妹が微笑う理由を、僕はまだ知らない   作:吉月和玖

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今回のお話は、試合後のひとときと、その“続き”です。
あの場で終わったはずの時間が、少しだけ形を変えて、静かに続いていきます。

それぞれの距離が、ほんの少しだけ近づいたり、
逆に、気づかないままズレていったり。

変わらないと思っていたものと、
まだ名前のついていない感情が、同じ場所に並び始める──
そんな一話になっています。

ゆっくりとした回ですが、
この先に繋がる“何か”を感じてもらえたら嬉しいです。




11.揺れる視線の、その先に

試合後。

現地解散となったこともあり、いつもの面々に五つ子とらいはちゃんという大所帯で帰路についていた。

 

先ほどまでの張り詰めた空気とは打って変わって、どこか緩んだ空気。

だが、その中には──まだほんの少しだけ、試合の熱が残っている。

 

「和樹さん格好よかったですよ!」

 

らいはちゃんが、きらきらとした目でこちらを見上げてくる。

 

「そっかぁ~。ありがとね、らいはちゃん」

 

ちなみに剣道の道具は多く、左肩には防具袋。

竹刀袋もある為、左手で支えるように持っている。

 

そして空いた右手には──らいはちゃんの小さな左手。

 

ぎゅっと握られたその温もりが、やけに現実感を引き戻してくる。

 

「なぁ~、らいはぁ~。お兄ちゃんとも手繋ごうぜぇ~……」

 

風太郎が情けない声を漏らす。

 

「嫌!お兄ちゃんとはいつでも繋げるけど、和樹さんとは滅多に繋げないんだから!」

 

ばっさり。

 

「ぐはっ……!」

 

致命傷。

 

その場に崩れ落ちそうな勢いの風太郎だったが、数秒後には何事もなかったかのように参考書を開いていた。

 

……切り替え早いな、こいつ。

 

「それにしても、ホントかっこよかったよねぇ~♪二人とも♪」

 

一花が楽しそうに笑う。

 

「キヨハル君のファンクラブの子たちなんて、ずっとキャーキャー言ってたし♪」

 

「むぅ……応援してくれるのはありがたいのだがな。毎回あの人数で来られると対応に困る」

 

困ったように眉を寄せる清治。

 

「あははっ。モテる男の運命(さだめ)ってやつだねぇ~」

「……そういうものなのか?」

 

苦笑する清治。

 

だが、その横顔にはまだ試合中の鋭さが残っていた。

 

……さっきとは全然違うな。

 

試合場に立っていた“剣士”としての清治。

今ここにいる“友人”としての清治。

 

同じ人間なのに、纏う空気がまるで違う。

 

「カズキには何でファンクラブないんだろ……」

「三玖……そこは触れちゃいけねぇところっす……」

「?」

 

政樹が妙に真剣な顔で止めに入る。

 

「ま、あっても清治みたいに困るだけだしね。僕は、ここにいる皆がいれば十分かな」

 

さらっと言う。

 

だが──

 

「……っ」

「……」

 

一瞬、空気が止まった。

 

「……あんた、よくそんな恥ずかしいこと真顔で言えるわね」

「そこは同意だ」

 

二乃と風太郎がほぼ同時に突っ込む。

 

「え?普通じゃない?」

「普通じゃねぇよ!!」

 

即ツッコミ。

 

そのやり取りに、一花がくすくすと笑った。

 

「でもさ~、カズキ君っぽいよね♪」

「……うん」

 

三玖が小さく頷く。

 

その視線は、ほんの一瞬だけ──僕の背中へ向けられていた。

 

「さて、この後なのですが──」

 

少し歩いたところで、聖奈が静かに切り出す。

 

「無論!こいつらの家庭教師に決まっている!」

 

だが、その言葉は風太郎によって勢いよく遮られた。

 

「はぁぁー!?今から勉強する気!?」

「当たり前だ!お前らの馬鹿さ加減を考えれば当然の選択だ!」

「お前ら?馬鹿?」

 

清治が意外そうに目を瞬かせる。

 

