「一緒にいる時間が長く感じるのは、君との時間が楽しいからだ」



1 / 1
駄文ですが、よろしければ。


不老不死の私。ロボットの君。

 

 

「人間が人間であるためには、何が必要だろうか」

「またそんなことを。あなたは本当に人間ですか?」

「私は人間なのだろうか」

「バカ言わないでください」

「私は人間なのだろうか」

「壊れたロボットみたいにならないで!」

 

 

 

 なんて悠長な会話だろうか。世界は終わりへ近づいているのに。

 

 

 

 

 

 

「君は本当にロボットかい? いつも思う。なんとも人間味溢れた考え方だ」

「ロボットも最適化を続ければ人間とほぼ変わらないですよ」

「これまた面白いね。何年経っても君は面白い」

 

「そう言っていただけて嬉しいです。が、誉めたからとはいえサボらないでください」

「こういうところが私を人間としているのか」

「やかましい。サボるから人間とは限りません。私だってサボりますよ?」

「そうか、じゃあ私はなぜ人間なんだ」

「また戻ったじゃないですか! めんどくさいですねぇ!」

「めんどくさいという感情はロボットも抱くのか」

 

 

 

 森で過ごしていた矢先だった。

 爆音が鳴り響いた。遠くで鳴っていた音がここまで届いたのだろう。低くおどろおどろしい音だった。耳を刺すような。

 

 森を出てみれば数百キロ先にある大都市には、大きなキノコ雲が生えていた。1本ならず2本、3本と。音の原因はきっとそれだろうと思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「君はなぜそんなに退屈なことを続けられるのだい?」

「あなたが家事をしないからですよ」

「ふむ。言われてみれば私は一日中天井にぶら下がった網状のものに揺られている」

「回りくどいですね。ハンモックといえばいいのに」

「数千年生きれば記憶が抜け落ちることもあるだろう」

「言い訳ですよ。私だって整備すればそのぐらい生きられるでしょうけど、絶対忘れませんから」

 

「記憶が抜け落ちるというのも、人間たらしめるのか」

「言い訳を論理に組み込もうとしないでください」

 

 

 

 彼女は数十年前にこの森に迷い込んできた。身体中ボロボロで、ロボ用スキンが剥がれ落ちていた。金属面すら凹みだらけで、処置も大変だった。

 

 どうやら彼女は宗教対立に巻き込まれ、迫害を受け逃げてきたとの事だった。なんとも興味深いじゃないか。近代的に発展した街でロボットが宗教について語り、それを人間から迫害されるなんて。

 そんな街は、爆弾が落ちるのも訳がわかるかもしれない。

 

 

 

 

 

 

 

「私は死ねない」

「知ってますよ」

「このまま自然と一体化したっていい」

「遊びながら言うことでは無いです」

「この遊戯は反吐が出る。腹の奥底から湧き上がるこの欠陥品対しての憎しみを何にぶつければいいのだ」

「木でも切ってきてください」

「たまにはそうしよう」

 

 

 何本もの鉄の曲がった棒が複雑に絡み合い、一見簡単に分解できそうなのに全く上手くいかない。精度の悪いおもちゃだ。力を込めても分解できないとは、不良品じゃないか。

 

 気分転換に久しぶりに森の空気を吸った。そういえば、あの都市の様子はどうなったのだろうか。数日前はキノコ雲が大きく街に刺さっていたな。

 

 

 

 

「……おぉ。何も無い」

 

 何も無かった。見る角度を間違えたかとも思ったが、奥に山があることは知っている。平原に広がっていた大都市は再び平原に戻った。

 

 

 

 

「なあ、あの街を知らないか?」

「また抽象的な。あの街って、百年前のあれですか?」

「百年……」

「……はぁ。どうやら不老不死さんは昨日の事のように思ってたようですね」

「そうだ。一昨日ぐらいまではあっただろう」

「自然の浄化作用を過信しすぎです。それも一昨日落ちた爆弾が1日2日であんな草原にはなりません」

「爆弾……あれは爆弾だったのか」

「記憶がまた抜け落ちてるんですか? 戦争ですよ」

「そうか……また戦争か」

「あなたにとってはそうでしょうね」

 

 

 

