グリモア〜私立グリモワール魔法学園〜なら遊佐鳴子が人生の推し。
おもひでアプリが配信終了決定して泣きそうなので初投稿です。
8月12日(金)
朝、双葉と二人揃って台所にいる佐倉さんに声をかけた。
「今日はふたり一緒か」
佐倉さんは妙に嬉しそうだ。双葉とうまく行ってなかったことで心配をかけていたのかも。
僕らの場合、喧嘩らしい喧嘩はしないから、端から見ていたら今どうなっているか分かりづらいと思う。
「飯できてるぞ」
「わあい」「ありがとうございます」
このところ、ふたりでいるとずっと手抜きメニューばかりなので本当に助かる。
慣れてる僕はともかく、双葉はパレスの件が堪えたのか本当に活動性が低かった。ベッドの上で半ば溶けていたところを、外に行かなければという意思で無理やりしゃっきりさせて今日は出てきているのだ。
「おー魚類だ」
「白身魚だね」
「いつも表記揺れする魚だ」
「生食時は横文字になるね」
「カラフトを感じる」
「確かチリ産だって」
「どこにでもいるな、こいつ」
朝食らしい朝食だった。
冷蔵庫コースだと外側のパリパリ感がなくなってしまうから、食べにこられる日に当たって良かった。
「味の感想はねぇのかよ」
「美味しいぞ?」
何を当然のことを、とばかりに双葉は首を傾げた。双葉はこういうお巫山戯がしれっとできる。絶妙に本気で思ってそうで、佐倉さんはどちらか判断つかなかったらしい。
「俺がおかしいのか…?」
ノーコメントで。
佐倉さんがいるとツッコミを放棄して良くなるので、つい。人前に出るときはちゃんとさせておくので許してほしい。
「ごちそうさまでした」
「皿もらうね」
佐倉さんからの視線が痛い。自分でやらせろの意だ。
いいじゃないか。今日は出てきただけで。出来ないわけではないのだし。流しに二人は場所がないし、かわりばんこにやるなら一人が洗ったほうが早い。
「何ていうか…お前ら変わらねぇな」
佐倉さんはしみじみと言った。
「変わらぬ味。伝統だから」
「創業15年」
「短い伝統だなぁ」
伝統を語るには桁が一つ足りなかったかもしれない。実際はもっと短いのだから笑える。短いを通り越して一瞬かも。
皿洗いを済ませて手を拭いた。特に持ち物はないので、空いた手で双葉の手を握った。迷子防止だ。
「俺は店に行くから」
「わたしたちも行く」
繋いだ方の手を上げたので、ビックリした。
佐倉さんは佐倉さんで別の意味でビックリしたようで、僕と双葉の顔を交互に見ている。
「……バイトか?」
「雨宮先輩に会いに行きます」
助けてもらったお礼と迷惑をかけたことへの謝罪と現状報告。それから、仲間に入れてくださいというお願い。こちらから出向くのが筋だろう。
などということは不用意に話せない話題だから、何も知らない佐倉さんは困惑気味だ。
「アイツと仲良かったっけ?」
「最近よく遊んでもらったので。ね、双葉」
「うん。遊んだ」
双葉も頷く。
双葉はこういう演技がしれっとできる。絶妙に本当にあったことみたいで、佐倉さんはどちらか判断つかなかったらしい。
「へえ、そういうもんか。
……あまり無理するなよ」
双葉と顔を見合わせる。
疲れた顔は隠せてると思ったのだけど。無理して出てきているのはしっかりバレていた。
三人で街を歩くなんて、僕らがこの街に来た時ぶりくらいじゃないだろうか。
佐倉さんが前で、僕らは後ろをついて歩く。三人が横一列は狭いので。双葉に握られた手はご機嫌な猫の尻尾みたいに振り回されていた。
「四軒茶屋、変わった」
「街は変わるもんだ。店も住んでる人も入れ替わってく」
「うん。一葉と歩いてて思った」
来たばかりだと思っている雨宮先輩だってずっとここにいるわけじゃない。
この相手は大丈夫か、なんて遠目から観察していたら何か始まる前に相手がいなくなってしまう。でも、人は基本的に変わり者を嫌うから、見極めの過程は飛ばせない。うーん、周りのスピード感について行けない。
「もう少しのんびりしてていいのにね」
「ね」
