魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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ⅱ四季を織り成す色彩
角革を着付ける


 

 

 

「取り敢えず雨風を防げる場所を探さない?」

 

「ふむ、ではあちらへ行こうか」

 

そう示す先に目線をやると宿の看板が立っていた。

少し寂れているが、歴史を感じさせる趣はこの宿が如何に愛されているのかを感じさせる。

入り口付近に花瓶が並べられ、多くの花が植えられていた。

それを興味深そうに魔族は右へ、左へ目線を向ける。

 

そうすると一つの花に目が留まった。

スノードロップだ。

春を告げる花で、俯き蕾を開くと本で読んだことがあると、魔族は記憶から探り当てる。

 

自分から催促した癖して寄り道気味な魔族を無視し、男は宿に足を踏み入れる。

魔族は置いて行かれないように、早足気味に追いかけた。

その後ろをお利口な馬が付き添いながら。

 

 

 

 

入口へ入ると少し幸せ(しわ)が目立つ女が受付台で立っていた。

長年勤めているのか貫禄があり、多くの人類の旅立ちを見送ってきたのだろうと予測できる。

 

少し内装を流し見ると、壁一面に写真が飾られた場所が目に付いた。

一人で写ったもの、家族で写ったもの、皆一様に朗らかな笑顔を携えてその瞬間の出来事が飛び出してくるような、力を秘めていた。

それを見て、様々な情景に思いを馳せる事が出来る物であった。

 

一つ、気になる点を除けば幸せな時間の影絵で終わった。

 

子供だ。

 

この集合写真に写る子供だけがぶすっとした顔をしていた。

何かに不満を抱えている、不機嫌そうな顔だった。

 

浮いている、この人類だけ。

魔族はそれを見て違和感を感じたが、それよりも先に受付の女が声を掛ける。

 

「泊まりかい?それとも冷やかしか?」

 

最初は優しげに、最後は厳しげに。

来訪者を見つめている。

 

「泊まりだ、空いているか?」

 

「あぁ、だが一部屋しかない。 同室で良いかい?」

 

ちらりと男がこちらを見るが、構わず魔族は返答をする。

 

「問題ないよ」

 

それに男は少し気疲れを感じさせる息を漏らし、憂鬱そうに同意する。

相も変わらず性の違いを理解出来ないのか。

魔族らしいと言えば良いように聞こえるな、そう心で独白する。

 

「…それで構わない」

 

「んじゃ二階さね、これは鍵」

 

女将は鍵を手に持ち、ぶらつかせている。

それを魔族はたまらずにひょいと手を伸ばし取った。

餌に目を奪われる動物のように、恥も外聞も知らず釣られた。

それを少し眺めた後に、魔族は気にせず続きを目で催促する。

 

「風呂は外、夕食は食べれるから食べたいなら一階の廊下突き当りにある食堂に行きな。

朝もおんなじだ」

 

そう方向を指で示しながら早口気味に伝えてくる。

だけれど全く聞く気の存在しない、魔族は先程から気になっている事を問うてみる。

 

「女将さん、この写真の子は?」

 

その声と共に写真へ向けて差された指を女将が辿ってみると、しかめ面の子供だった。

それを踏まえて、頭に次々に浮かぶ言葉をぽつりぽつりと語り始める。

 

「あぁ、こいつはこの街の村長の息子さ。 昔っから愛想が悪くてねぇ

挨拶しても返しやしないし、ホント教育がどうなってるんだかね…」

 

魔族はそれを聞いて他の写真についても、物のついでに尋ねてみる。

 

「なんか背景が賑やかだけど、これは?」

 

「これは街の住民が宴をした時に写真を撮ったものさ」

 

受付からのっそりと出てきた女将は若い少女の見た目だからか、魔族の問いかけに少し機嫌よさげに応えてくれる。

子供好きな影がひょっこりと顔を出し、先までの他人から一歩(こころ)へ入ってくる。

そうするとつらつらと思い出話を語りだす。

 

「あぁこれは確か、豊穣祭のだね。 そっちは確か南の農地の一人息子が結婚した時だ

右上のは確か……」

 

段々話は逸れて行き、遂には自分の夫の話まで流れていく。

日頃の行為に不満が溜まっていたのだろう。

栓の抜かれた湯船のように、じゃぶじゃぶと出るわ出るわ大惨事。

 

「あの人はさ、私の宿なんて手伝いもせず酒場をぶらりとふらついてるのさ

情けないったらありゃしない」

 

油が注された舌からは雑音(せけんばなし)を垂れ流してくる。

 

遂には魔族は苛立ち始め、

はねてもはねても届かない、あぁ跳ねる音は錆びてギシギシと耳障りだ

 

聞いてもない事を聞く時間は不快だ、だから人類は…

 

そう魔族が思い始めるまでに至ってしまう。

 

己が中心、天動説(自己中)

