魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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ⅰ微笑と美粧な邂逅
鋭角な角 


 

 

 

がらんごろんと車輪が回る音が聴こえる。

 

空は快晴だ、雲一つないそれは今日という日を祝福するようだった。

 

周りを見渡すと、辺りはのどかで田舎であり、

疎らに見える家々が、ここは人の居住区域であると物語っている。

その隙間を縫うように人の営みの象徴である田畑が広がっている。

 

 

ふとその景色で思い出し、この枕としていた袋をガサゴソと漁る。

そうすると、太陽に反射してより煌びやかに光る盃があった。

これは、廃墟と化した街で私が拾ったものだ。

後の話によれば、魔族に滅ぼされた街だと聴いた。

人の多くはもう骨ばかりだった、その残滓から凄惨な結末を予想するまでも無かった。

嘗て賑わいを見せ、人の感情が交差するその広場は、今はもう閑散として物寂しさだけしか残されていなかった。

その光景に目を瞑り、暫し立ち止まった後にまた歩みを開始する。

 

石畳は人が使わなくなったからか酷く劣化し、蔦や雑草がその隙間に所狭しと詰め込まれている。

その光景に再び目を瞑り、何かを考えまた歩く。

 

人の営みの歴史を掘り起こし、それに想い馳せる。

そうしていくうちに街の中心地へと辿り着いた。

そこにある水が枯れた、枯葉をたっぷりと詰め込む噴水の(ふち)に腰を掛け、この景色を目に焼き付ける。

 

そこで見つけたものだった。

その広く広がる絵画の中、一際目立つ光を放っていた。

2体の座り込む骸骨に挟まれる場所に、それはとても輝いて見えた。

 

背の低い方が、それに手を触れ、それを覆い隠すように背が高い方が手を上に重ねていた。

私はその2つを丁寧に剥がし、その輝くものを手に収める。

まるで鏡のように目の前の者を写すものだった。

潤色(うるみいろ)で細かな絵が彫られた、綺麗な綺麗な盃だった。

小さな高台には、麻の葉模様が散りばめられている。

 

 

 

それを鏡代わりに自分の姿を確認すると、

 

絹の様な白さを持ち、簡単には人を寄せ付けない髪、毅然とした空気を漂わせる表情が目に入ってきた。

気に入った潤色の衣服の緩みを戻すために片手で胸元に手繰り寄せる。

寸法の合わないその服は、何時ぞやの街で気に入った形や刺繍を魔力で作り上げたもので、

合わせることは出来たはずなのに私はそれをする事は無かった。

 

そしてその人類では在り得ない程麗しく、引く手数多であろう容姿の良さをその盃に見せつけた。

顔だけは終始無表情であったが。

 

そして、その頭には、

 

 

角、大きく山羊のように外巻きの立派なものがあった。

天高く伸びず地へ向けて、その先端を伸ばすものを持っていた。

 

魔族、魔族である。

その見た目は一般的な魔族で、人類に恐怖される存在のはずだ。

街へ現れればすぐさま衛兵がその身を囲み、怨念をぶつけてくる人類の敵だった。

しかし、それを指摘する者は居ない。

馬車には御者が居らず、ひとりでにその木製の車輪をくるくると回し続けている。

 

「のどかだね、退屈なぐらいに」

 

欠伸を時折混ぜながら、ゆったりとした時間を過ごす。

 

遠くでは畑を耕す夫婦らしき人らと、その手伝いをする子供が汗を手拭いで拭きつつも懸命に行っているのが見えた。

あの作物はなんだろうか、あの地面に身を隠し、そこに花咲かす姿からしてじゃがいもか?

 

もう春なのか、いや秋か?

時間を気にした事は無かったな、と自分の生をさっと振り返ってみる。

まだまだ長くは生きていない筈だ、仮に生きているとしても数百年程度で、眠っていれば一瞬で過ぎ去るだけの時間だと考えを一旦区切る事にした。

 

少しばかり考え込んだが、もう飽きた。

興味が湧かなくなり、私は再び頭部をそのズタ袋の枕にぐりぐりと押し付けて空を見上げた。

 

いつからだろうか、こんな退屈な旅を始めたのは。

生まれた時に、私は独りであった。

魔族は、母親が、それどころか子育ての習慣が存在しない。

生み落とされてから人類では永遠にも近しい時間を、孤独と共に過ごすのだ。

 

だから私は愛を知らない

 