 また、時間を意識することなく進んでしまった。何度繰り返せばいいのだろうか。

 私は既に数百年をこの森で過ごしている。生まれたのはもっと前だ。長らく生きれば忘れることの方が多くもなる。

 だが、戦争という言葉は、何があっても記憶から抜け落ちない。

 覚えていたはずの、たった一人の人間は、戦争で亡くした。名前も顔も、もう思い出せないが、その事実だけは覚えている。

 

「……戦争は嫌いだ」

「……そうですね。私もです」

「また、世界は終わるのか」

「今回のは、酷かったらしいですよ。あの辺りも、もうどこにも人がいません」

「そうか……」

 

 

「……あなたには……私がいます。他の人がいなくなっても。だから、そう、気を落とさないでください」

「ん? 何を言っている? そりゃそうだろ」

 

「……」

「……?」

 

「……ちっ」

 

「いてえっ! ちょ、ちょっと何をする!」

「1回殺してあげますよ。まだ死ぬ痛み、知らないでしょう?」

「や、やめ! 許してぇ!」

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 1人の時間ができると、ふと思い出を探しに行ってしまう。

 

 私は、人間であるかを重視する。

 はるか昔から生きてきて、未だに記憶に残ってる人間がいた。アリスと言う女の子だった。

 私が年齢を数えるのをやめたのは、その子が死んでからだった。

 私がまだ旅をしていた頃だった。世界各地を巡って、表向きには名声と知識を求めて居た頃だった。

 

 私はとある町の、貧しいスラム街で一人。子供を拾った。

 親はおらず、ぼろ衣一枚でへたり込む女子。

 あまりにも見てられず、一滴だけ私の血を飲ませた。

 

 

 

 

 ……!!!! 

 

 目を、覚ましたかい? 

 

 ‥お、おじさん

 

 ……お、おじさんか。そ、そうか

 

 ……

 

 君、言葉は? 

 

 ……分からない

 

 

 

 簡単な言葉しか使えない子供を背負って、私は街を出た。

 どこか違う街の孤児院にでも預けようと思った。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「今度はなんだ」

「油を刺してください。背中とか、私届かないんです」

「君も手がかかるな」

「私が死んでもいいなら刺さなくてもいいですよ。あなたの感覚だったら数時間後に私は横たわって動いてないです」

 

「手がかかる子ほど愛おしいものだ。君と関わっている時間だけは世界が遅く感じる」

「……あんまり人といる時に遅く感じるとか言いませんが。まあ、あなたが言うなら褒めてるんでしょう。ありがとうございます」

「君は人なのか?」

「めんどくさいですね! そういう言い回しでしょう!」

「君は人なのか」

 

 

「いでぇ! な、無言で殴らないで!」

 

 

 

 

 

 

 薪を割り、ロボの元へ持っていく。機嫌を直してもらわねば困る。

 最近はよく働かされる。腰が痛むとでも訴えようか。全く痛くは無いが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ」

「なんですか? 今忙しいんですけど」

「そういえばだが、君は何故ここに居続ける? 大した理由もないもないだろう?」

「私に油をさしてくれる人はあなたしかいないんです。死にたくないからここにいます」

「ふむ。確かに」

 

「出て行ってほしいんですか?」

「君ぐらいの賢さなら一人で生きていけると思った」

「そう単純じゃないんですよ。貴方も、私とすら話さなくなったらとうとう人間じゃなくなりますよ」

「何故だ?」

「人は、人といるからこそ人間なんです。一人ぼっちの人間は人間じゃないですよ」

「君は人……いや、何でもない」

「成長しましたね」

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あの女の子は、非常に賢かった。学べばすぐ覚え、動けばすぐ物にし、著しい成長に私も目を張った。

 一人ぼっちの旅に、華が咲いた。

 旅で得た本やおもちゃを買い与える生活が数年過ぎた頃、もう何もなくなって彼女に一つの質問を与えた。

 

 

 

 ねぇ先生! 次は何をすればいい? 

 

 今日はこれぐらいにしておこう。充分勉強した。

 

 え~つまんな~い。

 

 仕方ない。それじゃあ一つ、哲学の勉強だ。今無理に答えを出さなくてもいい。

「人間」とは何だろうか。

 

 人間~? 

