三角巾は嗄れる
「…ここは?」
モヤモヤとした霧が私の視界を覆っている。
なにかの気配があり、1人でないのは分かる。だけれど、何が居るかは分からなかった。
そんな時、1つの音が聞こえた。
「あらお寝坊さんね。そんなに寝ているとマハトに置いて行かれるわよ」
「そこまで急いでいるわけではない」
そしてもう1つ音色が増えた。
「そう?先程までは置いていきたそうだったけど」
段々と霧が収まり、視界が明瞭になった時今までの音は声だったと気がついた。
定まった焦点でその姿を凝視すると、マハトもソリテールだと分かった。
その言葉が図星だったのか、腕を組み、目を伏せて黙るマハトと、その様子にくすくすと笑うソリテールがそこには居た。
「あ、今起きるよ」
身体をゆっくりと起こせば、廃墟の中だった。
昨日はどうしたんだっけ?楽しかったってのは覚えているんだけど…
忘れちゃった、でもそうだね。とても短い、それでいて実りのある日常を送れていた気がする。
「今日はどこに行くんだっけ。東、西?それとも北かな」
「北だ」
雪国、それも豪雪地帯だと雲模様から察せられるぐらい薄暗かった。
目を伏せ、両手で二の腕を抑えぶるぶると震える。鳥肌も立ち、その厳しい寒さの予兆を私の身体が教えてくれた。
「さ、さむい…って言うかさソリテール。北について何か知らない?面白い、未知の本とかあったらいいなぁ」
私が抱えた鞄にはもう10冊程度の本が詰め込まれている。
肩に持ち手を引っ掛ければぎしりと腕の肉が絞られる。
旅先で読み終えては捨て、読み終えては燃やしって断捨離し続けてるんだけど、溜まっちゃうんだよね。重いから、2冊ぐらいにしたいな…
いやでも、この本は取っておきたいんだよね。珍しく私が2週目に入っている思い出が詰まっているんだ。でも、でも他にも未知があると分かっているから過去は捨て置くべきだしなぁ。
何度も疑問が浮かび、弾け、また膨らむ。この途方も無い不安感は私の心をさざめかせた。
しかしその感情もすぐに消え去った。本の数々の隙間に見え隠れする玉色は、私の心を落ち着かせた。
青と緑が入り混じるそれは、私の生まれを彷彿とさせた。
幼児が、母胎に返り咲きたいと願うように、知らず知らずのうちに回帰願望が芽生えたのかも。
それもまた、1つの愛だよね?郷土愛なんて言葉もあるぐらいだし。
「ピュルテ?」
「ん、あ?」
「また、考え事?置いていくわよ、マハトはもう呆れ果てて先に行ったね。ほら、背中が小さくなりかけてる」
「ごめん、ごめん」
ふっと背を伸ばし、凝り固まった身体を解し私は駆けてその背中を追った。
大きな影と、同じような背丈の小さな二つの影。それが時折重なり合って一つになって居た。
日差しはまだ強い。
程なくして人の気配が増えてきた。
ふくよかな身体をした商人を乗せた馬車が、大きな荷物を持って子供を間に挟みながら歩く夫婦が、プレートアーマーを見に纏い歯切れよく快活とした対応を繰り返す衛兵が鎮座する大きな門が見えてきた。
そこに暫く立ち、検問の番を待つ。忘れずに私と2人の角を消してね。こういうのは私の役目、何せ得意な魔法だからね。
問題なく通過出来て、人類の坩堝へと足を踏み入れる。
今回の街は、大きな壁で囲まれた城塞都市だった。
しかし他の街と何ら変わらない賑わいを見せて、皆が人形劇みたいに身振り手振りで意思表示をしていた。
「これからどうするの?」
今回の街での目的を訊いてみる。普段ならば街など避けて、旅をしていたので今回の経緯を知りたかったとも言える。
「試しに人類の文化に則してみようと思う。悪意と罪悪感を探す旅で、その切っ掛けを掴める可能性を見つけ出したい」
それはとても良い考えだね。私と出会う前は、殺戮でそれを知ろうとしていた。手段を選ばないのは同意見だが、あまり好ましいものでは無かった。
「その為の答えが、一緒に暮らすって事?私は嫌だな、そんな事するの夢物語でしかないし。ピュルテもそうでしょ?」
「んー、いや私もマハトに賛成だよ」
「え」
「1人では絶対にしなかった。街に紛れた事はあったけど、長期間潜在する事は初めてだ。
可能性を捨てきれないね」
「話し合い、共に暮らし理解し合う事が共存への第一歩だろう」
「うん、そうだね。私達2人の目標に近づく手段だ」
マハトと私が珍しく同じ意見となり、普段とはまた違った形勢となった。
私が少数で、2人が多数派。だからいつも私が折れざる負えなかったんだ。
「多数決、負けだね。分かったよ、私も一緒に暮らす。ここまで来て一人で帰れはなんか嫌だし」
試しに待ちのハズレの方にある一軒家を借りた。2人は人間の文化なんて知らないから私が全部引き受けて、ね?
