“ガヤガヤガヤガヤ”
「ロバート君、楽しみだね。エミリーお姉様はどんな活躍を見せてくれるのかな?」
「そうだね、夏祭りの時も魔王討伐軍相手に無双してたからきっとすごく頑張ってくれるとは思うけど、今度の相手は魔王カオスとその配下、これまでにない苦戦を強いられると思うんだ。
でも頑張って欲しいよね」
そこはマルセル村村門脇の草原に作られた展望塔、周囲を平たんな草原に囲まれたその建物の展望台からは、遠く草原の先のゴルド村の姿すら臨むことができる。
そんな展望台に集まったマルセル村の住民たちは、マルセル村春祭りの余興の始まりを今か今かと待ち望んでいた。
“ブワンッ、ブワンッ、ブワンッ”
中空に現れた大型モニター、画面に映し出されたのは草原に佇むローブのフードを目深に被った男性と、男性を前にした冒険者風の男女六人。
「魔王カオス、遂に決着の時が来たな。俺たちが旅の中で見てきたこと、耳にした言葉、人々の思いがお前を追い詰めた。“混沌の魔王カオス”、人心を乱し、人々を争わせ、そんな彼らを高みから見続けた者よ。
貴様は一体どれ程の人々を不幸に貶めたのか分かっているのか!!」
“勇者ジェイクが叫ぶ、それは思い、家族を失い平和な何気ない日常を奪われた人々から託された無念を晴らして欲しいという願い。
聖女エミリーが、剣天ジミーが、賢者フィリーが、聖騎士ディアが、獣狼族の戦士クルンが、勇者ジェイクの旗の下、力を一つに合わせ世界の裏で暗躍し続けた真の悪の下に辿り着いた”
音声の魔道具から聞こえるナレーション、担当する十六夜の語りが、観客たちの目を大型モニターに集中させる。
「・・・人は弱い。魔物に怯え、自然を怖れ、弱さゆえに争い奪い合う。
旅人や商隊から金品を奪う盗賊、兵士を送り込み食料や労働力を奪う貴族、他国に攻め入り領土や人材や財産を奪う権力者。
生活を奪い、安寧を奪い、人命を奪う、それが人であり人の本質の一面」
ローブの男は片手でフードを外すと、六人の戦士たちをゆっくりと見やり、言葉を続ける。
「人は弱い、それゆえ助け合い、庇い合い、慈しみ合う。食料を分け合い、行き場を失った者を受け入れ、仕事を与え、生活を助け。人は他人との垣根を取り払い互いに助け合うことができる。
貧困や悪辣な環境、災害や病、紛争や戦争、人は窮地の場でその内面を曝け出す」
大仰に、尊大に、大きく両手を広げ、世界中の人々に語り掛けるように。
「ふざけるな、お前のその悪趣味な“観察”とやらの為にどれ程の命が失われたと思っているんだ!!」
「勇者ジェイクよ、誰かを悪と決め付けすべての罪を背負わせることは簡単だ。ならば聞こう、我の罪科を。世に蔓延る強盗が我の差し金だというのか? 貧困や悪辣な環境に人々を追い詰めたのは誰だ、災害や病の備えを怠ったのは、紛争や戦争を起こしている者は。
我が行ったことなど否定せず見守り続けたというだけのこと。すべてはこの世の人々の営み、我が愛すべき世界の一側面」
“クッ”
“勇者ジェイクは言葉を失いたじろぐ。明確な敵であれば対処はできる、だが目の前の者はそうした者なのか? 心が揺らぎ、剣先が鈍る”
「勇者ジェイク、惑わされないで。確かに貧困や悪辣な環境は元々あったものだし、それを引き起こしたのは私たち側なのかもしれない、でも、だからと言ってそんな人々を扇動し、災害に苦しむ人々の不安を煽り、権力者の欲を刺激し紛争を引き起こさせることが正しいはずはないの。
私たちの手は短い、私たちが守ることのできる人なんて目の前のほんの僅かな人たちに過ぎないかもしれない。でも私は戦う、そこに助けを求める人がいる限り。それが私、聖女エミリー・ホーンラビットの使命だと思うから!!」
“見つめる瞳、聖女エミリーの言葉が勇者ジェイクの、勇者パーティーの仲間たちの胸に熱い炎を燃え上がらせる”
「クックックックッ、アッハッハッハッハッ、素晴らしい、素晴らしきかな勇者パーティー。我はその方らを明確な敵と認めよう」
“バッ”
払われたローブ、漆黒に銀の刺繍の入った衣装を纏った魔王カオスは、マントを靡かせ目視できる程濃厚な闇属性魔力を溢れさせる。
「出でよ、我が配下の者たちよ。我らが敵を歓迎せよ!!」
“ブワンッ、ブワンッ、ブワンッ、ブワンッ、ブワンッ”
草原に現れた五つの魔法陣、その中心から淡い光と共に魔王カオスの配下たちが姿を現すのだった。
“カチャリッ”
「我が剣は我が主の為に。主の敵は我が剣にて切り捨てん」
“それは全身甲冑に身を包んだ女性騎士。身体のラインを強調するようなその姿は、見る者の目を 惹き付ける。これは魔王カオスの趣味なのか、きっとそうに違いない!!”
