下座をする事になった。

 お父さんの仕事のせいで、ゴジラを怒らせてしまいました。ごめんなさい、と。

 

「二宮くん、もう自然を壊してはだめよ?地球は人間だけのものじゃない、鳥や動物、色んな命のある星なんだから」

 

 薄っぺらい綺麗事に酔う教師の顔を、イツムはこの時の恐怖と共に忘れる事はなかった。

 

 

 ***

 

 

 目を覚ました時イツムに襲いかかったのは、ひどい倦怠感と頭痛。薬の用法用量は守ってはいたが、いきなり増やしたのがいけなかったようだ。

 

「(う、う、頭がぐわんぐわんする………)」

 

 それに追い打ちをかけるかのように、ラララと耳障りな歌が………

 

「………歌?」

 

 船内には、乗組員のの精神的安静のために音楽を流す機能はある。

 だが、イツムが機能をオンにしない限り音楽が流れる事は無いし、最近やった点検で何も見つからなかった。

 つまり、こうして歌が聞こえる事などありえないハズなのだ。

 

「La………La〜………La〜………」

 

 聞いていて心地の良い琴かハープのような歌声であったが、異常事態である事には変わりない。

 そして現在船内にイツム一人しかいない以上、これからの任務の事を考えるとイツムが行かなければならない。

 

「システムにバグでもあったか………もう」

 

 できれば一日安静にしていたかったが、イツムは痛む頭を押さえながら寝袋を出る。

 無重力空間を泳ぎ制御ルームに向かおうとしたイツムであったが、ここで違和感に気づく。

 

「La………La〜………La〜………」

 

 システムのバグならスピーカーから聞こえてくるハズなのだが、寝室から出たイツムが聞いたのは、別の寝室から聞こえてくる件の歌声。

 テロリストによって殺された、本来ならイツムと共にミッションを遂行するハズだった別の宇宙飛行士が入るハズだった寝室。

 その扉は開け放たれ、そこから歌声が聞こえている。

 

 ………当然であるがイツムは今までその扉には触ってもいないし、船内には他に開ける者もいない。

 

「よ………よせよ、今日日流行らんぞ幽霊なんて………」

 

 専門用語で言う所の"びびり"であったイツムは、殺された宇宙飛行士の中には何人か女性がいた事を思い出し、背筋にひんやりとしたものを感じる。

 しかし恐怖よりも好奇心が僅かに勝った事、そして何より本当にバグや不具合の類だった場合イツムが仕事をしなければならない事から、震えるハートの尻を叩き、イツムは空いた扉に手をかけた。

 

「………ッ!?」

 

 結論から言うと、それは宇宙船の不具合でもなければ、宇宙飛行士の幽霊でもなかった。

 いや、そのどちらかだった方がマシであった。不具合なら直せばいいし、幽霊でも元人間なら話はできるから。

 

 まず目に入ったのは黒光りする甲殻と、一部露出した柔らかいグレーの肉の部分。後頭部からは薄い一対の翅が伸びている。

 節のついた足には拍車のようにトゲが生え、人間のそれよりも長く、鋭い。

 そんな節足動物門のような特徴を持ちながらも、口はどういう訳か人間のような縦開きの口には口紅も塗られていた。

 その顔の切れ長の複眼には瞼まであり、ウエストは細く、胸には軟肉部分による豊かなバストが二つついていた。

 

「La〜LaLa〜♪La〜La〜♬」

 

 分かりやすく言い表すなら、ゴキブリの特徴を持った女怪人のような「何か」が、まるで風呂上がりのマダムが髪をとかすように、後頭部から伸びた翅を撫でて鼻歌を歌っていた。

 

 当たり前であるがこんな存在をイツムは知らないし、ハヌーシュ号に入れた覚えもない。

 何もかもしらない「何か」が我が物顔で船内に、つまりイツムと同じ空間を共有している。

 

「La〜La〜………あらぁ………?」

 

 そしてイツムは間抜けだった。「何か」はこちらに気づき、血のように赤い複眼をこちらに向け、甘ったるい、まるでアダルトアニメに出てくる妖艶な人妻のような態度で微笑みかける。

 

「ウフフ、ごめんなさいねぇ。うるさかったかしら?」

「わ、わあ、あっ………!?」

 

 人間の美女に言われるならまだしも、眼前にいるのは正体もわからぬゴキブリ女。

 イツムの全身の細胞は危険信号を発し、頭痛も倦怠感も忘れて脊髄反射のように自分の寝室へ向けて飛び込み、扉にロックをかける。

 

「はあっ………はあっ………!」

「ああんっ、怖がらないで。おばさんは別に、あなたを取って食おうってわけじゃないのよぉ?」

 

 扉の窓の向こうからこちらを赤い複眼が見つめる中、イツムは必死に思考を回す。

「あれ」は何なのか?どこから来たのか?と。

 紛れ込んでいたゴキブリが宇宙線の影響で突然変異した?まさかの宇宙人の類?様々な考えがよぎる中、イツムが出した答えは………

 

「(わかったぞ、おかしくなったんだ僕は)」

 

 孤独とストレスで自分がおかしくなったからで、あそこにいるのはただの幻影である。

 考慮に考慮を重ねた結果の答えである。

 

「ちょっと………ちょっと待ちなさい!?あなたそれそんなに飲んで大丈夫なの!?」

 

 ならやる事はただ一つ、とイツムは精神安定剤をこれでもかと口にかっこんだ。用法用量など知ったことではなく、ただただ目の前の頭のおかしい状況から逃げたかった。

 直後、視界がぐるぐると回転し、意識が飛び上がるように遠のく。

 ………思考が破裂する中、イツムの脳の冷静な部分が、これが用法用量を遥かに超えた薬品の摂取により起こる拒絶反応=オーバードーズであると解説する。

 

「がっ、げほ、げええ」

「ちょっと!しっかりして!だめよ!意識をしっかり………」

 

 ゴキブリ女が扉をこじ開けて入ってくるのも、きっとたちの悪い幻覚なのだ。

 そう自身に言い聞かせ、イツムは意識を手放した。目を覚ました時、きっといつもの日常が待っていると信じて。

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