魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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口角泡は飛ばさない

 

 

 

「未来? それは何処まで視えるの」

 

私は疑問を投げ掛ける。

 

まぁ魔法が有り触れた世界だ、そういう魔法もあるのだろうと話を終わらせる。

物珍しさはある。

しかしどれ程稀有な例かは分かっても、驚く程度でそれ以上は湧かなかった。

人類のものだ、制限がある不良品だと決めつけたからだ。

 

だけど、そんな予想は的外れで、

 

「どこまでも」

 

「え」

 

「私が命絶えるその後まで、視えるのだ」

 

男のそれは上回った。

その勘違いを是正したのだ。

魔族(わたし)は、魔族はそれを聞いて

 

そんな、そんな事が在り得るの?

 

と、戸惑いを隠せない。

 

人類は魔族に勝てぬものだと知っている。

それは変わらない、何故なら魔族は多くの時を生き続ける事が誕生前から定められてる。

 

そして魔族はそれに加え、一つの人類では生涯拝むことすら出来ないほどの魔法を生まれた時より授かっている。

私だってこの魔法があるから生まれた時から無事で居られた。

それぐらい圧倒的なものだと、思っていた。

 

そして何より種族の限界値が、その隔絶たる差を強要している。

人類は一つのマグカップ程度の魔力量が限度だ。

 

私でもそれだけは分かる、何故なら今まで見てきた人たちは私の足元にも及ばない程度のものであった。

それなのにこの人類の魔力量は、悠久の時を生きる魔族の大半を超えていた。

 

淹れた水を無限に吸い込む水差しのような深淵を覗いた気がして、少し後ずさりした。

自分の事なのに、まだ驚きという感情が残っていたことに少し新鮮さを感じながら。

 

「あぁ、怖がらせる気は無かったんだ」

 

幼き子供に向ける温和な顔で私を和まそうとするが、あれを忘れる事は出来なかった。

 

「…で、私をどうしたいの」

 

「と、言うと?」

 

「人類は魔族を毛嫌いする、貴方が何で私に力を開示したかは知らない。

だけど、人類の矜持じゃないの? それを貴方は何故持たないの?」

 

「そうだとも、私は魔族ならば容赦なく殺しただろう」

 

男はまるで舞台の役者かのように、ゆったりと後姿のまま劇を開幕する。

 

「私は生まれながら人より優れる者だった。そうだとも、私は定められている。

勇者になれと、世界から祝福を授かった」

 

太陽が、男にスポットライトを当てるように。

周りは一層暗く影に堕ち、その対比を際立たせる。

 

「それが、この未来視だ。 それにより視たのだ」

 

くるりと、こちらに身体を向けてまるでワルツを踊るかのように

そこに居る自分を世界へ見せつけるように

自分の全てを曝け出す。

そう今この瞬間だけは、誰よりも主人公だとその態度が、雰囲気が物語る。

 

「朝が必ず来るように、夜はいつでも帰ってくるように

未来も必ず訪れる、そこで君は偉大な貢献をするんだ」

 

私の眼をその鋭い目で覗き込みながら、

 

「私、南の勇者と共にな」

 

男はウインクをしながら私へそう告げたのだ。

その光景に私は少し記憶を思い出した。

 

 

朝は夜の上に咲く一輪の花で

朝は夜の秘密の宝箱を解錠するための煌めく鍵なんだ

そして朝は夜を覆い隠すもので

はためく敷布の海からね、多くを呼び起こすんだ。

 

 

そう昔読んだ本で見たことがあった。

確か人類の詩という文化だったか、その本にこの一節が載っていたのを覚えている。

 

それを引き出しから引き摺り出した私は一つ疑問が浮かんできた。

 

貴方にとって未来は朝の日光なの?そう問いたかった。

じゃあ夜の月光ってなんだろうね。

その明るい場所には暗い場所が引っ付いてくる。

表裏一体のその二つは離れることは無い、離れられない。

 

過去?

あぁそうかも、と少し納得の色が滲む。

 

そうだったらとっても人類らしいね、貴方は時間に囚われている。

自分の能力の大きさに自分を惑わされている。

皆と同じ人類だね。

 

 

…でも本当に?

一時のあまいあまーいお菓子に騙されて、子供はきっと酷い目に合う。

悪い奴に化かされて、そうして未来を閉ざすのは子供の特権だよね。

でもでもそれは、その嬉しさは永遠のものじゃない、あれは一時の気の迷い。

それをこうも自信満々に言ってのけるのだろうか?

 

この男が、愚者だったら疑問なんて出てこなかった。

でもさでもさ、ともう一人の私が声を上げる。

 

うん、そうだよね。

この人はそうは見えない。

じゃあじゃあ、これはそうじゃないの?

