メカゴジラ×ガイガン フールマン・インスペース 作:アイアイホイホイおさるさん
空がおかしかった。風景もグニャリとゆがんでいた。
どう見ても夢である事は明らかだったが、それを知覚するだけの余裕はイツムにはなかった。
時間が進み、天涯孤独になったイツムは努力に努力を重ねて宇宙飛行士となり、今回のスターライト計画の参加者に抜擢された。
そして、環境テロリストによってイツム以外の人員が殺される、少し前の出来事。
「おい貴様ァ!!!日本男児でありながら地球を見捨てて脱出するなどそれでも男かァ!?!?」
就任を祝うために来ていた日本の要人の中にいた髭面の男が、イツムに向かって食ってかかる。
陸上自衛隊の偉い人で、抗戦派の指導者の一人だったと記憶している。
故に、同じ日本人でありながら地球外に逃げるスターライト計画に参加した"軟弱な"彼が許せなかったのだろう。
「貴様のような軟弱者はこの精神注入棒で根性を叩き直してくれる!!感謝するがいい!!グハハハハッ!!」
そしてどうやって持ち込んだのか棍棒のような物を振りかざしてイツムに飛びかかってきた。
主張も状況も訳がわからず、イツムはただ怯えて逃げ惑うしかない。
「グハハハハッ!!逃げろ逃げろぉ!!グハハハッ!!」
恐怖と痛みに怯えながら必死に逃げるイツムを、そいつは楽しむように追いかけた。
イツムは思った。共存派は過去ひどい目にあわされた為好きではないが、抗戦派も抗戦派で嫌いだと。
***
最悪の目覚めである。悪夢で嫌な気持ちな上に、恐らく吐瀉物を吐き出したのであろう口内には不愉快な酸っぱい味と、喉の焼けるような感覚が残る。
当然ながら身体は重く、まるで風邪を引いたかのように面白くなかった。が、意識がはっきりするに連れてイツムはある事に気付く。
「(重力がある………?)」
感覚で、自分が横になっている事に気付く。
それにここはいつもの寝室ではなく、重力ブロックにある食堂のソファ。
自分は無重力エリアにいたハズなのだがと、イツムは上を向く。
「あらぁ?起きたのね?」
天井が見えなかった。昆虫の「はら」を思わせる形の乳房のような膨らみが視界を遮り、その上から落ち着いた声が聞こえてきた。
………お姉様の膝枕というのはイツムも憧れる男の夢である。それが、気味の悪いゴキブリ女でなければの話であるが。
「………ッ!ぐ、うっ!?」
生存本能の叫びに合わせて飛び起きるも、オーバードーズによる身体負荷が抜け切らないイツムの身体はドタドタッとソファから転げ落ち、重力ブロックが正常に機能している事を証明する。
「ひ、いっ………!」
ゴキブリ女が手を伸ばす。中腰とは言え立ち上がった姿はイツムの知る成人地球人男性の平均よりも大きく、甲殻の手が頬に触れたイツムは「食われる!」と震え上がった。
「………大丈夫、大丈夫よ」
「えっ………あ………」
「おばさんは貴方を傷つけるような事はしないわ………ただ、ちょっと話がしたいだけなのよ?」
しかしゴキブリ女は、まるで母親が幼子をあやすように語りかけるだけで、噛みつきもしなかった。
複眼の目を瞼で細め、優しく言い聞かせる。
「でも………ごめんなさいね、あなたを助けるためとはいえ、宇宙船のドアを壊しちゃって」
そしてあの時ドアをこじ開けたのも幻覚や夢ではないようだ。
特殊合金のドアを破ったというのは十分恐ろしいが、何よりイツムが気になったのはもう一つ。
「………あんたが、助けてくれたんです?」
「大変だったのよぉ?無重力空間に広がったゲロを掃除するのは」
たしかに見れば、吐いた吐瀉物も染みが服に残るだけで掃除されており、何より彼女はイツムが目覚めるまでずっと膝枕をして見守ってくれていた。
捕食が目的なら気を失った時点でしているハズだし、そもそも介抱もしない。
「………随分この船に詳しいんだな?いつから居た?」
「白い星………あなた達が月と呼んでいる衛星を超えたあたりからねぇ。目的地が同じだったのよぉ」
