魔剣Z ~語られぬ魔剣と魔女の魔剣討滅記~   作:朝食付き

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4-2.ギルドに入ろう!

 立て板に水を流すがごとく、ペラペラと街の話を続けていたフィオレッタであったが、それもギルドの前に来るまでの話だ。フィオレッタの案内の元たどり着いたのは目の前の立派な建物。冒険者だとかギルドに縁のない俺でも、ギルドを表す印はわかる。なんなら文字だって読めるから、そこが目的地であるギルドハウスであるということはわかっている。2階建てで白い壁がなかなか目にまぶしい。横にも広いし奥行きもありそうだ。一般的に冒険者というのはなかなか荒っぽいというのが相場だ。そういう連中を集めても問題なくらいには広い建物を用意したということなのかもしれない。

 

 俺もとうとう冒険者か。父が元は冒険者であったという話を聞いているから、何気に俺は冒険者というものに憧れがある。誰も知らない道を行く。なかなかいい。ロマンがある。古代の遺跡を探検したり、謎の魔獣と戦ったり。いや、今まで俺がやってきたことの延長を、人に依頼されてやるのだ。金も稼げるし、胸を張って仕事だと言える。魔剣の声がある程度何とかなった今だからこそ、冒険者として登録することが出来るわけだ。

 

 問題はフィオレッタが動かなくなったこと。

 

「こ、ここがね、ギルドというわけだよ。うん。ええと、知ってるかな? ギルドの印は靴と兜を表しているんだよ。未開の地を踏破するための靴と、危険から身を守るための兜というわけだ。なかなか由来というものを知る機会はないだろうから、キミはこの話を聞けて幸運だな。うん。」

 

 ギルドハウスの前で立ち止まったまま、チラチラとギルドの扉を気にしている。だが、いつまでも動き出す気配がない。大体のことはさっさか済ませるフィオレッタにしては珍しく、なんとか先延ばしできないかと言い訳を重ねているように見える。いや、そもそも森を離れる時から大分態度がおかしかった。街に入る直前に黙り込んだり、辺りをきょろきょろ伺っていたり。

 薄々勘づいていたことではあるが、ここで俺は確信する。

 

 フィオレッタ、お前人見知りだな?

 

「い、いやね、違うんだ。ええと、そう! 私が入った瞬間に、扉の前に人がいたら驚かせてしまうだろう? それは良くない。うん、良くないね。だから時合を測っているんだ。言っておくけど、決して急かさないでほしい」

 

 恐らくは身内には強く出られるけれど、あまり話したことのない人間相手は二の足を踏む。小さい子供には、そういう性格の子がよくいる。妹も多少はその気が合った気もする。

 

 俺とは初対面から普通に話していたところを見ると、魔女を訪ねてきた、つまりフィオレッタ自身というより能力に依存するような関係や、興味が優先されるような相手、小さいころから知っている人間へは素の対応ができるのだろう。しかし初対面だとか、顔だけ知っている程度の相手にはどう接したらいいかわからないと、そういうことだ。

 なにせフィオレッタ自身が言っていた通り、ほとんど森から出ることはなく、決まった人間とだけ接してきたのが彼女だ。ほとんど身内だけとの交流しかないなら、他の人間との対応に不安を抱えるのも仕方ないか。

 

 何度も深呼吸を繰り返し、ようやくフィオレッタが一歩踏み出した瞬間、ギルドのドアが開く。4人の冒険者らしきグループが出てきて、入り口近くに立つ俺たちを不思議そうに横目で眺めて歩いていく。

 予想外の(予想された)事態にフィオレッタは完全に固まってしまっている。

 

 これはダメだな。らちが明かないし、もう帰るとか言い出しかねない。そして延々と言い訳を見つけて限界まで森に籠ろうとする。なぜかそんな状況がありありと浮かぶ。俺としては構わないといえば構わない。森の魔獣を殺していれば魔剣はおとなしくなるし、月光樹のおかげでその頻度も下がった。街までの道だっておおむね把握したから、次からは一人で来ることもできる。

 だが、それではフィオレッタ自身にとって良くない。あまり甘やかしすぎるのもどうかとは思うが、失敗の記憶だけを持って帰らせるわけにもいかないしな。ここは俺が折れよう。まあ適材適所ともいえるし、俺にとってはフィオレッタは恩人である。むしろ困っているなら助けるべきともいえる。父ならそうするし、母や妹はさっさと手を取っているだろう。……まったく、動き出しに時間がかかるという点では俺もフィオレッタを笑えない。

