※ 今後、呪霊や術式の独自解釈が入るかもしれません
──某日、20:12
「なあ、傑」
呪術高専の寮内にて。共有スペースのソファでくつろぐ五条悟が、対面にいる夏油傑に声をかけた。
ふたりとも風呂上がりで髪を下ろしており、どこかプライベートな空気が漂っている。
夏油はペットボトルに口をつけて傾けながら、目線だけで返事した。
「七瀬の術式って、なんだっけ?」
「呪霊操術と、呪霊を育てるものが組み合わさった感じだね。……呪霊操術のほうはただの予測だけど」
特級呪霊を従えている者。それを表す術式といえば、それぐらいしか思いつかない。
五条は唇を尖らせ、考え込むように首を傾けた。
「それがどうかした?」
「いや……なんかピンとこねぇんだよな」
サングラスの越しの、澄んだ水のような瞳が瞬く。
夏油はペットボトルのキャップを締め、興味を引かれたように五条の言葉を促した。
「傑は俺の目、信じる?」
「信じざるを得ないと思ってるけど」
「言うねぇ」
「……で? 何に引っかかってるんだい?」
五条は軽くソファに沈み込みながら、ぼそっと言う。
「あのヤバいほうはともかく、ちっこいほう……七瀬と"繋がってねぇよ"」
五条の瞳は、薄く透けるような水色で、まるで光そのものをそのまま閉じ込めたようだった。
それはただの視覚器官ではなく、五条家の人間にのみ発現する特殊体質であった。その特別な眼は、生得術式や呪力の構成を、視覚情報として詳細に捉えることができる。
その眼──六眼が、はっきりと否定していた。
「あれはただ呪霊に憑かれてるだけだ」
「……呪霊を操れるような術式は?」
「そんなもんねえよ。ただ育てるだけ。……このままだと"あれ"、使いこなせないんじゃね?」
「あり得る話だね」
五条は今日、編入してきたばかりの七瀬の姿を思い出す。
教壇に立ち、緊張した面持ちで挨拶する彼女の後ろには、禍々しいオーラを放つ特級呪霊。
そして、その周りをゆっくり漂う妙な奴。
姿かたちこそ四級かと間違いそうになるが、小さく言葉を発している。恐らく、二級相当だ。
だが──、
一日を共に過ごした七瀬は、まるで普通の人間だった。
彼女と初めて遭遇したときは、まだ"マシ"だった。
特級呪霊の腕にぶら下がった瞬間、そいつを一気に成長させるほどの膨大な呪力を表したのに、それがすっかり引っ込んでいる。元からそんなものはなかったかのように。
座学では、術師なら今さらソラでも言えるような基礎中の基礎を、目をまんまるにして聞いていた。
手元のノートをそっと覗くと、"呪いは危険"としょうもないことをメモしている。
さらに、実技の授業では驚かされた。
握力は子ども並み。走れば足をもつれさせ、すっ転ぶ。勢いよく「ほっ!」と無駄な気合いを入れては体の硬さを露呈する。
──こんなんで、呪術師として、本当にやっていけるのか?
そう思わざるを得ないほど、戦闘向きの要素を持ち合わせていない。つまり、呪霊を調伏する力がないのだ。
だから、確信した。
ただ憑かれている。呪力というエサをやっているだけだ、と。
「……でも、変な話だろ?」
「七瀬さんが、なんで襲われていないかって言いたい?」
「そう、それ!」
夏油は低く唸った。
五条の目が嘘をつくことはない。そうなると、事実として受け入れるしかない。
「ただ育てるっていうわけじゃないのかもね」
「あー、そういうパターン? 先生も妙なの連れてくるよな」
「連れてきたのは私だよ」
「傑かよ」
五条が呆れたように言うと、夏油は微笑む。そして、ふと考え込んだ。
「……なら、好都合だ」
「オイ、わっるい顔してんぞ」
「人聞き悪いな」
「なに企んでんだよ」
「いや、七瀬さんの術式は、私と相性がいいんじゃないかと思ってね」
夏油の生得術式、"呪霊操術"。調伏させた呪霊を球状にしてから体内に取り込み、自在に使役する。
「領域展開を会得するほどの特級呪霊を、横流ししてもらえるかもしれないな」
「なにそれ、チートじゃん」
「棚ぼた、だよ」
「棚ぼたってレベルじゃねーだろ」
もし、七瀬が呪霊を飼っているのではなく、取り憑かれているだけなら?
