メカゴジラ×ガイガン フールマン・インスペース 作:アイアイホイホイおさるさん
………まず、対怪獣兵器を作ろうという機運が世界中に広がった。
アメリカが過去に極秘作戦として行った核によるゴジラ抹殺は、かえってゴジラに核エネルギーと言う餌を与えただけでなく、自然を破壊し余計に怒らせてしまうという結果を招いたからだ。核ではダメだ、と。
自然破壊を極力抑え、ゴジラを確実に倒す最も友好的な手段。それを各国の科学者が考えに考えた果てに出したのが「巨大なロボットを使ってゴジラと戦わせる」という荒唐無稽な物だった。
そんな第G兵器開発競争が続く中、日本の淡路島に設立されたNIGOD (National Awaji-Island Institute of Godzilla Disaster=国立ゴジラ淡路島研究センター)は、フィリピンの地下洞窟で発見されたゴジラの同属の骨格から機械仕掛けのゴジラ………俗っぽい言い方をすると「メカゴジラ」とでも言うべきロボット兵器を完成させた。
「
………してこの紫龍であるが、ゴジラの骨をメインフレームとしてロボを建造という前代未聞の兵器である。
当然いきなりポンと完成した訳ではなく、完成するまでにゴジラ型ロボットの戦闘性能やそれに伴う運用を確立するための試作機が存在する。
それがこの「
大きさは紫龍の半分程度………それでも60m近くあるが………な上に使っているフレームも上記のゴジラの骨格を模して作ったもの。しかし機体制御に使っているのは紫龍と同じ型のDNAコンピューターであり、紫龍の建造の為の様々な試験をこなし、計画の凍結に伴いその
そして紫龍がそうであったように環境テロリストの目に止まるリスクもあった事から、本来なら解体処分されるハズだったが、ここでスターライト計画が立ち上がる。
抗戦派がゴジラの半分程度しかない機龍を戦力として見ていなかった事もあってNASAへの引き渡しは順調に進み、機龍は第二のロボ生を歩む事になった。
X星開拓のための大型重機………作業用メカゴジラとして。
***
その姿は我々の知る「3式機龍・高機動型」のそれであるが、宇宙空間での活動のために足の裏にもバーニアを追加した事や、あくまで作業用のため武装がオミットされているという違いがある。
操縦時に強烈なGがかかるという欠陥も原典通りだが、地球より重力が軽い環境で使うという事から問題なしというのがNASAの判断。
「悪の宇宙怪獣に正義のロボで立ち向かう………へへ、まるで漫画だね」
日本人の男の子として魂が熱くならないと言うと嘘になるが、実際にやる事になり感じる恐怖は、かの富野由悠季や押井守が玩具や美少女キャラを売るために作られ続けるアニメに対して鳴らし続けた警鐘の意味を、改めて突きつける。
「だが………やるしかない!!」
同時に、アニメ好きの同僚が宇宙用に改修された機龍を指して「リック・メカゴジラ」と呼んでいた事も思い出しながら、イツムは機龍をバイラス目掛けて飛び立たせた。
「でりゃああ!!」
ピシャアアアアッ!!
DNAコンピューターにより響くゴジラのそれを早回しにしたような機龍の咆哮。
宇宙空間を切り裂く銀色の機体が、奇しくも金色に見えなくもないバイラスに向け振り下ろした一撃。それは。
意外ッ!それは
右手に握られた、本来はX星の岩盤を破壊して掘削するためのそれは、バイラスに向けて強烈な一撃を叩き込む。
ザラブの船のエネルギーを吸う事に夢中になっていたバイラスは、たまらずその触手を離してしまう。
ギュピイイッ?!
「うぐおおっ!?」
吹き飛ばされるバイラス。同時に機龍も滅茶苦茶な方向に機体が回転し、DNAコンピューターが各部姿勢制御バーニアと
「何が宇宙空間ならGも軽減される、だッ!帰ったら文句言ってやるーッ!!」
卓上の空論を語っていたNASAの技術者と元NIGOD職員に呪詛をぶつけながら、イツムは機龍の足の裏の磁力吸着システム………強力な磁力によって掘削対象の小惑星に「降りる」為の機能を使い、手近な小惑星に着地する。
ギュピイイイイッ!!