 

 

 

 私はアリスを悩ませるためにこの質問をした。暫くは黙っているだろうと思った。

 私の本当の旅の目的は、「人間」とはなんなのかだった。

 

 しかし、彼女はすぐに答えを出した。ペラペラと自分の意見を出す彼女に私は呆気に取られた。

 

 そして、すこし怒りが芽生えた。人生で初めてだった。ふつふつと湧き出る静かな怒りを、私は大人気もなく彼女にぶつけてしまった。

 私の旅の目的を数年しか生きてない子供に語られるのが、当時は気に障ったのだろう。本当に、馬鹿だ。

 

 

 私はアリスと口論をした。長年生きた経験にものを言わせて、彼女の理論をすべて否定した。

 

 

 

「何のために! 生きてるの!」

 

 白熱した言い合いの末は、彼女の言葉で終わった。私は負けた。何も言い返せなかった。

 

 その夜、アリスは帰ってこなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

「最近思うんです」

「君から話題を振るとは珍しいな」

「私は本当にロボットなのかって」

「君は人間だ」

「……それは何でです?」

「人間は……」

 

 

「すまない。言い切ることはできない。だが君は人間だ」

「最も、感情を持っているじゃないか」

 

「感情があれば人間なんでしょうか」

「動物だって感情を持っているじゃないですか」

 

「……君らしくないな。私のセリフのようだ」

「……あなたに影響されたんですかね」

 

 

 ロボは最近調子がおかしかった。何かしている時、ふと動きを止めることが多くなった。

 故障かもと思い色々調べてみたが、体のどこにも異常はなかった。

 

 普段ならはいはいと応じる検査にも、彼女は嫌がることが多くなってきた。

 

 

 私は、ロボとの会話に嫌な予感がした。だが予感の域を越えなかった。

 私は再び惰性の生活に戻っていった。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 

 

 アリスが帰ってこなかった夜。

 私は数日間何もしなかった。と言うのも、私にとっては数時間のつもりだった。

 きっと朝になったら帰ってくるだろうと思って寝ていた。

 人と関わらなくなると、時間は早く進むことを思い知った。

 

 

 ようやく探しに行こうと腰を上げた時、彼女は私の背後にいた。

 

 

 

 

 ……うわっ!? い、いたのか。

 

 ちゃんと考えた。

 

 え? 

 

 人間が何かって

 

 あ、ああ。いや、そんなに深く考えなくてもいいんだ。くだらないだろう。

 

 

 私は考えたの。だから、否定しないで。

 ちょっと前から不思議だった。何で死にかけだった私がこんなに元気になったのか。

 転んでもすぐ傷が治るのはなんでなのか。本に書いてあったことと違ったから。

 痛みが感じにくいのはなんでなのか。昔、あの町に居た頃はよく感じたのに。

 

 先生、私は試したの。

 

 

 右手に握られたナイフ。前腕をグルっと回った歪な傷の跡。

 血の気が引くとはこのことだった。

 

 

 

 

 先生。私に何をしたの? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はっ! は、っ。はぁ‥はぁ‥」

「だ、大丈夫ですか?」

「す、すまない。今は……」

「まだ夜です‥今日はすごく寝息が荒くて、すこし、様子を見てました」

「そ、そうか。ありがとう」

「い、いえ。私の使命ですから」

 

 

「ちょ、ちょっと!?」

 

 

 ベットの傍で私の様子を見ている彼女。本当に心配そうな顔をしていて、私はどこか思い出すものをみた。

 彼女の顔は、アリスにそっくりだった。

 わしゃわしゃと綺麗な髪の毛を触る。彼女は恥ずかしそうに手を振りはらう素振りを見せたが、やがて落ち着いて私の手を許した。

 何度も撫でたくなる艶のある髪の毛も。目をつぶった姿が子供っぽいのも。

 まるで、そっくりだった。

 私は無意識に彼女と住む理由に疑問を持っていたが、なんだが分かった気がした。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「最近は、ものすごく静かですね」

「君も奇妙な質問攻めをされなくていいだろう?」

「それが楽しみでもありました」

「ん‥‥本当に不思議だ」

「なにがです?」

「君のような女の子を、何百年も前に見た」

「……! ど、どんな子だったんです!?」

「お、おうおう。落ち着け。どうしたんだ急に」

「い、いえ。いや、どんな子だったのかと‥すいません急に」

「君らしくない。だが君らしくないことをするのが君だったな」

「また難しいこと言ってる」

「君は君だ。それ以上でもそれ以下でもない」

 

「私の名前、言えますか?」

「すまない。名前を覚えるのは苦手なんだ」

 

 

「もう!」

「私の名前は繧「繝ェ繧ケ.ᐣですよ!」

 

「……ああ。覚えておく」

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 アリスは、私の前で腕をもう一度切った。地面に片足を付けて思いっきりナイフが握られた腕を振りかざした。

 一度で切れるほど彼女の筋力も強くなく、何度も、何度も何度も振り下ろしていた。

 

 

 ぁ、ぁあ、ああっあああぅあああ! 