調伏させてしまえば、それは彼女のものではなくなる。
……ある程度の成長で見切りをつけないと、少々手こずるかもしれないが。
と、ここで夏油の脳内にひとつの仮説が浮かぶ。
「……あの小さい呪霊、七瀬さんがエサをくれるから、襲わないんじゃない?」
「野良猫が懐くみたいな?」
「そうだね、そんな可愛いものじゃないと思うけど」
「──それなら、繋がるな」
五条は腕を組み、天井を仰いだ。
「……でも、あのヤバイほうがな〜」
「みぃちゃんね。その目でもわからないんだ」
「え、マジで呼んでんの?」
「当たり前だよ」
「よく恥ずかしくねーな」
「うるさいよ。……じゃなくて、」
「ああ、そうだった。その"みぃちゃん"ってほうは、なんかモヤがかかって見えてる。不透明で、なんか腹立つ」
「悟も呼んでるじゃないか」
「……うるせーなぁ」
ふたりはソファに腰を沈めたまま、視線を彷徨わせる。
そして、笑った。
──同日、20:26
私は入浴を終え、脱衣所で髪を乾かしていた。
なんとかドライヤーを掴み、温風を髪に当てているが……まぶたは重く、今すぐにベットへ倒れ込みたいぐらいだ。
くあ、と大きなあくびをこぼす。
『眠たいのぉ?』
大きな猫のような容貌でふわふわ浮くみぃちゃんが、そんな姿を見て小さく笑う。
「うん、めちゃくちゃ眠たい」
『今日は走ってたもんねぇ』
こんなにも眠気が襲ってくるのは久しぶりだった。
……みぃちゃんには言えないが、お化けがすぐ近くにいると思った頃から、夜の寝付きは悪い。寝入ってもすぐに目が開く。
他の人に凄むように、いつか自分にも牙を向く瞬間があるのではないか。そんな恐怖にずっと支配されていたから。
だが、実際にそんなことは起きず、今の今まで一緒にいる。今や、みぃちゃんがいないと、もうやっていけないほど生活の一部になっていた。
今なら、よく寝れそうな気がする。
ドライヤーを持つ手が重い。たとえ寝癖ができたとしても、明日の自分に頑張ってもらおう。
髪は半乾きだったが、乾かすのをやめた。
手元に置いていた携帯が光る。──お母さんだった。
画面を表示させると、メッセージを受信していた。
"編入初日お疲れさま! 大変だった? 今日はゆっくりしてね。"
ふと、いつも笑顔だった母の顔を思い出す。
……ちょっと寂しいなあ。
ぐっと込み上がるのを感じながら、そういえばと文字を綴る。
"ありがとう! ちょっと大変だったけど頑張るね。あと、担任の先生は夜蛾先生っていう人だったよ"
──送信。
くるりと振り返ると、ぷーんと飛んでいる姿があった。みぃちゃんじゃないほうだ。
名前がないので、いつも少し悩む。
まあ、こっちの子はみぃちゃんみたいに話しかけてこないので、声をかける機会はないけれど。
その呪霊は、顔が栗みたいな形をしている。そしてそこに、触るとぷよぷよとしてそうなこじんまりした体がくっついている。背中から小さい羽が生えていて、ぷるぷる震わせることで飛べているらしい。
サイズは少しずつ大きくなっているが、出会ったときから姿かたちを変えない呪霊だった。
みぃちゃんがコロコロと姿を変えるので、呪霊はみんなそうなんだと思っていたけど……実は違うのかな。
その姿を見ていたら、なんとなく好奇心が湧いた。ちょうどタイミングよく、こちらへ近寄ってくるその顔を、ぷに、と人差し指で触ってみた──、
その瞬間だった。
自分の指先から呪霊へ、何か温かいものが流れ込んでいく気がした。
栗のような丸い顔が、小さく震えた。
