メカゴジラ×ガイガン フールマン・インスペース   作:アイアイホイホイおさるさん

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#3

 冴えない男の元に、ある日突然可愛い女の子がやってくる。

 そんな今ではどこのコンテンツもやらないような陳腐でホコリ臭いシチュエーションであるが、イツムに起きたのはまさにそれ。

 

 だが、現実はそんなオタクに都合のいい欲望のおにぎりとは違う。現実でそんな事が起きれば様々な問題があたり一面転がる。

 今回の場合は相手が絵面的にノーマルの人間にはかなりキツいゴキブリ人間型巨乳エイリアンのガリアというのもあるが、もっと根本的かつ危機的な問題だ。

 

「飯が………足りない」

 

 それは食料問題である。

 

「あらぁ?おかわり欲しいのぉ?」

「そうじゃなくて、どう考えてもハヌーシュ号に積んでる食料じゃ、X星につく前に無くなっちゃうって話だよ………」

 

 相変わらず裸エプロンのまま厨房で皿を洗っているガリアの前で、イツムは食堂の机に突っ伏したまま頭を抱えていた。

 そも、ハヌーシュ号は軽量化のために食料はイツム一人が生活していく分しか積んでいない。地球外で一人増えたガリアを賄うための余分は当然ない。

 一応、栽培用のジャガイモ等の種はあるが、これはX星の土壌で使うために積んでいるもの。そして、ハヌーシュ号内部には肥料はあれど土はない。

 

「大丈夫よぉ、少なくともイツムちゅわんは、"これ"があるんだから」

「これ?これって何さ?」

「これよぉ、こ、れ♡」

「うおっ………!」

 

 考え込むイツムに見せつけるように、ガリアが両腕で乳房を挟み込み、ぐにゅん♡と強調してみせた。

 俗に「だっちゅーの」と呼ばれる、グラビア等で女性が胸の大きさを強調するポーズである。

 いきなりそんな事をされて驚くイツムだったが、そこである事に気付く。

 

「(………あれ?大きくなってない?)」

 

 ガリアは確かにムチムチした扇情的な体つきをしている。当然ながら乳房も大きい。

 しかし今見せつけてきたエプロンに覆われた双丘は、初めて会った時と比較すると明らかに大きくなり、洋梨のように垂れている。

 それだけでなく、色も透明感のあるオレンジに変化している。まるで、腹に蜜を溜めたミツツボアリの腹ようだ。

 

「うふふっ♡おばさんね、栄養をおっぱいに溜めて甘ぁいミルクにする事ができるのよ。見た目はアリさんみたいだけど、機能としてはラクダって生き物の背中に近いかしらねぇ?」

 

 まるで、そういうイメージビデオのように乳房をどゆんどゆんと揺らしてみせるガリア。

 誘っているかのように、いや確実に誘う目的で。

 

「………あの、アナタの言うコトをどう解釈しても僕に"おっぱい吸え"とモウシテいるようにシカ聞こえないのデスが………」

「ビンゴ☆」

「絶っっっっっっっ対やだ!!!!!!!」

 

 返ってきたのはイツムの25年の人生の中で過去最大級のNOであった。

 

「ええ〜?なんでよぉ?」

「なんでって………なんでもだよ!!」

 

 後から理性が「ゴキブリの胸なんか吸えるか」と言っていたが、そんな事を言ってガリアを怒らせたらどうなるか考えた結果、イツムなんとか捻り出した返答はそれだった。

 ………一瞬、あの乳房から出る蜜の味を想像してしまったのもきっと気の所為だと、自分に言い聞かせながら。

 

「まあ?おばさんも流石におっぱいミルクだけでお腹が満たせるとは思ってないわよぉ」

「じゃあどうするのさ………」

 

 ガリアの授乳という選択肢が無くならなかった事に、安堵とも心配とも取れぬ感情を浮かべながらイツムはとう。

 暗に"そう言うからには具体的な解決案はあるんだろうな?"と表情で語りかけながら。

 

「ウフフ、それはねぇ………」

 

