悲報、江戸川コナン犯罪者を取り逃す。
あの地の果てまで諦めなさそうなコナンが!?みたいな気持ちにもなるが、人助けを優先した結果らしいので仕方がないのだろう。
というかやっぱりバイクに追いつけるスケボーってなんかおかしくない?
…やっぱ博士が襲われた時俺も追いかければよかったか、という反省は次に活かそう。
追いかけてぶっ飛ばしてたら、少なくとも落ちてくるヘリと対峙することなどなかっただろうし、なんてことは考えるな。
「もしかしてあれか、サンデー買わなかったからか?っべー。でもなぁジャンプ派だからなぁ。や、好きですけどね俺も。猫夜叉もらんま五分の一も」
『もしもし?もしもし雪音くん!?なに言ってるかわかんないけどなんか危ないことしようとしてるよね!?もしかして外で聞こえるすっごいおっきいヘリの音と関係してる!?』
「んー、まぁあれだよあれ。あれだからほら…そっちは無事だからたぶん。…時間繋いどいて?」
明美さんの声を聞きながら、見据えるのは墜落中のヘリ。
入学手続き中に暇すぎて外を眺めていたら目に入っただけだったので、大人しく着陸するなら出しゃばるつもりもなかったが、大きくバランスを崩して落下というか墜落を開始した以上捨て置けない。
俺は適当にペンを投げ、担任になる予定だという先生と明美さんの視線がそこに吸い寄せられている隙に部屋を抜け出し、とあるものを引っ掴んでから屋上まで飛んできた。
「こーれ、ミスったら死ぬかぁ?」
範囲、切れるもの。
共に師匠には劣る俺では、残念ながらヘリを一度に解体するなんて芸当は不可能だ。
失敗すればよくて骨折、悪くてミンチ。
「でもよぉ!なんとかなるよなぁ!?」
学校の屋上に立つ俺を見て、無茶をやらかすと思ったのかコナンが何やらヘリの操縦席で血相を変えているが、もう止まらんよ。
ヘリが自分と同じ高さに来た瞬間、俺は緑色の防球ネットを持ったまま跳ぶ。
一歩間違えれば細切れにされかねないプロペラの風圧で体がぶれるも、体当りする要領で無理矢理ヘリの胴体に着地。
「っせぇー…のぉ!」
そこから、超高速で回転するプロペラをヘリから切り離し、空に向かって思いっきり蹴り上げると、ネットを手に持ったままヘリを一周し、屋上とは反対側のフェンスの支柱へ鎖を引っ掛けて飛び移る。
気分は忍者というよりスパイダーマソだ。
屋上とフェンスの間にはられたネット。
そこに絡まるヘリという、なかなかお目にかかれない光景を楽しむことなく、俺は
「んぎぎ…おっもい…!けど、捕まえたぁ!」
さすがの俺でもヘリを持ち上げ続ける力なんてない。
小学生なので。
でも、大事なのは一瞬対象が止まること。
あとプロペラ。
俺はフェンスの柱にネットを固定してから再び跳ぶ。
時間はそんなにない。
防球ネットはヘリを受け止めるためのものでもないので、うかうかしてると簡単に破れる。
だが。
「ヘリコプターがなんぼのもんじゃああああああい!!」
元々あった回転の力と落下による勢いで加速したプロペラを上空で引っ掴むと、勢いを殺すことなく振り下ろす。
というか、勢いをむしろ加速させるように巨大な
大人の力と刃渡りがないなら、外から持ってくればいいじゃない、みたいなね。
でも、やっぱ師匠の背中はまだ遠い。
ヘリとか簡単に落とせるからな、あの人。
「…まぁ、一件落着ってことで」
「落着…か?落ちてるけど…。というかなんでお前ここに?」
「小学校の入学手続きに来てたんだけど…もう転校しよっかな。ヘリ落ちてくるとか聞いてないし」
「…仲良くしような、ほんと…それしか言えねえけど…」
「なんだよ、爆発オチのほうが良かったのか?俺はもう派手すぎる入学デビューで学生生活失敗確定しちゃったから学校自体なくなっても良かったんだけど?ムカついてきたし今から焼くか…」
「めちゃめちゃ仲良くしような、うん!」
解体されたヘリの残骸がグラウンドに突き刺さるのを眺めながら、ネットの上でゆらゆら揺れる俺は、プロペラを5分割くらいにしてからグラウンドに投げ捨てる。
大人三人。
子供二人。
屋上とフェンスの間にはられたネットの上に受け止められた人数である。
「ひぃーっ、警部殿これ我々死ぬんですかね!?」
「も、毛利くん…とりあえず死んではないぞ…」