それが魔族の真意だと

 

そう改めて分からせられる

そんな機会であった。

 

 

この不穏な気配を察した男は会話を終わらせ、魔族の手を引いた。

出会った時の優しさは無く、強引に手を握り締める。

 

「もし、私は少し疲れまして早めに部屋に向かいたいので」

 

「なんだいなんだい、妬いてるのかい? 見た目は全然違うのに恋人なのかい?」

 

「そうでは無いですよ、では」

 

作り笑いを浮かべ、その針のような刺持つ毬栗(小言)を手で跳ね除けその場から立ち去る。

 

「有難うね」

 

「えぇ、どういたしまして」

 

紳士みたいなその態度は、いつもよりも心がぽかぽか暖かかった。

その背中も少し大きく見えて、疲れたのかなと自分の眼を擦ってみてもそれは変わらなかった。

 

だから魔族はもう一度

 

「…うん、ありがとね」

 

と言葉をか細い声で伝えるのだった。

 

 

 

 

部屋に着けば年季の入った金属の蝶番が付いた扉が私たちを出迎えた。

 

それを開くと、

ゴシックとシノワズリが融合したアンティークな家具がそこらかしこに散見出来た。

レンガ造りの壁も、二つ並んだベッドも私好みの味だった。

 

ふむ、と備え付けの机を撫でる。

この傷だらけの歴史を私はとても大事に思う。

それが愛を知る一歩なのだと私は知っているから。

人の営みを学ぶことが進歩に繋がると教わったから。

 

そう一頻り感じた後に欠伸が口から逃げ出した。

 

「ちょっと眠いかも…」

 

それに気づくとどんどん眠気が元気になってきて私の意識で威張り始める。

だから私は、

 

「…お、やすみ」

 

と、ベッドに乗ってる枕へ自らの顔を(うず)めるのだった。

次第にすぅすぅと呼吸音が静寂の闊歩する部屋へ鳴り始める。

 

「はぁ… 子供染みた睡眠欲だ」

 

男はあまりの眠りの速さに嘆息する。

そのだらけた姿を視界に入れながら、男は今夜の出来事について考え始める。

 

「では、あとで会おう」

 

そう言い、自分も仮眠を取る事にした。

夕餉も取らずに旅立つ二人の部屋を、激情に燃えたお日様はちりちりと照らすのだった。

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

窓の外の若葉が風でゆらゆらと揺られている。

その向こうにはきらきら星が(ちりば)められる宝箱があった。

 

虚無、充実

世界にはそれが溢れていると唱えている。

 

 

この空は及第点だ。

 

 

私はその美しさを感じれるけれど、それを評価は出来ない

そう断言する。

 

空を読んだことは、雲を歌ったことはある?

 

この暗くて黒い無彩色は先が見えない、

この空白を私は人の心に重ねる。

 

私は青い空はいつも好きだった。

青い空は、真っ青で清純な心を見せてくれる。

時折混ざる白色(くも)は、心が霞む繊細さのようだ。

 

私は黒い空はいつも嫌いだった。

黒い空は、真っ黒で不潔な心を見せてくれる。

唯一星が救いであって、それ以外は只の汚泥のようだ。

 

だから私は赤い空は黒よりも少し好きだった。

青は穏やかで、赤は騒めいて

そんな風に感情に呑まれているのは醜かった。

だから私は嫌いだった。

 

若い陽には分からないけど、木陰に堕ちる老木は分かる。

それがこの空が示す美しさだ。

 

「血の匂いがする」

 

そんな風に瞑目して考えてた魔族(わたし)は、夜が更け込むある時間に匂いを嗅ぎ取った。

鼻がムズムズした私は、夜分遅くに頭を起こす。

辺りを見回せば星明りで照らされ、反射する机が唯一の光源だ。

 

扉に目線をやれば、まだ明るかった時は茶色なそれは

嫌いな(あか)に染められてた。

ひょいとベッドから飛び降りて、その扉をおずおずと触れる。

そうするといつもの色に様変わり。

だから私はその色へ、原因へと向かって行く。

後ろにはいつの間にか男が付いて来ていた。

 

「こうなるの知ってた?」

 

「勿論」

 

やっぱり、そう私はこいつの性格の悪さに辟易した。

だけど変わらず歩みを進めると、原因と思われる場所へ辿り着いた。

部屋を出て、宿を出て、てくてくと、すたすたと。

宿から少し離れた一軒家が真っ赤に、真っ赤に染まってた。

 

さっきの扉なんて比較にならないほど、潤朱(うるみしゅ)色に染まってた。

それに私と男はもう何も感じず、それを無造作に開ける。

そうしてずんずん歩いていくと、遂にそれを見つけれた。

 

その部屋を覗いてみると、時の流れが緩慢になり、現実とズレが生じる程の光景が目に飛び込んできた。

 

 

 

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