リビングドール・リスタート   作:森のきのこ

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大魔王様

 魔族。

 それは明確に人類とは違うものとして扱われる存在。

 何が違うのか、と聞かれると、見た目としか答えようがない。

 

 魔族というのは見た目が人類とはほんの少しだけ、何か違うだけで人類とは違うものとして扱われた。

 

 例えば、おでこ辺りに生えてくる角、だったり、そう言った人類との小さな違いが魔族としての判断基準として取り扱われた。

 

 一つ違うだけで彼らは排斥され、外へと追いやられた。

 

 そうしてそう言った者たちが集い、大魔王という存在が生まれた。

 

 結局、英雄と大魔王という文化は、差別が生んだくだらないものなのだ。

 

 ……まぁ、だからどうしたという話でもある。

 こんな事を考えてしまうのは大魔王の居城にいるからだろうか。

 

 しかしここは不思議な場所だな。

 

 

「なんだあれ……」

 

 

 黒いレンガで構成された廊下。

 俺はウィリアムの後ろをついて歩く中で、自然とそう呟いていた。

 

 と言うのも、この廊下を照らす光源が、天井から吊るされている物体なのだ。

 見たことのない物体を見て、俺は思わず呟いてしまった、というわけだが。

 

 マジでなんなんだろうか。

 火、が灯っている感じではないし、魔法とか魔術とか、そっち系の分野でもなさそうだ。

 

 

「どうかなされましたか?」

 

 

 ふと、隣を歩くメイド姿の女性が俺の顔を見て聞いてきた。

 そこでさっきは気づかなかったが、前髪に隠れて小さな角が生えていることに気づいた。

 

 どうやら魔族のようだ。

 

 少しどうするべきか悩んだが、ここは思い切って聞いてみることに。

 

 

「あの光源は一体なんなのかな、と思いまして」

 

「……なるほど。自立して動くリビングドール、と言うのは本当みたいですね」

 

「ああ。自ら考えて、自ら行動する。ただ保有している知識が何処の記憶に依存するのか……」

 

「わからない、と?」

 

「これから調べる予定さ」

 

 

 いくら調べてもわかんないと思うけどな。

 だってそもそも『俺』と言う自我が確立されているのだ。

 

 体に染み付いた行動記憶でも、見て覚えた知識記憶でもない。

『俺』という人間が持っていた記憶なのだから。

 

 で、結局あの光源はなんなんだろう。

 

 気になって見ていると、メイド姿の女性は答える。

 

 

「あれは電球と言うものです。文化革命によって齎された技術の一つです」

 

 

 文化革命……? 聞いたことのない言葉に俺は思わず首を傾げる。

 

 一体、俺が死んでから何年経過したんだ? 

 死んでいた間に何が起こったんだ? 

 

 だが当然、考えたところで分かることは一つもない。

 

 

「聞いたことはありませんか?」

 

「ない、ですね」

 

「ふむ。なら素体は文化革命以前の──」

 

 

 歩きながらまたブツブツと呟き始めるウィリアム。

 

 まぁ、彼はほっとくとして、どうせならばと、ここは無知を装いメイドさんに色々聞いてみることにした。

 

 

「あの、ここって一体、何処なんですか?」

 

「エルバート博士からお聞きになられていませんか?」

 

「いえ、何も」

 

「彼は優秀なのですが、どうにも──……そうですね。何処からお話しましょうか」

 

 

 メイドさん曰く。

 やはりここは大魔王の居城、要するに大魔王城というやつで、大魔王軍の本拠地というわけだ。

 

 そして俺はウィリアムが大魔王から出資を受けて作られたものらしい。

 

 

「彼は大魔王様にとある筋から連絡を取って、ある頼み事をしました」

 

「頼み事……?」

 

「リビングドールの研究の出資をして欲しい。引き換えに知能を持つ人形を生み出し、技術、知識、その全ての譲渡を約束する、と」

 

「それで生まれたのが、私……」

 

 

 ……いや、何やってんだこいつ。

 本格的に人類の裏切り者じゃん。

 

 現代の英雄に殺されてもおかしくないほどの裏切り行為を働いている。

 実際、俺という存在が生まれてしまった。

 

 つまり大魔王軍は人形兵器──即ち、命を持たないが人間と同等の力を持つ存在を生み出したことになる。

 

 量産法、そして知能をも増殖させ、植え付ける方法が確立されてしまえば、それは人類側としては非常に恐ろしいことだ。

 

 ……俺は、どうするべきだ? 