 

 切りつけるほどにアリスは悶える。

 私はつんざくような声を前に、切れた腕の断面だけを見ていた。血が垂れるわけでもなく、肉は再生を始めていた。

 

 

 

 ‥はぁ‥。は、ぁ。……これが、私。

 

 ああ。

 

 腕を切っても、またすぐに生えてくる。痛みも、あの町で親に背中を切られた時ほど痛くない。

 

 ああ。

 

 なんで? 私は人間じゃないの? 先生は人間なのに。ねぇ何で? 

 

 違う。君は人間だ。

 

 私が人間? これで? こんな腕が急に生えてくる化け物が? 

 

 ああ、君は間違いなく人間だ。

 

 なんで? じゃあ先生は? 先生は人間なの? 

 

 ……

 

 

 私は再び黙った。誰も私を人間だといったことはなかった。皆が人であることは当たり前の中で、私を人間だとも、人間らしいといった人も出会ったことがなかった。

 私は分からなかった。生まれも育ちも、何も覚えていない。気づけば旅に出ていた。

 人間とは何だろう。私はアリスが体を張って思考した時間も、惰性で寝ていただけだった。彼女の意見すら忘れてしまった。

 考えることを放棄していたのだ。私はそんな自分が人間らしいとは思えなかった。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「お~い」

「んあ?」

「お昼ですよ。今日は鍋です」

「もう外は冬なのか?」

「そうです。ちなみ、あなたが言うあの街が滅んだのはいつですか?」

「あの街か? まだ1か月前ぐらいじゃないのか?」

 

「……でも前よりはひどくないですね。半年前ですよ」

「半年‥‥」

「大嘘です。半年どころじゃないですよ。日記でも書いてみればどうですか? 日にち感覚が付くんじゃないですか?」

「確かにな。ペンを取ってくれないか」

「ずっと寝たきりでしょ~! 動いてください!」

 

 

 

 うが~と情けない声を出しつつ、ペンを執る。ふと外に出てみれば、確かに雪が降っていた。倉庫に積もる雪はふっくらしていて、季節の流れを感じた。

 薪の貯蓄も少ないなと、腰を痛めつつ斧を振り下ろした。

 

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

 

 アリスが腕を切ってから、半年は会話した記憶がない。

 全て無言で、私が荷物下ろせばの野宿する合図。止まれば休憩の合図。弓を持てば狩りの合図だった。

 彼女の顔の煌めきはそれから見なくなった。私の前を意気揚々と歩く背中はもうなかった。

 

 私はその雰囲気がすごく嫌だった。

 

 

 

 だからこそか。とある町に寄って彼女に向けてプレゼントを買って仲直りをしようとした。

 喧嘩も仲直りも考えてみれば人生で初めてで、どういえばいいのか分からなかった。

 

 

 そ、その。アリス。

 

 ‥‥

 

 こ、これを……

 

 ‥‥!?!?!? な、‥‥

 

 ご、ごめん。君が私に抱いてた感情を無視して、君の意見を頭ごなしに否定してしまった。君の考えも素晴らしいと認めるべきだった。

 本当はもっと早く言うべきだった。すまない、

 

 

 ……ちょ、! これ、こ、これって! せ、先生!? ま、まだ早いわよ!! 

 

 そ、そうか。時間が必要か。本当にすまない。また、今度言うよ。

 

 ちょ、ちょちょちょっと! 先生はこれの意味わかってるの!? 

 

 ……? 謝罪の印だ。他に何でもない。

 

 ……は? 

 

 ……君が腕を切って心も体も痛めてた時、私は考えることを放棄していた。すまない。

 

 ‥‥はは。

 

 

 ‥‥えっ痛! ちょ、痛い! な、殴らないで! な、なんでだぁ! 