「なんだ、五人とも成績が悪いのか。てっきり五月さん辺りは優秀なのかと思っていたが」

「うぅぅ~……返す言葉もありません……」

 

五月が顔を赤くして肩を落とした。

 

「……そんなに酷いのか?」

「昨日のテストで証明済みです」

 

聖奈が容赦なく追撃する。

 

「うぐっ……」

「追撃やめてくださいぃ……」

 

五月と四葉が同時にダメージを受けていた。

 

「まあ、勉強もスポーツと一緒だよ。一日サボれば、取り返すのに三日は必要になる」

 

軽く肩を竦めながら言う。

 

「特に君たちみたいに“苦手意識”があるなら尚更ね。あ、政樹も」

「げっ!!」

 

嫌そうな声。

 

「当然です。逃がしませんよ♪」

 

聖奈がにっこり笑う。

 

怖い。

 

「いやいやいや!今日は流石に休みでよくないっすか!?」

「駄目です」

「即答!?」

 

逃げ道なし。

 

「ふむ。では俺も参加しよう。クールダウンのランニングを終えてから合流でもいいか?」

「問題ないよ。僕もそのつもりだったし」

 

自然に会話へ加わる清治。

 

「え、増えたんだけど……しかも勉強会確定事項なんだ……」

 

一花が苦笑する。

 

その横で──

 

「……カズキ」

 

三玖が小さく声を掛けてきた。

 

「ん?」

「……昨日の、もう一回聞いていい?」

 

少しだけ視線を逸らしながら。

 

「理科のやつ?ああ、いいよ」

「……うん」

「帰ったらやろうか」

「……うん」

 

小さく頷く三玖。

 

その表情は、ほんの少しだけ柔らかかった。

 

そして──

 

その様子を少し離れた位置から見ていた聖奈が、静かに目を細める。

 

まるで何かを察したように。

その唇が、わずかに弧を描いていた。

 

賑やかな会話の中で。

それぞれの距離が、ほんの少しずつ変わり始めている。

 

試合は終わった。

 

だが──

 

本当の意味での“勝負”は、まだ始まったばかりだった。

 

・・・・・

 

清治と別れたマンション前。

 

「じゃ、この後は勉強会な」

 

僕の一言に──

 

「やっぱりっすかぁぁ!?」

 

政樹が露骨に嫌そうな顔をした。

 

「当たり前だ。逃げるな」

「ちょ、待っ──」

 

ガシッ。

 

「逃がしませんよ、政樹さん♪」

 

聖奈がにっこり笑いながら肩を掴む。

 

「ひぃっ!?」

 

そのままずるずると引き摺られていく政樹。

 

「兄貴ぃぃぃ!!助け──!!」

「頑張れ」

「見捨てたぁぁぁ!?」

 

騒がしい悲鳴が響く。

 

「じゃ、わたしたちも先行ってるね~♪」

「……また後で」

 

一花と三玖が手を振る。

五月も軽く会釈した。

 

その流れの中で──

 

「和樹さん!」

 

振り返ると、四葉が駆け寄ってくる。

 

「この後、走るんですよね!?」

「うん。軽くだけど」

「わたしも行きます!」

 

迷いのない声。

 

「……疲れてるでしょ?」

「大丈夫です!今日はほとんど動いてないので!」

 

満面の笑み。

 

……まあ、止める理由もないか。

 

「じゃ、行く?」

「はい!」

 

そのままジャージに着替えた四葉と軽く準備運動を済ませ、二人で走り出す。

 

夕方の空気は少し冷えていて、火照った身体にちょうどいい。

 

並んで走る足音だけが、一定のリズムを刻んでいく。

 

……軽いな。

 

四葉の走り。

無駄がない。

 

余計な力みもなく、呼吸も安定している。

 

流石は運動系。

基礎能力が高い。

 

「和樹さん、速くないですか!?」

「そう?」

「そうですよ~!」

 

文句を言いながらも、ちゃんとついてくる。

 

むしろ、まだ余裕すらある。

 

……やっぱり身体能力高いな。

 

しばらく走って辿り着いたのは、いつもの公園だった。

 

夕暮れに染まり始めた遊具。

人気の少ない静かな空間。

 

