魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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角番した真子

 

 

 

目の前の景色はそれはそれは、凄惨だった。

 

時折、夜風に揺られるカーテンは真っ赤なトマトの色をしている。

水をたぶんに含んだベッドはもうぐちゃぐちゃで、ほっぽり出した方が良いぐらいだった。

 

ぎぃぎぃと隙間風が窓を揺らす。

 

一通り、周りを見て匂いの元凶を見た。

部屋の中央にある椅子の上にそれは居た。

 

虚空を見つめる死体(もの)が鎮座していた。

汚いガラスごしに月が指を指し、それを高らかと叫ぶように光を増す。

 

その眼はキラキラと、顔はひくひくと痙攣をしている。

鼻が細く、額ははげあがり、鼻下には太い髭があった。

ただ、顔には影が差し残忍な皺が深く掘られている。

 

「死後、三十分ぐらい? こんなピクピクするなんて面白いね」

 

「魔族らしい意見だ、だが良いのかい?これでは私たちが犯人だ」

 

「んー、未来ではどうなの」

 

「切り抜けられる」

 

「まぁそりゃ、ここに付いて来てる時点でそうだよね」

 

この男がそんなへまするとは思えない。

だから確信めいた問いをして、予想通りの回答が返ってきて一安心する。

魔族は未来視を持つこの男をちらりと見て、この事件の答えを聞く。

 

「で、誰がやったの」

 

「言う気はない」

 

「え」

 

なんでそんな面倒なことをするの?

そう魔族は混乱する。

犯人を言えば、それだけでこれは終わるのに。

静かな夜を越せるのに。

 

「お前の知りたいものがこの件に関わっているのだよ」

 

「よし、早く解決しなきゃね。 人類が死ぬなんて大変だよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、魔族は意見を引っ繰り返し早口気味に捲し立てる。

自らの目的に関するものなら早く言えよ、と変わり身の早さを見せつける。

 

先から一転、やる気を出して、

自身の痩せた冷たい手でもう片方の手首を何度か擦り、この事件の状況を観察する。

 

真っ暗の中で立ち、魔族は目を凝らす。

まずは顔を確認しようと一歩、また一歩と近づいてみる。

そうすると浮き出る既視感の塊に、

 

「あ、確か…」

 

魔族は何かに引っ掛かったのか、頭の中をぐるぐると巡り歩く。

そうして暫く経つと、パズルのピースが見つかった。

 

「不愛想な子の後ろに居た人だ」

 

写真に写っていたその人を

そう思い出した。

 

「考えるのは良いが、一旦は人を呼ぶべきではないか?」

 

確かに。

このまま放置しておくのは腐るし、勿体ないよね。

あと赤が占拠する部屋に長居はしたくないし

と思い、魔族はそれを首肯する。

 

「取り敢えず、衛兵に言いに行こう」

 

 

 

 

 

人がざわざわと音を奏でる。

夜が少し明け、日はもうそろそろといった所だろうか?

松明で照らされた街は昼とは違う景色を魅せてくる。

 

詰所に向かった私たちは、衛兵たちに不審がられながらも事情を話した。

そうすると偉ぶった髭ずらの小父さんがそれを聞いて部下に指示を出し、慌てて部下が向かって行った。

 

「何故、死んでいたと分かった?」

 

血色の良い頬は、その疑りと重さを兼ねてふっくらと膨らんでいる。

だが冴えた目は私たちを捉え離さない。

 

「私は生まれながらに色が見えました」

 

少女(まぞく)はぽつりぽつりと語り始める。

 

「気が付いた時には見えました、私が可笑しいかも知れません」

 

目を瞑り、じっくりと時を熟成させて、

 

「誰かが悲しむときも、怒るときも、そして消える時も

私は色が見えるのです」

 

瞑目していた目を開き、そう締めくくる。

 

「そうか、まぁ良い。お前たちは別に疑っていない」

 

少し痴呆を見るような目で見た後に、少し姿勢を前傾する。

大方いたずら娘が無断で屋敷に入ったのだろうと、考察したのだろう。

 

「それは何故?死体の第一発見者など、疑って然るべきだと思うのですが」

 

「本人がそれを言うのか?だがそうだな、お前たちはこの街に来たばかりだろう

私の記憶にない時点でそれは分かる。そしてあの死んだ男は役人だ、そちらの恨みによるものを疑うべきだろう」

 

そういい小父さんは、夜食を口に加えて、椅子に背中を預ける。

 

「成程、理性的で助かりました」

 

少女はそう言い、要件はもう終わったかと席を立つ。

 

「用があるならあそこの宿に来てください、そこに泊っております」

 

それに小父さんは手を振り、返事とした。

 

 

 

 

 

後で私たちを捜していたらしい、あわてんぼうの衛兵に聞いた話だが、

念のため処置を施したが生命はもうそこには無く、死因は多量の出血

犯人は相当に恨みを持っていたのか、首を一刺しし、その後に全身を滅多刺しに。

 

凶器である刃物は部屋には無く、今は怪しい人影を見た目撃者を捜索中との事らしい。

部屋の中から廊下に掛けて痕跡はなく、窓から逃げたのだと推察される。

 

