結界師が行くヒーローアカデミア   作:無個性な一般人

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いやー、なんか札折君が負けたら感想めっちゃ貰えて嬉しかったです
ついでに低評価も増えましたねー
と言うのも、その手の感想が来るってことはある程度は主人公に感情移入して貰えたってことなので

感情移入して貰える主人公が書けてるって自信持てました。
あざます!


ヒーロー名! 魂の名前!

「ぐっぞおおおお! 多重結界ができるようになれば俺が勝ち越すのによおおお!」

 

 雄英体育祭も大詰めの決勝戦。

 悪魔の手によってアフロヘアーにされた札折は、合流した客席で盛大に不貞腐れていた。

 

「仕方ないよ札折君。かっちゃんの機動力がないとできない芸当だから」

 

「じゃねえとおかしいだろ! なんだよ、結界張り直すタイミングで同席してくるとか! 電車で美女の隣を目ざとく座るおっさんみたいな恐怖だったぞ!」

 

「なにその具体的すぎるたとえ」

 

 周囲に健闘と称えられながら試合を待っていると、飯田が席を立ってどこかに向かう。

 

「んお。飯田どこ行ったんだ?」

 

「家族に電話だって言ってたよ」

 

 飯田が席を外してすぐに決勝戦が始まったのだが、その結果はあまりにあっさりとしたものだった。

 

「轟のやつ、なんで火を使わなかったんだ? 緑谷のときなんか凄かっただろ」

 

 爆豪が大技を放ち、応えるように轟が緑谷戦で見せた火を一瞬点火、しかし爆豪の攻撃を受ける間際に火が消え、爆豪の攻撃で轟はそのまま場外。

 結果、爆豪が納得いかないと叫びながら決勝戦が終了したのだ。

 

「僕にも分からないけど……」

 

 試合中。緑谷と轟の間でなにかあったのだろうことは察することができた。

 

(俺が突っ込んでも意味ねえか)

 

 札折にとって轟は友人だ。クラスメイトであり、USJでも共にあの凶悪なヴィランと戦った。

 だが、それは札折が一方的に思っていること、轟が同じだとは考えていなかった。

 轟の様子が明らかにおかしい状態なら別だが。

 

 そうして、長く続いた1年生全員が参加した競技は微妙な終わりになった。

 ついでに、表彰式と締めの言葉も上手くいかず(主にオールマイト)グッダグダな雄英体育祭となった。

 

 

 雄英体育祭から振休を挟んだ次の日、またいつも通りの日常が戻ってくる。

 

「君、雄英体育祭で準決勝まで行ってた子だろ!」

 

「え、あー、そっすけど」

 

 日本が誇るビッグイベントの一つの名は伊達ではなく、登校途中に札折は何人もの人に声を掛けられていた。

 

「惜しかったけど君の個性すっごくよかったよ!」

 

「惜しかったねー」

 

「サイン! 絶対君は将来有名なヒーローになる! だからサインをくれ!」

 

 普段よりも時間を掛けてようやく学校に着いた札折は、知らずのうちに大きなため息を吐いていた。

 見知らぬ人に認識され、己が行いを評価される。それは前世を含むなかでも初めての体験だった。

 

「いよっすー」

 

 教室に入れば札折同様、皆も登校中に声を掛けられたらしくホットな話題としてクラスを飛び交っていた。

 

「私もじろじろ見られてなんか恥ずかしかった!」

 

「俺も!」

 

「俺なんか小学生にいきなりドンマイコールされたぜ」

 

「ドンマイ」

 

「ぬおおおおおお!?」

 

 たった一日。それだけでヒーローの卵に世間のスポットライトが当たったのだ。

 

「おはよう」

 

 チャイムがなり、相澤先生が教室に入ってくる。

 久方ぶりに見るUSJ依頼の包帯のない姿に、教室の空気が少しだけ緩やかになる。

 

「今日のヒーロー情報学はちょっと特別だぞ」

 