「ここ、よく来るんですか?」

「まあね。ちょっと動くにはちょうどいいし」

 

軽く肩を回しながら呼吸を整える。

 

「……よし」

 

静かに構える。

 

「え……?」

 

四葉の声が漏れた。

 

それは先ほどの剣道とは、まるで違う空気だった。

 

「それ……」

「中国拳法」

 

ゆっくりと動き出す。

 

音がしない。

 

滑るような足運び。

水が流れるような重心移動。

 

無駄な力みは一切ない。

 

だが──

 

だからこそ、怖い。

 

静かなのに。

柔らかいのに。

 

近寄ってはいけないような圧がある。

 

「剣術と同じで、これも実戦寄りかな」

「実戦……」

 

四葉がじっと見つめる。

 

「力でぶつからない。流して、崩して、利用する」

「……なんか」

 

少しだけ間を置いて。

 

「和樹さんっぽいです」

「そう?」

「はい」

 

小さく頷く。

 

「さっきの試合も……」

 

ほんの少しだけ視線が揺れた。

 

「怖かったです」

 

動きが止まる。

 

「でも」

 

四葉は真っ直ぐこちらを見た。

 

「かっこよかったです!」

 

……やっぱり、この子はこういう言い方をする。

 

「ありがと」

 

軽く流して動きを止める。

 

「四葉もやってみる?」

「え!?いいんですか!?」

 

ぱっと表情が明るくなる。

 

「簡単なのだけね」

 

立ち位置を整えて、ゆっくり教える。

 

「力は抜く」

「ぬ、抜く……」

 

ぎこちない。

でも素直だ。

 

「肩に力入ってる」

「あっ」

 

「もっと自然に」

「む、難しいです……!」

 

苦戦している。

 

けれど、飲み込みは早い。

 

「そう、そのまま」

 

少しずつ形になっていく。

 

その時。

 

「……四葉」

「はい?」

 

何気ない調子で問い掛ける。

 

「風太郎のこと、よく見てるよね?」

「──っ!?」

 

一瞬で反応した。

 

……分かりやすい。

 

「み、見てないです!!」

「いや見てるでしょ」

「み、見てませんってば!!」

 

目線が泳ぐ。

 

頬も赤い。

 

「へぇ~?」

「うぅぅ~……!」

 

完全に図星だ。

 

……まあ、それ以上踏み込む気はないけど。

 

「別に悪いって言ってるわけじゃないよ」

「で、でも……!」

 

言葉に詰まる四葉。

 

静かな空気が落ちる。

 

……少し意地悪だったかな。

 

「喉乾いたな」

「あ、これ飲みます?」

 

差し出されたのはスポーツドリンク。

 

受け取ろうとして──止まる。

 

「……これ、四葉の?」

「あっ」

 

理解した瞬間、四葉の顔が一気に赤くなる。

 

「す、すみません!!」

 

慌てて引っ込めようとする。

 

「いや、僕が気にしただけだから」

「で、でも……!」

 

少し沈黙。

 

そして。

 

「……いいですよ」

 

もう一度、差し出してくる。

 

「気にしませんから」

 

真っ直ぐな目。

 

「それに」

 

少しだけ笑って。

 

「付き合ってもらってますし」

 

──その言い方はずるい。

 

「……じゃ、ありがたく」

 

受け取って、一口飲む。

 

「……うまい」

「でしょ!」

 

ぱっと笑顔になる四葉。

 

……ほんと、表情がころころ変わる。

 

でも。

 

さっきの動揺は、ちゃんと残っている。

 

「もう少しやる?」

「はい!」

 

また並んで動き出す。

 

夕暮れの公園。

 

二人きりの空間。

 

少しだけ。

距離が変わった気がした。

 


 

~四葉side~

 

マンションへ向かう帰り道。

 

並んで歩く足音だけが、静かに響く。

 

さっきまで動いていたせいか、身体は少し火照っているのに──空気はやけに落ち着いていた。

 

「……今日は付き合ってくれてありがと」

 

和樹さんが、ふと口を開く。

 

「いえ!わたしも楽しかったです!」

 

わたしはいつも通り、明るく答える。

 

「運動もできましたし! 新しいのも見れましたし!」

「中国拳法ね」

「はい!あれ凄かったです!」

 

少しだけ身振りが大きくなる。

 

「なんか……こう、ふわってしてるのに強いっていうか!」

「雑だなぁ」

 

和樹さんが苦笑する。

 

そのやり取りは、いつも通り。

 

……のはずなのに。

 

(……あれ?)

