最強キャラ、アポカリプス世界で自由に生きる 作:大抵序盤で死ぬモブ一般市民
「準備はいいな?」
武装した良助の言葉にこの場の誰もが頷いた。
現在、良助率いる決死隊は塀に体当たりを繰り返すゾンビを駆除するべく塀の外に出ようとしていた。数は15人。その中には綾乃の姿もあった。
「よし、行くぞ! 盾!」
「おう!」
良助の指示に従い鉄板で作られた巨大な盾を構えた男二人が出入り口から飛び出す。事前に調べていた通りゾンビの姿はないが近くのゾンビが彼らに気づいて近寄ってきていた。
「あいつらにかまうな! 目的の個所のゾンビだけを倒す! 急げ!」
この学校に設置した出入口は二つ。北と南に1つずつであり、目的の個所は東面の北側に位置していた。北側の出入り口は裏門にあたり、道からは外れている。そのため、ゾンビの数は比較的少なかった。
「見た限りではゾンビの数は5体! 複数でかかるぞ!」
前後を盾で挟まれながら移動を開始した良助たちは直ぐにお目当ての場所にたどり着いた。そこには予想通りの数のゾンビがいたが同時に想定外も存在した。
「っ! リーダー! 東の方から20体くらい向かってきているぞ!」
「なんだと!?」
想定外にもゾンビが道を外れて良助たちの方に向かってきていたのだ。数は彼らよりも多く、とてもではないが太刀打ちは難しかった。良助は一瞬の迷いのうち、指示を下す。
「可能な限り目標のゾンビを倒す! それから撤退する!」
どちらにしろ目標のゾンビを倒さないと塀が破壊されてしまう。それでは活動できる範囲が狭まる事となり、希望がないこの状況で絶望が増すだけとなってしまう。それだけは避けようと良助は強引にでも排除を優先した。
「おらぁっ!」
「しぃ!」
【ガッ……】
メンバーの中で比較的ガタイの良い男が鉄バットを振り下ろす。たったそれだけで1体目のゾンビを倒す事に成功するがその間を縫って他のゾンビが群がってくる。
「くっ! 下がれ!」
「すまん!」
だが、それを盾を持った男が防ぎ、ゾンビの足止めを行う。その隙に大男は一度下がり体制を立て直すと再びバットを振り下ろした。それをもう一度繰り返す間に綾乃たちも行動を開始した。
5人がかりでさす又を使い、1体のゾンビの動きを封じた。ゾンビは動きが鈍いわりに力が強い。脳のリミッターが外れている為肉体の損傷を気にせずにフルパワーを使用してくるためである。故に5人がかりで1体を抑えるので精々だった。
「はぁっ!」
だが、1体だけでも抑える事が出来ればその隙を突いて二人が手製の槍でゾンビの頭を突き刺した。頭部をしっかりと狙って放たれたそれは見事に突き刺さり、ゾンビは軽く震えた後活動を停止した。
これで計4体のゾンビを駆除する事に成功したがそれまでだった。20体のゾンビはすぐ近くにまで接近していたのだ。
「ここまでか……。撤退!」
「あっ!」
良助は撤退を決め、そう指示を出すが後方より短い悲鳴が響く。何事かと見てみれば後方を守っていた盾持ちの男にゾンビがかみついている姿が見えた。よくよく見ればそれ以外にも4体のゾンビがおり、気づかぬうちに接近を許してしまっていたようだ。
「退路が断たれた! 前だ! 表門に向かって逃げるぞ!」
「ぐあぁっ!!??」
良助は即座に裏門からの撤退を諦め、表門からの撤退を決めた。そのためにも前身するべきだがそれをさせないように20体のゾンビが襲い掛かった。
「リーダー! このままじゃ……!」
「武器は捨てて身軽になるんだ! 少しでも早く動けるように……!」
良助がそう指示を出す間にまた一人ゾンビに食い殺される。ここまでの間に3人が犠牲となり、まだ咬まれていないがゾンビに捕まった者は更に2人いた。これ以上はゾンビと戦っても死ぬだけだと良助はゾンビにバットを振るいながら叫ぶ。
「俺が殿になる! 今のうちに……!」
「リーダー!」
「良助さん!」
しかし、よそ見をしながら振るった為にゾンビには当たらず、逆に押し倒されてしまう。それに気づいた他のメンバーの脚が止まり、恐怖で顔が歪んでしまう。その様子を見た良助は押し倒された痛みで声が出ない中その様子を悲し気に見つめる。恐怖で動けなくなったらゾンビに食われるだけだ。逃げろ。ゾンビに近づかれる前に。