 直後の一言で緊張が走る。特に頭に自身がない生徒。

 

(ヒーロー関連の法律やら、ただでさえ苦手なのに……)

(特別!? 小テストか!? 止めてくれよ~……)

 

「コードネーム、ヒーロー名の考案だ」

 

「「「胸膨らむヤツきたあああああ!!」」」

 

 教室が湧いた。

 相澤先生の瞳が赤く光り、髪が逆立つ。

 

「「「……」」」

 

 教室が静かになった。

 

「コレは先日話したプロからのドラフト指名に関係してくる」

 

 先日。それはUSJ襲撃を受けてもなお開催を断行した体育祭を行う意味。

 世間、そしてプロヒーローへのアピールだ。

 

「指名が厳格化するのは経験を積み、即戦力として判断される2・3年から。つまり今回来た指名は将来に対する興味に近い」

 

 体育祭で活躍したのはなにも1年だけではない。

 むしろ、個性の研鑽と積み上げた知識と経験を年単位で多く有する、2年3年に多くの注目が集まる。

 それこそ、個性の押し付けだけではない。ヒーローとしての素質がより深く見られるのだ。

 

「卒業までにその興味が削がれでもすれば、一方的にキャンセルなんてことはよくある話だ」

 

 誰かの生唾を飲む音が聞こえた。

 

「大人は勝手だ……!」

 

「頂いた指名がそんまま自身へのハードルになるんですね!」

 

「その通りだ飯田。で、その指名の集計結果がこうだ」

 

 表示されたのはA組指名件数のグラフ。

 

「例年はもっとバラけるんだが、二人に注目が偏った」

 

 体育祭で決勝を争った二人。No2を父に持ち、個性単体を見てもプロヒーローを押しのける轟。

 言動はともかく、個性の質、そして本人の先頭センスが突出している爆豪。

 しかし、グラフではなぜか1位となった爆豪より、2位の轟が多くの指名を受けていた。

 

「1位と2位逆転してんじゃん」

 

「表彰台で拘束されたやつとかビビるもんな……」

 

「ビビってんじゃねーよ! プロが!!」

 

(俺は、常闇とほぼ一緒か)

 

 数にして400。それが札折に集まった指名の数。

 これが多いのか少ないのか札折には判断が付かないが、単純に400のプロから興味を持たれているとみれば数が持つ意味は想像以上に大きかった。

 

「ん? 緑谷の名前がないぞ」

 

「怖かったんだ、やっぱ」

 

「んん……っ」

 

 自損覚悟、というよりは自壊しないと使用できない個性とみられたのか、活躍したはずの緑谷への指名は0だった。

 

「コレを踏まえ、指名の有無関係なく、いわゆる職場体験ってヤツに行って貰う。おまえらは一足先に経験してしまったが、プロの活動を実際に体験して、より実りのある訓練をしようってこった」

 

「それでヒーロー名か!」

 

「まァ仮ではあるが、適当なもんは」

 

「付けたら地獄を見ちゃうよ!!」

 

 相澤先生の言葉を引き継ぐようにクラスに入って来たのは、とても魅力的な女性。

 

「この時の名が、世に認知されそのままプロ名になってる人、多いからね!」

 

「ミッドナイト!」

 

 札折と峰田は心のなかでハイタッチした。

 なぜかセクシーな歩き方で入ってきたミッドナイトが、今日のヒーロー情報学「コードネーム決め」を担当してくれることになった。

 

「名を付けることでイメージが固まり、そこに近づいていく。名は体を表す。オールマイトが良い例だ」

 

 こうして、今後のヒーロー人生を大きく左右する授業が始まった。

 

 

 15分後。

 

「じゃ、そろそろ出来た人から発表してね」

 

(((まさかの発表式!? これは度胸が……!!)))

 

「しゃあ! いったるぜ!」

 

(((札折がいったああああ!)))

 

「陰陽ヒーロー”安倍晴明”!」

 

「ヒーロー名じゃなくて偉人名!?」

 

(((や、やりやがったー!?)))