 

 

 

 

 謝罪には指輪を使った。綺麗な装飾もあったので、きっと似合うだろうと思って買った。

 そういえば、こんなこともあっただろうか。懐かしい思い出だ。

 

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ほら、あっち」

「あ、ほんとだ」

 

 

 

 大きなきのこ爆弾が落ちたあの土地には、新たに村が出来ていた。

 遠くからじゃよく見えないが、雪解けに彼らも喜んでいるのか。何やら祭りをしているようだ。村一番の大きさの教会には旗が立っているように見える。

 

 

「時間が経つのも早いんですね。もう村が出来てますよ」

「あんなに近未来的だったのに、また村からか。人間はすごいな」

 

「あなたも人間でしょ。ちゃんとヒゲも伸びてきたし」ジョリジョリ

 

「‥‥」

「なんで黙るんですか。貴方も人間ですよと言っただけなのに」

「ああ、初めていわれたよ」

「そんなことも、まぁ。普通はこんなこと言いませんもんね」

「ああ」

 

「ああっ! 何で泣いてるんですか! 私そんな気に障ること言いましたか!?」

「いや、違う。ああもう、村の勃興に感動したことにしておいてくれ。すまない」

 

 

 肩をさすられながら森へ帰っていった。

 初めて人間と言われた。いや、もしかしたら、もう一回だけ、誰かから言われていたかもしれない。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜〜

 

 

 

「ロボットが人間を好きになることは、あり得ると思いますか?」

「突然だな。そしてまた斜め上の角度からの質問だな」

「たまには私からでもいいでしょう?」

「そうだな。ロボットの恋か。分からないな」

「ただのロボットは無理だろう。それこそ、君みたいに賢いロボットなら可能なんじゃないか?」

 

「……ッ! そ、そうですか……そうですよね……」

「なんだその顔は、ニヤニヤして」

「いいえ? なんでもありませんよ。ほら、雪も溶けたんですし、薪でも切ってきてください」

「はいよ」

 

 

 春一番に切る薪は少し風流だった。1本1本を切る時間が長くなっている気がした。切る速度が下がったのか。もしかして私が年老いたのか。いや、不老不死に限ってそれは無いな。

 

 

 

 

 〜〜〜〜〜〜

 

 

 なぁアリスさん。

 

 何? あなたは動かないで。そのままよ。

 

 うーん。うーん……

 

 私の膝枕、そんな嫌? 

 

 なんだか、不思議だ。つい先日まで喧嘩してた気がするのに、こうして密着しているなんて。

 

 つい先日って……。その喧嘩はもう半年前よ。

 

 そっかあ……。

 

 今度また街へ買い物しに行くから、欲しいものがあったら言ってね。

 

 ん。

 

 

 森の中の野宿。慣れたものだ。だかこの枕には慣れない。

 ふと地面が硬いなあとか言ったばかりにこの始末だ。

 でも、悪くは無い。これもいい経験ということにしよう。

 

 

 

 あなたは本当に人間よね

 

 ……どうしてだ? どうしてそう思う? 

 

 そんなにがっつくことかしら。

 だってほら、先生は成長するじゃない。旅をして色んな経験をして、物事にそれぞれに自分の考えを持って。先生がたとえよ? どんなに長生きでどんなに人間離れした能力を持っていても、心が人間なら先生は人間よ。

 

 かくいう私も、人間ならとっくに死んでる年齢よ。先生の血が一滴入っただけでこうなるなんてびっくりだわ。

 

 

 ……そうか。ありがとう。

 

 うん。だから安心して。涙だって、人間である証拠よ。

 ''繧「繝ェ繧「繧ケ''、愛してるわ。

 

 

 

 

 

 

 ああ、そうだ。もう1人いたんだ。私に人間だと言ってくれた人は。

 心が人間なら、人間なんだ。私もそう思う。これを、あのロボにも言おう。

 

 私は、思い出している。今、思い出せなかったことを思い出している。

 過去の記憶を。亡くしたはずの記憶を、思い出せている。

 これも、あのロボがいたおかげか。彼女の名前も、思い出せるだろうか。

 もう一度、聞きたい。名前を、聞かなければ。

 

 

 

 

 

 

 

 目を覚ました。夢の中であった記憶が不思議と鮮明だ。

 彼女だ。ロボットの彼女の名前を聞かなければ。

 そうしてベットを飛び起きて、家中で彼女を呼んだ。

 名前は分からない。だからずっと「おーい」と呼び続ける。

 彼女の部屋にも、リビングにも、倉庫にも、彼女が1番居たキッチンにも。

 どこにもいなかった。

 

 ふと、テーブルに置いてあった置き紙を見た。

 

 

 

