魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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角大師が微笑みかける

 

 

 

ギィと音をたてた本棚は右を軸にその奥を見せた。

そこには地下への階段があり、灯りは無く奥底は深淵だ。

 

「ねぇ、灯り無い?蠟燭とかランタンとかさ」

 

「…ちょっと待ってろ」

 

男は急ぎ足で倉庫か何かにそれを探しに行った。

その間に勇者にこれについて問うてみる。

 

「これってさ、何」

 

「あぁ、隠蔽する魔法と重いものを浮かす魔法だ」

 

「いやそうじゃなくて、こんな事をする意味があるくらい大事なものがここに眠っているって事?」

 

「そうだろう、君は老人がボケていただけと断定していた。

が、それは勘違いで老人は意思を持って出て行ったという事だ」

 

「…私の思考盗聴されてるし」

 

「分かりやすいのだ、君は」

 

そうなのかな、表情には出していないつもりだけど。

人類を懐柔するときには笑顔を浮かべるのが良いよ、そう笑みを浮かべて言っていたあの子の言葉を覚えているから。

それも魔族に囚われているのかな、形は違えど決して逃れられない魔族としての性質。

それなのかな、そうかもね。

 

貴女との時間は、永くは無い筈だ。

だって、一瞬の思い出にしか思えないから。

 

でもあの子は私の考えを否定はしなかった。たくさんたくさん学んで最後に一つの答えを出し、それを私に教えて欲しい。そう願っていた貴女の想いを忘れる事は一時も無かった。

 

「おい、在ったぞ。ん?どうかしたのか」

 

「いいや何でもないよ。ね?」

 

「無論、問題はない」

 

 

 

 

かつんかつんと足音が響く。

ぽつりぽつりと水が垂れる音が響く。

 

永遠に続くと錯覚するほどに変わり映えの無い道を進めば、変化が生まれた。

空洞音が聞こえてくる、そこに大きな空間がある。

 

 

そう思った瞬間に、目の前が開けた。

 

 

未だ聞こえる水滴音を背景に、そこは魔法の工房であった。

多くの魔法に関する書類があった。黒板には魔法の構造式や何かしらの生き物が事細かに書かれており、祖父が魔法を使える事を暗示している。棚には瓶が所狭しと並べられ丁寧にラベリングがされている。

敷かれた質素な絨毯のうえには埃が積もり、暫く人が入っていないことを察しさせる。

そして一際(ひときわ)浮いている、牢屋。いやというよりも、

 

「何かを飼う為の柵?みたいなものかな」

 

「ここは、一体?」

 

男はまさか家の下にこのような空間があったとは思いもせず、戸惑いの色を隠せないようだった

 

「取り敢えず分かるのは君のお父さんは魔法使いだって事さ。後は何か人には言えない者を飼育していた」

 

「な、なるほど?」

 

「一旦は調べる方が良さそうだね、勇者は…うん動く気なんて無いよね」

 

「えぇ、貴女が自らの意思で掴み取るべきだ」

 

「はい、はーい」

 

「じゃ、君も探すの手伝って。何を飼っていたのか私も気になるからね」

 

それにおずおずと頷いた男は辺りの資料を確認し始める。

その姿を後目に私も黒板に書いてある、図式や絵を記憶の数々から検討しないか探ってみる。

 

腕は昆虫みたいに6本ある。脚は2本?かな、二足歩行ぽい。あぁじゃあ蜘蛛形のが進化を経てこうなったのかもね。そして頭は…爬虫類ぽくて、蛇に近しいのかな。

目は頭には王冠みたいなトサカがある。

絵はこれぐらいか、でだ。この魔法式は、解呪、解毒についてのものだね。

 

じゃあこれがあの魔物なのは分かった。なんでこんなところで育てる必要があったのか、だね。

魔物を人間が飼うのも理解できない。あれは魔族以上に知性なんてものは無く、本能の赴くままに生を謳歌する(けもの)さ。

 

「うーん、君のお父さんはさ。多分研究目的では無いのかな

普通に考えて、この化け物を研究する意味は見出せない。仮にだ、この能力で人間の生活領域が侵犯されているのなら飼う意味など無く、この対処魔法だけを研究するので事足りる」

 

私はその疑問の答えを聞かないままに自分の推測を語る。

 