ぷるぷると震えていた背中の羽が、ピタリと動きを止める。
まるで何かを"思い出した"かのように。
──ぐちゅっ……
濡れた音とともに、体の表面が泡立つように脈動した。ぷよぷよとしていた輪郭がねじれ、内側から膨張する。
皮膚がズレる。
内部から何かがせり上がってくる。
別の"形"が、殻を押し広げるように現れ始めた──。
「……っ、」
突然のことに言葉を失う。
自分の心臓が、不快な音を立てて跳ねた。
"それ"はまるで、今、産まれ直しているかのよう。
──パキッ、
乾いた音が鳴る。
さっきまで可愛らしかったはずの丸い頭が、縦に割れた。
割れた隙間から、ぬるりと飛び出してきたのは──、
異様に長い、舌。
ざらついた紫色の表面が、ゆっくりと宙を這うようにうごめく。
そのまま足元にべたりと落ちると、舌の先端が意志を持ったようにゆるくうねった。
その瞬間、背筋を冷たい針が貫いた。
──違う。これは、もう、私が知っているものじゃない。
私は自然と後ずさっていた。
『……■■■……■■……』
音のようで、何か不明瞭な声が聞こえる。
それは、みぃちゃんの声ではない。
──変形は、まだ終わらない。
さっきまで背中に生えていた小さな羽が、肉を裂いて”腕”に変わっていく。ぴくぴくと痙攣しながら指が生え、黒い爪がずるりと伸びる。
首が180度、ありえない方向に折れ曲がりながら、"それ"はこちらを向いた。
見つめる目が増えている。
丸いはずだった黒目が、縦長に裂け、その下にもさらに目が現れている。
四つ、六つ、増殖していく。どこを見ているのかわからない。
乾いた悲鳴は喉に張り付いた。
──そして、
異様な叫び声とともに、"それ"は跳びかかってきた。
ぎゅっと目をつぶったとき、ぐんっと強い力に引かれる。
どこかでガシャン!! と何かが激しく破損する音が聞こえる。
咄嗟に目を開けると、私は宙に浮いていた。背後からみぃちゃんに抱きかかえられていたのだ。
『あ〜成長しちゃったぁ』
この状況に似合わない、間延びして、どこか落ち着いた声は冷静に状況を把握している。
「……成長?」
『ななこちゃんの呪力で、強くなったんじゃない〜?』
その言葉に胸がドキッとした。
……もしかして、私が触ったから──?
『ななこちゃんが"ああなってほしい"って思ったの〜?』
そんなわけないと首を振ったとき、強烈な咆哮が響いた。思わず耳を塞ぎながら、そちらを見る。
壁に空いた大穴の中で、"それ"が叫んでいる。
まるで、生まれたことを喜ぶかのようだった。
視点の定まらない目は、こちらを見ているような気がする。
「……みぃちゃん」
『なぁに?』
「にっ……」
ゴキッと音が鳴って、"それ"の首が正面に戻る。
「逃げてーーー…っ!!!」
私は必死に叫んだ。
ふわっとした浮遊感を感じたあと、目の前にあるのは扉。
『逃げる〜』
のほほんとした、場にそぐわないトーンで言うみぃちゃんは、そこへ突っ込んでいく。
「ひっ…!」
バキィッ!!
咄嗟に目をつぶったら、近くで轟音が聞こえる。木片が弾けたのか、頬に細かく刺さるものがあった。
目を開けたら、廊下が見えた。
みぃちゃんは今、猫みたいな姿だ。そんなみぃちゃんに背後から抱えられている私は、宙吊りになったまま。
息を飲む間もなく、みぃちゃんは猛スピードで飛び出す。
後ろで床が軋む。空気が震える。壁をぶち抜くような大きな音がする。
そして、みぃちゃんが廊下の角を曲がったとき、ソファから立ち上がったふたりが見えた。
──夏油さんと、悟さんだ…!
