私のトレーナーは、ウマ娘を殺すトレーナーと噂されているらしい。

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ウマ娘を殺すトレーナー

 

 

 

 

 

 私のトレーナーは、()()()()()()()()()()()と噂されているらしい。

 

 

 噂そのままに、実際にウマ娘を害したりするような人では決してないと思う。

 というか、もしそんな人だったとしたら、たとえこんな田舎のトレセンでもトレーナーには多分成れないだろう。

 

 私が思うにそんな噂がされるようになった理由は、トレーナーが担当してきたことごとくのウマ娘が全くレースに()()()()()()()からじゃないかなって。

 

「そこのところどう思います?トレーナーさん」

 

「その噂がそんなに気になるなら、どうして俺のところに来たんです?」

 

 噂も、私の疑問も、どうでもよさそうな顔をするトレーナー。

 横から見つめる私の方を一瞥もせず、パソコンに体を向けている。

 

「えー?トレーナーさんは良いんですか?こんなに可愛い担当バが他のとこに行っちゃって」

 

「貴方が望むなら」

 

「相変わらずつれないな~」

 

 二人で買いに行ったソファに、倒れ込む。

 

 普段から一切表情を変えないトレーナー。

 初めてこの噂を聞いたことを話したときは、多少動揺してた気がするんだけど。

 珍しく感情の変化が見て取れたからって、同じ話題を擦りすぎたかも知れないなー。

 

 それにしたって、トレーナーも強情だ。

 これだけ聞いてるんだから、噂の真相を話してくれたっていいのに。

 

 

「こんなところで時間を使ってて、いいんですか?」

 

 その言葉と共に、こちらに体をようやく向けたトレーナー。

 いつもなら、作業が終わるまで私がなにしても基本的に反応しないのに。

 

「卒業も間近だからさ、いいでしょ?」

 

 あまり、納得してなさそうな顔。

 ──卒業近くなって恩師と少しでも話したいって、そんなにおかしくないと思う。

 

 そのまま幾らか時間がたち、トレーナーはため息を一つついて、パソコンの方に向き直った。

 

「貴方が高校もトレセンに通うというなら、トレーニングの為にと理由をつけて、グラウンドにでも行かせたんですが」

 

 少し恨めしそうな顔をして、こちらを見てくる。

 ──私が内部進学をやめたのは、トレーナーの影響なんだけどね。

 

「そっか、そういえばそうだね。トレーニング、しなくていいんだもんね」

 

 不思議な気持ちだ。

 

 別に、毎日毎日真面目にトレーニングに励んできた訳じゃない。

 むしろ、不真面目な方だっただろう。

 

 

 ──走ることが生きがいの、ウマ娘としては。

 

 

「振り返ってみると、トレーナーってなんでも付き合ってくれましたよね」

 

「トレーナーは、ウマ娘のために在るものですから」

 

 そんな当たり前みたいに答えられる人、たくさんいないと思うけど。

 少なくとも、私はこの人以外見たことない。

 勉強や学校生活の悩みだけじゃなく、プライベートでの悩みまで、こちらから相談すれば全部答えてくれる。

 

「前から思ってましたけど、普通の先生みたいですよね。トレーナーって」

 

「……そうですか?」

 

「だって、受験勉強とかすごく手伝ってくれたじゃないですか」

 

「トレーナー室でずっとヒーヒー言われると、落ち着かないんですよ……」

 

「へへへへ……」

 

 あの時は必死だったから、許してほしい。

 ──中学からトレセンに入学したのに、まさか高校受験することになるとは、私も思わなかったんだから。

 

 

 

 

 

 それからしばらく、話すこともなくなって、茜色に染まるトレーナーの背中を眺める。

 こんな日々もあと少しと思うと、なんだかセンチメンタルな気分だ。

 

 

 パタンと、パソコンを閉じる音。

 これが、いつもの帰りの合図。

 

「それじゃあ、帰りますか」

 

「はーい」

 

 寝転んでいたソファから起き上がろうとしたところで、少しイタズラを思いついた。

 

「起こしてくださーい」

 

 横になったまま、両手を広げてトレーナーの方を向く。

 多分──無視か()()()でもして──先にトレーナー室から出ていくだろう。

 

 

 そう予想していたけれど、どうやら外れらしい。

 珍しく笑みを浮かべたトレーナーは、私の両手を握ってソファから引っ張りあげた。

 ──トレーナーが自分からこんな近くに来たの、初めてなんじゃ……? 

 

「卒業間近、ですからね」

 

 ずるい。

 そんな笑顔を向けてきて。

 ──寂しいなんて、思ってなかったのに。

 

「貴方と過ごしてきた三年間。俺にとっても、有意義なものでした」

 

 頬を伝う感触。

 

「貴方には、貴方の道が在ります。例え進路を変えたとしても、貴方の歩んできた距離が変わることはありません」

 

 顔を上げる。

 トレーナーは、変わらず微笑んでいた。

 

「頑張ってください。応援してます」

 

 少し冷たいこの両手に、春のような微笑みに、私も精一杯応えよう。

 

「はい!私も、()()みたいになれるよう、頑張ります!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




 最後まで読んで下さり、ありがとうございます。

 まず、タイトルに関しましては、ウマ娘というコンテンツにおいてふさわしいものなのかと、作者自身大いに悩みましたが、これ以外に適当なものが思いつかずそのまま投稿させていただきました。
 もし不快に思う方がいらっしゃったら、何かしら変更させていただくので、作者にお伝えください。

 本作は「走ることをやめたウマ娘」もしくは「走ること以外に可能性を見いだしたウマ娘」を支援するトレーナーも、いるんじゃないかという考えから生まれたものです。

 文字数も少なく、表現も稚拙かと思いますが、少しでも貴方が感じるものがあったのなら幸いです。

 改めて読了ありがとうございました。

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