「少し、旅に出ます。絶対、絶対帰ってくるので、隣に置いてある日記でも書いて、帰ってくるのを待っててくださいね」

 

 

 

 

 そうして私は手に日記を取った。日記は今まで見てきたどの本よりも分厚く、何千、何万枚もの紙がはさまれていた。

 最初の方には彼女の手書きで日記が綴られている。天気、気分、やったこと、そして私の様子。それが何年、何十年、何百年と書いてある分が挟まれている。これは、私と出会った時から書いていたのだろうか。

 1枚1枚を丁寧に、丁寧に読み込む。これ程頭を使ったのも度の時以来かもしれない。

 

 

 

 

「あの人は名前を教えてくれません。名前を忘れたなんて適当なことをほざいています」

 

「あの人は鍋が好きなようで、鍋だよと呼ぶとちゃんと食べに来てくれます」

 

「あの人は私の名前を呼んでくれません。でも、いつか絶対覚えさせます」

 

「たまに、昔の傷が痛みます。私は人間なのでしょうか。あの街で受けた傷は、体だけ傷つけたわけじゃない気がします」

 

「あの人が、ロボットとの恋はあると思うと言ってくれました。凄く嬉しいです。いつか絶対、私の思いを伝えます」

 

「たまに、私の記憶じゃないものが頭に浮かびます。誰でしょうか。不具合でしょうか」

 

「最近、あの人の時間感覚が遅くなってきています。普通は時間が遅く感じるのは、あんまり良くないことですが。あの人の遅くなっているは、その時間が大切だから遅くなっているんじゃないでしょうか」

 

「私といる時間が遅くなれば、嬉しいです」

 

 

 

 

 

 

 私は1枚1枚を何日もかけて読んだ。声に出して読んだ。

 常に持ち歩いて、薪を切っている時も、体を洗っている時も、いつなん時も日記を手放さなかった。復唱して、絶対に忘れないものにした。

 

 

 そして私もその続きを書き始めた。天気、気分、やったこと、彼女のいない生活の様子。

 初めは決めたことを書くだけなのに難しかった。

 1日1日を意識することが本当に大変で、昨日と今日を切り離す努力は人生でいちばん大変だっただろう。

 最初は短かった文も、何百年ぶりと書き続ければ思い出す。かつて本を書いた事もあった。読みやすい文を書くには何年ともかかったかもしれない。

 

 

 

 ……何年。何年もたったのだ。この日記を描き始めて、もう何年も経った。

 当初用意されていた紙では足りず、自分で紙を用意して挟んでを何日も繰り返した。

 なぜ帰ってこないんだろうか。彼女が帰ってこない理由は何なんだろうか。

 その理由を問いかけようとしても、問えるのは自分だけしかいない。

 

 彼女は何をしに旅に出たんだろうか。思いを伝えるだけではダメだったのか。私にはそれでは足りないと思ったのか。

 

 

 

 私はふと記憶に耽った。自分の記憶に答えがあるかと、また目を閉じて瞑想を始めた。

 

 

 

 

 

 

 旅は長かった。

 何年も、それこそ何十年もしていた気がする。彼女を共にしてからは1日1日が長かった。

 でも、彼女の左手の薬指にはめた指輪が、そんな長い1日を優雅にしてくれた。二人の時間は、何よりも楽しい時間だった。何をするにも二人は一緒だった。はずだ。

 

 

 

 ねぇあなた。次はどこに行こうかしら。

 

 アリスの行きたい所へ。

 

 そうね。でも、あなたが行きたいところが私の行きたいところなの。

 

 

 

 

 その1ヶ月後。アリスは死んだ。

 天寿を全うした、訳では無い。殺害された。

 私たちが止まっていた宿が、燃えた。

 その街が、燃えた。

 

 

 街は戦争の一端に巻き込まれた。行き先を考えてと言われて、空を眺めて考えてる内に、その街は燃えた。言葉の通り、私が街の外で空を見ている間に、街は全て燃え尽きてしまったいたのだ。

 

 私はその考えている時間をたった数時間のように感じていた。ここでも、私の寿命による悠長さが仇となった。

 

 

 アリスは私の血を一滴飲んだだけだった。普通の人間から100年弱は長く生きた。だが、それは完全な不老不死とは違ったのだ。

 必死に探して、血眼になって探しても、宿の焼き跡から出てきたのは彼女に渡した指輪だけだった。他に、彼女を思い出せるものは何も無かった。

 