「無賃乗車と密航は地球では犯罪だが」
「まあまあ、硬いこと言わないでぇ?にしても………この船で木星圏を目指すのはちょっと無茶じゃないかしらぁ?」
「余計なお世話だ」
しかしそれだけでは、イツムのゴキブリ女への警戒は解けない。
そもそもイツムは彼女の事は何も知らないし、イツムの視点から見たらいつの間にかハヌーシュ号にいた怪しいエイリアンでしかない。
「………あんたは誰だ、何の目的でここにいる」
「相手に物を尋ねる時は、まず自分から名乗るべきじゃないかしら?ふふふ………」
しかしゴキブリ女はいくらイツムが凄んでも、子供の可愛げのある悪戯を見守るようなアラアラウフフといった態度を崩さない。
普通なら馬鹿にするな!と怒るべきだろうが、体格差も相まってイツムにはそれが彼女との………というか、地球人と彼女の種との生物としての性能差のように感じられ、強気に出られない。
「………僕はイツム・ニノミヤ。地球の日本人で、宇宙飛行士だ」
「うんうん」
「X星の開拓、その為の先発隊だ………」
僕は名乗ったぞ、さあ名乗れ。とイツムは視線で訴える。
ゴキブリ女は微笑みを崩さず、赤い複眼でこちらを見つめ、答える。
「私は「ガリア」、M宇宙のハンター星雲の………有り体に言えば、宇宙人という事になるわねぇ?」
「………それは見ればわかる」
「私もX星に用があって向かっていた所を、偶然あなたの宇宙船を見つけて、ちょっと乗せてもらおうと思ったのよぉ」
「自分の宇宙船はどうしたんだよ」
「ちょーっと"事情"があって壊れちゃってねぇ」
不意に、ゴキブリ女ことガリアが複眼を壁にある太陽系図………その中にある金星に視線を向けた気がしたが、イツムはそれを問い正す事はなかった。
「………何故僕の言葉が話せる」
「隠れている間に船のコンピューターであなたの星の事を調べたのよぉ。言語、文化、風習と、色々………ね♡」
「密航の次はハッキングか」
「それは地球の法律でしょお?それとも坊やは、おばさんを宇宙空間に叩き出すつもりかしらぁ?」
ニュアンスとしては"やれるものならやってみなさい?"という意味だろう。不敵に笑う口元と目がそう言っている。
実際、身体能力の差は特殊合金のドアをこじ開けた事から一目瞭然であり、何よりこのハヌーシュ号には武器の類は積んでいない。地球の科学は、映画のように地球外で生命に合う事はないと結論を出していたから。
………「武器」の定義を広げれば、積んでいると言えば積んでいる。
船内で2mの宇宙人相手に使うにはかなり巨大すぎるため、どの道使えないが。
「私も本来なら何も干渉しないハズだったのよぉ?でも、物陰からあなたを見ているうちにあなたに興味が湧いたのよ」
「興味?それはどういう………」
また、ガリアの指がイツムの頬に触れる。
両頬を手で覆われたイツムの眼前に、ガリアが顔を寄せる。それこそ、キスでもせんとばかりに。
そして近くで見た事で、ガリアの顔立ちのよさがよく解る。イツムは思った、もし人間ならかなりの美人であると。
「………おばさん、あなたの事好きになっちゃったカモ♡」
「な………ッ!?」
イツムは吹きかけられた誘うような声色を前に、胸の奥で弾けた甘い感情から目を背けるように理性を引っ張り出す。
人間の美女ならまだしも、ゴキブリのクリーチャーに迫られて喜ぶ人間などいないと。
「よしてくれ!!」
「あら?」
手を払い、逃げるように後ろに下がったイツムは、自分のしでかした事を少し冷静になった後に自覚し、様子をうかがう。
だが沈黙を経ても、ガリアはこちらに嫌悪を向ける事なく微笑んでいるように見えた。
「………あんたが………ガリアさんが僕に危害を加える存在じゃないのはよく解った」
「ふふ、ありがと♡誤解が解けたようで嬉しいわぁ」
「それと………」
「なぁに?」
「………シャワーを浴びたい。服がゲロ臭くてかなわん」
「ふふふ、いいわよぉ。おばさん、ここで待ってるから♪」