私は、魔族(わたし)は困ってしまう。

 

初めてみる種類(ひと)に、戸惑ってしまう。

 

 

でも、でも私はきっと。

この話に乗る事を、どの世界線でも決心するだろう。

この人類が、初めて私を怖がらない人だから。

いつも憎悪ばかり向けてくる、人類らしからぬヒトだから。

 

その未知の人に私はとっても興味が湧いた。

私は、だから乗ってみる。

 

 

愛を知りたい、その一心で。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ん、そう。 乗るよその話」

 

「そうか、では早速向かうとするか」

 

その態度に魔族は少し不満げな顔を浮かべる。

予想通りだというその態度に、つまらなそうに口を尖らせぶつくさと文句を言いたげだった。

…あとその爽やかな笑顔にも少し苛立ちを感じながら。

 

「…ね、もう少し驚きとか嬉しさとか見せてくれないの?」

 

「それは無理な相談だ、私は未来を視ているのだから。

これは決定された未来だよ」

 

遂には溢れた不満に対して男は当然のように事実を述べる。

その自信に満ちた態度に、魔族は溜息をつく事しか出来ない。

やっぱり辞めようかなと早速後悔し始めるが、それでも尚付いていく事は未来永劫“絶対”だ。

 

魔族らしからぬ性格と思考でも、魔族は魔族であるがため、

その利己的な主義からは逃れられないのだから。

己の求む場所への最善手からは逃れられないのだから。

だから魔族は無意識に、この男の手を取る事を選ぶ。

 

魔族は確かに残虐で、欺くために策を張り巡らせる。

でもそれはなにかやりたい事があるから。

目的が無いなら、魔族はそんな面倒なことをしない。

 

だって身勝手だから。

人類の大人だって、楽に生きれるのならそうするでしょう?

 

だから魔族はこの手を取った。

『愛』という唯一残された欲望に、縋る事しか出来ないのだから。

それを教えてくれる人類に取り入るしか無いのだから。

 

「もういいや、で私はどうすればいいの」

 

「ふむ、ではその角を隠し給え。 それは人類の領域では邪魔でしかない」

 

「はぁ、これ結構嫌なんだけどね」

 

そう言いながら“いつものように”魔族は角を魔法で誤魔化して、人類の幼子に見えるように姿を偽る。服もそれ相応の質素な飾りも無い無地のものへと変える。

ぐるりと自分の姿を見回して、確認を男に目線で頼む。

 

「及第点だが良いだろう、では行こう」

 

「えぇ…これでも今まで人にはバレた事は無かったんだけど」

 

偶に行く人類の居住区域で魔族とバレたら面倒だから。

魔族はその術を学んだ。

めんどくさがり屋なその魔族が初めて熱心に学んだ魔法がそれである。

 

スタスタとその長身に見合った長い足を動かし前へと進む男を見て、

それが求める基準の高さに辟易しながら短い足をせっせと動かし必死になって付いていく。

その後ろを馬と馬車はゆっくりと追いかけるのだった。

 

 

がらんごろんと音が鳴る。

 

 

石が弾け、草は身を逸らす

 

 

空は今日もきっと快晴だ。

 

 

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

街に着いた時にはお日様はもう眠たげで、お月様が仕事を始める時間。

人々は家へと帰る時間で、目の前では子供が母親と手を繋いで元気に古巣へ戻っていった。

 

空を見上げると異なる景色が目を焼いた。

橙色に染まったその大きい帆布を、私は少し眺めた後にこう呟いた。

 

「私やっぱり青以外好きじゃないな」

 

「ほう、それは何故だい?」

 

男がそれに問うてみると、私は少し首をひねって頭の言葉を羅列していく。

 

「この夕焼けは、郷愁を彷彿とさせるんだ。 なんかさ、人が居ない街を見ると知りもしない故郷が脳裏によぎるんだ。 心が騒めくんだ…」

 

そうだね、私には故郷なんてものはない。

産まれは森の奥底で、動物がちらほらと見える深緑(しんりょく)の場所だった。

陽に焼けた低木は他より少しのびのびと目立ち、大きな年老いた楠は名も無き草や色とりどりな茸の隠れ場となっている。

 

あの森で育った。

それを故郷と言うならばそうなのかもね。

でも話し相手なんていなくて、私の周りをピヨピヨと頭を傾げながら取り囲む小鳥や、

ドングリをせっせと頬に詰めて私の座る木の真上へと持ち運ぶリスを見るのが習慣になってたぐらいだ。

 

池の水がぽちゃんと飛沫を上げる。

 

そちらに目を向ければ、

川面(かわも)に響く風に驚いた魚が尾びれを左右に振り、ざぶざぶと波紋を広げていた。

意地悪な風が私の肌をからからに干乾びさせるように剥離流を造り出す。

 

そんな景色が幼き私の居場所だった。

だから人類が持つ同類が出迎える家なんて魔族(わたし)には無かった。

 

 

ねぇ、そこでどんなことが行われていたの?

もしかして『愛』に関する行為をしていたりした?

 

 

いいな、いいな

 

 

それなら私に教えて欲しいな。

それが私の欲しいものだから。

 

 

「そうか、それは良い事だね」

 

「なんで…? この迷いは私を戸惑わせてる」

 

「それが知るという事だよ、お嬢さん」

 

そうなのかな、そうだったら良いね。

永い永い、この時間で進歩しなかったことが、錆びついたブリキの人形が動き出すのは、

私にとって好ましい事だから。

 





ほのぼのした中にある1つの原石。
磨けばきっとキラキラ光る。
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