メカゴジラ×ガイガン フールマン・インスペース 作:アイアイホイホイおさるさん
野を越え山を越え、
殺風景な岩の荒野を踏みしめて、X星の地下都市があるという場所へと、エネルギー節約のために大地を踏みしめて。
「………何もないね」
しかし、そこには何も変わらない、殺風景なX星の岩の荒野が広がるだけ。
地下都市なのだから当然と言えるが、入り口のようなものさえ見当たらない。
「ちょっと待ってねぇ」
再び、ガリアが翅をこすり合わせる。
そこで生み出される周波数は機械に干渉し、隠されたシステムを動かした。
「地面が………!」
機龍の眼前で岩の大地がゴゴゴゴと音を立てて、まるで海を割ったモーセの奇跡か、光子力研究所の貯水プールがごとく開いてゆく。
岩の大地に見えたのはカモフラージュ。ここが、地下都市の入り口。
機龍の機体と比較してもかなり大きいそれは、後の事を考えると宇宙船の侵入ハッチとして使われていたのだろう。
「落ちないようにね」
「わかってる」
イツムは、機龍のバックパックのバーニアを噴射し、落下速度を調整しながら降りてゆく。
機龍が地下都市の入り口に入ると、入り口は再びゴゴゴゴと地を鳴らし、ガコォンと重い音を立てて閉じた。
辺りには静寂が広がった。見様によっては、大地が機龍を飲み込んでしまったようにも見えた。
穴の中は打って変わって機械的だった。
薄暗い縦穴は鉄の壁を緑色の蛍光で照らし、何かのロボットアニメで見たような宇宙要塞を思い出す。
そんな機械の縦穴を、ゆっくりゆっくりと機龍は降りてゆく。底が見えぬ闇の中を、まるで奈落の底へと落ちてゆくようにも感じた。
そして永遠とも思える降下の末ガシャン、ズシンと足が地面についた時、メインカメラが捉えたのは驚くべき光景だった。
「これは………街?」
予備電源が生きており、そこは天井から薄く輝く人工太陽ライトにより曇りの夕方のような薄暗い光が広がっている。
一面に広がるのは、窓のないパネルを組み合わせた四角形の建物と、本来なら移動通路のような機能が備わっていたような道。
それが、60mの機龍ですらまるでジオラマに置かれたフィギュアに思えるように、広く、広く、均一な豆腐建築のビルによる無機質な街が、どこまでも広がっていた。
イリアの言う通り、そこは地下街であった。
キングギドラなる怪獣の襲撃を受けたにしてはやけに綺麗とだとも思ったが、人工太陽ライトが弱った蛍光灯のように点滅している事、人どころか野良猫のような野生動物の類すら見当たらずやけにしんとしている事から、イツムはX星が既に滅びたという事を改めて感じた。
「正確には街じゃないわぁ」
「えっ?そうなの?」
「ここは第04工業エリア。宇宙船や色々な兵器の製造をやってた場所よぉ。X星人はモノに固有名詞を付けなかったから、私は勝手にファクトリーシティって呼んでるけどぉ」
ズシンズシンと、機龍が04工業エリア改めファクトリーシティを、機龍はズシンズシンと足音を立てて進んでゆく。
もし、機龍が紫龍のプロトタイプとしてだけでなく実戦に投入されたならこんな光景が見られたのではないか?と感じさせる光景である。
………もっとも仮想敵であるゴジラが100mをゆうに超える巨体である事を考えると、60mしかない機龍で勝負になるかは怪しいが。
「ここよぉ」
ビルの内の一つをガリアが指さした。
どれも均一な規格、均一なデザインのビルだった為他と見分けが付かず、ガリアの能力が無ければ探すのに苦労しそうだったと、イツムは思った。
さて、ここから機龍から降りて施設内の探索が始まるのだが………
………さて、皆様の中に「ゴジラ×メカゴジラ」を観た方がいたら思い出してほしい。
家城茜はどこから機龍に乗り込んだか?首だ。
ラストシーンで家城茜はどこでゴジラを見送ったか?肩だ。
機龍のコックピットは本家ゴジラに当てはめた時の、首の付け根部分。ロボットアニメ的に言うとエヴァンゲリオンと同じ位置にある。
そして機龍の大きさであるが、60mという、原典で対峙したゴジラより10m大きい巨体を持つ。
この話のリスペクト元の話に出る怪獣はどれも100mクラスのため誤解しがちだが、これでもビルと同じ高さを持つ。
この二つを合わせて、今一度考えてほしい。