同じように小惑星上に降り立ち「何すんだ!!」とでも言うかのように機龍を威嚇するバイラス。
彼らから見た頭上にはハヌーシュ号とザラブの宇宙船。どうやらバイラスはまだエネルギーを諦めてないように見える。
「金ピカスルメめ………お前に機龍がただの作業用ロボ怪獣じゃない事を教えてやる!!」
なら、イツムとしては叩き潰すだけ。
バイラスが降参して逃げるならよし、そうでないなら撃破するのみ。操縦桿が倒されると同時に、機龍はバーニア噴射によってバイラスに飛びかかる。
ギュピイイッ!!
対し、懐に飛び込んでくる機龍を「なら捕まえてやる」と触手を伸ばして絡め取ろうとするが、機龍はスイスイとそれを回避しながら再びパイルバンカーを叩き込む。
バキィッ!!と、バイラスは再び受けた衝撃によろける。
「串焼きイカにしてる!!」
………この時、イツムは愚かであった。
初陣で上手く戦えたのはアドレナリンとプラシーボ効果とDNAコンピューターのお陰であり、イツムの隠された才能が開花したわけでは無い。
そして、怪獣と戦う多くの兵士が教訓として心に留めている事も当然知らない。
………"相手が勝ち誇った時、既にそいつは敗北している"と。
ばきゃッ
「へ?」
突然、パイルバンカーを持った機龍の右手が宙を舞った。
イツムがそれを、バイラスの触手が手刀のように射出された事が原因だと気付いた時には、バイラスの頭………それに内蔵された秘密兵器が、接近により零距離で機龍に叩きつけられる直前であった。
ギュピイイッ!!
バイラスの頭が開き、緑色の閃光………荷電重粒子ビームが解き放たれた!
それは無防備な機龍の胸部に激突し、装甲が、作業用に改修される際にオミットされた絶対零度砲アブソリュートゼロの基部を粉砕する。
「うがあああ!?」
生身の血と肉が飛び散るかのように、破壊された機龍の破片が無重力空間に舞う。
ギュピイイッ!!
この機を逃すかとばかりに、半壊した機龍にバイラスの触手が絡みつく。
ミシミシと鳴る機龍のボディ。あくまで試作機である機龍は実戦に耐えられるように作られていない。
「クソッ!?この、離せ…………」
拘束を振りほどこうと無我夢中でレバーを倒すイツムだったが、次の瞬間視界からモニターもバイラスも宇宙空間も消えていた。
「え」
しかし、眼前に広がる光景には見覚えがあった。強く焼き付いた光景だからだ。
空が燃えていた。
ビルが破壊され、倒れる。
人々は泣き叫び、破壊の中へと消えてゆく。
人が死んだ、いっぱい人が死んだ。
イツムはただ、瓦礫の山の前に立ち尽くすしかなかった。
忙しい土建屋の仕事の合間を縫って街に遊びに来させてくれた父は、肉と内臓をぶちまけながら瓦礫の下で眠りについた。
「父さ…………」
「グハハハハハハッ!!」
呆然とするイツムに今度は一撃が襲いかかる。
「おい貴様ァ!!!日本男児でありながら地球を見捨てて脱出するなどそれでも男かァ!?!?」
髭面の男が、イツムに向かって食ってかかる。
陸上自衛隊の偉い人で、抗戦派の指導者の一人だったと記憶している。
故に、同じ日本人でありながら地球外に逃げるスターライト計画に参加した"軟弱な"イツムが許せなかったのだろう。
「貴様のような軟弱者はこの精神注入棒で根性を叩き直してくれる!!感謝するがいい!!グハハハハッ!!」
そしてどうやって持ち込んだのか棍棒のような物を振りかざしてイツムに飛びかかってきた。
主張も状況も訳がわからず、イツムはただ怯えて逃げ惑うしかない。
「グハハハハッ!!逃げろ逃げろぉ!!グハハハッ!!」
「わ、わああっ!!」