その家は閑静な場所にあり、あたりに人の姿は見えなかった。まさに魔族が住むにはうってつけの場所だよ。
備え付けの木製の椅子に腰を掛け、ゆっくりと背もたれに体重を預ける。
ぎぃぎぃと椅子が軋む音がするが、それも歴史を感じられる良い背景音だった。
すりすりと机を撫でる。そこには煤の跡が残っており、ここでなんらかの作業をした前住民の痕跡が残っていた。
「前の人類はどんなのだったんだろう、とても気になるね」
「なんで?至って普通の民家でしょ」
「ほら、これを見て」
私の声でソリテールが指差す方を見る。そうすると人のような落書きが机に書かれていた。
子供のような姿と2人の大人。一般的な夫婦だ。
「人類は繁殖行為をするだろう?その結果の子供の痕跡だね」
「それがどうして興味に繋がるの?」
「あぁ、それは人類の繁殖行為は愛を育むといった意味が込められているからだよ。
嫌悪を持った相手とはそんな行為しないんだ、人類はね。
可笑しいよね、だって種を増やす為のものなのに感情が入り込んでる」
その言葉にソリテールは手を顎に当て、何度か擦る。
何か引っ掛かるものがあったのだろうか?しかし私はそれを無視して言葉を続ける。
「非合理的な進化だ。動物は確かに魅力的なものと番になる。しかしそれは好悪といったものではなく、より強い雄を求めるといった種族としての継続を加味したものだ」
「それにだ、私達魔族はそんな事をしない。何故なら魔物から変態してこの姿になったんだ、だから繁殖行為といった概念は無い。これは君が大好きな収斂進化に当て嵌まるよね?」
「確かに私が好きな言葉の一種ね」
「だからこそ私は前の住民を知りたい。貴重なサンプルを見逃すなんて勿体無いよね?気になるなぁ、とっても。もっと探せば何か見つかるかな」
ひょいと座っていた姿勢を伸ばして、備え付けのクローゼットやチェスト、シェルフをガサゴソと漁る。ほんのちょっと希望的な気概を持ち、有り余った過大な諦観を備えて。
「……これは、なんだろう」
そんな時、チェストの中に何かがあるのが分かった。指を左右に振り、中の様子を探って居た手にこつりと何かがぶつかったお陰で。
それは、一枚の写真だった。親子3人での写真、思い出作りだろうか、何処となく浮ついた表情を浮かべていた。
ただ子供の写真が黒く塗りつぶされていなかったら、有り触れたものだっただろうに。
「んー、なんで勿体無い事するんだろう?せっかくの思い出なのに」
「…さぁ?気でも狂ったんじゃ無いかしら」
「ふふっ、それは面白い考察だね。確かに狂気に呑まれた人類は、ただでさえ分からない思考回路がより複雑になる。その状況下ではそのifはあり得る」
「だけど、私はそうは思わない。突然気が狂うなんてそんな災害みたいな事は起こり得ない。人の脳はそこまで脆弱じゃ無い、自壊なんてもっての外で、外的要因がなければ壊れはしない」
「そうなのか?その理由は見当つくのか」
黙していたマハトが口を挟む。組んでいた腕を解き、じろりと私を睨みつける。
「…そうだね。これは子供に何かあったのか、若しくは何かをしてしまったのか。この2つさ、考えられる要因は」
くるりと一回転して、窓を眺めながら思考を読み聞かせる。
「まず何かあった説。これは子供が事故、若しくは最悪の形で命を落とし、その愛する我が子との思い出が苦痛になってしまった。後悔や、自責の念が押し寄せようとも、もう帰ってこないそれに、嫌気が差して消す事にした」
うん。一般的だ、死という脅威に与する。ごくごく普通だね。