 

 私は、そこでパッタリと思考を辞めた。

 何年彼女と過したかも、何をして過ごしたかも。そもそも彼女のことも忘れれば、私の想いは無くなると思った。この憎しみや怒りは何処にもぶつけてはならないと思った。

 

 なぜ思った? なぜ憎しみをぶつけては行けない? なぜ怒りを押さえつけなければいけない? なぜ私は不老不死なんだ? 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 目が覚めた。あまりに嫌な思い出をぶり返した。なんで戦争が嫌いなのか、色々と思い出した。胸がやけるような痛みを感じる。

 外を眺めると、まだ春だ。小さな命の息吹が吹いている。木の家にも自然と一体化しようとする力が働いている。

 

 

 ……いや、これは私の知っている春なのか? 瞑想する前の春と、この春は一緒なのか? 季節が何巡したのか、分からなかった。

 

 家の中を見ても、何も変化は無い。彼女も帰ってきていなかった。

 しかし、明らかに積もった埃は時の流れを知らせてくれた。

 胸の痛みは、いっそう深く尖ったものになった。

 

 

 私は何故アリスのことだけを覚えていたのだろうか。

 きっと、初めてを沢山くれたからだろう。喜びも、怒りも、哀しみも、楽しみも、全て彼女がくれた。

 

 私はなぜアリスのことを忘れていたのだろうか。

 きっと、終わりを沢山知らされたからだろう。愛も、時間も、命すらも、彼女で終わりがあると知ったからだ。

 

 

 その衝撃は、本当に大きかった。

 そこから数百年の記憶が無いのも、人の名前が覚えられなくなって、旅を辞めたのも、ロボの名前が聞き取れないのも。アリスを失った記憶が閉め出しているのだろう。

 

 もう辛い思いをしたくないから。きっと臆病だったんだ。

 

 

 

 

 夜になった。

 時間の流れが非常に遅い。一分一秒を意識すればこれ程遅くなるのかと驚いた。瞑想から覚めてとっくに数日経った気分だった。

 

 ロボがいることが当たり前だと感じてた時間はあっという間だった。何故いるのかと感じてから、段々と時間は遅くなって、今では一日が数年にも感じる。

 

 

 彼女に会って話そうということは何遍も考えた。

 君の存在が、知らず知らずのうちにすごく大切だったこと。君がいた時間が、私の人生にはとても濃くて大切だったこと。

 君が、ちゃんと人間だということ。

 

 

 もう何年も帰ってこない君を、ずっと思い続けようと決心した。

 

 日記にはそれから毎日書いた。

 自分は人間であると信じてること。君の思いが知りたいこと。

 自分の記憶のことも書いた。

 かけることは全て書いた。1枚じゃ足りずに一日の日記が数枚に及ぶこともあった。

 

 季節は進んだ。命の風が根をはり、新緑の森を創造する。湿った夏風はこの家も豊かにしてくれた。

 

 いなくなって廃れた家事は私がやるようになった。掃除もご飯もちゃんと作って、人間らしい生活を送るようになった。時間感覚も人間に近づいてきたと実感した。

 人間の生活はなんとも退屈で、窮屈で、何も変わらなかった。

 ただ、そんな生活を初めてすると不思議と楽しめる。日記を書くことを生き甲斐とすれば、彼女を待つ時間は苦ではなかった。

 何十年も、何十年も待った気分だった。

 

 

 夏が終わり、落ち葉が増えてきた頃だった。

 

 

ただいま〜! 

 

 遠くから人の声がした。自分以外の声なんて数年ぶりだった。

 直ぐにその方向を向けば、落ち葉で転ぶ彼女がいた

 彼女はすぐに立ち上がって、曇りない笑顔でこちらへ走ってくる。

 落ち葉がまだ髪の毛についてるよ。

 

 

「ただいま! 起きてたんですか!?」

「あっ! 、あー、あう。あえと」

 

 久しぶりの発声、彼女が帰ってきたことへの歓喜、言いたかったこと。全部が裏目に出た。何も言えなかった

 

 

「お、おか、おかえり」

「なんですかその声はっ、はは、あはは!」

 

 

 私の記憶のロボより、もっと可愛く、記憶のアリスのようだった。髪は短く切られており、彼女の印象は一新された。

 

 

「その、ほんとに、おかえり」

「えっ、ちょ! 泣くんですか! まだ何も言ってないじゃないですか!」

「何年も、帰ったこなかったから」

 