その瞬間、ドゴォ!! と、また壁だか床だか破壊する音が背後から響く。
「たっ、助けてくださいっ…!」
私は必死に叫んだ。
みぃちゃんはふたりの後ろでふわりと止まる。
振り返れば、壁に拳をめり込ませている"それ"の姿があった。
「はぁ? なんだよあれ」
悟さんがめんどくさそうに声を上げる。
「なんか……触ったら、ああなっちゃって…」
「触ったら? ……あれ、七瀬さんの周りにいた小さい呪霊?」
夏油さんが振り返る。顔には驚きが滲んでいた。
「知らねーよ! 自分でああしたなら自分で祓うんだな」
両手を肩辺りに掲げ、"無関係だ"とでも言うように道を開けた悟さん。
「じっ、自分で…!?」
そんなの無理だ、できるわけがない。
そうこうしているうちに"それ"は一歩ずつ近づいてくる。
長い舌をだらりと垂らして、その先をこちらにズ、と向ける。そこには自分が据えられている気がした。
「七瀬さん、いいもの持ってるでしょ」
夏油さんが落ち着いた様子で言う。
「いいもの……?」
「……みぃちゃんは、あれより強いと思うよ」
咄嗟に上を見上げた。にぃ、と口角を持ち上げているのが見える。
そうだ、"呪いには呪いを"──今日は、教えてもらったじゃないか…!
「み、みぃちゃん…!」
『ん〜? 食べようかぁ?』
お願い、と言いかけてやめた。自分はまだみぃちゃんに抱きかかえられたままだ。
「下ろしてくれたらっ、食べていいから…!」
『……下ろすのヤダ〜、アイツが狙ってきたらやだも〜ん、アタシのななこちゃん〜』
ぎゅうっと抱きしめられる。
身体の奥で、心臓がぎゅっと圧迫されるような違和感があった。
──ダメだ、このままじゃ。
目の前であの惨劇が──、
『だからぁ、アタシも成長するぅ』
その途端、ざわっと空気が震えた。全身の毛が逆立ち、肌が栗立つ。
ズズッ──、と何かが這い出るような感覚がする。
体の奥底から、無理やり引きずり出される。奪われる。
心臓が冷たい手で握られたみたいに、どくん、どくん、と脈打つ。
『わぁぁ…!』
背後の気配が膨れ上がる。歓喜する声が響く。
さっきまで自分が抱きかかえられていたのに、いつの間にかみぃちゃんが"背後にのしかかっている"ことに気が付く。
──重い。
背後にいて見えないのに、わかる。みぃちゃんが異常なほど成長している。
『あそこだけだったら…いいんだよねぇ……?』
ねっとりとした声。
目の前にだらりと垂れ下がった舌の先端が、ふたつに裂ける。裂け目から指のようなものが生えた。まるで、"別の生き物"になろうとしているみたいに。
喉の奥がヒュ、とすぼまる。声が出ない。
「──っ、七瀬さん、止めて──、」
ハッとして我に返る。
でも、もう遅かった。
その頃にはもう、きゅっと印を結んでいたから。
刹那──ずんっ……と体に何かがのしかかる。
空気が重くなり、皮膚に冷気が刺さる。背筋をゾワゾワと這い上がる、嫌な感覚。
『りょういき てんかいぃ〜…!』
低く、唸るような声が響く。
私は、目の前がぼやけて意識が朦朧とし、次の瞬間には、もう──、
… … …
「──で? 何がどうなったら寮が半壊して、七瀬が気を失うことになるんだ?」
ハァ、と溜め息をついた夜蛾は、元は寮の共有スペースだったらしい場所を見回した。
崩れた壁、床に転がる家具、焦げた跡──。
寮のあたりで爆発音があったと報告が入り、飛んできたのだ。
「"アイツ"が領域展開しやがったんだよ!」
巻き込まれた五条は、理不尽に怒られる生徒のような雰囲気にイライラしている。
夜蛾は五条の視線の先を追った。
「みぃちゃんか」
「うえっ、先生もみぃちゃん呼びしてんのかよ」
五条は心底気持ち悪そうに表情を歪め、べーっと舌を出して見せた。
夜蛾は二度目の溜め息をつく。
そして、その場にいた五条と夏油から、事のあらましを聞いた。
七瀬に取り憑いていた呪霊が、突然の成長。『自分が触れたらああなった』と七瀬は言っていた。
そして、手に負えなくなったため、"みぃちゃん"に祓うように指示。
