魔族です、あちらは南の勇者です   作:英雄祈願侍

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ⅳ追憶を繰り広げる円舞曲
突角は何処へ


 

 

 

「ここが?」

 

「ええ、ここが私の言ってた魔族が居るところ」

 

建物は昔のままで、人類の営みはまだ続いている。

辺り一面、人の死体が転がっている。人だけがそこから置き去りにされている。

井戸は動く、風車は回る、煙は空気に霧散する。

 

だが、燈火は消えてはいなかった。

つい先ほどまでは、生きていた街のように見える。

 

「へぇ、綺麗な色だね」

 

外と中の境目では、切り傷で出血した死体が転がっている。

が、中心では血の跡はなく、あるのは黄金の傷跡だけ。

そこで私が目を付けたのは黄金の像。精巧なものであり、巨匠が作ったのだろうか?珍しく顔は感情を感じさせるもので、無表情であり、彫刻本来の観測者の感受性で変わる表情は無かった。

 

「これは目的の魔族の魔法によるものだね」

 

「…人類が作ったのかと思った」

 

「ふふっ、それなら面白いね。彫り手の趣味が出ているよ」

 

「私はこれも一つの芸術だと思うけど、だって感情を見れるでしょ?」

 

「これに感情を見出すのか?お前はなんだ」

 

声が聞こえて後ろを見るとワインレッドの伸びた髪を後ろに流し、金の房飾りがあしらわれた軍服のような衣服に、特徴的な外套を身に纏っている魔族が居た。

少し警戒を滲ませた目をしながら、その態度は興味を隠しきれていなかった。

 

「やぁ、マハト。久しぶりだね」

 

「始めまして、この子に会わせたい魔族()が居るって連れてこられたんだ」

 

「そうか。お前は何故俺達が感情を理解出来ないのか知っているか」

 

「それは、ソリテールから聞いたんじゃないかな?私はそれに納得している」

 

「…」

 

「でも、そうだね。私は感情を知りたいと思っている。君と同じく、ね」

 

「手掛かりは見つかったのか」

 

「いいや、全く。君はさ、なんで感情を知りたいの?」

 

「人類の感情を理解出来れば、共存が可能になるかもしれない。それを俺は望む」

 

「おー、良い願いだね」

 

私は折り畳んだ脚を伸ばして、マハトの方へと少し近づいた。

その高い背の先にある頭へとぐいっと顔を近づけて自分を(さら)け出す。

 

「私は、人類には全く興味が無い。でもその感情というものには惹かれた、特に愛というものに。君は何に惚れ込んでいるんだい?」

 

「悪意、罪悪感だ。俺はそれを知る為に、人を(あや)める。それが最適だと考えるからな」

 

へぇ、君はそこに魅入られたんだ。いや囚われてるんだね面白いな、でも確かにそうだ。

私達魔族は殺すときに罪悪感なんて出てこない。悪意も無いから純粋に人を殺すのが大半で、それを成すための偽りの言葉にも悪気(わるぎ)はない。

だからその人類との差異に強い興味を示すのも私と同じだね。

 

「良いね、それはとっても素敵な事だ

私は、その愛というものを知る為にまずは人の作り出した本というものを読む事にした

そこには愛の形が多く書いてあった、勿論君が求める悪感情もね?

だけどさ、それはただの文字で状況は理解できても繋がりは理解できない」

 

本を選んだことに後悔なんてない。何故なら人間の営みについて深く知れたから。文化だって、その歴史だって本には書いてあった。私達魔族と似た姿なのに全く異なる文化圏だったよ。

 

「私達魔族は、その感情という物への理解を進化の過程で不必要だと捉えて、捨て去ってしまった」

 

「あぁ。それは知っている」

 

「今はそれを知る為に人類の営みに自らを投じて、眼で見る事で感じようと動いている。

ある時は、村で共に働き、ある時は、街で困っている人類を助けたりもした。

だけど、それは全然効果的では無かった。

君のように人を殺せば良いのかもね、でも私は弱いからそれに面倒くさがり屋だからそれをする気は到底起きなかった」

 

私はその凝り固まった思いを嚙み砕いて、咀嚼して言葉へと昇華する。

これが自分の本心か、仮初の偽心かなんて終ぞ分からない。しかし今の衝動だけは本当だよ。

だって、欲望が薄いからこそ、濃い瞬間だけは自分を見つけられるから。

薄暗いこの荒野でも、一つの指輪(わたし)を探し当てれるから。

 

「でも愛への探求心は捨てきれなかった。

私はあれの味が知りたい、色が知りたい。その先の全てを知りたい。

末路も、盛りも、網羅したいんだ」

 

そうさ、これは多分本当だ。これへの知識は私の探求心を刺激した。

この無彩色に(まみ)れた世界を、彩りで染め上げる“愛”が一番の糧だよ。

 

「君はそれの為に何を想う?共存なんて事の為に知りたがっているの?