 意味深に微笑んだかと思うと、ガリアは目を閉じて黙ってしまった。

 まさか無いのかよ!?と突っかかろうとしたイツムだったが、そこである事に気付いた。

 

「(翅が動いてる………?)」

 

 ガリアの後頭部から伸びた一対の翅が、僅かに振動していた。何の音も聞こえないが、鈴虫が翅をこすり合わせるように。

 ………まさか通信しているのか?そんな予想がイツムの脳裏に浮かんだ次の瞬間、展開の歯車が動き出した。

 

『本船に急接近する物体あり、スタッフは各自対応してください。本船に急接近する物体あり、スタッフは各自………』

 

 合成音声による警告と共に、緊急事態を知らせる赤いランプが食堂に点灯する。

 隕石の衝突等のアクシデントの際に起きるこの緊急アラートが、ガリアの行動により引き起こされた事は見るに明らかだった。

 

「………何を呼んだんだ、ガリア」

「宇宙のスーパーマーケット、って所かしらねぇ………ウフフ♡」

 

 妖しく笑うガリアのオレンジの乳房が、赤いランプの光に照らされて透けて見えていた。

 

 

 ***

 

 

 小惑星帯に突如として現れた"それ"は、有り体に言うと未確認飛行物体=UFOである。

 まれに地球に現れ、その手のオカルトマニアからは葉巻型と分類されている物だが、その表面は細かいパネルやパーツの集合体でありメカメカしい。一目で何らかの知的生命体が設計した宇宙船と解る外見だ。

 

『地球の宇宙船からワタシの船への暗号通信が来るとは驚いたぞ、誰が乗ってる?』

「ハァイ、私よん♪」

『ああなんだ君だったか。まあいい、そちらの彼も一緒に上がってくれ』

 

 ハヌーシュ号の通信チャンネルに合わせてきた事、別の文明の物のハズなのにハヌーシュ号と接続(エンゲージ)が可能だった事等、驚きの連続を味わいながらもイツムはガリアに連れられてハヌーシュ号に接続された相手の船の宇宙船間移動用通路(ブリッジ)の中を進む。

 

「これねぇ、宇宙共通(ユニバーサル)規格って言って、大体の宇宙船と接続できるの。ビルサルド製の宇宙船には全部ついてるのよぉ?」

「へ、へえ………」

 

 まずそのビルサルドというのが解らないのですが?と言いかけて、イツムは相手の宇宙船へと移って行った。

 移動用通路(ブリッジ)を抜けた先にあったのは、ゴチャゴチャしたハヌーシュ号の内装とは対極の位置にある、近未来的なオフィスのような空間。

 少々意地悪な言い方になるが、ハヌーシュ号が"地球・木星圏間の航行を無理矢理行う目的のためだけの結果のゴチャゴチャ"だとすれば、ここは"科学も大人の都合も知らないデザイナーがアニメや映画の影響を受けてデザインした近未来的でカッコいい白と銀のパネルの空間"と言った感じか。

 

 そして………そんな空間に一人佇むエイリアンが居た。

 

 おおよそのヒトガタはしているが、ガリアと違うのは人間と長さが同じの四肢を持つ所。

 しかし肩はなく、銀色のシャベルを思わせる大きな頭には花弁のように開く口と窪みに光る瞳の輝く目。

 横向きのヒダに覆われた茶色い体を持ち、何かラジオのような装置を持っている。

 

「久しぶりだなガリア、してそちらは………地球人か」

「………イツム・ニノミヤと申します」

 

 控えめにペコリとお辞儀をするイツムは、その表情筋などあるわけがないエイリアンが、その男性的な声の音色も相まって微笑んでいるようにも見えた。

 声の質はなんというか、金ピカ英雄王を大人しくしたような感じがする。

 

「はじめましてイツム・ニノミヤ。ワタシはザラブ。ザラブ星人とも呼ばれる」

「種族名、ですよね?名前は無いんですか?」

「ワタシの種族には残念ながら名前という概念はない。何より、この方が顔も通じるんだ」

 