 鼻をすすりつつ、何とか彼女に思いを伝えようとする。

 時間の流れを自分の中でしか感じることしか出来なかった。

 長すぎた時間は思いをさらに強くした。

 

 

「な、何年も?」

「何年も」

「今年の春の最初に出て、同じ年の秋に帰ってきて?」

「……?」

「まだ、年越しすら、してないですよ?」

「……?」

 

「も、もしかして」

「私のいない日が、そんなに長かったんですか??」

「……」

「もしかして、あの日記、ちゃんと書いててくれたりしました??」

「……」

「もしかしてもしかして、家事とかやってくれてたり……?」

「……」

「え〜! ええ〜!! あの怠け者の不老不死さんが〜!?」

 

「結婚しよう」

「へっ?」

「結婚しよう。今」

「……へへ、へへへ?」

「君は人間だ。君は人間の他ならない。人間の心を持とうとして、私に恋心を抱く君は素敵だ」

「こ、恋心っ」

「もっと真面目なことを話したかった。涙流れて止まらない話をするはずだった。でももういい。結婚しよう」

 

「そ、それはっ、私の台詞……」

 

 

 彼女は私にとっての旅を知らない。

 旅は新しいものを得て、古きものを失う、そういうものだ。

 彼女が旅に出ると言ったことを公開させてやりたい気持ちは山々だが、今は帰ってきてくれただけでいいんだ。

 

 

「わた、私だって、言いたいこと。沢山あるんです」

 

「私は人間なのかってずっと悩んでました。人間ならあなたのことが分かるかもしれない。なんで助けてくれたのかも、教えてくれるかもしれない。あなたが名前を覚えてないのも、助けれるかもしれないって」

 

「人間なら、好きになっても良いのかなって」

「ロボットが恋するなんて、許されないだろうって思ってましたから」

 

「私には色んな人のデータが入っています。その人々の中に、あなたに関する記憶もあったんです」

 

 

「……!? それはっ、それは!」

 

「アリスさん、の記憶です。私の名前は思い出してくれましたか?」

 

「……それを聞きたくて、君を待っていた」

 

「そうですか。私も''アリス''って名前なんです」

 

「……!! アリス……アリスか……アリス……」

 

「あなたとの記憶が点々とあって、色んな感情もありました。あなたへの好印象が記録されてて、ロボットのアリスがあなたの事を気になるのもプログラムなのかと、気が滅入ることもありました」

 

「でも、1人旅に出て気づいたんです。今の私は私、昔のアリスさんはアリスさん。別々に、その時のあなたを好きになったんだって」

「きっと、運命なんでしょう」

「実際、今のあなたが私に人間だと言ってくれて、結婚しようって言ってくれて、はっきりしました」

 

「私からもお願いします。私と結婚してください」

 

 そう言って彼女は服から小さな箱を取りだした。上下に分かれるようで、アリスはその箱を開けた。

 

 

「……こういうのは男にやらせるものじゃないのか?」

「うーん。私が居なくならなきゃずっと寝てたんじゃないですか?」

「それもそうかもしれない」

「早く受けとってください。アリアス?」

 

 

 

 アリアスという名前を呼ばれて、私は自分が何者かを知った。

 最後の一ピースがハマった感覚だった。アリスから人間だよと言われた時、モヤがかかったあの言葉は、私の名前だった。

 あの時のアリスは、私を愛してると言ってくれていた。

 また涙腺が緩む。何年生きた老人であろうと、涙は出るものと経験した。

 この経験が生かされる時は来るのだろうか。

 

 

「アリアス」

「そう。あなたはアリアスだって、記憶を掘り返したんですから」

「ありがとう。手を出して」

「なんで私に嵌めようとするんですか。もう私はつけてますよ。貰ったんだからつけてくださいよ」

「あそっか。もうつけてるんだ」

 

「あなたを信じてましたから」

 




設定については書ききれないので、コメント等で来た疑問点や矛盾点は答えます。すみません。
ここでは感謝だけを述べさせて頂きます。
最後まで読んでくださり、本当にありがとうございます。荒削りも荒削りで、一昨日に書き始め、見直しもせずポイと投稿した作品です。こんな作品でも楽しめたなら光栄ですし、楽しめなければ申し訳ありません。
オリジナルで書いていこうと思うのでまた気が向いたら様子を見に来て下さると嬉しいです。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。