───防球ネットを透過して絡めとったヘリの外側だけを解体して中の人を救出。
これだけのことをしても、たぶん師匠のほうがうまくできたんだろうなと思ってしまうあたり。
雪音はちょっと師匠のことが好きすぎる、なんて話は。
本人が自覚していないので、誰にも知られることはなかった。
●
「あれがアクア・クリスタル…」
アクア・クリスタル。
海上に建つ城とも言うべきか。
金持ちの自己顕示欲丸出しなそれは、海洋娯楽施設というらしい。
「何とも…派手な建物ですな…」
「ふーん…趣味のわりぃ建物」
「なんでついてきたんだお前」
「うーん明美さん怖がらせた落とし前?眼の前で俺に親切にしてくれた人を傷つけたのがムカついたから?ヘリが落ちそうで身の危険を感じたとか…なんだろ、色々あるけど…」
「けど?」
「クソ迷惑な犯人ぶちのめしたいなって」
「私怨」
「ヘリ落とすような危険人物米花町にいてほしくねーよ」
「それはそう」
その後、派手な運転と共に登場した女に、よくわからん外国人、強面のカメラマンにキザな男が到着する。
名前は強面カメラマンのシシドさんしか覚えていない。
覚えてないというか聞いてなかった。
「お、すげぇ。俺の小便がハート描いてる。これはキッスの予感ですわ」
「お、何だ坊主。記念写真撮ってやろうか?」
なぜならシシドさんと立ちションしてたから。
「プロがガキの小便の写真撮るってマジ?おもろそう!撮って撮って、はいピース!いえーい!」
「ククッ、現像したら贈ってやるよ坊主!」
「ひひっ、超いらねぇ!」
「ははっ!だろうな!」
「いないと思ったら立ちションかよ!?しかも会話が最低すぎるって!連続殺人未遂事件に巻き込まれてる人間の会話か!?」
「何だよコナン。嫉妬か?お前の小便も撮ってもらう?」
「いかれてんのか!?」
「いかれてるかはさておきさ、シシドさんが笑い過ぎで死にそうなんだけどどうしよう。これ俺がこの事件の犯人になるやつかなやっべー」
「だははははは!」
「お前らほんといい加減にしろ!」
●
どうやらシシドさんたちは連続殺人未遂事件については知らなかったらしい。
でもまぁそんなことはさておき、料理評論家が恥をかかされ、ソムリエが襲われ、海の中に死体が捨てられてるのを発見した後。
殺人鬼がいる可能性があるなら避難しよういう話になったものの、降りてきたエレベーターが動かず、非常口のドアも閉まっていたので鍵開け(物理)を決行。
セメント程度余裕よ、なんて思っていたその瞬間、館内の電気が爆発音と共に落ちた。
まぁ、廊下やら天井やら巻き込まれそうな位置に仕掛けられていた爆弾は、最初にここに来たときにしれっと解体済みなので停電以外の被害は特にない。
「───いやぁぁ!」
暗闇に落ちた瞬間悲鳴が上がる。
周りがパニックになる中、俺の瞳にはなにが起こっているのかばっちりうつっていた。
モデルを殴り倒し、その上に馬乗りになるソムリエ。
「シシドさん声の方に向かってフラッシュ&連写ァ!」
「任せろ!」
俺は懐から短刀を取り出すと、殺意とともに振り下ろされるナイフを折ると、返す刀で手からナイフを弾き飛ばす。
あとついでに服も切り飛ばす。
「いやぁぁあああ!?変態!」
「なにいいいいい!?私の服が!?」
「おかしいな、犯人捕まえたのに悲鳴が増えたんだけど」
暗闇になった瞬間悲鳴を上げたのはモデルだ。
でも、複数の懐中電灯で明るくなったあと悲鳴を上げたのはソムリエとモデルの二人になっていた。
そして、明るくなった視界に慣れたのか、パンツ一丁のソムリエを見て他の大人たちが目をひん剥く。
「沢木さん!なんで服が!?」
「なにが起こっている!?これも村上の仕業なのか…!」
「違うよ!犯人はこの人なんだ!」
「いやそれより早く上行こうぜ」
「シシドさんシシドさん。ばっちり撮れた?」
「おうよ。証拠はばっちりだぜ」
俺はソムリエが持っていたリモコン(たぶん起爆装置)を手で弄びながらカメラを構えて得意げになるシシドさんと笑い合い、事件解決を確信して伸びをする。
その後、コナンの効き手がどうとか味覚かどうとかの推理が証拠の後押しをして、完全に罪を白日のもとに晒されたりしていたが、まぁ俺には関係のない話だった。
だって殺人鬼の気持ちとか知らんし。