シンギュラリティ・ラッドピース   作:物部。

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明けまして、というには些か日数経ってるな?
書籍発売中、色々と増量してるから宜しくね。
あと花咲翁は呼び符で来ました、正月の天井の成果が出てますね(白目)


43話 作戦開始01

 大型迷宮『天啓の逆塔』、あのクソッたれな地獄に戻る事は終ぞないと思っていた。

 

 数日の時を置き、おやっさんから作戦の準備が整ったとメールが届いた。

 とうとう来たか……なんて、少し格好付けながら主人公達を呼び出し、時刻通りに現れた迎えに乗せられ、今はドナドナと旧都へ向かっている最中。

 

 荒廃した都市、死んでしまった街。復興しようにもいつ噴火するかも知れない火山のような危険物がど真ん中に鎮座しているのだ。今ではもう訪れる人間は探索者(ダイバー)か迷宮(ラビリンス)の研究者の他にいないだろう。

 窓から覗けば見える朽ち果てたビル群には、明らかに地球産の物ではない異常植物が巻き付き、罅割れたアスファルトは所々が陥没し、隆起し、強化車輪の走行でも数分すればケツが痛くなってくる。

 

「で、なんでこんな目立ちやすい軍用装甲車なんか引っ張ってきた。見る奴によっては、これから何かしますって宣言してるようなモンだろうが」

「あー、会長が言うにゃあ、これでも精一杯マシな物を選んだらしいぜ?」

 

 半眼で、既に搭乗していた鷲見に問うと、明後日の方向を向きながらそう言う。

 

「仕方ないだろう。この人数では列車の方が目立つ、何より時間が掛かる」

「だったら現地集合で走れば───」

「無茶を言うな、無茶を」

「全員がお前みたいな化物体力と身体能力を持ってると思うなよ、化物。潜る前に無駄な体力使ってどうすんだよ」 

「おっとぉ?」

 

 右隣、横並びに座る野郎共が冷たい目で俺を見る。

 奥の連中も、どれもこれも似たような顔をしやがって。鍛錬が足りてねえんだ、鍛錬が。

 

「師匠、師匠、僕こんな車初めて乗ったよ。何か凄いね、カッコイイ。あ、すいません!この武器ってどうやって使うんですか!?」

「小型とは言え武器の格納庫に装飾具(アクセサリ)の調整装置、あっちの機材は何かしら」

「私(わたくし)に言って貰えれば、もっと良い車を用意しましたの!」

「ああ、うん、分かったから、危ないから静かにしてなさいチビッ子達」 

 

 左隣、車内を物珍し気に観察するお子様二人と謎の張り合いを見せるお子様一人。

 楽しそうだな、主人公パーティ。あんまり他の人達(殆どおっさん)の迷惑になる行動をするんじゃあ……いや、おっさん共もおっさん共だわ。桐之介のヤツはウキウキしながら自分の武器に興味を示す優君に丁寧に教えていたり、葵ちゃんの疑問には糸目の野郎が答えていたり。初老の爺様に至っては、何故かアリスと面識があったかのような会話を始めている。

 

「アイツ等、あの歳で恥ずかしげもなく若い子に飢えてんのかねぇ」

「お前が言うか」

「日がな協会で女性探索者に声を掛けてる男の台詞とは思えないな」

「急に正面から刺してくるのは止めてくれねぇかな?」

 

 阿吽の呼吸だった。

 取り敢えず、この中で一番年甲斐もない男はお前だよ、鷲見。聞いてるんだぞ、お前この前も人妻の探索者(ダイバー)相手に声を掛けたらしいな。

 

「よくこれで女性トラブルが発生しないものだ、鷲見の女癖はそろそろ大和の探索者(ダイバー)七不思議に登録されそうだな」

 

 探索者七不思議、七と付いてる癖に誰かが言い出したらどんどんと数が増えていく殆ど名ばかりのゴシップな。今だと七十七不思議位になってそう。まだ続いてるんだ、あれ。

 

「コイツの場合は初対面でナンパ野郎ってのが分かるし、対処も容易いんだろ」

「おいおいおいおい、ひでぇ言われようじゃねえかよ。確かに俺は目につくマブい女の子達に声を掛けちゃいるが、節操も見境もこの迷宮馬鹿以上にはあるわ」

「……それは未だに彼女の一人も出来ない俺に対しての暴言か。おい、決闘(デュエル)しろよ」

 

 誰が節操無しの見境無しだ。

 こちとら喫茶店店長なんてオシャレでカッコいい肩書持ってるのに出会いの一つもないんだぞ、ふざけんな。なんだったら良い感じに胸と尻が大きくて優しさに満ち溢れた同い年位の美女でも紹介してくれ、頼むから。

 

「俺は出会いに飢えている」

 

 出来れば探索者(ダイバー)と人型魔獣じゃなければ嬉しい。どちらにも良い思い出がないから。俺の知り合いの女連中はほぼ全員が悪鬼羅刹か修羅の生まれ変わりみたいなものだから。

 

「嘘つけ、選り取り見取りだろうが」

「どこをどう見たらそうなる」

 

 右向けばおっさん、左には子供、正面には面の濃い男共。

 毎年必ず引く恋御籤なんて全部大凶を引き当てるんだ。確率がおかしいんじゃねえのかと神主に直談判したら、そもそも大凶は入れてないと宣われる始末。

 