争いが嫌い?あぁそれは良いね、私も嫌いさ。

平穏が好き?あぁそれも良いね、私もそっちの方が気は楽だね。」

 

「俺は争いを求めない。戦争ごっこはもう飽きた、つまらない戦いは嫌いだ」

 

顔を伏せ、手をきつく握りしめ、言葉を紡ぐ。

無益な行動に戸惑い、喜悦を求めていた。並々ならぬ決心がその行動で私にすら分かった。

 

「それが欲しい。食う為でも、本能に従うわけでも無く、大勢を殺すのは感情を湧かす為だ」

 

「良いね、実に魔族らしい感覚だよ。

私は魔族の中でも、人を殺さないほうだと思う。君らが良くする殺しをしたことが無かった。

だけどこの利己的な部分だけは、感情が希薄という部分だけは通じ合える。

だから私はこの感覚が好きだ、生まれた時から何も周りに居ない。家族というものを知らずに過ごす魔族(わたし)の唯一残った繋がりに執着している

だから私はこの感覚が嫌いだ、自らが熱烈に求めた愛の集合体である感情への知識が空疎なんて事実に自らの身体を抱え、悶え苦しんでいる」

 

それを仕草で見せ付け、私ははぁっと息を吐く。熱が冷めるまで時を置き、マハトの眼をしっかりと見て私は友好の握手を願い出る。

さぁ、私たちは通じ合える。これが愛なのかも?そうだったらとっても素敵だね。

 

「君はとても面白いね。私と似てるけど、違う。求めるものは類似してるけど過程が違う。

どっちが近道なんだろうね、でもどっちでも良いね。

だって魔族には無駄にしても有り余る程の時間があるんだから」

 

それをマハトは無視した。

 

「あぁ」

 

一言呟き、この場を去ろうとする。私が求めていた答えを言えなかったから、もう用は無いと謂わんばかりに足早に。

それを私は、

「まぁ、待ってよ。私も君の旅路についていっても良い?君の見る景色を私にも少し

分けてくれない?」

 

止める。これを逃したらいつまた会えるか分からないから。

私はこれを掴み取る。洋凧の糸を指に堅く結びつけ、自由にならないように。

自らの利の為に、私はマハトに付いていく。魔族で同じく感情を探求するなんて、今後現れる可能性は皆無だろうと、察していたから。

 

「…好きにしろ」

 

そう言い、立ち止まっていた足を再び稼働させる。

承諾を受けて、ニコリと笑顔を浮かべた私はこの出会いを作ってくれた魔族に感謝を述べる。

 

「ソリテール、ありがとうね。この魔族と会わせてくれて」

 

「良いよ、あと私も付いていくね、面白そうだ。

証明してみて?その先が無駄だって事を」

 

「え、付いてくるの?…まぁそれも面白いか。

うん、証明するよ。その先が綺麗だって事を」

 

 

 

 

 

◆◆◆

 

 

「ん、ん…?」

 

久しぶりに夢を見ていたみたいだ。

 

なんだろうね、懐かしい感覚だ、私が昔に想い馳せるなんて然う然う無いのに。

上を見れば布で覆われた場所の中であることが察せられる。

いつの間にか眠っていたみたいだ。勇者がここまで運んでくれたのかな?

役に立つ時があるんだね、いつも後ろで私の事を見守ってるだけで助言もしてくれないから酷い奴だって誤認してたよ。

 

「…って言うか、寒いねっ!!魔族だけど凍えてアイスに成っちゃうよ」

 

肌寒いなぁ、朝なのかな?って疑問を投げ捨てようと思ってたけどそれじゃあ済まないぐらいの肌を刺すような看過出来ない寒さになってきた。

 

「それは面白いな。是非魔族初の氷菓子に成ってくれ給え」

 

「あのねえ、魔族だけだよ。偽りの言葉が許されるの」

 

暴論を振りかざす私に、勇者は笑い声を上げる。

それにより空気が少し暖かくなった気がした。

 

「これが冗談かね?本気さ」

 

「よくよく見れば嘘の色が無い…、えマジなの?」

 

「大マジさ、なんたって私は勇者だからね」

 

「全く関係ないね、それ」

 

その普段よりも機嫌良さげに私を弄る姿を見て一抹の不安を感じながら、身体を起こし周囲の景色を探る。雪が舞っていた。先の緑豊かな大地から一転、葉が剥がれ落ちた木、細ばった草、蕾のままの花々。動物の影は無く、昆虫すらもここには居なそうだった。

 

「って言うかさ。君は何で厚着してるのに私には毛布の一つも無いの?」

 

「ハハハッ」

 

「笑ってれば見過ごすとか、そんなに私は甘くないけどッ」

 

ひょいと身体を起こし、勇者からその暖かいものを奪おうと決心し襲い掛かる。力いっぱいに引っ張ろうとして端を掴もうと手を伸ばしても躱されて、片手間にあしらわれるだけであった。

背丈と力もそうだが、私の魔法は戦闘には不向きなんだよ。だからしょうがないんだ、うん。

 

「歯が立たない… そういえば、これは何処に向かっているの?目的が無いまま馬車を動かしているわけじゃないよね」

 

「依頼があったのだ。旧い知り合いでもあるので受けたという訳だ」

 

「へー、こんな雪国に?」

 

「あぁ、この辺境の地に住んでいるのだ。だが、そこそこの大きさを誇る城塞都市だぞ」

 

「おー。じゃあ楽しみにしておくね」

 

雪国なんて何時ぶりだろう、記憶にないぐらい大昔に来た気がする。

あの時もこんな感じで誰かと来てたっけ。んー、あぁあの二人か。

夢で見たからか、すぐ思い出せたよ。

 

「見えてきたぞ、あれが目的地だ」

 

「あ、そっか。此処だったんだね…」

 

私達が旅をした最後の場所、別れの地。

聳え立つ城壁で覆われた、人類開拓地の最北端にある防衛ライン。

魔族と人類の狭間にあるこの場所は、きっと過酷だろう。だけどそれは当然で、人類と魔族の心の距離みたいに隔たれてる。

ここに来るなんて思いもしなかった、来たくなかった。

いやだなぁ…、もしかして居ないよね?居たら、面倒くさいなぁ…

 

大丈夫だよね?マハト、ソリテール。もう居ないって信じてるから。

 

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