 

「はいはい! じゃあ次私!」

 

(((頑張れ芦戸!!)))

 

「エイリアン・クイーン!」

 

「2!! 体液で溶かすアレでしょ、やめときなさい!?」

 

(((なに続いてんだ……! 二人のせいで大喜利みたいな流れになったじゃないか!?)))

 

 だが、ここで手を上げたのが蛙吹だった。

 クラス中からの希望を背負った彼女が出したのは。

 

「ケロッ。梅雨入りヒーロー”フロッピー”」

 

(((ありがとう! 蛙吹さん!)))

 

「ちぇ、もう終わりかよ……そんじゃほい。守護ヒーロー”結界師”だ」

 

(((あ、普通に普通のヒーロー名だ)))

 

 ヒーロー名には何かしらの意味を込める。オールマイトが全てを救う、まさしく全能を名乗るように。

 だからこそ気になる。普段から下品なおふざけを峰田と繰り広げ、しかしUSJでの活躍、体育祭での奮戦を見せる札折が如何にしてその名を考えたのか。

 

「いいの? 大抵はもじったりするわけだけど、それって他のヒーローから着想を得てってわけじゃないわよね?」

 

「コレは憧れ。この世界で誰も知らない、俺だけが知ってるなんでも守っちまう人から貰ったんスよ。俺が目指す目標っす」

 

 俗物的な物かと思っていたらまさかのまともすぎる理由。緑谷と尾白だけはなぜか納得した様子を見せているが、大半が驚愕していた。

 

「すごい人なのね。その名に負けないように活躍しないといけないわよ」

 

「うっす。ただ、その目標とか最終的に小さな世界作るような奴なんで、ちっとハードルが高いっすけど、頑張ります!」

 

(((世界……?)))

 

 個性が日常の一つになったファンタジーな世界で、それを超えるファンタジーな言葉。

 理解してはいけないとAクラス全員がスルーした。

 

「はい! じゃあウチね、”イヤホン・ジャック”」

 

「オレオレ! チャージズマ!」

 

「オイラはグレープジュース!」

 

 一度流れができれば次々とヒーロー名が決定されていった。

 

「爆殺王!」

 

「それは止めといたほうがいいんじゃない?」

 

 一部を除いて。

 そして、轟がショート、緑谷があだ名のデクを決定し、飯田が前に出る。

 

(飯田のやつ……)

 

 振替休日だった先日、札折はあるニュースを目にしていた。

 

『保須市でインゲニウムがヒーロー殺しに襲われる事件が発生』

 

 インゲニウム。ヒーローとして多数のサイドキックを抱える大手と言っても過言ではない、有名なヒーローの負傷。

 ヒーローがヴィランに襲われる。悲しいがない話ではない。

 だが、今回はいつもと違う。インゲニウムは飯田の実の兄だ。クラスの友達の家族がヴィランに襲われたのだ。

 本人は気にした素振りを見せないが、あの飯田がそんなはずがない。

 

「あら、飯田君も自分の名前?」

 

 そして、ヒーローを実直なまでに目指す彼が、自分のヒーロー名に意味を持たせないなんてしない。

 明らかに飯田の様子は正常とは言えないものだった。

 

(……チッ。隠しやがって)

 

 一抹の淀みを含みながらもヒーロー名を全員が決めた。

 授業が終わり、相澤先生から体験を希望する先を決めておくようにと言われ、話題が移っていく。

 

「耳郎は体験先決めたのか?」

 

「うーん。まだ考え中かな。そっちはどうなの?」

 

「がっはっはっは! 聞いて驚け! ラビットヒーローのミルコだぜ!」

 

 札折にとってラビットヒーローは性癖の塊である。

 本人もその名を見たときは大層驚き、何度も目を擦って確認したほどだ。

 

「どーだ峰田! 羨ましかろう!」

 