「(ここまでか……)っ!」
良助は迫りくるゾンビがスローモーションで見える事から、まさに今自分が死ぬのだと理解した。リーダーとして頑張ってきたがそれもここまでだと。残された者達は生き残れるのだろうか。生き残ったとして果たして未来はあるのだろうかと。
そんな様々な雑念を考えながら今まさに口を開け、ゾンビに噛みつかれようとした時だった。バン! という音と共にゾンビの頭が吹き飛んだ。ゾンビは活動を停止し、良助に倒れこんだが続けて二回、三回と音が響くとともに周囲のゾンビが次々と倒れていく。
「まさか、銃!? 生存者がいるのか?!」
良助は目を見開き驚いた。学校に立て籠もって以来外の生存者と出会う事はなかった。見るのは何時もゾンビばかりであり、人間等見たことがなかったからだ。
「リーダー! 大丈夫ですか!?」
「あ、ああ……」
そして、音によって気が付いたらしき一人の男が良助の上のゾンビをどかし、助け出した。そのころにはゾンビの数は半分以下にまで減り、やがて0になった。騒音がなくなり、静けさを取り戻したところに、遠くの方からエンジン音が聞こえてくる。それはバイクの失踪音であり、この5年の間に聞く事は決してなかったかつての生活音の一つだった。
「先ほどのは、あの人が……」
「そう、みたいですね」
助けてもらったのは間違いないがそれでももろ手を挙げて喜ぶことは出来なかった。なにせこのご時世だ。物資の何もかもが足らない状況では人は他者から奪ってでも自分を助けようとする。バイクで近づく人物もそうではないとは言い切れないからだ。
良助たちが警戒しているとそのバイクはゆっくりと減速して彼らの前に停車した。乗っていたのはまるで特殊部隊のような恰好をした男だった。とてもではないが一般人とは思えない容姿に良助たちの顔が引きつるが男は彼らを軽く見ると口を開いた。
「……怪我は?」
「え? あ、ああ。してはいない、と思うが……」
こちらを気遣う言葉をかけられた事で良助は思わずといった風に答えてしまう。実際、既に噛まれてしまった者もいるがそういった者達も含めて目の前の男が皆殺しにしている。今男の前に立っているのは健常者だけだった。
「そうか。間一髪の所を助けられたようで良かった」
「い、いえ。私たちの方こそ助けてくれてありがとうございました。あの、貴方は一体……」
本当ならばゾンビに襲われる危険性のある屋外で何時までも話している場合ではないのだろうが付近にゾンビの姿はないこととあまりにも異常事態な状況についつい話を聞いてしまったのだ。
「通りすがりの一般人だ。……尤も、そうは見えないのは自覚しているがな」
「そ、そうですか……」
自覚はあるんだ、と思わず綾乃は内心で思うが良助たちも同じ思いをしているのだろう。綾乃と同様の表情をしていた。
「で? お前たちはこんなところで何をしているんだ? 見た限り、そこの要塞化された学校のグループだろう?」
「え、あ、ああ。そうです。ゾンビが集まり過ぎたので駆除を……」
貴方のおかげで助かりましたがと良助は小さくつぶやく。その言葉に男は関心した様子で頷いた。
「なら、少し休憩させてくれ。あれほど安全そうな場所は中々無いからな。無論、そのお礼はしっかりさせてもらう」
「……わかりました。私も改めてお礼をしたいので」
良助は少しだけ考えてから男の提案を了承した。少なくとも略奪者の類では無さそうだと、先ほどまでの会話で思えたのが理由だったが彼ほどの武力があれが当面の安全を確保できると思ったからだ。
良助はちらりと仲間たちを見るが誰も良助の意見に反対する者はいないのか、頷いてくれる。綾乃は男に対して少しだけ恐怖心があるのか微妙そうな顔をしつつも否定はしてこなかった。
「では裏口から入りましょう。そちらの方がゾンビに気づかれにくいですから」
そうして、良助は自らの要塞へと男を案内するのだった。