「隠居爺さんみたいな台詞だな。若者がそんなこと言っててどうするんだか」
拙速が尊ばれる世界に急かされているのだ。
僕らが悩んだり立ち止まったりしている間に、時間はあっという間に過ぎていく。時間は平等だけど、積み重ねを誤って修復なんかしていたら置いていかれてしまう。
「ま、人それぞれか」
佐倉さんが僕らを待てるのは、世界から少しだけ自分を切り離して、別の時が流れる空間の主になったからだ。
いつも馬鹿にしているけれど、ルブランが繁盛していないことには実のところ感謝している。不本意だろうし言えないけど。どう表しても馬鹿にしていると取られそう。
(雨宮先輩か…)
よく分からない人だ。いろんなペルソナを使ってるし。誰でもあり、誰でもない。
双葉がそこまで怯えないのは、そうした可変性があるからだと思う。彼もまた双葉みたいな一面を持っている。それが誰に対しても。この僕にさえ当てはまるのかも。とんでもないことだ。一種の才能だと思う。
(仲間に入れてもらえるかな)
どの面下げて、と思わなくもないけれど。
どこにも属さずにうろうろしていても埒が明かない。格好悪くても、素直に仲間に入れてくださいとお願いするべきだ。
だから大丈夫。ルブランが見えたあたりで僕は自分を説得しきれた。
「めちゃ緊張してきた…」
「え、今?」
ルブランに入る直前、双葉が僕の服の裾を握った。ドアをくぐるのに繋いでいた手を離したから、行き場を失った手が別の握る先を探していたのかも。
先を歩いていた佐倉さんはもう店の中だ。真夏の日差しのなか外で突っ立っているのも、それはそれで厳しい。退路を塞がれた双葉は僕を盾にしたまま店内に入った。
ドアが閉まると双葉は少しホッとしたようで、僕の真後ろからこわごわと店内を見回す。
誰もいない。開店前なのだから当然だ。雨宮先輩が待ち構えているなんてこともない。普通に屋根裏に居るのだろう。
玄関先でまごまごしていても仕方ない。階段の方に行こうとしたけれど、シャツの後ろが引っ張られて進めない。服が伸びる。
「だって、ここ家じゃない。むしろ、今は人ん家だ」
「そうだけど、ルブランは半分くらい家みたいなもんじゃない?」
「全然違う」
「そっか」
そんな敵陣に乗り込むみたいな感じじゃないと思うんだけどな。
先輩たちを家に招くときは平然としていたし、バイトに来る時も慣れたものだったから、これ程もたつくとは思っていなかった。雨宮先輩は双葉にとって比較的大丈夫な人なのに。
色々あった後で、もともと体力的に厳しかったのもあって、残存頑張れる量が少ないのかもしれない。
「……」
双葉の視線が厨房の奥と階段のあたりに交互に向けられている。
佐倉さんは気を利かせてくれているのか、双葉を焦らせるような素振りは見せず、着々と仕込みを進めている。
「行こうよ」
「無理」
「じゃ、今日は帰る? 何がなんでも今日じゃないとってことはないし」
「やだ」
待つしかないか。
佐倉さんには悪いけど。そっとしておいて、双葉の中での処理が終わったら進める…と思う。体感10分くらいのフリーズを経て、覚悟が決まったらしい。
「手」
「て?」
右手が捕まった。
「行くぞ」
「あ、うん」
今は行けるんだ。基準が謎だけど、気にしないことにする。
階段の半分くらいで、また双葉の足が止まった。何かと思ったら双葉の目線の高さが屋根裏の床の高さになったのだ。様子を窺っているらしい。これはまた10分コースかな、と思っていたら、上から呆れ声が聞こえてきた。
『お前らいつまでモタモタしてんだ?』
半目で見下ろすのは黒猫。
「ぉ、脅かすな、ニャンコ!」
『猫じゃねーし!』
猫の聴覚なら、僕らがルブランにやってきてからの一連の流れを全部聞いていてもおかしくない。つまり、結構な時間待たせた。
「なんかすみません」
先手必勝。こういうときは先に謝る方がいい。
屋根裏部屋は想定よりは暑くなかった。
下に効かせている冷房の効果だろうか。屋根裏=殺人的な暑さと決まっていると思っていたが、まだ居られる室温だ。
