魔剣Z ~語られぬ魔剣と魔女の魔剣討滅記~   作:朝食付き

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2章を開始します


6‐1.正直騎士

 突然だが、フィオレッタの家に新しい住民が加わることになった。

 

 ピシリと背筋を伸ばした青年が俺とフィオレッタの対面に座っている。王都からやってきた騎士だ。名前はルガート。家名は長くてうまく聞き取れなかったが、ちゃんとそういうのがあるってことは貴族なんだろう。

 

 少し短めの金髪に碧眼。俺よりもやや背が高い。俺も結構背が高い方(フィオレッタより頭一つ分は大きい)のだが、こいつほどではない。こいつと比べれば大概の人間はちび扱いになる。大きい割には動きは繊細で、あまり広いとは言えないこの家にあって、鎧を纏っているくせに何かにぶつかるような醜態をさらすことはなかった。

 そしてその動きは妙に洗練されて見える。貴族だからかもしれない。そういう目線で見ると立ち振る舞いにもなんだか品がある……気がする。

 

 よく手入れされた鎧と腰に佩かれた騎士剣。盾はないようだが、かなり剣の腕は立ちそうだ。まあ一言でざっくり言えば、まさに騎士といった男である。

 

***

 

 ルガートがやってきたのはフィオレッタへの襲撃事件から7日ほど経った日のことだ。

 

 そろそろギルドに状況を聞きにでもいくかと話していたら、突然こいつは現れた。

 正直この森を1人で歩いて家までやってくる人間がいるとは思わなかったから驚いた。俺でさえ10日以上も彷徨うことになったというのに。しかし騎士は平気な顔をしている。じいっと眺めてみるが、身に着けた鎧もマントも、特にへたっている様子もなく、迷子になったようにはとても見えない……。

 

 森の魔女にお目通りを、などと丁寧に言われれば適当な応対などできない。慌ててフィオレッタに事情を説明しに行っている間、騎士は庭を見ていたようだ。フィオレッタが目の前に現れるなり、自己紹介の前に庭について一言褒めてくるくらいだから。その言葉にフィオレッタが相好を崩したのは言うまでもない。

 

 そんな良好な第一印象の騎士であれば家に招くのも大した抵抗はない。俺だって庭仕事を手伝っているから、褒められていい気分だったからな。

 

 席について簡単な自己紹介の後、騎士はフィオレッタへ2通の手紙を手渡した。片方はギルドから、もう片方は騎士団からとのこと。嫌そうに眉を顰めながら読み進めているフィオレッタの代わりに、とりあえずの世間話をしてみる。

 

「ここに来るまで、森の中で迷わなかったか?」

「ほとんど一本道でしたから」

「……道?」

「魔女どのと貴方の足跡です。いくらかは森に隠れてはいましたが、あると分かっていれば見つけるのは難しくありません」

 

 なるほど。確かに理屈はわかった。足跡ね。そういえばフィオレッタと初めて会った時にも俺の足跡がどうとか言われていたような……。もしかしたらこれは森を歩く上で重要な技術なのかもしれない。そういえば騎士は街中の犯罪者を追いかけるのも仕事だと聞いたことがある。なら足跡を見るのも慣れているのかもしれない。今後この騎士ルガートが街の方に常駐するようであれば、そのやり方を聞くのもいいかもしれない。

 

 ふぅ、とフィオレッタが盛大なため息をつく。2通とも手紙を読み終えたらしい。俺に手紙を渡してくるので、俺も読んで問題ない内容のようだ。せっかくなので読むことにする。

 ギルドからの手紙にはギルドの長、アンガスの署名がある。騎士団からの手紙は知らない名前だ。どちらも立場のある人間が書いただけあって非常に流れるような文字とわかりやすい文章だ。

 

 ざっくり内容をまとめれば、封印されていた魔剣のうち、7本が行方不明だということらしい。騎士団からの手紙によれば、どれもこれも一切警備に気づかれることなく盗み取られていたようだ。なにせ今回確認して初めてないことに気が付いたのだから。こういうのも職務怠慢と言うべきなのだろうか。まあ魔剣の反則染みた力を前に言うのは違うか。

 

 そしてギルドからの手紙には、各地で起きている怪現象について記されていた。こちらについてはギルドの冒険者と騎士団で協力して対応をしているとのこと。

 一つの村が完全な暗闇に覆われたり、人のものとは思えない奇声が夜毎鳴り響いたり。他にも得体の知れない化け物が列をなして歩いていた、ありとあらゆるものを腐らせる沼が出現した、などなど。そしてどれもが、騎士団の到着に伴い収まること。

 

 アンガスの推察によれば、魔剣によるものだろうと書かれている。騎士団側からの情報を含めての話である。荒唐無稽な話ばかりではあるが、恐らくその見立ては間違っていまい。

 俺だってそう思う。さらに言うなら、多分魔剣の使い方を練習しているのだろうとも。ただの鉄の剣であっても、使いこなすには練習がいる。魔剣という特殊な武器については言わずもがなだ。

 問題があるとすればそれがいつまで練習で済むのかということ。そして何のための練習であるのか。

 ただ手にした魔剣で遊んでいるのであれば、良くはないが最悪ではない。だが、どんな悪さでも可能にしうるのが魔剣だ。冗談抜きで一つ二つ街を滅ぼすことなどたやすい。まして、何らかの目的を以て悪意を振り回そうというのなら、その被害は計り知れないものになる。