 

 かつて英雄はだった身として、人類側に協力するためにウィリアムを、こいつをここで……。

 

 それとも、このまま魔王軍のお膝元で生きていくか。

 

 俺には選択肢がある……はず、多分。

 

 色々と考えていると、メイドさんは気になることを呟いた。

 

 

「しかし正直言って、状況は最悪としか言えませんね」

 

「最悪、ですか……?」

 

「博士、彼には……いわゆる、ライバルと言える者がいるのですが、彼もまた知能を持つリビングドールの生産に成功したというのです」

 

「……それって、タイミング的に」

 

「ええ、そうです。嫌がらせ、というやつでしょう」

 

「……メイドさんは、その人が本当に開発したとお考えですか?」

 

 

 メイドさんは少し驚いたような表情を見せつつも、俺からぶつけられた疑問に答える。

 

 

「難しいところですね。あの方は……些か、読めないところがありますから」

 

 

 なんだか先行きが不安になってきたぞ。

 ウィリアムは自分の世界にいるようで何も聞いていないし、めんどくさい事にならなければいいのだけども。

 

 と、ちょうど話を終えたところで巨大なドアの前に着く。

 ドアの前には数十人の兵士が待機しており、顔は前を向いているものの視線はこちらへと向けられていた。

 

 警戒一色、歓迎されているって感じではない。

 

 

「エルバート博士」

 

 

 メイドさんが名前を呼ぶも、ブツブツと考えているとウィリアムは答えない。

 と、ため息一つついたメイドさんは、強烈なビンタをかました。

 

 

「ほんぎゃっ!?」

 

 

 強烈な一撃に俺は思わず、ひぇっ、と声が漏れていた。

 

 

「エルバート博士、着きましたよ」

 

「え、あ、ああ……つ、着いちゃったか」

 

「ご健闘、お祈りしています」

 

 

 その視線は俺の方を向いていた。

 俺は小さく頷いて、ウィリアムの隣りに立つ。

 

 ギシッ、という重低音が辺りに響くと同時に、目の前に立っていた巨大な扉が開かれる。

 

 そうして開かれた扉の向こう、最初に目に入ったのは2m強の大男の姿だった。

 

 短く切り揃えられた黒い髪に、禍々しく漏れ出る強力な魔力。

 整った端正な顔立ちに、今にも睨み殺せそうな鋭い目つき。

 

 俺がかつて戦った大魔王に負けず劣らずの威圧感。

 だが見た目的にはまだ若そうだ。

 見た目的には、な。

 

 そしてそんな大男の両脇には、複数人の魔族がこちらを見ていた。

 

 ……なんか見たことあるような顔がいるような気がするが、きっと気のせいだろう。

 気のせいであって欲しい。

 

 ウィリアムは前へと進んでいくと、大魔王の前で膝をつき震える声で挨拶を始めた。

 

 

「だ、大魔王さ──」

 

「挨拶はいい。本件に移れ」

 

 

 だが、挨拶の『あ』の字が出る前に言葉を遮られてしまう。

 大魔王サマはどうにもお忙しいらしい。

 

 その言葉にウィリアムは震えた声で続ける。

 

 

「はっ。知能あるリビングドール、その第壱号機がこちらになります。名をアインと──」

 

「ほう。それが、か」

 

 