どうやって機龍から降りるのだろう?と。
「これさえ無けりゃ最高にカッコイイメカなんだけどなあ………」
「まあまあ、仕方ないわよぉ」
答えは簡単。機龍を横に寝かせるのだ。
そうすれば地表までの距離は最短となり、ロープを使って降りる事ができる。
もっとも、絵面的には機龍がよく「休日のテレビ見ながら寝転がってるお父さん」と言われて浮かぶ「あのスタイル」になってしまい、機龍のスタイリッシュさと相まって非常にシュールな状況になってしまう。
元々低重力下で使用するためコックピットの変更はされなかった訳だが、それを知りつつもイツムは「誰だよあんな位置にコックピットつけたの!」とプリプリ怒りながら、ガリアと共に建物の中へと入っていった。
***
カツーンカツーンと、建物の中の薄暗い通路を2人の足音だけが響く。
まず、ガリアの目的である「あるもの」を回収するより先に、この施設の通信システムを起動しようという流れになった。そこからファクトリーシティのメインコンピューターにアクセスし、地球に向けて通信を飛ばすのが目的だ。
X星の技術ならそれはできると、交流を通じてX星の機材やシステムにも触れてきたガリアの提案である。
「………"ここはお墓よ、あなたと私の。人間がいないのに機械だけあるなんて、馬鹿みたい"」
「イツムちゅわん?それなぁに?」
「昔見たアニメの名台詞だよ」
しかし、どれだけのテクノロジーにより作られていようと、人がいない施設はただの箱でしかないと、イツムはかの宮崎駿がKADOKAWAの開発したAI技術に向けた冷たい眼差しを思い出して吐き捨てた。
加えてここは電力節約のために照明を最低限に落としているため、超化学技術の塊!というロマンよりもバイオハザードのようなホラーゲームのような気味悪さが勝つ。
「結局、人間は知恵や科学なんて持たない方がよかったのかも知れない………生活が便利になろうと、それで他の生き物に迷惑をかけて、結果ゴジラ達怪獣を怒らせて自分達が滅びかけている」
イツムもまるで共存派のような事を言っている自覚はあったが、ハヌーシュ号を失い、地球への帰還も永遠に叶わなくなった今では悲観的な考えになるのも仕方がなかった。
それ以前に、今の今まで怪獣による不利益を被ってきた人生の中でうっすらと思っていた、そして見ないようにしていた考えでもある。
「宇宙に出ても、そこにはキングギドラがいる。だったら人間は進化せずに猿のまま森の中で自然の一部として暮らすべきだったのかもしれない」
加えて、機械だけ残して滅びたX星人のある意味無様な姿を見せられたのでは、自虐に拍車がかかるのも当然と言えた。
ほぼ捨て身状態で宇宙に飛び出し、新天地があると思ってい先で、これなのだから。
もし、今の状況が何らかの小説か映像媒体だったなら、今の自身の無様な状況を見て「人間は愚か」と皆が鼻で笑うとイツムは思ったし、何よりそんな自分自身がイツムには無様の極みに思えた。
「………僕が宇宙に出たのも間違っていたんだよ、きっと。こんな事なら宇宙飛行士なんて目指さなきゃよかった………まあ、いくら反省しようと後の祭りだけど」
そもイツム自身が、電気と科学の機械文明に甘やかされてきた「オタク」という人種に肩まで浸かっていたというのもあるのだろう。
今のイツムには、自然に目を向けず都合のいい享楽を楽しんでいた自分達に向けられた、上記の宮崎駿に加え、富野由悠季、そして首藤剛志といった「御大方」の説教が、今までより遥かに重く肩にのしかかったかのように思えた。
「うーん………私はそうは思わないわねぇ」
「………X星のこんな様子を見せられても、そんな事が言えるんだ?」
「ふふふ………」
対するガリアは冷静に、いつもと調子を崩さず返した。
イツムの皮肉の籠もった指摘に対しても、ニッコリと笑ってみせる。
「たしかに、科学の発展というものは自然破壊と隣り合わせよ、どれだけエコな技術でもねぇ。おまけに、イツムちゅわんの星のゴジラや、キングギドラみたいなこわぁ〜い風紀委員も目を光らせてる」
「だったら………!」
「でも………そのお陰であなたに会えた」
ガリアは優しく、イツムに微笑みかけた。
その温かな眼差しは、誘うような淫靡なものではなく母親が息子に向けるような安らいだものだった。