イツムは立ち上がり、食道と同じ重力ブロックにあるシャワールームへと逃げるように向かう。
「………言っておくけど、入ってこないでよ?」
「はぁい♪」
この場から逃げたかったのだ。
まるで底なしのブラックホールのようなガリアからも、一瞬の気の迷いとはいえ、こんなゴキブリのエイリアンに性欲を向けてしまった自分からも。
***
熱いシャワーで意識をはっきりさせながら、イツムはアニメ「機動戦士
予告で「恐ろしい拷問」とされていたのが、主人公が敵の女士官と混浴するというもの。相手がまあまあ美人な事からご褒美にしか見えなかったが、作品の監督は「性別を逆にして考えてみろ!好きでもない異性に性欲を向けられるのがどんなに恐怖か!!」と絵面しか見ないバカな視聴者を叱り飛ばした。
「見た目がゴキブリなら、中身もゴキブリってことだ」
あのガリアがしたのもそういう事だとイツムは考える。自分の美しさが他者に通じると思い込み、相手の気持ちを無視してしまうエゴイストのクソ女だと。
「いつか宇宙空間に放り出して殺してやる、ゴキブリめ!」
ダン!と壁を殴り、理性でガリアに嫌悪感を向ける。
あんな奴は少なくともガンダムでなら殺されて当然であり、監督がエゴにまみれた悪人であると作品を通じて言っていると。
こんな淫乱な女性が男性の性欲の捌け口に甘んじる18禁作品にありがちな設定など、あるわきゃねえだろと。
………股の間のビームサーベルが僅かに反応しているのも、きっと絶対気の所為だと。
***
シャワーで正常に血流が回りだしのか、イツムは先ほどに比べればしっかりした歩みで食堂に戻ってくる。
服も新しいシャツを身に纏い、吐瀉物の染みがついた方は洗濯機に入れている。
………ここで「待っている」と言ったガリアの元に律儀に戻ってきているのは、イツムがどれだけ嫌悪するよう考えても、結局体格も身体能力も上のガリアに逆らうのが怖いからである。
「おかえりなさぁい♡」
「な………っ!?」
しかし、同じく律儀に待っていたガリアは、イツムに心の平穏を許さなかった。
ガリアが今いるのは、食堂のカウンターを挟んで向こうにある厨房てある。勝手に食べ物を漁るつもりか?と突っ込みを入れる事も出来たが、ガリアの格好が問題だった。
「な、な、なに!?その格好!?」
まず厨房には料理を行うためのエプロンがあるのだが、ガリアはそれを着ていた。
ただ一つ問題があった。ガリアは服を着ていない、つまり全裸の状態だった。それだけなら単にエイリアンの裸、特撮等の女怪人や乳房があるだけのクリーチャーを見たとき以上の感情は抱かない。
「お腹すいたでしょぉ?おばさんが何か作ってあげようと思ったの♡」
だがしかし、そこにエプロンを着せただけで、単なるエイリアンに「裸に服を着せている」という概念がプラスされてしまう。そこはガリアがヒトガタに近いシルエットというのもあるだろう。
そこにガリアの豊かな胸と太ももが加わる事で、背徳感と色気が爆上がりの「裸エプロン」の出来上がりである。
………もしこれを読んでいる君がpixivに登録しているなら「ガワ着地」か「ホロウェア」で検索して欲しい。おそらく、イツムが感じていつつ目を背けている感情の正体がわかるだろう。
「いやぁん♡どこみてるのよん♡」
「ミテマセン」
ブンブンと頭を振り払い、理性に無茶をさせてイツムは必死に負の性欲………生理的嫌悪感を捻り出そうとする。
あれは虫だ、あれは虫だと。
………だがしかし、その扇情的な格好はさておき、ガリアの心配事は真実だった。
昨日食べたものも吐き出してしまい、更にはシャワーで身体が正常に動き出したという事も相まって、空っぽになったイツムの胃はキュルルと鳴る。
「ふふっ♡やっぱりお腹空いてるのねぇ」
ガリアはわざとか無意識か、エプロンに隠されず露出された尻をプリプリと振りながら厨房の食糧庫を物色している。
「イツムちゅわん、卵子は無いのかしら?」