 だからこそ、マウントレディと張り合った峰田に自慢をするのだが、期待した反応はなく代わりに嘲笑が返ってきた。

 

「ふ、オイラはマウントレディだぜ!」

 

「峰田ちゃん、札折ちゃん。邪な考えで選んでないわよね?」

 

「実利5、下心5だぜ!」

 

「オイラは10!」

 

「素直なのね」

 

 峰田は分からないが。札折にとってミルコはその戦い方も選んだ理由だった。

 

「俺の結界は一度捕まえちまえば大抵は逃れられねえ。だが、爆豪みたいな変態機動野郎が相手だと捕まえられねえんだ」

 

「誰が変態だ、ゴラァ!!」

 

 思い出すのはUSJと体育祭。USJでは死柄木と脳無の動きに追いつくことができず、体育祭では立体的な軌道を見せる爆豪に避けられた。

 札折にとってもっともやりづらいのが機動力を持った相手。

 

「個性の訓練もそうだが、単純に速い奴に慣れる必要があるって考えた」

 

「だからウサギの個性で縦横無尽に暴れるミルコってわけか」

 

「おう。それに、個性の相性もいいと思ったらな」

 

 結界は拘束、防御、打撃が主な使い道だが、ソレ以前に足場になる。漫画でも結界を高速機動の足場にして戦う描写があった。

 爆豪は空中でも移動が可能だが、ミルコのように足場を必要とする相手ならと考えたのだ。

 

「でも、それなら他のヒーローでも良かったんじゃないのかしら?」

 

「そこは下心だぜ! 野郎より美女と一緒のほうがいいに決まってんだろ!」

 

「なんでだろう。動機は峰田と一緒なのにあんまり下品に見えない」

 

「おい! そりゃどういうことだ耳郎!」

 

 将来を見据えた選択。

 この体験でなにを得るのか。選択が委ねられている時点で、責任を負っているのだ。

 

「さてと、飯田の野郎はどこだ?」

 

 放課後、札折は明らかに様子のおかしかった飯田を探していた。

 

(こういうときは下駄箱をみりゃ……ち、帰りやがったか)

 

 真面目な飯田らしいと言えばらしいのだが、それにしても早すぎる。

 教室を早めに出たため、クラスメイトはまだ結構な数が教室に残っているはずなのだ。

 

「あれ、札折君。どうしたの?」

 

「よう、緑谷。ちっと聞きてえんだが、飯田の様子が変じゃなかったか?」

 

 教室に戻り、帰り支度をしていた緑谷と麗日に声を掛ける。

 飯田の名前を出すと二人共分かりやすく反応した。

 

「飯田君のお兄さん。インゲニウムのことだよね」

 

「あぁ、今日のアイツ少し様子がおかしかっただろ」

 

「うん。でも飯田君は気にするなって言ってたし……」

 

 だが、飯田と一番仲の良い緑谷ですら言い淀んでしまう。

 

「ここで話しても仕方がねえか。ワリィんだけどよ、飯田のことでナニカあったら教えてくれねえか?」

 

「そ、それは別に構わないけど。どうするつもりなの?」

 

「あぁ? 決まってんだろ、辛そうにしてたらどうにかしてやんのがダチってやつだろ?」

 

 当然とばかりに答えれば、緑谷が目を見開く。

 

「そう、だよね……友達なら」

 

「そういうこった。問題が問題だ、デリケートな話だってことぐらいはわかるが、だからって見てるだけなんて情ねえ真似はしたかねえんだ。特に今回の件は、な」

 

 緑谷、そして麗日と話を付けた後日。飯田の体験先が保須市に事務所を構える場所だと知る。

 そここそ、ニュースで取り上げられていた。インゲニウムを襲ったヴィラン、ステインが潜伏していると噂される場所だった。

 

 

 飯田の体験先を知った次の日、放課後のチャイムが鳴ると同時に教室を出ていく飯田を追った。

 

「なにか用でもあるのかい。札折君」

 

「まーな。飯田、お前体験先はどこにしたんだ」

 