 

ふと、意識が逸れる。

 

(……さっきの)

 

頭に浮かぶのは、別の顔。

 

(風太郎君……)

 

小学校の修学旅行。

清水寺で見た横顔。

 

無愛想で。

でも、ちゃんと前を見ていて。

 

そして──()()をした。

 

(……)

 

胸の奥が少しだけ締め付けられる。

 

(わたしは……)

 

あの時から、ずっと。

 

「四葉?」

 

声が掛かる。

 

「え!?あ、はい!」

 

慌てて顔を上げる。

 

「ぼーっとしてたけど大丈夫?」

「だ、大丈夫です!」

 

少しだけ声が上擦った。

 

「……そう?」

 

それ以上は追及してこない。

 

(……見てる)

 

やっぱり。

ちゃんと見られてる。

 

隠してるつもりなのに。

 

少しだけ誤魔化した感情も。

ちょっとした変化も。

 

和樹さんは、気付く。

 

(なんで分かるんだろ……)

 

不思議だった。

 

「……」

 

少しだけ沈黙。

 

でも、その空気は嫌じゃない。

 

「さっきのドリンク、どうでした?」

「うまかったよ。さすが二乃だな」

「ですよね!」

 

ぱっと明るくなる。

 

「わたし、あれ好きなんです!」

「分かる気がする」

 

また並んで歩く。

 

(……間接)

 

ふと、思い出す。

 

「……っ」

 

一瞬で顔が熱くなる。

 

(なんで今思い出すの!?)

 

頭の中でぶんぶん否定する。

 

違う。

そういう意味じゃない。

 

(でも……)

 

ほんの少しだけ。

 

(嫌じゃなかった)

 

その感覚に、自分で戸惑う。

 

「……」

 

隣を見る。

 

和樹さんはいつも通りの顔で歩いている。

 

(……普通だな)

 

さっきと同じ人なのに。

なんだか違う気がする。

 

(……変なの)

 

そう思った瞬間。

 

また、別の顔が浮かぶ。

 

(……約束したのに)

 

胸の奥がきゅっとなる。

 

(わたしは……)

 

そこは変わってない。

変わってない、はず。

 

「……うん」

 

小さく頷く。

 

でも。

 

(じゃあ、なんで)

 

今こうして歩いてる時間が。

こんなに残ってるんだろう。

 

「……四葉?」

「は、はい!」

 

慌てて顔を上げる。

 

「今日はありがとね」

「い、いえ!」

 

少しだけ距離が縮まる。

 

マンションのエントランスが見えてきた。

 

「また、付き合ってくれる?」

「もちろんです!」

 

反射みたいに答える。

 

「いつでも呼んでください!」

 

その言葉に、和樹さんは少しだけ笑った。

 

「じゃあ、また勉強会で」

「はい!」

 

エントランス前で立ち止まる。

 

ほんの少しの沈黙。

 

「……」

「……」

 

何も言わない時間。

 

でも──

 

さっきより、少しだけ近い。

 

「じゃ、行こうか」

「そうですね!みんな待ってるでしょうし!」

 

和樹さんが先に歩き出す。

 

その背中を、ほんの少しだけ見送る。

 

(……)

 

胸の奥が少しだけ騒がしい。

 

でも。

 

(……まだ)

 

小さく息を吐く。

 

(分からなくていいです。でも──少しだけ)

 

そう思って。

 

わたしはエントランスへと足を踏み入れた。

 

和樹さんが降りたのでエレベーターの扉が閉まる。

 

静かに上がっていく箱の中で、わたしはぼんやりと自分の手を見つめていた。

 

(……間接)

 

また思い出す。

 

さっき、和樹さんが飲んだスポーツドリンク。

 

同じ飲み口。

 

それを意識した瞬間──

 

「~~っ!!」

 

思わず顔を押さえる。

 

(なんで今更ぁぁ~~っ!!)