「それぐらいにはこの研究はお粗末だね」

 

「そ、それは何故なんだ?」

 

「魔族を知っているかい?まぁ知っているだろうけど、改めて言うね。

これは魔族が使う呪法の劣化、粗悪品レベルの呪いだよ。こんなものは魔法使いではする必要すらないことだね。いや違うな、人間ではこの程度も出来ないの?」

 

余計な事を考え始めた頭をリセットするために、頬を二回軽く叩き気持ちを入れ替える。

 

「取り敢えずだ、君の父親はこれをバレる事を恐れた。

これがバレれば家族は村八分、それどころか狂人の仲間入りかな?

だからそれを悟られないように、自らの死と共に隠蔽しようとした」

 

「…まるで猫みたいに、死に場所は人気のないところを選んだって事か?」

 

そんな人だとは思えないと、僅かな疑心を持ったのだろう。

でもそれは、希望的観測にすぎない。

 

私は男の肩に手を置き、言葉を続ける。

 

「筋書きはこうだ。まず何かしらの理由でこの魔物に興味を貰った君の祖父はなんとかしてこの魔物“バジリスク”を手中に収めたいと熱望し、何処かしらで手に入れた。

成長しきった個体なんて管理しきれないだろうから幼体か、卵からかな?

伝承では雄鳥の産んだ卵をヒキガエルや蛇なんかが孵化させると生まれるらしいしこれが真実なら再現性はあると思うよ。

 

でだ、それをやっていく上で逃れられないのが毒と石化だね。これをクリアしなきゃ堪ったもんじゃない。だからそれに対する対処法を研究し始めた。

しかし、それが遂に完成するかというところで死が迫ってきた。

だから祖父はこの事実を隠蔽するために出来る限りの魔法をこの部屋の入り口に掛け、飼っていた魔物は野に放った」

 

私は長々話した推理を辞め、一呼吸してそれを未だに混乱している男に付きつける。

 

「どうだい?気の毒だけどこれなら筋が通ると思うよ」

 

「飛躍し過ぎててなにがなにやら分からん!!なんなんだここは、俺の親父は何をしてたんだ、何故俺に言わなかったッ!!あの人は何故魔物なんてものに魅入られたんだよ…」

 

顔を上気させて湯気まで視えるぐらいに沸騰したそれを、可哀そうな眼で見て勇者に答え合わせをする。

 

「どうだい?今回は当たっている気がするけど」

 

「半分正解、それ以上は言えんのだ」

 

「へー、まだ足りない部分があるんだ。ま、それが分かっただけ良いや」

 

勇者から視線を切り、立ち尽くす男へと声を掛ける。

 

「で、どうする?こんなジメジメしている場所じゃ落ち着かないし一回地上に出ない?」

 

「……あぁ、そうだな」

 

諦めかけていた男に、勇者が少し助言を出す。

 

「君、そこの棚の瓶。手紙が入っていないかい?」

 

ちらりと私と男がそちらを見ると確かに入っていた。周りは粉や液体が入っている中、一つだけ紙が入っていた。

 

「何か入ってるぞッ!!」

 

急ぎ足でそちらに向かい、何か、何か残しては居ないかと

 

「おい、これって…」

 

そう読み上げている最中で黙り、目を手で押さえて身体を地面へと縮こませた。

唇は固く引き締まって、線描的な涙を頬へ流す。

気になった私が横からその手紙を読んでみると、こんなことが書いてあった。

 

 

───

 

お前さんへ

 

儂はもう長くは無いのだろう。

手は尽くしたつもりじゃ、これでもう大丈夫だとは思うのでな。

この長い月日を費やした研究も、無駄ではないと良いのだがのう。

おぉ、そういえば息子も大きくなり偉い別嬪さんな妻を儲けたのじゃ。

娘もとても可愛いもので、昔のお前さんを思い出すのう。

 

でだ、ここから儂は出ようと思う。お前さんは怒るだろうね、それだけはダメだと叱るだろうね。

 

だが儂も、尽力を重ねて考えた結果。出したものでな。

あんまり責めんで欲しいのう。これも一つの想いだと受け入れて欲しいのう。

この可愛い魔物()も外へ出し自由にさせるべきだと思うのでな。

昔はちっちゃい身体だったのにもうこんなにも大きくなってな、そろそろこの場所も手狭だと思っておる。

 