容疑者は、今のところ洗い出しているが、1人。

相応しい動機があるものが居たようだった。

 

住人には言わないようにと言われたから、それを留意しないとね。

 

あぁ忘れていた

その男の死骸の傍には一冊の本が落ちていたらしい。

 

タイトルは、『季節の移ろい』だったらしい。

 

 

 

 

── あ、

 

「あの子供が誰なのか聞くの忘れてた」

 

うっかりと目を手で覆い天を仰ぐ私に、男は助言を出す。

 

「あの死んだ男の息子だそうだ」

 

「?」

 

「昨日宿の女が話していた、覚えては無いのか?」

 

あぁ、そうだったのか

確かに無駄な話が多すぎて途中から聞くのが面倒になっていた。

そう思い出す。

 

子供のいたずら()きのように散乱した記憶を一纏めにする。

 

それを一先ず記憶の端に寄せ、

「一旦、死んだ男について聞きまわってみようか」

 

そうして聞き込みを開始した。

 

 

眼鏡を掛ける神経質そうな役人仲間は、

「あぁ、あの人は偉ぶってて周りを蔑む人だったね

自分の仕事にもプライドを持って勤めていたよ」

 

近所に住む快活な肝っ玉な人は、

「良く息子を叱ってたよ、私の息子なのだからそれ相応の立ち振る舞いがあるだろうとかね?

やだねぇ、いくら自分が出世したからって息子にもそんな事を求めるなんて」

 

薄汚れた布を纏う老人は、

「成り上がりなのさ、元々は貧乏な家の生まれだあぁそうに決まってる!!

だから、いっちょ前に見栄だけは張ってたのさ!!」

 

そこらに居た汗光る働き者は、

「仕事だけは出来るから、腫れもの扱いだよ。 あの性格さえ無ければなぁ…

街に居る時も挨拶しないと睨まれる、そんな人さ」

 

何かに怯える小動物みたいなフードを被った人は、

「え、えっとその人の事はあんまり知らないんですけど

怖いですよ、ね? こ、この街で殺人なんて、然う然う起きなかったですから…」

 

 

一頻り、人となりを把握した後

最後に現場である屋敷に足を運び、痕跡が無いか探すと

窓の丁度真下にある場所にそれはあった。

その部屋の窓から下はずっと丁寧に管理された花壇であったが、

花は踏みにじられ、柔らかい土は足跡で締め固められている。

 

それに恨みがあったかのように、しっかりと。

 

 

 

── 薄い霧が立ち込める建物(もり)の中を手でかき分け、辺りに見える蜘蛛の巣を、ぐずぐず泡立つ沼を、無視し、地面を愛撫する。

 

多くの(証言)を入れた瓶はもう一杯だ。

これで満足と警笛を鳴らしたそれを背景に

欺きようのない色を見比べて、ふと辺りに目を向けると人々がこちらを見ていた。

 

凄惨な事件が起きたのに、なぜ笑顔なのか訝しむ色だった。

えぐみを伴う甘さや目もくらむ苦みが下にじんわりと染み、それに笑みを深くした魔族は

爽快に空気を身に纏い、いつもより軽そうに道を進む。

 

「じゃあ一回部屋に帰って考えようかな」

 

 

 

 

 

部屋に戻った私は椅子に勢いよく座り、

聞いたことを頭のテーブルに羅列する。

 

私はじっと考えて、一度、二度と立ち、座り

窓の外を熱心に見つめて思考を整理する。

 

窓の外では人が忙しなく、落ち着きなさげに右往左往と動き回っている。

向こうの端には詰所があり、その前で少年が騒ぎ立てていた。

これを私は何度か見て、椅子の上で手首を擦り考えていると

突然腰を上げ、大きな声を上げた。

 

「やっぱりッ!! あの少年が犯人なんだよ」

 

「ほう、何故?」

 

「昨日写真で見た通り、あの少年は父親である役人を酷く嫌っていた

それで、恨みが蓄積し、遂には手を出してしまった。

やり方はこうだ、父親と口論し、激昂した少年は予定通り懐に隠し持った凶器で首を刺し

衝動的に身体全体を刃物で嘗め回した後、窓から何かを使って逃げた」

 

「一般的な回答を有難う」

 

「え、違うの?」

 

私はひどく納得したものが否定され、目をぐるぐると回す。

男はその様子に少し微笑んだ後に、ベットで油で固めた髭を手で少し撫で

ゆっくりと根拠を教える。

 

「では、愛を知れたか?」

 

「……知れてない」

 

愛の由縁、それをこの男は今回の件で知れると明言した。

ならばこれでは不十分だ。

事実、私がやった事は当たり前の再自認で今更感は拭えない。

 

「一人頻り考えたところで、あの少年に一つヒントを聞きに行くとしようか」

 

「確かにね、ヒント欲しいし」

 

男はベットに降ろしていた腰を上げ、部屋の外へ歩みを進めた。

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

虚偽のかさぶたに覆われたひとつの痕跡

これを剥がせば知が流れる。

 

真実なんてそんなものでしょ?

 

 

本の一節で読んだそれがふと記憶から呼び起こされた。

なんでだろう?そう私は首を傾げるが今は“まだ”答えが出ることは無いだろう。

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