 

誰もいないのを確認して、小さく悶える。

 

違う。

違うのだ。

 

別に深い意味なんてない。

 

運動した後だったし。

喉も乾いてたし。

自然な流れだっただけで。

 

(……でも)

 

頭の中に浮かぶ。

 

『……じゃ、ありがたく』

 

そう言って、普通に受け取った姿。

 

変に茶化したりもしなかった。

 

あの自然さが、逆にずるい。

 

「……っ」

 

熱い。

 

顔が熱い。

 

エレベーターの鏡に映った自分の顔が、ほんのり赤くなっているのが分かる。

 

(いやいやいや! 何意識してるんですかわたし!?)

 

ぶんぶんと頭を振る。

 

その瞬間。

 

『風太郎のこと、よく見てるよね?』

 

「────っ!!」

 

今度は別方向からダメージが来た。

 

(うぅぅぅぅ……!!)

 

思い出しただけで恥ずかしい。

 

絶対バレてる。

完全にバレてる。

 

というか、あれは絶対気付いてた顔だ。

 

(もうぅぅ~~……)

 

恥ずかしさでその場にしゃがみ込みたくなる。

 

でも。

 

『別に悪いって言ってるわけじゃないよ』

 

その言葉も、ちゃんと覚えていた。

 

(……否定、しなかったな)

 

ふと、そんなことを思う。

 

からかわれた訳でもない。

笑われた訳でもない。

 

ただ、“そうなんだね”みたいに受け止められた。

 

それが少しだけ、救われた気持ちになる。

 

「……変なの」

 

ぽつりと呟く。

 

わたしはずっと、“隠さなきゃ”って思ってた。

 

自分の気持ちなんて。

姉妹に迷惑を掛けるくらいなら。

我慢した方がいいって。

 

だから。

 

こうして誰かに気付かれることが、少し怖かった。

 

なのに──

 

(嫌じゃ、なかった)

 

その事実に、自分で戸惑う。

 

『また、付き合ってくれる?』

 

ふいに、帰り際の言葉が蘇る。

 

(……付き合うって言い方、ずるくないですか)

 

思わずそんなことを考えてしまって、慌てて頭を振る。

 

違う違う。

そういう意味じゃない。

 

ただのランニング。

ただの付き添い。

 

そう。

それだけ。

 

なのに。

 

(……楽しかったな)

 

ぽつりと零れた本音に、自分で驚く。

 

風太郎君といる時とは、また違う。

 

ドキドキするというより。

安心するというより。

 

もっと自然で。

 

気付けば隣にいる感じ。

 

無理しなくていい感じ。

 

(……あれ?)

 

そこで、ふと気付く。

 

わたし。

 

今日、かなり笑ってたかもしれない。

 

試合を見て。

皆で帰って。

走って。

話して。

 

気付けば、ずっと楽しかった。

 

「……」

 

エレベーターが止まる。

 

扉が開き、いつもの廊下が見えた。

 

「よし! 次は勉強です!切り替え切り替え!」

 

ぶんぶんと頭を振って、両頬をぺしっと叩く。

 

うん、大丈夫。

 

変なこと考えてるだけだ。

 

そう。

 

ただ楽しかっただけ。

 

ただ、それだけ。

 

……なのに。

 

『また、付き合ってくれる?』

 

「~~~っ!!」

 

また思い出してしまった。

 

顔を真っ赤にしたまま、わたしは勢いよく家の扉を開けたのだった。

 

 




ここまで読んでいただき、ありがとうございます。

今回は大きな出来事よりも、“変化の前段階”を意識して描いてみました。

まだ誰もはっきりとは気づいていないけれど、
確実に何かが動き始めている──
そんな空気を感じてもらえていたら嬉しいです。

この先、関係性は少しずつですが変わっていきます。
その過程も含めて楽しんでいただけたら幸いです。

もし「ここ良かった」「この先気になる」などあれば、
感想やお気に入りで教えてもらえるととても励みになります。

次回も、よろしくお願いします。
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