 

 だからこそ、そういった理外の力から魔女を守る必要があると結ばれている。少なくとも魔剣使いは魔女を狙っていることは間違いないので。すでに一人魔女は殺されている。フィオレッタは名指しで狙われた。それを考えると、練習の成果が突然この場で発揮されてもおかしくない。 

 フィオレッタの魔女としての力が魔剣に劣るものだとは思えない。ただ、斬った張ったの戦いにおいて、魔女の力がどれだけ有効かは不安でもある。

 ただし、それは他の人間がいれば補えることでもある。俺や目の前の騎士のような人間が。

 

 つまり、これからこの騎士、ルガートがフィオレッタの護衛をする、ということらしい。

 

「そうはいうけれどね、私自身守られなければならないほどひ弱ではないつもりだよ? 君たちの心配こそ嬉しいけれどね。それとも、魔女としての実力を信用されていないということかな?」

「いえ、魔女殿の実力を疑っているわけではありません。しかし、戦いにおいては私のような騎士が必要になると、それだけです」

 

 どうにかこうにか護衛をやめさせたいフィオレッタと、護衛が任務の騎士。襲撃者がいる以上、護衛の必要性を否定することはできない。みるみるフィオレッタは追い込まれていく。

 

「ご、ゴート! そうだよ、ゴートがいるんだし、無理に守られなくても問題ないはずだよ!」

「四六時中いるわけではないでしょう? それに、失礼ですが彼に護衛の経験があるようには思えない」

 

 全くもってその通りである。ずっと一人旅で、剣の腕と魔剣の能力を頼りに魔獣を殺すことばかりしてきた。護衛スキルなど、まるでないのだ。

 この間はうまく守れたけれど、近くにいるとむしろ俺が魔剣に釣られてしまわないか不安になる。出来れば離れていたいのが本音である。

 

「フィオレッタ。魔剣使いと戦うのはできるが、護衛は無理だぞ。まとめて斬りかねん」

「……こんな森の中で、君のような真っ当な騎士がすべき仕事とは思えないんだよ。私の生活に合わせるとなると、君はただ森でのんびり過ごしているだけになる。騎士として、そんなふうに体を鈍らせるわけにもいかないだろう?」

 

 堅物っぽい騎士相手だ。ああだこうだと屁理屈を捏ね回しても無駄だろう。結局のところ、自分の落ち着ける場所に知らない人間を入れたくないのだ、フィオレッタは。

 

「お気遣いありがとうございます。しかし、これは私が望んだことです」

「……君が望んだ? それはどうしてかな?」

「出世のためです」

「なるほどね、出世か。出世ね……。…………えっ?」

 

 目を真ん丸にしているフィオレッタに対して、騎士ルガートは全く表情を動かさない。

 

「私の今後のキャリアを考えるならば、魔女どのとのツテは最高の足掛かりになります」

 

 人を指して足掛かりとはずいぶんな言いぐさである。この鉄面皮は護衛としての訓練の賜物かと思っていたが、違うなこれ。単にふてぶてしいだけだ、こいつは。

 出世のためであることを一切隠そうともせず、なぜこの任務を望んだのかを語るルガート。

 

「私はいつまでも木っ端騎士でいるつもりはないんですよ。騎士団を足がかりに、王都で成り上がろうと思っています。そのために、あなたとの、魔女との縁が欲しかった」

 

 なんだこいつ? 当の本人相手に、さっきから足掛かりだの出世とコネのためだのと。これって俺が知らないだけでに言うものなのか? 正直にも程がある。物知らずついでに言うなら、俺はこの国で貴ばれるという魔女の立場をよく知らない。このでかい森まるまる一つを自分の庭扱いとか、地位はすごいものがあるらしい。が、なんでそれが許されることになったのかを。

 

 とはいえそれは騎士と魔女にとっては前提もいいところ。正直な騎士の言葉に、フィオレッタは唖然としている。そして次第に肩が震えていく。漏れ出したのは笑い声。

 

「あはは! そうか、そうだね! なるほど、いいね! 私のことはアンガスから聞いてた?」

「ええ。本音を言う方が受け入れられやすいと助言を頂きました。それに、あなたが直接表に出るつもりがないのであれば、猫をかぶる必要もなさそうですから」

 

 清廉潔白な正義の騎士。そんなものはいないか。正直に言ってちょっとがっかりしている。まあ、あまりに四角四面な人間よりは付き合いやすいか。

 

「分かった。なら、護衛を頼むよ。ゴートもそれでいいかな?」

「俺の意見は要らんだろ。家主に従うのが居候だ」

「じゃあ決まりだね。2階の空き部屋を使って……いや、掃除からかな。ルガート、君はこれから私の護衛だ。でも家の中では護衛の必要はない。だから初めの仕事は、君の使う部屋を掃除することだよ。いいね?」

「ええ、構いません。この家の敷地から出る場合は、必ず私に声掛けいただくこと、緊急時には私の指示に従うこと。それさえ承知いただけるのであればですが」

「ん、わかった。さあ、まずは部屋の掃除から始めるよ!」

 

 つまり、そういうことになった。

 

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