 俺の顔を見つめる。

 それに対し俺は一瞬見つめ返すも、取り敢えずここはウィリアムのマネをしておくことに。

 

 膝をついて挨拶をしてみる。

 

 

「ご紹介に預かりました、アインと申します」

 

「……なるほど。これが知能がある人形、か」

 

 

 挨拶しただけだが、何がわかったというのだろうか。

 

 まぁ大魔王だし、挨拶で感じ取れるものがあるんだろう。とか思っていると、大魔王は言葉を続ける。

 

 

「だが、このような人形は一つでいい。そうは思わないか? エルバート博士」

 

「へ?」

 

「先客だ」

 

 

 そう言った大魔王の視線の先にあったのは、白衣を着た一人の女性だった。

 色褪せたような白い髪が目立ち、

 嫌な笑みを浮かべて博士のことを見ている。

 

 それを見たウィリアムは、ここが大魔王の御前だということも忘れて立ち上がり声を荒げる。

 

 

「お、お前っ! グレンデール!!」

 

「はぁい。久しぶりね、エルバート」

 

「な、なんでここに!?」

 

「嫌がら……じゃなくて、お仕事で来たの」

 

 

 思いっきり嫌がらせって言いかけた気がするが、誰も指摘しないので一旦ここはスルー。

 

 それよりも、その言葉でなんとなくウィリアムも察しがついたのか、青褪めたような顔で震える指を向ける。

 

 

「ま、まさか……」

 

 

 その言葉に反応するかのように、グレンデールと呼ばれた女性の後ろから、一つの人影が姿を現す。

 

 球体関節で出来た人形の四肢に、人形の体。

 水晶で象られた目に、整った顔立ち。

 

 だが、そこに生気などなかった。

 

 

α(アルファ)。見ての通りよ」

 

「始めましテ。アルファ、と申しまス」

 

 

 明らかに意思などありそうにないが、そこについて誰も指摘はするつもりはないようだ。

 エルバートに関しては焦っているようで、それを見抜くことすら出来ていない。

 

 ちらり、と大魔王に視線を向ける。

 俺は一瞬だけだが笑みがこぼれたのを見逃さなかった。

 

 どうにも楽しんでいらっしゃるようだ。

 

 

「こ、こんな、こんなことがっ……」

 

 

 混乱しきっているが、そこまでのことなのだろうか。

 とはいえ、ここで何とかしないければ、俺もどうなるかわかったものではない。

 

 ……助け舟、とまではいかないが、どうにかするしかないか。

 

 俺は一歩前へと出ると、改めて膝をつく。

 

 

「大魔王様」

 

「なんだ?」

 

「私から()()()()の提案させて頂きます」

 

「……ほう。命が惜しい、と?」

 

「いくら人形の身と言えど、やはり命は惜しいものです。故に一度だけ、チャンスを頂ければ。必ずや、その存在の意味を証明してみせましょう」

 

「くっくっくっ……面白い。俺に意見を言うやつは滅多にいるものではないと思ったが、なるほど。性能差を確かめると。いいだろう、好きにしろ」

 

 

 お許しが出たよ、やったね。

 

 てなわけで、俺は有益であることを証明しなければならない。

 あの人形よりも、遥かに有益であることを。

 

 

「あ、アイン……ど、どうするつもりなんだ?」

 

 

 大魔王からの言葉を聞いて、少し落ち着いた様子のウィリアムが俺の横に立つ。

 

 

「大魔王様が欲しているのは戦える能力……端的に言えば戦闘能力でしょう」

 

「まぁ、それを目的として支援を受けてるからね」

 

「ならば、その能力を示せばいい」

 

 

 俺はそう伝えると、アルファと名乗った人形の元へと歩き出す。

 

 戦闘能力。

 それを示すには最も簡単で楽な方法がある。

 

 それは古来より行われてきた方法。

 

 

「決闘と致しましょうか。アルファ」

 

 

 俺の提案は、目の前の人形と決闘をすることだった。

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