「そこ~~~、風評被害だから、これって俺が指定した訳じゃないから、本当だからな~~~~!!」
魔王カオスの心の叫び、だがマルセル村の村人たちはニヤニヤした目を大型モニターの魔王カオスへと向ける。
「勇者ジェイク、答えは出たか? お前たちは強い、それは間違いない。だが世界は広い、広すぎる程にな。後はこっちで語ろうか、今回はちゃんと俺の相棒も連れてきたからよ」
“鎧姿に
「「「「「キャーー、ブー太郎様、大胆~♪」」」」」
「しねーよ、何を勝手に話を作ってるんですか、十六夜さーーん!! グランゾートも“御主人様の意気地なし”とか言わない、ちゃんと連れてきただろうが~~!!」
巨大モニターに映し出された慌てる素振りのブー太郎に、観客席は爆笑に包まれる。マルセル村の村人たちは愛すべきいじられ役ブー太郎が大好きなのであった。
「フゥ~~~~、俺はどうもこのノリにはついて行けないが、仕事は仕事だ。魔王カオス配下、神脚のスターダスト。我が足技の神髄、ご覧に入れよう」
“白雲さん、お祭りの参加、ありがとうございます。やることはいつもの模擬戦ですので、楽しんでいってください”
ナレーション担当の十六夜は人を見る。“この人には冗談を言ってはいけない”、彼女の中の生存本能が、ふざけた紹介をしてはいけないと訴え掛ける。
「ふむ、これは王都武術大会みたいなものと思えばいいのか? 主はその辺の説明をしてくれぬから困る。さて、俺は誰を切ればいいんだ?」
“彼は闇の人切り、腰に差すは名刀“黒竿。その一太刀、大地を切り裂く。
え~、こちらの方は皆さんはご存じないと思いますが、ワイルドウッド男爵家からリットン侯爵家へ米栽培の農業指導に派遣されております太田玄才さんと言います。見ての通り扶桑国出身の鬼人族の方で、以前王都武術大会に出場し本戦二日目の第三戦にまで勝ち上がった猛者です。
あの時は惜しくもジェイク君に破れたんですが・・・切っちゃいます?”
「十六夜さーーーん、煽るの止めて、マジで止めて!! 太田玄才さんって目茶苦茶強いから、しかも二年前とは雰囲気が全く違うから、マジでヤバいから~~!!」
大声を上げて叫ぶ勇者ジェイク、彼の中の生存本能が、“スキルでどうこうできる相手じゃない”とうるさいほどに警鐘を鳴らす。
「人類よ、愚かで醜く浅ましい者たちよ。粛清の時は来た、魔王カオス様は決断されたのです。
あぁ、この日をどれ程待ち望んだことか、世界は魔王カオス様の名の下に塗り替えられる。
さぁ、抗いなさい、その身を、その魂を、持てるすべてを偉大なる魔王カオス様に捧げるのです!!」
“それは戦いの場には不釣り合いな程扇情的なナイトドレスにも似た衣装、頬を朱に染め蕩けるような表情をした女性が、魔王カオスを称え熱い思いに身を焦がす。って言うか御主人様、これ不味くないですか?
主人とメイド長の秘密の関係ってのは恋愛ものの鉄板ネタですし、お貴族様あるあるですけれども。ご主人様には三人の奥方様がいる訳ですし”
「ないから~~~~~~~!! マジでないから、いや、本当だって。そりゃ付き合いは子供の頃からだし長いけども、どっちかと言えばやんちゃな弟を持つ姉的存在だから、保護者だから、保護者!!
って言うか十六夜、ここぞとばかりにいじるな、ちゃんとやれ、ちゃんと!!」
叫び声を上げる魔王カオスにニマニマとした表情を向ける村人たち。そんな中一人魔王カオスに熱い視線を向けるは配下の女性、シャドームーン。
「しねーから、これは村祭りの演目だから、お芝居だから!! 舌打ちしな~~~い!!」
いずれも個性豊かな魔王勢力に、勇者パーティーはたじろがざるを得ないのであった。
「フゥ~~~~~、いや、ある程度覚悟はしていたけど、やっぱりケビンお兄ちゃんってば鬼だわ。勝たす気ゼロじゃん」
勇者ジェイクがぼやく。これはマルセル村春祭りの余興の模擬戦、でも始まるのはフィールドダンジョンの機能を生かした命懸けの戦い。
「ジェイク、我が儘を言ってすまないが、月影メイド長は私に譲ってくれないか? 私にとってあの人は超えなければならない壁なんだ」(クハァ~)
獣人が笑う、愉悦を含んだ笑みを浮かべて。
「それじゃエミリーは残月さんの相手をするね。残月さんには治癒魔法の指導でお世話になりっぱなしだったから」(ゴキゴキゴキ)
聖女が微笑む、慈愛に満ちた天使のように。
「そうなると俺はブー太郎に指導をお願いしようかな? 去年の模擬戦からどれ程成長したのか見てもらいたいしね」(フィ~~~)
勇者が両頬を叩く、これから始まる戦いに必ず勝利すると自身に言い聞かせるように。
「では私は白雲さんと、正直怖ろしいですが」
賢者が顔を引き攣らせる。相手は格上、恐れるなという方に無理がある。
「ということは、私は太田玄才さんだな。ジミー君、皆の思いは一つだから。必ず理不尽を打ち破って」
聖騎士が皆の言葉を代弁する。クルンが、エミリーが、ジェイクが、フィリーが、ディアが。勇者パーティーの仲間たちが自らの思いを剣天ジミーに託す。
「あぁ、その気持ち、ありがたく受け取ろう。“我が剣は一つ、我が思いは天に届く。目指すは理不尽の頂、我は一振りの刃なり”」
それは真言、ジミーの魂の誓い。目の前の者たちはマルセル村より旅立つ自分たちが越えるべき壁。
「「「「「「魔王カオス、いざ、勝負!!」」」」」」
飛び出した若者たち、戦いの幕は切って落とされるのであった。
おはようございます。
いってらっしゃい。
by@aozora