恐怖と痛みに怯えながら必死に逃げるイツムを、そいつは楽しむように追いかけた。
逃げて逃げて、逃げ続ける。だが眼前にまた別の者が現れる。
「つまりイツムくんのお父さんが自然を壊して建物を建てるせいで、ゴジラが怒ってるのよ」
「えっ………」
次に現れたのはあの日の女教師。人類の科学文明こそが罪であり、それを捨ててゴジラに許しをこうべきだと考える思想の持ち主だった。
「そうだよ!テレビでたくさんの人が死んだって!」
「わたしのイトコもゴジラにころされた!ぜんぶイツムくんのせいだ!」
「あやまれ!!」
そして一度集団のスイッチが入った民衆が恐ろしいのは、子供も変わらない。
いつの間にかいたクラスメート達はまるで大悪人を見るかのような冷たい目でイツムを取り囲み「あやまれ!」の大合唱を浴びせる。
「「あやまれ!あやまれ!あやまれ!あやまれ!あやまれ!」」
まるでジェットコースターのように、これまでイツムに降りかかった様々な恐怖が襲い来る。
クラスで糾弾され、眼前で父が死に、棍棒男に追い回され、そして。
「ああっ………!」
最後に、とてつもない恐怖がやってくる。
今まさに高層ビルを破壊しながら現れた、砲弾すら通じぬ黒い体表に刃物のような背鰭。
肉食恐竜を思わせるシルエットのそれこそ、原発を襲う道中進行方向にあった街を滅ぼし、たった今イツムの肉親である父親を奪った怪獣達の王。
ゴジラ。
「見るんじゃあないぞ、金ピカスルメが」
………そんな中でも、これが幻覚の類いである事を見破ったのは、それがイツムの踏み込まれたくない領域だった事。
そこに踏み込まれたなら、もう命のやり取りしか残っていない。そのトラウマを押しのける程の怒りのうねりが、凄まじい精神力に換算されイツムに操縦桿を握らせる。
「人の踏み込まれたくない領域に踏み込んだんだ、覚悟はできてるんだろうなァ」
機龍がバイラスの頭を掴み、無理矢理こじ開ける。
………触れたエネルギーを全て餌にするバイラスであるが、これは身体を覆う防御フィールドによるもの。
しかし、防御フィールドが及ばない箇所が一つだけある。逆にエネルギーを吐き出す場所………粒子ビームの発射口だ。
ピシャアアアアッ!!
既に、こっそり整備士に教えてもらった裏コード。改修の際に取り外せなかった機龍の唯一の武装の封印を解く秘密のパスコードは入力済み。
………99式2連装メーサー砲。
機龍の口内に配置されたそれは、作業用に回収するに至って封印された事もあってか威力は本来予定していたものより低下していた。
しかし、威力が下がった事により青白く変化したそれは、奇しくも"メカゴジラ"として生まれたこの機体が本来相手にするハズだったゴジラの吐く放射熱線のそれに酷似して見えた。
ギュピイイイイアアアァアッ!?!?
しかし、それはバイラスの防御フィールドに守られていない体内を焼き尽くすには十分だった。
メーサー光線はまるで密室に勢いよくぶちまけられたスーパーボールがごとくバイラスの体内を乱反射し、体内臓器を破壊し尽くす。
メーサーを放出する数秒の間バイラスの断末魔は続き、やがて触手が力なく項垂れると同時に、目の光と共に消えた。
「………ざまあみろ、けッ」
亡骸となったバイラスは、やがて小惑星から剥がれて深淵の宇宙の彼方へと流れていく。
中破した機龍に向け、ザラブの宇宙船から回収のためのドローンが出撃していくのが見えた。受けたダメージを見て、自力での帰還が困難だと判断したのだろう。
勝った、一応。一応である。
貴重な作業機械である機龍がこうも破壊され、何より精神的攻撃によりボロボロになったイツムは、とても勝利の美酒に酔えるものではなかった。