 

「フィオレッタ。思ったんだが、冒険者ギルドに今後来ることになるのは俺だ。なら自分でやってみたい。フィオレッタは、俺のやることに間違いがないかを確認してくれ」

「お、え、ぁ、ああ! そうだね! 確かにギルドに来るのはゴートになるものな! うん、それがいい! よし、私はゴートの後ろから間違いがないか見てあげるから、安心してギルドに入るといい!」

 

 途端に肩の荷が下りたとばかりに饒舌になるフィオレッタである。これまで彼女の相手をしてきただろう街の住民たちは、さぞ甘やかしてきたんだろうと想像がつく。

 

「ここのギルド長は昔からの知り合いなんだ。だからもし相談やしっかりとした話し合いが必要だと思ったら私に言うといい」

「助かる。俺の後ろからで構わないから、助言を頼むぞ」

 

 これ以上ぐずられても困るので、さっさと中に入る。

 ギイと軋む音と共に開かれた扉の先は見た目通りに広い。板張りの床はしっかりと磨かれていて、窓から差し込む光をつややかに反射している。思ったよりも明るいのは窓の多さによるな。もしかしたら薄暗いと悪い雰囲気になりやすいとか、そういう理由もあるのかもしれない。中に入って屋内を見回す。正面にはカウンターがあって何人かが紙を手にやり取りをしている。右手側はテーブルが置いてあって、いくつかの冒険者がまとまって座っている。左手側には壁一面にいろいろな紙が貼りつけてある。あれが噂に聞く依頼書というやつだろうか?

 

「まずは正面の受付で登録をするんだ」

 

 肩ごしにフィオレッタの声がする。今は知らない人間の視線より、俺への助言役という仕事に意識が向いているようだ。実際冒険者への登録方法を知らないから、ちゃんと助言が聞こえるのは助かる。だが、冒険者の依頼にどんなものがあるのか、ちょっと見て見たかった気もする。

 

 人の並んでいない受付まで進めば、あとはあちらから声をかけてくれる。

 

「ようこそ。どのような要件でしょうか?」

「登録をしたい。冒険者として」

「かしこまりました。では、こちらの用紙に記入を……代筆はご入用ですか?」

「不要だ」

「ではこちらの太枠の中をご記入ください。書き終わりましたら、私にお声掛けいただければ」

 

 受け取った紙は羊皮紙だ。最近では質のいい紙が出回っているのに、羊皮紙とは珍しい。

 

「保存という点では羊皮紙の方が信用されているからね。紙も一時的な用途では十分に用を成すようになってきてはいるけれど、長く残すべき書類となるとまだまだ不足なんだ。それにしても、キミは字を書けるのか。悪いけど、意外だ」

「母が厳しくてな。そのくらい書けないとやっていけなくなると、叩き込まれた」

「なるほど。しっかりとしたお母さんだったんだね。うん、字もきれいだ。やはり文字というものはね、美しさも重要だと思うんだ。昨今読めればいいだなんて、適当に崩した文字を書く輩もいるけれど、あれは良くない。人の生み出した最高の発明、その1つが文字だ。それに相応しい心づもりで丁寧に書くべきだ。おっと、その保証人欄については私の名前を書くといい。この街でのキミの後見人ということになるからね。ああそうだ、ないとは思うけれど、おかしな真似はしないように」

 

 肩越しに覗かれながら文字を書くのは落ち着かない。背中にフィオレッタの長い髪がかかっているのが分かる。しかし何を書けばいいのかを適切に教えてくれるから邪険にはできない。別に受付の人に聞けばいいだけではあるが、張り切っている先輩気取りに水を差すこともあるまい。

 なぜかニコニコと俺たちを見ていた受付に、書きあがった羊皮紙を渡す。保証人欄にかかれたフィオレッタの名前に気が付いたらしい。丁寧な所作で少々ここで待つように告げると、受付の奥の部屋へと入っていく。これは門と同じパターンだ。なら出てくるのはギルド長だろう。しかしこのキレイな白髪を見て気が付かなかったものか。明らかに名前にびくっとしていたよな。

 

 カツカツと靴音を響かせて現れたのは壮年の男性。髪はフィオレッタとは別の色味を持った白。まあ加齢による白髪だ。細身ではあるが、歩き方からするとずいぶん鍛えられていそうだ。口元に蓄えられたひげがなかなか似合っている。

 