すると──、自身が特級呪霊であることを知らしめるように、領域展開を発動させた。
とても器用に呪力を扱い、成長した呪霊とその周囲だけを的確に閉じ込めて祓った。普通なら、発動者も領域内に入るにも関わらず、だ。
そして、何故か七瀬は気を失い、みぃちゃんは彼女を抱きかかえ続けている。
「……ただの推測だけど、みぃちゃんに呪力を吸われすぎたんじゃないかな」
しばらく悩んでいた夏油が静かに言う。
「みぃちゃんは"自分も成長する"と言って、七瀬さんを抱き締めた。すると七瀬さんから異常な量の呪力が溢れて、みいちゃんに吸い込まれていくように見えたんだ」
全貌を聞いた夜蛾は、頭を抱えた。
七瀬は、術式のコントロールも何も身につけられないまま、呪霊を2体も成長させた。しかも片方は領域展開を完成させている。
──これを上層部に知られたら……。
夜蛾の背中に冷たいものが伝う。
「つーか、先生! アイツ呪霊操術は持ってねぇよ! なんで七瀬の術式が呪霊操術なんて言ったわけ?」
「……
「あ?」
夜蛾は三度目の溜め息をつきながら、七瀬を見上げる。
彼女は、特級呪霊に、親が子をあやすように優しく抱きとめられている。
「七瀬の術式を呪霊操術としたのは、ただ憑いてるだけの特級呪霊が、どうして彼女の言うことを聞くのか説明できなかったからだ。……悟、お前の目はごまかせなかったな」
使役されているわけでもない特級呪霊が人を守る。確かな意思を持って、寄り添っている。
「それに、どんな理由があれば上が納得するか検討もつかん」
「は? ……もしかして、"上"にも呪霊操術って言ってんの?」
「……だから自分の目で見たことは黙っとけよ」
夜蛾は、四度目の溜め息をつきながら考える。
この事件を、どうやって上層部に知られずに済ませるか。
幸運にも、寮内にいたのはこの三人のみ。それと、咄嗟に人払いをし、自分だけで来たのが功を奏した。
"これ"を知っているのは今ここに立つ者だけだ。
「とりあえず悟、"これ"はお前が被ってくれないか」
五条は、夜蛾が半壊した建物を指差したので「げっ」と声を上げる。
「七瀬は上層部に目をつけられてる。ここに仮入学なのは、そのせいだ。こんなもん知られたら、今夜のうちに始末しろって命令が下る。……その点お前なら融通がきく!」
「……で、俺に何の得が?」
「……それに、お前になら、止められたんじゃないのか?」
夜蛾は、声のトーンを落とす。じっと五条の目を見つめた。
「興味本位で見てたんじゃないだろうな」
「……さあね」
にやりと笑った五条は、ふい、と目を逸らした。
──と、そこで気付く。
「……傑?」
夏油はずっと黙り込んでいた。
五条の視線に気づくと顔を上げる。少し微笑んで、静かに言った。
「いや……ちょっと思い当たることがあってね」
「何が?」
「悟の目で、七瀬さんが呪霊を扱えないことは決定的になった」
それを聞いた夜蛾は、諦めたようにハァと溜め息をつく。
「特級にまでなった呪霊が人を攻撃しない。それに理由をつけるなら……意思を持ち、自身が呪った、または呪われたものに取り憑く呪霊。みぃちゃんは"それ"なんじゃないかと思って」
夜蛾は、夏油と同じように上を見上げる。
「……過呪怨霊か」
"
特定の"人間"の死後、呪いによってその怨念が呪霊化したもの。そして、一人に取り憑き、その人物に危害がおよびそうになると"発現"する。
その中でも、更に危険度が高いもの──それは"
視線の先では、みぃちゃんがただ、にぃっと口角を持ち上げている。
『みぃちゃんは、みぃちゃんだよぉ……ねぇ、ななこちゃん?』
目のように見えるものの奥では、底知れぬ冷たさが見え隠れしている。
その腕の中で、七瀬は穏やかに眠っていた。
読んでいただいてありがとうございます!
話を考えていたら色々と思いついて、この作品はマルチエンディングの形を取ろうと思っています。
そういうのって、読む側はやっぱりややこしいんですかね……。
ややこしくならないよう、また注意書き等でお知らせします!