某所で投稿したものを修正して投稿
※pixivにも同時投稿しています

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消せない炎

 追いつけない、ずるずると離されていく──

 

画面の中で先行するトレーナーの車がコーナーの入り口でゆらめくように姿勢を作り、その先へ消える。

やや遅れてコーナーに突入したアーモンドアイの車が再びその姿を捉えるが、また少し差が開いた。

 

 

始まりはいくらか前、珍しくもトレーナーがゲームで遊んでいるのを見かけた事。

 

それは感謝祭や寮対抗のゲーム大会に採用されていたものと同じカーレースのゲームであって、だからこそ気付いた。

直近の寮対抗大会と同じコースを走っていたが、明らかに速い。

表示されていたラップタイムは、覚えていた皆のタイムよりも速かった。かつて自分が出したタイムよりも!

走りの質さえ違っているように見えた。ターフの上で受けるような衝撃をこんなところで受けるなんて。

 

そんなものを目の前で見せられては絶対に黙っていられないのが、アーモンドアイというウマ娘だ。

彼女は猛々しくも挑み、そして惨敗した。

 

 

 それから修練を積んだ。それだけではない。経験値を積むため武者修行までした。

シンボリクリスエスを倒し、ツインターボを倒し、栗東寮に遠征してはマヤノトップガンやトウカイテイオーも倒した。

果てはマルゼンスキーからさえも──ゲームは得意でないと聞いていたが速かった──勝利をもぎ取って見せた。

少なくとも今のトレセン最速のウマ娘ドライバーは自分であると言っていいだろう。

それでも届かない。

 

自分の調子が悪い訳じゃない。むしろこれまでになく良くしてきた。

同じ車では手も足も出ず、プライドを捨ててトレーナーより速い車に変えた今でさえ、果たして本当に勝負の土俵に乗れているか怪しい。

ストレート区間では差を詰められても、コーナリングが違いすぎる。

旋回性能だってこちらが上のはずなのに。もっとストレートがあれば。

コーナーで渾身のプッシュを仕掛ける自分を余所に、トレーナーはその目の前を気楽に散歩するかのごとく遠くなっていく。

 

何が違う?何故違う?車の性能ではない。単なるブレーキングやハンドリング、走行ラインの精度だけじゃない。

何かがある。チューニング?「領域」?それとも他の何か?

分からない。まだ分からないけれど、だからといってこのままでいられるものか。

 

またひとつふたつコーナーが来て、さらに少しばかり距離が開く。

歯嚙みするアイは気付いていなかったが、離される距離は僅かずつ小さくなっていた。

 

 

◇◇◇

 

 

 トレーナーはアーモンドアイの大層負けず嫌いな性格に対してちょっとした心配を抱いていた。

何に対しても負けないために努力を重ね、超えていくその姿は尊い。

競技者として並々ならぬ闘争心と高いモチベーションは大きな武器だ。

 

けれどもそれは、時に持て余して自らを削りかねないほど巨大なエネルギーでもある。

休めといっても休まない性格というわけではないが、気持ちまで休められるタイプじゃない。むしろ焦れる方だ。

だから何か他に、日常にも挟みこめる形でそのエネルギーを受け止められ続ける何かが欲しい。

 

そこへ少しばかり覚えのあったレースゲームの腕前が役に立った。

彼女を上手く乗せられたのも、目論み通り負け続けようが挑戦を止めないのも幸いだった。

 

彼女はここでも成長している。

ドライビングテクニックを学び、強敵を倒し、進化を止めない。

見たことも聞いたこともない信じられないような短い時間で速くなっている。

素晴らしいことだ。だけど、まだまだ追いつかせやしない。

 

闘争心だけでも、努力だけでも届かない領域がある。教えて身につけられるものじゃない。

ひとりひとりがそれぞれに持つ感性──固有の世界観とも言えるような「何か」は言葉に表せるようなものでなく、ただ走りでしか示せない。

トレーナーとして見るにアイを含めて一部のウマ娘は生まれついてか経験か、脚での走りにおいてそうした「何か」を持っているように見える。

そしてトレセンに車での走りにおけるそれを持ち合わせた者は、見る限りまだいない。

 

しかし、アイが最初のひとりになるかもしれない。

ガス抜きと思っていたのが、とんだ怪物を目覚めさせることになるやもしれないとは。

 

今でこそ八分目までの走りでどうとでもなっているが、それで足りなくなる日は間違いなく来る。

彼女のために始めたのに、どうして自分が楽しくなってるんだか。

とはいえお互い適量のモチベーションは大事だ。だから悪いようにはならないし、しない。

 

 

◇◇◇

 

 

 トレーナー室の外に慣れた気配が近づいてくる。

今日のトレーニングは休みであるというのに、いい感じにノッている。

またひとつ速くなったか。そう思う間に扉が開かれる。

 

「トレーナー。さあ、始めましょう」

 

 

 




スキルpt+50

アイちゃんは超えられない壁が立ちはだかった時どうするんでしょうね本当のところ

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