「なんだ、そんなことか。プロヒーロー、マニュアルさんのところだ」

 

「聞いたことねえな。すごいヒーローなのか?」

 

「なんでもそつなくこなすヒーローさ。確かにヒーロービルボードの上位にいるわけではないが、経験という面で見れば得難い経験ができると判断した」

 

 平然と、何事もなく返答する飯田。しかし、その中に保須市とステインのワードが省かれていた。

 

「へぇ。俺はてっきりステインっつう野郎を追っかけてかと思ったぜ?」

 

「……なぜ、そう思ったんだ」

 

「お前の兄貴を襲ったステイン。そいつが保須市にいることぐらい誰でも知ってるだろ」

 

 なんたってニュースですらそう噂されているのだ。

 ニュースの大原則にウソの情報を流してはいけないというものがある。つまり、ウワサと言われているがある程度の裏付けがされているということ。

 ヒーロー殺し。ステインは保須市にいる。

 

「……そんなわけないだろ」

 

「兄貴の敵をとるために体験先を選ぶ。パトロール中にでも出くわせばぶちのめす大義名分も着いてくる。一石二鳥、てか?」

 

「……」

 

「インゲニウムについて調べたぜ。お前の兄貴ってすげえヒーローじゃねえか。そんな兄貴が負けた相手だ、お前みたいなひよっこが逆立ちしたって勝てる相手かよ」

 

 ヒーローは日夜ヴィランと戦う存在だ。

 自分の個性を鍛え、殺すか逃げるが勝利条件のヴィランとは違い、生かして捕らえるという圧倒的不利な中戦っているのだ。

 そんな世界で成果を上げ、多数のサイドキックを雇うほどのヒーローが負けた。

 

「お前が一人で立ち向かっても瞬殺だ、瞬殺」

 

「……君には関係のないことだ」

 

「いーやあるね。ダチの家族がやられたんだ、はいそーですかって指くわえてられっかよ」

 

 自分を指差す。

 

「ステインとやるっつうなら俺も交ぜろ」

 

「き、君はなにを言っているのかわかっているのかっ!?」

 

「あたぼーよ。俺の個性ならお前を守ってやれる。お前が走る場所を作ってやれる。横取りなんてダセぇ真似はしねえから安心しろ」

 

「君は、いったい……」

 

 飯田には眼の前の男がなにを目的にしているのかが分からなかった。

 

「家族やられて、平然としてられるわけねえんだよ。ヒーローとしちゃ敵討ちなんて褒められたことじゃねえかもしれないがよ、血のつながった家族だぞ。大切な、生まれてから一緒に育った兄貴だぞ、悔しくねえのかよ」

 

 胸を締め付けられる思いだった。

 全てを助けるなんて全能にはなれない、だから大切な家族や友人だけは絶対に守る。そう考える札折にとって、友人の家族もまた大切な人だった。

 

「悔しいに、決まっているだろ。兄さんは、僕の憧れなんだ……! 皆を助ける、最高のヒーローなんだ。もっと、これからもっといっぱい沢山の人を笑顔にするはずだったんだ……!」

 

「そうだ、どんな大義名分があるか知らねえが。ヒーローを襲っていい理由になるわけねえんだよ」

 

 たとえそれで世界が救われるのだとしても。

 飯田の抱く憤怒は誰にも、それこそオールマイトですら否定することはできない。

 

「やってやろうじゃねえか。ヒーロー殺しに、お前から奪ったもんの重さってやつをよ」

 

 札折が拳を突き出す。

 

「大事な家族やられて黙ってるやつはヒーローでも漢でも、ましてや人でもねえ。ただの畜生だぜ」

 

「あぁ、兄さんの敵は俺が討つ! 俺の家族を傷つけたステインを、許すわけにはいかない!」

 

 飯田も拳を突き出してぶつけ合う。

 