それと綺麗だった。
ボロいのはどうしようもないけれど、手入れがされている。いつも部屋を満たしていた手の施しようがない埃っぽさも、あまり気にならない。掃除力があるのかもしれない。
棚に飾られたよく分からない物品も綺麗なものだ。我が家の、というか双葉の部屋のフィギュアたちが埃を被っているのを放置していることを思い出して何となくバツが悪い。誰も責めてないけどさ。
勧められるままソファに座った。何も知らない人でも緊張しているんだろうなと伝わるくらい双葉はカッチンコッチンだ。
事前に話を主導するのは双葉と決めていた。言うことも決めてきている。…のだが、この調子だと多分飛んでる。
「ここで働かせてください!」
『メイドか!?』
メイドってなんだよ。
単刀直入というよりは言葉足らずな台詞になってしまった。
勢いだけはあるけれど、双葉に全部の話を任せるのは難しそうだ。流石にフォローを入れるべきだと思う。
「ふたりで相談したんです。色々知りたいことも調べたいこともあって、メメントスの奥に行かないといけないって」
「わたしも一葉も戦いには不向きだ」
双葉も冷静さを少し取り戻したようで、僕の手をぎゅっと握った。
「だから、わたしたちを怪盗団の仲間に加えてほしい。索敵とか支援とか道案内とか、そういうのができます」
「危険がある」
「承知の上です」
ベッドの上を占有していた黒猫が先輩の側まで寄ってきて顔を見上げる。
『仲間が増えるのは歓迎だ。優秀なナビゲーターがいれば、複雑なパレスでも迷わず進める。オマエもそう思うだろ?』
雨宮先輩は黒猫の言葉に頷いた。
「これからよろしく」
「よ、よろしくお願いします」
「ありがとうございます。ホッとしました」
許可が出た。
メジエドの件は仲間になれなくても何とかするつもりだったし、志を同じくして立ち上がった人間というわけでもない。外部協力者という立ち位置に収まるかな、なんて考えていたのだけど。
「僕ら、放っておくと双方好き勝手に認知世界を調べ出すので、纏まっていたほうがいいなって結論になりまして。断られたら、僕らだけでどうやるか考えないといかないところでした」
『変なところで思い切りいいなっ!
仲間にしてなんだが大丈夫なのか、こいつら』
そこは働きで示すべきだろう。もう好き勝手には動かないという点では信頼してほしい。
僕らがどれだけ貢献できるか分からないけれど、僕の“駅”歩きの脳内マップと双葉のペルソナのことを考えると、メメントスでの道案内は相当な精度でできると思う。
雨宮先輩たちと正式に連絡先を交換して、グループに入れてもらった。
すでによろしくない手段でもって知っていたのだけど、そこは区切りをつけるというか、儀式的な意味でのことだ。
その他、細々とした情報共有をした。僕のことは察しはついているけれど、双葉が普通にしているから、触れずにおこうといった感触だった。まあ、それでいいならいいか。変に扱われるよりはよっぽどいい。
一通り済むと、僕らは先輩と黒猫に別れを告げて帰路についた。
「つ〜か〜れ〜た〜」
慣れないことをして緊張したからというのもあるけれど、一昨日の疲れが残っているのもある。
基本的に僕らは体力が足りていないので、状況が許すならもう何日かはゆっくりしていたい。何ならちょっと筋肉痛だ。歩くたびに何か痛い。名誉のために言っておくと昨日からの残留分だ。若者なので。
「帰ったら昼寝するぞ」
「まだ午前だし、寝ると昼を食いっぱぐれるよ」
「でも眠い」
「分かる」
コンビニとかで何か適当に買って済ませてしまおうか。おにぎりとかパンとかアイスの類とかをいくつか買って、夕飯までに片付けるとか。うん、名案。
「コンビニ寄ろう。なんか食べないとダメだよ」
「声にやる気を感じない」
事実やる気がないだけだ。
お腹はすくし、食べなければならないから食べようと言っているだけで、別にあの料理を食べたいとか思ってない。何なら自分で買うものを決めるのも面倒に思っている。
「あんまり動かないタイプの変温動物になりたい」