「卵子?」
「鳥類の卵子よぉ」
「………タマゴの事?」
「そう、それよぉ」
あいも変わらず甘ったるく呼びかけられる。
人間で言う頚椎腰椎から尻尾のように伸びた、それこそゴキブリの腹と大差ない造形のハズの器官ですらいやらしく見えてしまい、イツムは必死に否定する。
「………ここにはないよ、運ぶのが難しいんだ」
「あら、そう?」
そしてガリアの言った鳥類の卵子ことニワトリのタマゴも、残念ながらハヌーシュ号には積んでいない。どうしてもロケット打ち上げの衝撃で割れてしまうためだ。
「これは………たしか、チョコレートかしらぁ?」
代わりに取り出したのはビンに入った生チョコレート。死んだ同僚からアメリカではこうして保存すると聞いたイツムだが、おそらく地域差や家庭差はあると予想する。
「………舐めてみる?」
厨房にあるスプーンを「どうぞ」と手のひらで指すイツム。ガリアの興味を察しての好意を受け取り、ガリアはスプーンでチョコレートをすくい、口に入れる。
「………れろ……ちゅぷっ………んむぅっ………」
「(舐め方ァ!!!)」
しかし案の定というか、まるで女が男の男を舐めて刺激する前戯ような………俗に「ご奉仕」の隠語で呼ばれるアレのようにスプーンのチョコを楽しむガリア。
「うぅん………甘くてぇ、濃厚でクリーミィ………故郷で食べた、フィロソーマの幼虫のようだわぁ♡」
「そ、それはどこにあるんです?」
これ以上続けると理性的にまずいと考えたイツムは、彼女が感想の中で出した故郷の話………M宇宙のハンター星雲なる星系に話をつなげる事にした。
故郷の話なら流石にシモの話にはならないと考えたのだ。
「………もう、何処にも無いわぁ」
「えっ………」
しかし、ガリアは視線を落とし、まるで悲しい過去を思い出すかのように俯く。
故郷は"もう何処にもない"。その言葉が何を意味するか分からないほど、イツムはバカではない。
「………"キングギドラ"が来たのよ」
「キングギドラ………?」
ガリアは絞り出すように「キングギドラ」というイツムの知らぬ存在の名を出す。
「文明を持つ星を見つけては滅ぼして回る、悪魔のような存在………地球の概念で近いものを挙げるなら、ゴジラやラドンのような存在よぉ」
「宇宙怪獣か………」
ガリア=宇宙人の存在も驚きだが、宇宙にもゴジラのような存在がいると聞き、イツムは頭を抱えた。
ゴジラから逃げるために宇宙を目指すスターライト計画であるが、宇宙にもキングギドラなる怪獣がいるのだから。
「今までキングギドラによって様々な文明や種族が滅ぼされたわぁ…………キラアク、ザラブ、バルタン、ダダ、そして今私達が目指しているX星」
「X星に文明が?」
「既に滅ぼされた後だけれどねぇ」
地球とX星の文明同士の争いになる事はないと解ったが、キングギドラという新たな問題は相変わらず。
しかもガリアの話が本当なら、そいつはいくつもの星と文明を滅ぼした大怪獣。ゴジラ以上の脅威とさえ言えた。
「そして私の目的は、滅亡前にX星に個人的に預けたものを取りに行く事よぉ………れろ、ちゅむ」
再び、チョコレートを掬って口に持っていくガリアに反応する余裕は、もうイツムには無い。
「………甘いわねぇ、地球人はこうやって孤独を癒すのかしらぁ?」
「
「うふふ、でもイツムちゅわんの場合はぁ、手段が一つ増えたわねぇ?」
「え………わっ!?」
気がつけばカウンターの前に来ていたガリアが、肘をカウンターに乗せてイツムに微笑みかける。
エプロンに覆われた胸が押しつぶされてムニュンと強調される様を、どうしてもイツムは目を離せない。
「X星まで、おばさんがイツムちゅわんのそばにいて、あ・げ・る♡」
そして彼女を船外に叩き出す手段もない以上、イツムは彼女の好意を受け入れるしかなかった。
こうして、地球から逃げた軟弱者の宇宙飛行士と、怪しいゴキブリ宇宙人による、宇宙船という閉鎖空間を舞台にした奇妙な共同生活が幕を開けた。