 その「ザラブ」と名乗った紳士的な態度に、最初は外見から警戒していたイツムも態度を崩す。

 対するガリアは「なんで女の私じゃなくてオッサンのザラブに好対応なのよぉ」とでも言いたげである。

 

「ワタシは宇宙を回って様々な物を売っている、言ってみれば旅商人さ。商品はこっちだ、ついてきてくれ」

「はい」

「はぁい」

 

 ザラブに案内されて、イツムとガリアは宇宙船の中を進む。

 道中、壁にかけられた地球の花を使った冠と、ザラブを描いた肖像画が額縁に飾られていたが、ザラブは「古い友人から貰った」とだけ答えた。

 ………絵には「The Love 我が夫」と日本語で書かれていたが、イツムはこれ以上の詮索はしなかった。ザラブの心を傷つけてしまうと、なんとなく思ったのだ。

 

「ガリアが暗号で教えてくれた。必要としているのは食料だな?地球のものはこちらになる」

「わあっ………!」

 

 まるで業務用スーパーがごとくずらりと並んだ棚の中には、これまたズラリと並んだイツムに見覚えのある食材の数々。

 肉、野菜、インスタントから冷凍食品。果ては運搬をあきらめた生卵まであった。イツムはここが宇宙である事は解ってはいたものの、まるで地球のスーパーマーケットに来たかのような懐かしさを感じていた。

 

「随分と品揃え良さそうじゃなぁい?」

「地球の食事は宇宙でも人気なんだ。当然ながらどれも正規のルートで買い集めたもの。転売品は無いながら安心してくれ」

 

 米袋を見つけて「お米あった!」と無邪気にはしゃぐイツムを、ガリアとザラブは優しく見守る。

 

「………所で代金の話だが」

「あらぁ」

「取引なんだ、当然だろう」

 

 しかしザラブも商人。

 商売とは誠実かつ厳格に行うものというのが彼の流儀。

 

「………これで足りるかしらぁ?」

 

 案の定豊満な胸の谷間から取り出した一枚のカードを見せるガリア。ザラブは動じる事なく、それをピピピと自身の手で読み取る。

 身体そのものが機械と、それも生身との境目が曖昧になるほど融合した種族などは今日の宇宙においては珍しくない。

 

「一応聞くが、あの原始的な船でどこまで行くつもりだ?」

「X星までよぉ」

「フム………ダメだな。今計算してみたが、端末内のクレジットを全て使っても必要量まで買えん」

「はあ!?」

 

 そこでガリアは初めて声を荒げた。

 

「あんた、私の可愛い可愛いイツムちゅわんに餓死しろって言いたいワケ!?鬼!悪魔!凶悪宇宙人!」

「いつから貴様は彼の母親になったんだ。それにさっきも言ったが地球の食材は人気だ。そして入手も困難となれば値段も張る」

 

 ガルルと怒りの表情を浮かべて食いつくガリアに対してザラブは冷静だ。

 その意志の強さと、誠実かつ厳格に取引を行う精神が彼を宇宙の商人として生かしてきたのだろう。

 

「あの………」

「「ん?」」

 

 そこに、両者の空気を感じたのかイツムが割って入った。

 その手には、私物である財布が握られている。

 

 ………宇宙船での長期一人暮らしに財布や中の現金など必要になるわけがないのだが、置いていくのも気が引けたイツムは使わないのに持って来ていた。

 

「これ、少しは足しになりますか?ザラブさん」

 

 財布を開き、数枚の紙幣を見せるイツム。どうせ足した金にはならないと思っていたし、何より宇宙で地球の紙幣が使えるかどうかも解らない。

 ダメ元であったが、紙幣を見た途端ザラブが目の色を変えたように見えた。

 

「こ、これは………これは紙のお金か?」

「え、ええ、はい」

「なんと貴重な、これは………!」

 

 まるでレアカードを見つけた少年か、大発見をした科学者のようにザラブは紙幣を見て興奮していた。

 紙幣としては一番価値の低いものにもかかわらず何故あそこまで嬉しそうなのか、イツムは疑問だった。

 