「次の何かした説。これは多くの可能性が秘められてる。罪を犯したとか、咎に迫られたとか重い理由もあり得るし、家出したとか、旅をしてるだけどかポップな理由もあるね
ま、後者は黒塗りにする必要無いからあるから前者かな」
ふむふむと頷きながら、自分の仮説を自分で読み返す。
「ただそうだね、思いは反転する。好きだったものが嫌いになるように、心が荒れて、紆余曲折あった後に中間に落ち着く事はない。そんな簡単な話じゃないからね」
こほんと咳をして、この空気を整える。考えても証拠が足りない、だから想像に収めて、現実の話をしてみる。
「少し外に出ようか」
そう言い外に出れば、景色が変わった。
閑散としたらこの場所に、人が多く溢れて、元の面影を無くしてしまった。
この
私はその状況に後退りをしようとしたが、パッと目の前が光に包まれた次にはもう、そんな“怯えは無かった”。
「ちょっと待ってよ!」
私自身をその一部へと
人類が人類を助ける姿を見て私は問いかける。
「あれは愛なのかな?」
「さぁ。
魔族が魔族を助ける姿を見て私は問いかける。
「じゃあこれは愛?」
「うーん。
その怒涛の質問に少し嫌気が差したのか、ソリテールは不快さを見せてきた。
そんな中で、何かを疑問に思ったのかマハトが声を上げる。
「…一つ質問がある」
「なんだい?」
「正義感とはなんだ」
「なんで行き成りそんな事を?今までは罪悪感と悪意で探求心は治まってたじゃない?」
「人の悪意が満ちる場所で腐っている者を見た。その息子は現状を嘆き、憂いていた思いを爆発させ、打開を試みた」
「それで?」
「結局道半ばで終わったそうだ。概念は知っている、然しその行動理由を私は納得できない」
「ふむ。君は正義感まで辿り着いたのか、悪があればそこに正義は生まれる。光があれば影があるように二つは密接な関係だね」
後ろに居た私は少し駆け足で二人の前へと躍り出る。そしてマハトの真正面に自らを据え置く。
「君は何を願うんだい?その先に何を求めている?」
「人類と魔族の共存だ」
「あぁ会った時に言ってたそれか。でもさそれって本心?君はなんだか偽りの理由を並べているように思えてならないよ」
「…」
「うーん、言ってはくれないよね。しょうがない、誰にだって秘密はある。私にも、そして多分ソリテールも会話には建前が入ってくる」
「私はいつも本心よ」
「はいはい、分かってますよー」
ぷくりと頬を膨らましたソリテールは大変眼福であったが、それよりもだ。
「まぁ、なに?その悪意と罪悪感への好奇心だけは本心だろうから私は手伝うよ」
「…そうか」
その言葉と共にまた白い光が私を包んだ。
「じゃ、この街には用が無くなったし終わらせちゃおっか」
「そうだな」
何処かの会話の最中に私の意識は飛ばされ、状況把握する為の時間を経た後、またもや“違和感を覚えず”話に加わる。
「…?何をする気なの」
「あぁ殺すんだよ、全員もれなくね」
「え、なんで?」
「それは目撃者というものが、自らの生を縮めるからだ。人類とは
「私とマハトは勿論、君も死にたくないでしょ?だから用無しには居なくなってもらおうって魂胆」
後ろで手を重ねて、前のめりになり私を見上げる。
上目使いでうるうるとした目はいつも通りタレ目であった。
「分の悪い戦いでは素顔は晒さない、長生きする秘訣なの」
既視感があった、この光景を前に一度見た覚えがある。
私はこれを機に決意をしたんだ、魔族だけど魔族に属さないそんな者になりたいって。
自分が何をしたかを、考えた。あの時は何を言ったんだっけ?今ほどは定まってないから拙い言葉で、呆れ果てさせたんだっけ?それとも考えとしない本心での言葉で理解して貰ったんだっけ?