あの子は儂が丹精込めて育てた、愛を持って育てた子じゃ。

出会いは数年か前に、昔飼っていた鶏から偶然生まれたのじゃ。

儂が見た頃には何故か卵の上にヒキガエルが乗っておって世にも不思議なことがあるもんだと考えていた。

しかし次の瞬間その卵に罅が入り始めて、出てきたのがこの子じゃった。

 

儂はそれが何なのか知っておった。でものう、そのつぶらな瞳を見たら…殺せんかったのじゃ。

そこからはこの家を建てて、そこにこの秘密の部屋を設けた。ここなら仮に能力が暴走しても安心だからじゃ。しかしこの子に対して何もしないのは許せなかった。だから息子を育てた時と同じように、お前さんがやっていた事を見よう見まねでやっておった。

そうするとな舌で、儂の手をペロペロと舐めるようになってのう。

普段すらも目を閉じて能力を使わないようにしておったのじゃ。

 

そこで一つ確信したのじゃ、魔物も感情があるのだと。

 

しかし、大きくなればこの子に害する気がなくとも周りを傷つける、だから封じた。

バジリスクが本来持つであろう能力は、首に巻いたペンダントに掛けた魔法で封じてあるのじゃ。

 

だからのう、自由に生きろ。

儂を忘れて遠くに行け、それが最後の願い。

家族には悪いが、仮にバレても儂が、老人が狂いした凶行として見られた方が都合は良いじゃろう。

 

───

 

 

 

私がそれを読み終わると同時に、男は突発的にその手紙をギュッと握りしめ、地上へと勢いよく駆けて行った。

それを見て私と勇者は顔を合わせ、勇者はその逡巡を楽しんだ後にこう切り出した。

 

「これで今回は終わりかな?あれは思慕ってやつでしょ。

今は居ないであろう、父親を思い、慕う。そんな感じかな」

 

「そうだ、だがこれで終わりではない。地上へ行こう」

 

「うん、最後に一つだけ良い?」

 

「なんだ」

 

そう言い、私は一つの瓶を手に取った。

物珍しい花が詰まったものを。

 

「これだけは欲しかったんだ。本でも既視感を覚えなかった、だから希少なものだと思うんだ」

 

その平然と、故人とはいえ人の物を奪う魔族(わたし)に勇者は

深いため息をつき、止めても聞かないことを知っているからか、戻せとは言わなかった。

 

「…盗人猛々しいが、まぁ良い。では行こうか」

 

「私達も戻るね、じゃあねお爺さん」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

男は地上に行くと真っ先に妻の方へと飛んでいき、先程の出来事を話していた。

 

「なんだあれはッ!?」

 

「わー、おっきいトカゲさんだ!!」

 

顔は蛇であり、腕は六本、二足歩行であり、そして首にロケットペンダントが巻かれている魔物が森から顔を覗かせた。

目の前に現れたバジリスクは眼を“開いたまま”ゆっくりとこちらに近づいてくる。

のっそりと森の中から現れた身体はとても大きくて、鱗一つが岩ぐらいだった。

それを見た男は娘を護ろうと前へと出るが、その隙間を潜り抜けて、少女はその大きい化け物へと近づいていく。

 

そしてその手が、蛇のような頭に触れた時舌を出しペロペロと舐めだした。

全身が毒である筈だ、眼を直視すれば石化する筈だ。

 

しかしそうは為らなかった。

実ったのだろう、老い先の短さを悟りながらも懸命に人間の短き命を摩耗し、成就(じょうじゅ)したんだ。

面白いね、たかが人型にも慣れない生物如きに命を懸けて与えるなんて。

これってさ、この、私が理解できない事象は…

 

この心がざわつく現象は…

 

「…愛なんだね、これも」

 

「愛には種類がある、それの一つに入るだろう。これは愛玩だ、人が動物を大切に想うようにこの人間は魔物を大切に想っていたのだ」

 

「そっか、うん。人間らしいね」

 

この生物の事なんてまるで考えてない。

この男の父親は、結局のところ哀れに思い、育て、人間に認められて欲しいという自分本位な自我だ。

でも、それでも愛を感じる。独りよがりでも呼応するように、親し気に舌を出し、この男に平伏している。

これが愛と言わずなんと言おうか?