 顔は満面の笑みで、両腕を広げてフィオレッタを抱擁しようと飛び込んできた。

 

 しかしフィオレッタは抱擁に応じることなく、軽いステップで男性を躱す。抱擁の明白な拒絶にその男性は大げさなまでに肩を落としている。だというのに、そのしぐさを無視して俺に紹介し始めるのだからたまらない。

 

 悲しみの次は、俺に対してなんだお前はとにらんできている。歳に似合わず忙しないことだ。もしかしたらフィオレッタはそういう態度も慣れているのかもしれないが、完全に無視されているのがいっそ哀れに見えてくるからやめてあげてほしい。 

 

「こちらの変な人は、アンガスといってね、この街のギルドの長に当たる人だよ。あまりそうは見えないけど、それなりに偉い人ではあるんだ」

 

 心なしかフィオレッタはアンガス氏に対して冷たい。俺に対しても、他の、例えば先ほど会ったマーグとの対応とも違う態度だ。嫌っているのか? いや違うな、むしろ逆だ。これは甘えているんだな。多少雑に扱っても構わない相手、それを許してくれる相手だと、気を許しているのだろう。だってフィオレッタのすました顔からは、嬉しさがにじみ出ている。

 

「フィオレッタァ……。久しぶりなんだから、このくらいはいいじゃないか」

 

 しくしくと、自分で泣き声を表現しているアンガスだが、フィオレッタの態度に変わりはない。

 それに、ここがギルドの受付前であることを今更ながら思い出したらしい。手で仕立てのいい服を払うような仕草をしてごまかそうとしている。

 

「ゴートだ。はじめまして」

「ん、初めまして。私はアンガス。紹介の通り、このギルドの長を務めている。フィオレッタとは長い付き合いでね。キミはどうなのかな?」

「アンガス。こちらのゴートは私の客人だ。今日は彼の案内も兼ねて、冒険者登録をしに来たんだ。あまり変なことを言わないでもらえるかな?」

 

 何故かピリッとした雰囲気の中、受付をしてくれていた女性がおずおずとアンガスへと羊皮紙を差し出す。俺が先ほど記入したものだ。

 アンガスはチラリとそれを見て、ようやく俺を正面から見た。

 

「それなりに……できるようではあるみたいだが。フィオレッタとはどういう関係かね?」

「客人だが」

「いいかね、フィオレッタは森の魔女だ。この街の、いやこの国の守護者と言ってもいい。私も小さいころから見守ってきた……。なのに、今! 君という闖入者が客人だとのたまっている。これは……許せんよなぁ?」

「過激だな。いつもこんな感じか?」

「いや、今日はひと際だね。ほらアンガス、おかしな勘繰りはやめてくれないかな。ゴートは私が認めた客人だ。それ以上言うようなら、私だって怒る」

 

 フィオレッタに怒られるのは堪えるから、俺なら大人しくする。どうやらアンガスも同じだったらしく、先ほどまでの勢いをなくしてシュンとしている。

 

「そうそう、それよりも聞きたいことがあるんだ。ちょっと込み入った話になりそうだから、個室を借りられないかな?」

「それは彼についてかな? ま、いいとも、話を聞こう。2階の応接室を使おう。突き当りを奥だ。先に行っておいてくれ」

 

 何度か使ったことがあるらしく、フィオレッタが先導してくれる。応接室とやらは、毛足の長い絨毯が敷かれていて、さらに質のよさそうなソファが机を囲んでいる。なかなか豪華だ。俺の村の村長だってこんな立派な応接室は持っていなかった。中に入り扉を閉めて、どこに座ろうかソファを眺めてみる。

 

 それにしてもアンガスか。話していてなんとなく思ったことがあり、フィオレッタに聞いてみることにした。

 

「アンガスの話し方はフィオレッタによく似ているな」

「……どちらかと言えば、逆かな。私の話し方がアンガスに似たんだ。小さい頃は長いこと面倒を見てもらっていたからね。まあ、育ての親とも、言えるかな」

「だからそんな態度なんだな」

「うう、なんというか、気恥ずかしくてね。あの通りアンガスはストレートに感情をみせてくるから」

 

 わかりやすくていいと思うが、フィオレッタはフィオレッタなりに思うものがあるらしい。

 こんこんとドアがノックされ、アンガスが部屋へと入ってくる。片手にはトレイに乗せたお茶と菓子。

 

「さあ、そんな風に立ってないで、座り給えよ。すぐに終わるような話ではないんだろう?」

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