あぁでもうん。これだけは言える。私はきっと何度繰り返してもこの誘いには乗らないんだろうね。
轟轟たる雑音は、その一言によって掻き切れた。
「…私はそれ、やりたくないな」
「それは愛が消えるから?」
「うん」
沈黙が痛いほど続く。お互いに目を見据え、自らの意志を通そうとした。堪らず私は自らが恥知らずな事をしたと顔が熱くなるように思えて、顔を地に伏せた。
そんな中で最初に折れたのは、無駄な時間を嫌ったソリテールだった。
「…ねぇ。君はなんで愛を信じるの?」
「愛がこの世界を回しているからだよ。疑問には思わなかったかい?愛の付く言葉は多く存在する。私はそんな人間の表情が好きだ、これに囚われている」
昔は知らない、でも今はこうだ。
私は、人類の形が好きだ。それは姿っていう可視化してるものじゃなくて、目には見えないその概念的な者に入れ込んでる。
「そこまでか?そんなものが無くても魔族は生きている」
黙っていたマハトも声を上げた。ここまで執念を抱いて追い続ける事を理解出来なかったために。自らも人類の持つ悪意を求めるがここまでの想いは持ち得なかったがために。
「…マハト、私は愛という概念に可能性を感じているんだ。これがもし魔族にも成せれば私たちはもっと強く繋がれたのではないかって、ね」
滑稽なその姿に誰かは笑うのだろうか。蹲り、天に祈りを捧げる道化の一端だと見過ごすのだろうか。でも、私の原初はこう言っている。この道を突き進めと、苦難が待ち受けようとも、その先に未来はあるのだと。
これは自己欺瞞かも。ふふっ、それは否定出来ないね。
でもこの気持ちは、きっと私の本心だよ。これの名前は知らない、私は感情をラベルでは見ていても中身を見ていない。だけれども想像は出来る。それは魔族っていうのもあるし、肥大した脳がある人類だってきっとファイルケースの奥底までは見ていない。そこに何かが潜り込んでいるのかもしれないのに、忘れ去られた追憶はそこにあったのかもしれないのに。
この感情の渦に全身をビクつかせ、私は顔を持ち上げた。
「私が悪意を求めるようにお前は愛を求めるのか。試しにお前も人を殺してみるか?そうすればその繋がりというものを感じ取れるかもしれんぞ」
その言葉は誘惑だ。確かに愛は死と密接だと思う。死とは感情の爆発装置だ、これを経て人類は感情を理解する。祖父が死んだ時に、それへの愛を自覚する事もあった。あの時にこんな事をすれば良かったと後悔した事もあるのかもね。
だからこそ、自らの意思を再確認出来る機会でもある。外的要因ではあるけど授けられたんだ、有効活用しなきゃね。
ただ私はそれを許容しない。それをズルだと思ったのかもしれないし、はたまた別の理由かもしれない。
「君はさ、愛ってどこに芽生えると思う?」
堰を切ったように私の想いが漏れ出る。
「親愛、友愛、愛玩、愛郷、そして自己愛。どこからどこまでが愛という範囲に含まれるんだろうね?ある人は言う、それは愛じゃないと。ある人はそれを否定した、それは愛でしかないと」
私は正解を知らない。人類ですら正解を知らない。だってそれは、自らの進化を止める行為だから。思考という進化の軌跡の出発点を切り捨てるなんて、私達がしてこなかった。それを人類はするなんて希望的観測を抱けるわけない。
「like,affection,loveこれら3つの境目とは?人類の言語は面白いもので、基準がその個体ごとに任されている。私達魔族には分からないし、利己的とは思えないその使い分けを彼ら彼女らは平然としているんだ」
曖昧な言葉は好きだ。分かりにくいそれは嫌いだ。
利己性を持つ自分はそれを否定する。利他性を持つ自分はそれを肯定する。
この二律背反は、人類を人類たらしめる機能だ。これを持たない私は、持たない機能を称賛する。
「私は、魔族を次のステージに持っていきたい。これは魔王の宿願に感銘を受けただとか、魔族という種族に誇りを持っているだとか言うのじゃないよ」
魔王と話したことがある。自らの傘下に加われと、魔族の生存戦争に加担せよと命令されたことがある。
だけど、私はそれをしたくない。例え自らの生を縮める行為だとしても最短の道を、合理主義な自分は見逃せない。
「私は、未知を求めている。長く生きたいと、必死になって生にしがみ付いているのはそれが理由だ」