 

単純に庇護対象と思われているのかも、食料の一種として思われているのかも。

でも信じる事のどこが悪なのだろうか?

私はそれに返せる答えを持ち合わせていない。

 

信じる事を否定する、これは私自身の否定に他ならないのだから。

 

 

「ねぇなんで今回は救おうとしなかったの?」

 

「何の話だ?」

 

「今回の、あの男の父親は善人だった。なら勇者を名乗る君は救うべき対象なんじゃないの?前回はまだ両者に非があるから理解できた。でも今回は違う」

 

「まずだ、私は最強である」

 

「え?何を」

 

「しかし限度がある、例え話をしよう。世界で同時に3人の人が死んだ、ではどう救う」

 

「あー、未来視で死ぬ原因を事前に取り除く?」

 

「模範解答を有難う。しかしそれで一旦は事足りても次は他の要因で死ぬ、私は独りしか居ない。よって救える命もこの両手で収まる程度のものしか拾えないのだ。

昔の私であれば、全て救うと言ってのけただろう。しかしそれは若さ故の無知であり、未来を見続けてきた今であればそれを言う事は出来ない」

 

そこでじっくりと言葉を温め、勿体ぶりながら自分の矜持(ほこり)を開示した。

 

「私はそこで考えたのだ、己が一番多くの人を救うにはどうしたら良いのかを

数多の喪失感を乗り越えて、困憊した全身の神経を引き締め、こう結論を出した」

 

 

「魔王討伐だ」

 

 

「それこそ私が考えた、視てきた最善手である。実に不本意ながら私では世界を救えはしないが、それはまた別の話だ」

 

「その為には、だ。犠牲を見過ごさねばなければならない。自らの命を捨てる覚悟を持ったものは見逃さねばならない」

 

「それが私の信念であり、多くの世界を視てきた者の答えだ」

 

君は、何かを目指して駆けているんだね。

短いその時間で、私の何倍も先に行っている。

 

私はどうなんだろうね。

進んだのかな、戻ったのかな。

本を読んで理解しようとしていたあの頃から変われているのかな。

 

 

 

「ねぇピュルテ。愛は見つかった?」

 

「まだ、まだ分からないよ。本は山ほど読み漁った、人の集う街へ行ってみた。でも愛は分からないよ」

 

「そう。私達はさ何処まで行っても魔族、だから無謀だと思う。

でも私はその執着を、探求心を嫌いではないのよ」

 

「私達魔族には一生分からない感情、それの一つ“愛”」

 

「でも、それは…」

 

「私達は魔族だから、逃げれない性質もある」

 

「…」

 

 

 

でもあの時は、答えられなかったそれにも今なら少し言える。

私は、魔族(わたし)は愛を少し理解出来た気がする。

 

違う種が同じ環境で育つと似た見た目に進化する、

でも根本は違うから、魔族と人間は交わらない。共存なんて出来やしない。

でも、人の感情が私の何かに刺激を与え、原動力を発揮させる異常な力を備えている事だけは確かだね。

 

ねぇ、貴女は何を見てきたの?

 

私の事を面白いと言いながら、それは到底できないことだって諦観をしている。

そうなるまでに何をしてきたのかな。

私を留める理由なんて無い筈なのに。自分の命が一番で、仲間意識なんて薄っすらとした上辺のものしかない筈なのに。

 

どうしてそこまで、私を否定するんだろう?

もしかしてそこに求めるものがあるのかな?

 

ねぇねぇ、ソリテール。

貴女は愛を知っているのかな?

 

 

教えて欲しいな、教えて欲しいな。貴女が()ってる愛の形を。

 

 

見せて欲しいな、見せて欲しいな。貴女を(とど)める愛の形を。

 

 

 

 

あぁその時にこんな事もあったっけ?

 

 

「そうだ、会って欲しい魔族()が居るんだ。感情を理解したがってる変わり者がね」

 

「一緒に会いに行こうよ、ね?魔族は飽きるぐらい時間があるんだからさ、偶には寄り道しよう」

 

「その子はね、マハトって言うんだよ」

 

 

 





ちょっと見た目が違うだけで、差別するのはどうなの?
ぷかぷかしていこうよ、せかせかしないでさ。
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