「な、なんであんな嬉しそうなんですか?ただのお札なのに………」

「紙でできてるからよぉ。ほら、宇宙で木材って貴重じゃなぁい?」

「あっ………!」

 

 言われてイツムは訓練学校で聞いた「宇宙ではダイヤモンドよりも木材の方が貴重」という言葉を思い出した。

 そんな木材から作られた紙のお金、それも他文明の物となればコレクターの視点でも学術的視点でも価値は跳ね上がる。

 

「………必要な食料は全てやろう。ただし、必要な分だけだ。その代わりこの紙幣を譲ってはくれないだろうか」

「それって、そのお金で食料を売ってくれるって事でいいんですよね………?」

「その通り」

「やった!」

 

 やはり最後に頼りになるのは現金であると、イツムは自身の判断と性分に初めて感謝した。

 こうして食料問題は解決したのだが………当然ながらこれでメデタシメデタシとはいかないのが宇宙と言うものである。新しいトラブルは、こうしている間にもすぐ側まで迫ってきてきた。

 

 ………どんっ!!

 

 突如の事である。ザラブの宇宙船をまるで座礁したかのような揺れが襲う。

 生卵が落ちる程では無かったが、隕石が接近する警報も無かったのにこれは異常である。

 

「今のは………?」

「………船に何かぶつかったらしい」

 

 何が起こったのかをザラブが手をかざし、自身の船の外部モニターを開く。そこに映ったのは、ザラブの宇宙船に張り付く黄土色の触手。

 全身像は見えないが、イカやタコのような触手が、宇宙船にまとわりついているのが見えた。

 

「しまった、「バイラス」か………!」

「バイラス?」

「エネルギーを餌にしている宇宙怪獣さ。この船は丁度いいご馳走という訳だ」

「何か迎撃手段は!?」

「無い。対隕石用の電磁フィールドはあるが、それもヤツの餌になるだけだ」

「だったら………!」

 

 意を決したようにイツムは走り出した。

 向かう先は、この船とハヌーシュ号を繋いでいる宇宙船間移動通路(ブリッジ)

 

「ちょ、ちょっと!?イツムちゅわん!?」

「このまま待ってたんじゃ皆オダブツだ!僕もやれるだけの事をやる!」

 

 死にたくないからね、と付け加え、イツムはハヌーシュ号へと戻ってゆく。

 まるで、そこに逆転の手段があるかのように。

 

 

 ***

 

 

 名を「バイラス」。宇宙怪獣とされている、この黄土色のクラーケンを思わせる怪獣だが、その起源は意外にも地球にある。

 歴史には「アトランティス」という名前以外何も残されなかったが、かつて地球には生物兵器を実用化し、ゴジラの怒りを買って滅ぼされた古代文明があった。

 バイラスはこの古代文明が生み出した生物兵器=怪獣の一種であり、文明が滅ぶ直前に何体かが宇宙に逃げ出し野生化。

 小惑星帯を生息域として繁殖し、今に至る。

 

 ギピィイイッ!ピギィッ!

 

 牙のついた触手を巻き付けて、まるで豚か熱帯にいる高音の猿のそれを思わせるような不気味な咆哮を響かせ、ザラブの船から吸い上げるエネルギーを楽しむバイラス。

 これが終わればそれに連結されてある痩せっぽち………ハヌーシュ号をデザートとして楽しもうかと考えていたバイラスであったが、そこでハヌーシュ号に動きがある事に気付く。

 

 ギュルルル………?

 

 ハヌーシュ号の船体ブロックの内の一つ。開拓に必要な様々な機材・資材を積んだ「作業ブロック」の扉が開き、中から光が漏れていた。

 そして作業ブロックの扉の向こうで、宇宙服のヘルメットとその機体のコックピット越しにイツムはバイラスの禍々しい姿を捉えていた。

 そして深呼吸をし、自身とハヌーシュ号、ザラブやガリアの運命を、その鋼鉄の怪獣に託す。

 

 「やるぞ………"機龍"!

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