「こう考えたらどうかしらぁ?科学が私とあなたを引き合わせてくれたって」
「科学が………僕とガリアを」
言われてみればそうであると、イツムは気付く。
二人を引き合わせたハヌーシュ号も勿論、その前身となった数え切れない宇宙ロケットの数々も科学から生まれてきた。
そう思うと、嫌悪感を抱きかけた科学に対して、イツムはまだ踏みとどまる事ができた。
「さ、今は通信ルームを目指しましょう?」
「………うん」
そして今もまた、X星の科学のお世話にならなくてはならない。
イツムはガリアに手を引かれて、施設の中を案内してもらう。
まるで、母親と手をつなぐ子供のように。
***
通信室にたどり着いた。が、そこはイツムの想像するような、ずらりと並んだパソコンにずらりと並んだオペレーターがいるような物とは違う印象を受けた。
「………ここが通信室?」
「そうよぉ」
しかし座席のようなものは見当たらず、円形の部屋の中央に投影機らしき機械があり、その周りに「ここに立て」と言うかのように下から光を放つ床がいくつか設置してある。
「なんか、悪の四天王の会議室みたい」
「なぁに?それ」
「いや、知らないならいいけど………」
映画や漫画でよく見るあの部屋まんまの配置に少し興奮しながらも、イツムは中心の機械に近づいてみる。
機械というワケで親近感を感じはしたが、近づいてよく見てみると地球のそれとはかなり違う事に気付いた。
どこを触ればどう動くのかも、そもそもどこを動かせば起動するのかも解らない。
「X星の通信装置………地球の機械とは大分違うな」
「あん、イツムちゅわん。これは私に任せて」
困っているイツムを見かねて、ガリアが機械のパネルに手を当てる。
そして彼女の翅がまたも振動したかと思うと、ウィィンという起動音と共に、予備電源による薄暗い部屋に光が灯り出した。通信室が機能し出したのだ。
「(………やっぱり、機械と生体が融合した宇宙人向けの機械だったか………)」
一種のサイバネティクスに対しては生理的な抵抗はあれど、それが宇宙のスタンダードであるのだろうと、イツムはガリアの姿を見て思う。
同時に、こういう時に役に立てない
「待っててねぇ、今シティのメインコンピューターに………えっ!?」
その時、機械に赤い立体映像の画面が現れ、よくわからない謎の文字と共にピコーンピコーンというけたたましいサイレンのような音が鳴り響いた。
まさかセキュリティシステムを踏んだか?とイツムはまず考える。
「な、何!?システムのファイヤーウォールでも踏んだ?!」
「違うわ、これは………きゃっ!」
直後襲いかかる地震のような揺れと、何かが破壊される音。
そして緊急システムの起動により映し出された、このファクトリーシティを一望する監視カメラの映像は、セキュリティに引っかかっただけの方がずっと幸せに見える現実を突きつけた。
ビィィロロロロッ!!
ビィロロロッ!!
ビィィリリリッ!!
機龍がくぐってきた岩に偽装したハッチを破壊し、ファクトリーシティに自然光のカーテンを纏いながら降りてきた三体の竜が見えた。
一言で言うならそれは"金色のワイバーン"と言った所か。頭頂から首にかけて緑色の鬣がなびき、凶悪な目がその内に秘めた暴力性を物語っている。
「あいつら、ハヌーシュ号を襲ったやつか!?」
脱出の際に僅かに見えた翼は、イツムの記憶と一致していた。
あいつがハヌーシュ号を襲い、破壊した「何か」の正体だと確信したイツムの表情には、確かな怒りの感情が湧き上がる。
………だが、一方のガリアは抱いていた疑念が現実のものとなった事で表情を強張らせていた。
「あいつら、やっつけてやる!」
「ああっ、だめ!待って!!」
「ここを壊されたら大変でしょ!それに、機龍ならあれぐらい!!」
ガリアは引き留めようとしたが、遅かった。
イツムは走り出してしまった。行くな、戻れと叫ぶガリアを尻目に。
「(ダメよイツムちゅわん………あの怪獣は………あの黄金の竜は………!!)」
ガリアの脳裏には、故郷であるM宇宙ハンター星雲を滅ぼしたキングギドラの猛威がよみがえる。
姿形こそ違うが、あの怪獣の翼も尻尾も、彼女の内にある記憶の中のキングギドラにそっくりだったから。