「じゃ、わたしは深海性の甲殻類とかがいい」
少し遠回りして、大きな通りに面したところにあるコンビニに寄った。
「生き返る…」
おにぎりの棚の端から、嫌いなものだけ弾いて4個かごに入れる。双葉はちゃっかりキャラもののウエハースを追加していた。
「アイスいる?」
「棒じゃないやつなら要る」
真夏の棒アイスは溶けるスピードとの勝負になる。のんびり気分の日に買うものではない。カップアイスは両手がふさがるし、チューブのやつがいいか。二つ入っているやつを買って、分け合うことにした。
家に帰ってすぐ冷房をつけた。
何部屋もつけるのは電気代が勿体ない。いつも通り双葉の部屋にお邪魔することにした。
「猫になるかと思った」
「液体ってこと? 暑すぎたよね」
アスファルトが駄目だと思う。熱を吸収するくせにしっかり照り返しもある。オマケに夜には蓄えた熱を放出してくる。最悪だ。
ヒートアイランド現象だったっけ。最近の暑さはレベルが変わってきたと思う。小さい頃はここまでじゃなかった。
「アイス食べてる間だけ涼しかった」
「一瞬だったなぁ」
買ってきたものはまだ食べる気にならなくて、コンビニ袋のまま置いておくことにした。冷房が効いてくると眠気がやってきて、うとうとしてしまう。
「外は認知世界と同じだな」
「ごめん何言ってるか分かんない」
現実と、それを人の心が映した世界なのだから類似するところは多いだろう。何のことを指しているのか分からないまま、半分夢心地で双葉の話を聞いた。
「認知世界も居るだけでくたびれる」
「そうなの?」
戦うから疲れるのかと思っていたけれど。
「位相が違うから。本来の場所じゃないところにいるにはコストがかかるんだと思う」
「向こうにある物を持ち帰っても、現実では現実にありそうな物に変換されるみたいな話?」
「うん? それもそう。違和感が少なくて済むかたちに変わる」
言わんとしていることは分からないでもない。パレスからものを持ち帰ると、元のものとは違うものが出てくることがよくある。
それと同じような力が侵入した人間にも働いているというのは理解できなくもない。
「認知世界に人間がいるのはおかしいから、生命力や気力を支払って居させてもらっている、みたいな感じだ。たぶん」
ペルソナ使いなら認知世界にいてもおかしくないかたち(あの如何にもな衣装も含めて)になるから、認知世界でも平然としていられるということか。
そうなると、僕が現実世界にいるのってどうなんだろう。
この理屈で言えば、僕の中身は認知世界にいるのが正常だから、現実世界では妖精の分と合わせて二重課税されてるとかにならないだろうか。
「つまり、一葉は向こうでは変装したほうがいい。女装とか」
「却下」
「えー…」
残念そうにしないでほしい。
とはいえ、怪盗団に混じるのに僕だけ素のままを晒すのも問題か。変装に関しては、考えてもいいのかもしれない。
誰でもあるし、誰でもない。
雨宮先輩とは別の意味で、僕もまたそういう存在だ。
僕には自分がない。今は一人の人間であると定めているけれど、元々の僕が何にでも成り代われるものであるならば、認知世界において見せる姿はこの僕である必要はない。
(…なんか掴めそうかも)
次に向こうに行くときは試してみよう。
ここまでの冒頭性癖開示でビビッと来たことがある人は、是非ともグリモアおもひでアプリ4つを12日までにインストールして、何故か今も平気で続いているオンリーに参加してください。
そうでない人は、YouTubeでキャラソンを聴いてください。
もし気に入ったらグリモアくじを引きましょう。ソシャゲは蘇ります(駄目な成功体験)
一葉の読みですが、私は一葉という文字列として捉えているので音は問いません。何を当てても正解です。 気になるのであれば決めましょう。投票で多かったのが公式見解ということで、よろしくお願いします
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