「一人で良いのに、もうハーレムとか子供みたいな願望は抱いてないのに」

「戦争が起こるから諦めろ」

「ああ、大和が火の海に染まるから止めておけ」

「俺の恋路って、そこまで悲惨なの?」

 

 なんで恋活したら戦争が起こるんだ、どんな鬼畜恋愛ゲームだよ。いや、この世界は鬼畜恋愛ゲームの世界だったわ。

 

「空しい、全てが空しい…………おっと」

 

 やいのやいのと騒ぎながら、俺は小さく振動した通信機を懐から取り出す。

 どうやらメールを受信したらしい。おやっさんかと思ったが、差出人は別の人物。

 

「……お前等さ、蝦夷地土産って何が良いと思う?ハスカップとメロンの二択」

「メロンだろ」

「メロンだな」

 

 俺も同じ答えだ。キーボードを指で軽くタップしながら「だよな」と返す。

 迷宮産以外の青果物って基本的に高騰してるからな、果物も野菜も。

 

「藪から棒に、なんだその二択は」

「いや、珍しく永遠(とわ)のヤツから写メ付きでチャットが届いたから、どっちが良いかなって」

「ああ、永遠から……永遠から!?」

 

 へぇ、アイツ今度は蝦夷地にいるんだ。なんであんな人っ子一人いない人外魔境で麦わら帽子被って鍬なんか担いでるんだろう。探索者(ダイバー)から農家にでもジョブチェンジしたのかな。

 

「アイツ、会長からの出向依頼も無視して何やってんだ」

「……自由人か、自由人なのか?」

 

 勝手に人様のメールを覗き見るな、マナー知らず共め。

 

「また道に迷ったんだろ、知らねえけど」

 

 才能に満ち溢れた人間兵器の思考とか、考えるだけ無駄無駄。国政が気に食わないからって国盗りする龍とか悪人を成敗する為にビルでドミノ倒しする超人とか、それに比べれば人外魔境で農業してる位は可愛い物である。

 

「連絡も取れねえし、協会から捜索届も出されてんのに、蝦夷地って……」

「時々連絡は来るぞ、旅行の日誌みたいな感じで」

 

 永遠はゲームでも顔を出す一等星の一人。中盤以降で参戦するお助けキャラだったが、着けてた装備を外す前に、報告も無しにいつの間にかパーティから抜けている管理が面倒な存在だった。だが、それが蓋を開けてみれば、本人はただのとんでもない方向音痴。示した方角の真逆に走っていくヤツなんて、どこぞの剣豪しか知らないぞ。

 迷宮の中で迷子になったアイツを探し回ったり、見つけた先で階層のボスと斬り合って居たり……駄目だ、思い出しただけで頭が痛くなってくるわ。

 

「師匠」

 

 頭を抱える二人を横目で眺めていると、直ぐ近くから優君の声が聞こえて来た。

 

「どうした、優く……優君?」

「永遠って誰、女の人?」

 

 やけに静かな、しかし言葉に怒気が込められているような声は俺の左隣の席から。先程まで桐之介と話していた筈なのに、俺に察知されずに移動していたのか。

 気付けば、声が大きかったせいか他の連中もこちらを見ている。約二名からは優君と似た気配を感じるが、気のせいだと思いたい。

 

「誰って……ああ、渡良瀬永遠だよ。大和の数少ない一等星なんだから、名前位は聞いた事があるだろ?」

「そっか、ふーん、一等星の人」

「何か、親しそうな雰囲気ね」

「店長様は流石、交友関係の幅が広いんですのね、尊敬しますの」

 

 何故だろう、三人からの視線に棘が増したような。

 

「まあ、親しいかどうかって言ったら親しい方、かな?俺が探索者(ダイバー)をやってた時の後輩みたいなモンで、そこそこ世話は焼いてたというか」

「「「へぇ……」」」

 

 歳が近かったから他の連中に比べて話す事が多かったし、探査隊の頃は持ち場が同じ前衛で何かと相談に乗ったりもしたっけか。警戒心のない大型犬みたいなヤツだった。

 うん、不思議だ、長袖を着ているのに妙に肌寒い。

 

「……ほれ見ろ鷹尾のおっさん、俺なんかよりよっぽどコイツの方が質が悪いぜ。自覚がない分状況が更にマイナスに向かっていく」

「悪感情には敏感な癖に、こういう所が昔から良くない。これが本当の意味で迷宮(ラビリンス)に狂った者の末路か。ここまで放っておいた俺達にも非があるかもしれないが」

 

 訳知り顔で頷き合う横のおっさんズと可哀想な生き物を見るような目を向けてくる外野共。おう何だお前等、この居心地の悪い空間から抜け出せる方法を知ってるんならキリキリ吐けや、でないと武装してる学生に囲まれたおやじ狩り被害者みたいな俺が爆誕する羽目になるんだが?

 

「あれは俺達には救えない者だ」

「南無三、骨は拾ってやるよ」

 

 結局、逆塔に着くまで何も分からぬまま、俺は針の筵に立たされている罪人のような心地だった。

 誰も、助けて、くれなかった。




そういや、一応は現代ダンジョン風の世界なのにやっとこれからダンジョン潜るんだな、この主人公。
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