そうその女は心で想う。

人類では有り触れた愛、それはどんなものなんだろう。

りんごのように甘いのか、あぁでも渋いかも、あぁでも酸っぱいかもと味を想像する。

私にはあれがどう美味しいのかと、それを楽しみに生きる事しか出来ない。

気になる事はそれぐらいだ、それ以上に人類に関心持つことは無かった。

稀に見る同類は、人類を甚振り多くのものを搾取しているらしい。

私はそれを否定できない、そして肯定もしない。

 

執着したことが無かった。

この世に生を受け、何かをしたいと夢想する事が無かった。

魔族ならばある、一つの魔法を磨き、生涯に渡り研究し続ける事もしなかった。

無気力だ、無欲だ。

生物らしからぬ欲望の無さ、それを私は嘆く事すらなくボーっと受け入れる事しかしなかった。

 

今日も空は青かった。

その時も、この星が生まれた時も青かった。

 

土から命が旅立つときも、鳥が急に羽ばたくときも、

何の理由もなく、青かったのだろう。

 

なら、私が生まれた時は?

 

きっとそこでも青いだろう。

 

なら、なら愛は何色なんだろうか?

 

この大空のように澄んだ青ならば、それはそれは良い事なのだと私は思考を区切り、眠りについた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

人の営む範囲から少し出た森の中

見渡す限りの草原や花々はもう遠い遠い彼方に見えた。

日の光もだいぶ弱弱しくなり、その色を少しくすんで魅せる。

 

吹き抜けるそよ風に、少し笑みを浮かべる魔族(しょうじょ)は、

夢の中へ無事に旅立てたようだ。

先程まで少し息を荒くしていた馬は、休憩をしてくれる心優しき馬車に感謝しつつも、

その主人にはジトっとした視線を向ける事を辞めない。

 

何故こんなにも格差があるのか、無機物に感謝を述べる事は馬の生ではこれ以降無いだろう。

その目を向けられても、魔族は、魔族は、起きる事は無い。

いつも通りの馬の反発を、どうせいつもの事だと無視し眠りを深くする事しかしなかった。

 

全く以て響く気配のない主人の態度に、業腹な馬は蹄を地面へと叩き付け、抗議の声とする事とした。

 

 

がらんごろんと車輪が音を鳴らす。

街道から獣道へと変化した道を、音を鳴らし進んでいく。

眠りについてから暫く経った後、その馬車は何者かによって止められた。

 

「もし、お嬢さん。 少し止まってもらってもいいかい?」

 

「…もう、止めてるよ」

 

その紳士ぶった声に意識が覚醒し、ゆったりと顔を起こせば、

 

独りの男がそこに立っていた。

馬はひひんと声を上げて、ゆっくり身を地面に伏せ、休息の時だと眠りについた。

 

それを魔族は一瞥して、男の身なりを上から下にじっくりと見ていく。

そうすると綺麗にセットした髪、黒い光を吸収する漆黒のマント、2つの剣を帯刀するその立ち姿が目に入ってきた。

その中でも魔族は、整えられた特徴的な髭に興味が湧く。

 

「変な髭だね」

 

「ハッハッハ、随分と辛辣な事だ」

 

その言葉に心底面白そうに笑い出し、機嫌良さそうにその男は魔族に話しかける。

 

「空は今日も青かったかい?」

 

「……? いつも通りに青かった、よ」

 

それに少し困惑を見せ、何故そんな事を聞くのかと魔族は疑問に思い、考える。

その答えに着く前に、男は言葉を切り出した。

 

「君は、未来をどう思う?」

 

「未来?今だけで満足してるから何にもないよ」

 

魔族はそれに答えを持ち合わせなかった。

自分の考えなど薄っぺらく、空虚な自分は何も行った事が無かった。

 

私が一体どこを目指しているのか、目的ない旅を進める魔族は答えられない。

愛を知りたいが、それは無いから適当にでっちあげた仮初の目的で、それが本当に求めるものか、魔族は答える事は終ぞ出来ないだろう。

 

「そうかそうか、それは勿体ない」

 

男はそれにより一層笑みを増して、言葉を続ける事にした。

 

「君は将来愛を知る、それは絶対だ」

 

男はその未来を確信したかのように、絶対の自信があるかのように、既定した事実かのようにそう魔族に言ったのだ。

 

「なんで、私が愛を知りたいって分かるの?

いや、それよりも……、なんで未来が分かってるかのように言うの?」

 

「あぁ、それはね」

 

男は勿体ぶって、この運命の出会いを噛みしめるように口の中でコロコロと転がした後、言葉を零したのだった。

 

「私には未来が見えるからだ」

 

その男は魔族を見てそう言い、魔族はそれに少し目を見開いて驚愕するのだった。

 






フリーレン本編の裏話的な物語。
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