「だが殺しはなしだ。俺達はヒーローとしてやつを捕まえる。インゲニウムの弟がそれを破っちまったら、大事な兄貴の名も地に落ちるってことだからな」

 

 ヒーローは守る存在だ。不条理な悪意から人を守り、笑顔を守る。

 そのためにヒーロー殺しを捕まえる。

 

「ちょっと見てろよ」

 

 札折は道端に落ちている石を拾うと飯田に見えるようにする。

 

「結」

 

 結界が石を包む。

 そこまでは飯田が知っている札折の個性。

 守ることも、部分的に覆うことで拘束することも可能な守りの力。

 

「滅」

 

 だが、次いで出た言葉の直後、結界が収縮したかと思えば結界の中にあった石は粉々に砕け、塵も残すことはなく消え去ってしまう。

 

「こ、これは……っ!?」

 

 轟の強力な半冷半燃とも、爆豪の暴力的な爆破とも違う。破壊の力。

 守ることに特化していると思っていた個性が持つ、過剰すぎる力に思考が止まる。

 

「俺の結界は本来4つの工程を経て完成する。方囲で目標を指定、定礎で位置を指定、結で結界を生成。お前等に見せてるのはここまでだが……滅。内部の物を圧縮、強力な力で圧し潰す。解はこの滅をせずに結界を解除しているだけだ」

 

 ヒーローが持つにはあまりにヒーローらしくない、消滅させる力。

 13号のブラックホール同様、人の命を簡単に奪える力だ。

 戦闘演習、USJ、雄英体育祭。なんども札折の結界に捕まる人を見た。もしもたった一言だけ滅と唱えていれば、見るも無惨な惨状となっていただろう。

 

「ど、どうしていま、コレを俺に見せたんだ」

 

「俺の結界は簡単に人を殺すことができる。だがな、俺はこの力を守るために使うんだ。ヒーロー殺しだって俺の結界なら簡単に殺せる。ソレは飯田、お前の蹴りだってそうだろ。50メートル3秒で走れる足で蹴れば、当たりどころによっちゃ簡単に命を奪える」

 

「……っ」

 

「でもよ。だからこそ、これで人を救うヒーローになるんだろ?」

 

 オールマイトもそうだ、拳を突き出しただけで曇り空を晴れに変える力を、人に向ければスプラッター映画も真っ青な結果になるだろう。

 オールマイトはそんな力を使って、幾万の人を助けて平和の象徴と呼ばれている。

 

「どんだけ強え力を持ってたってダメなんだ。ヒーローを目指す俺達には覚悟がいるんだ。この力を人のために使うって覚悟が。土壇場で決めるその場限りのじゃねえ、選択を迫られて決めるもんでもねえ。朝起きて寝るまで毎日、熱した鉄を打って不純物を吐き出して作る刀みてえな覚悟がな」

 

 いたずらに振りまく力はただの暴力だ。それをヒーローの研ぎ澄ました覚悟が守り、救うための力に変える。

 

「だから殺したり相手を痛めつけるってのはなしだ。もしもそうなるなら、俺がお前を殴ってでも止めてやる」

 

「……頼む。もしも俺の覚悟が曇ったのなら、兄さんの顔に泥を塗ってしまう」

 

 今はまだ大丈夫。ヒーローとしてステインを捕まえるために動けるだろう。

 

(だが、奴を前にしたとき、俺は俺のままでいられるのだろうか)

 

「よっしゃ! 待ってろよヒーロー殺し! 二代目インゲニウム、天哉がお前を捕まえてやっからな!」

 

 隣で叫ぶクラスメイトを見る。

 普段おちゃらけている彼が見せた顔。本人には言えなかったが、まるで大人を相手にしているかのようにも感じた。

 

 

 その日。

 

「飯田君……その、なにかあったら言って欲しい。友達だろ?」

 

「ありがとう。……実は、話を聞いてほしい」

 

 ヒーロー職場体験が始まった。




ちなみに、私が書きたかったのが体育祭ともう一つといいましたが
それがステイン編になります
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