音が消えた。私のその言葉はこの2人には恐らく響かなくて、私はそれを仕方のない事だと割り切るしかなかった。
私と問いに答えるわけではなくニコニコと笑顔が返ってくるのみであった。
多分あの時と同じ結末だ。2人は黙して私はぜいぜいと肩を上下している。
勢いを持った言葉たちはきっと届きはしない。いやこれだけは理解したのかも。私達は分かり合えないって事が。
そして理解した。何回も場面が変換したのは、私が思う幸せの追体験だって。
だからこそ私の記憶に残る出来事をなぞっていた。あの二人との旅を経て、得たものを再認識させるために。
友、だちか…
うん、それもまた良いものだったね。
そしてそれが次に繋がっている。
勇者、君は友達?それとも…なんだろうね。
◆◆◆
鬱陶しい雨、それがザーザーと降る。
夏を思い出させるような強い陽光が、地上に注がれた。目に染みるような光が空一杯に広がり、私達を照らす。そんな摩訶不思議な光景は、なにかの予兆なのかもしれない。
「
あまりにも弱いそれを見てグラオザームは溜息を付く。
やれやれと肩を竦めながら、簡単だったと行動を振り返る。
「実に呆気ないです。ソリテール、貴女はこの程度終わる相手を警戒しろと?」
その様子を、馬鹿にするかのようにソリテールは私に目を向けて言葉を掛けた。
「いや、この程度じゃないよ。ねぇ起きてるんでしょ?良い加減狸寝入りは辞めたらどうなの?」
「バレてたね。いやぁ油断してくれたら良かったんだけど、君は相変わらず警戒心が高いね」
目が覚めたら、勇者が1人で3人もの魔族と拮抗していた。
凄いね、本当に。私居なくても何とかなるんだ。っていうか邪魔者でしかないし、守りながらよくあの三人と戦えるね。
「ごめんね、足引っ張って」
「想定内だ、君が戦力外なことぐらいな」
「それは、それでムカつくなぁ。でも良いよ、ここからが私の本領発揮さ」
ぼそぼそと周りには聞こえないぐらいの音量で何かを囁いた後に変化が訪れた。
私というちっぽけな魔族のオーラは、突然妙な存在感を持っているように、ゆらゆらとそれは揺れ始めた。
私の輪郭が曖昧になり、世界と溶け込み始める。
だけれど、その様子に”誰も気が付かない”。
その最中に四方に舞い、時折降ってくる剣を魔法で防ぎながら、対話を試みる。
「その魔法って夢を見させるものだったんだね」
「…私の魔法は決して叶わないと諦めた幸せな夢を実現できる」
「だから、それから覚めるのは可笑しいと?」
「そう、安らかに眠っていたのにも拘らず、幸福から逃れるなど在り得ない」
「私はね。友達を持ってた時期があったんだ、そこに居るソリテールとか今この場に居ない子とか、多くは無いけど大切な友達だよ」
「それがどうしたのです?」
「それと決別する夢だったよ」
「…」
「私にとっての幸せはあれだったんだね。現実に起きた出来事が幸せで、本来あるべき手を取り合う未来は不幸せなんだよ。不思議だよね、私自身も疑問に思ってる。
けど同時に納得もしてる。だってあれがなかったら勇者と会えてないだろうから」
背中を向けて、フードを被った魔族と戦っている勇者へと視線を向けながら話を続ける。
「あと少しで、気が付けそうなところまで来れているから」
その言葉を言い、改めて夢を見せてくれた魔族へと向きなおす。
そして頭を下げ、この胸に残る気持ちを伝えた。
「ありがとう」
「君に感謝を述べるよ、この機会をくれてありがとう。そのお陰でもっと理想へと近づけた気がする。
君は、いや魔族は感謝の言葉なんて必要としていないだろうけど、愛を語る者達はそれを忘れなかった、この言葉の使い方は、見様見真似だけど合ってると思うね」
僅かに身悶えながら、こちらをキッと
その様子に少し苛立ったのか、身に纏うオーラが激増した。
「…そうですか、残念です」
黒い粉末が、舞い始める。何かを成そうとしている、それも相当に不味い雰囲気だ。
黒い絨毯が、地面一杯に敷かれて、祈りを捧げるかのように手を組み、力を溜め出した。
じりじりと肌を割くような痛みがし始め、魔力の質が変わっていくのを感じ取った。
空間が歪む、風景が蜃気楼のように揺らめく。
痛みに歯を食いしばり、耐えるしかない私へと止めをさすかのように最期が告げられた。
「
── 瞬間、世界から光が消えた。