天竜人? いいえ天翼種です。   作:ぽぽりんご

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第1話 羽鳥 仁

 ノーゲーム・ノーライフの世界に転生させるといったな。

 あれは嘘だ。

 

 神様の嘲笑が聞こえてくるようである。

 神様、俺なにかしましたか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 ノーゲーム・ノーライフ、略してノゲノラというのは、簡単に言えばゲーム以外の争いを全て禁じられた世界"盤上の世界(ディスボード)"を舞台にしたお話である。

 

 ゲームで全てが決まるという謳い文句だったような気もするが、やってる事はあくまで賭け事の延長だ。

 命も、行動も、心すらチップにできるという性質を考えると「全て」といってしまってもいいんじゃないかという人もいるだろう。

 だが、「ゲームをしない」「チップを賭けない」という選択ができる以上、さすがにゲームで全てが決まってしまうわけではない。

 というか、ゲームをしないという選択肢が基本だろう。

 

 ゲームは挑まれた側がその内容を決める事ができるため、挑む側が圧倒的に不利だ。不利な状況で挑む奴はいない。

 相手にゲームを挑ませるにしても、ゲームを挑まざるを得ない時点で既に負けていること位、少し頭の回る相手なら理解するだろう。負けて相手の言いなりになるぐらいなら、叛旗を翻すチャンスが残る分、ゲームをせずに言いなりになったほうがまだマシである。

 よって、ある程度の事ならゲームをせずとも聞いてくれる。あとは、交渉で妥協点を探るだけだ。実際にゲームをするまでもない。

 

 

 こと現代の日本において、人と直接的に争って何かを奪い合う事が、どれだけあるだろうか。

 あるいは、リスクの高いギャンブルをすることは?

 俺は、そういった事をゲームの中でしかした事が無い。結局は、リスクを負うことが怖いのだ。

 ある程度裕福な生活をおくっている者ならば、それを失う怖さの方が先にたつ。相応のリスクに、相応のリターン。つまりは、現状維持となる。

 "盤上の世界(ディスボード)"でも、それは同じだろう。

 

 

 持たざる者はどうだろうか?

 賭けるチップが無い者は、得られるリターンも薄く、容易に生き残る事はできない。

 よって、生きるためにはリスクを背負わねばならないだろう。

 

 だが、リスクとは何だろうか。

 

 ぱっと思いつくのは、他者から奪う事だ。

 何も持たず、得られる手段すらないのであれば、持っている者から奪うしかない。酷い目にあう可能性もあるだろうが、世界の歴史を鑑みるに、これが一番妥当な生存手段だろう。

 生存のためならば、動物も、人も、国ですら他から奪おうとする。全ての人に生存のパイが行き渡らない限り、これはどうしようもない。座して死を待つぐらいなら、あがくのは当然の事だ。

 

 ここで、"盤上の世界(ディスボード)"の性質を考えてみよう。

 この世界では、盗んだり、危害を加えたりといった事ができない。あくまで"ゲーム"という形で、相手の同意を得た上で争う必要があるのだ。

 しかし先ほども述べたように、"ゲーム"は挑む側が圧倒的に不利。自分より、物を持っている相手……立場が上の者を相手に、相手のフィールドで戦う事になるのだ。

 

 

 

 "盤上の世界(ディスボード)"の弱者は、地球のそれより更に立場が弱い。

 "ゲーム"以外の争いの手段を封じられ、ろくな反撃も許されず、這い上がる事もできず、強者の顔色を伺って生き続けるしかない。

 

 強力な力をもつ種族の争いを封じるには有効だろうが、弱者である人を律する法には向かないのだ。

 弱者である人を律する、別の法が必要である。

 "盤上の世界(ディスボード)"に、そんな法が制定されているのだろうか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 なんて珍しく真面目に考えてみたが、所謂作られた世界である。

 酷い世界かもしれないと戦々恐々としているが、住めば都となるかもしれない。

 後戻りができない以上、当たって砕けるしかないのだ。

 

 

 俺は、"盤上の世界(ディスボード)"に転生させられると聞いた。

 いわゆる神様転生という奴である。

 チートは得たが、やはり異世界に行く、なんてのは不安で一杯だ。

 

 チートは何かって?

 天翼種(フリューゲル)(存在自体がチートみたいな生き物。超強い)への転生です。

 本が好きな俺には合っているだろう。

 あらゆる知識・書籍を集めるという天翼種(フリューゲル)になって、

 世界中の本を読みふけるというのも悪くない。

 

 そう思っていた。

 

 

 

 しかし、今現在目の前にいる人物を見る限り、この世界は"盤上の世界(ディスボード)"ではない。

 

 いや待て。

 目の前にいる人物も転生者という可能性だってある。

 人気があるし、彼のようになりたいと願う人も多いだろう。

 

 そう思ったが、彼の後ろにいる人物の名乗りを聞いて、それも無いなと思った。

 唯一のチート能力を消費して彼になりたいと思う人は、まぁ、あんまりいないだろう。

 

 

 

 現状を言おう。

 

 

 "麦わらのルフィ"から仲間に誘われています。

 

 

 ルフィの後ろにいるのはコビー。

 

 

 ……え、なんだこれ。ノゲノラ関係ないじゃん。

 本日二つ目の衝撃だわ。

 

 

 ちなみに一つ目は体が作り変えられた時に発生した。

 天翼種(フリューゲル)は、女性しかいないらしい。天翼種(フリューゲル)を生み出し多数侍らせているアルトシュとかいう輩は、とんだハーレム野郎である。俺の前に現れたら、強烈なパンチを一発お見舞いしてやろう。

 

 ありていに言うと、一つ目の衝撃はTS転生になった事だった。おまけにもう元には戻せないとか。

 

 思えば、あの時にこの神様信用おけねぇと思うべきだった。

 チートに天翼種(フリューゲル)への転生を望むように誘導してた節もあるしな。

 そうだよ、理不尽系の神様転生だってあるじゃないか。

 

 

 気を取り直そう。一度目の衝撃と同じだよ。

 本来一度しかないはずの生をやり直せるんだ。

 性別が違うとか、世界が違うとか、その程度の事は些細な問題である。

 

 

 ……えー。世界が違うのは些細じゃねぇよな。

 せめて、心の準備をさせてくれよ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 人の名前には、願いが込められている。

 父親が母親が、その周囲の人々が。

 こうあってほしい、こう育ってほしいと願い、子供に名前を付けるのだ。

 

 俺の両親は、俺を生むのが難しい状況だったらしい。

 その中で、周りのサポートを受けて無事に俺を生む事ができた事への感謝。

 また、俺自身にも人に素直に感謝しお礼ができる人間になって欲しいとの願いを込めて、俺の名前がつけられた。

 

 俺の名前は、仁だ。

 俺は、自分の名前に愛着を持っている。

 みんなも、自分の名前が付けられた経緯を親に聞いて、自分の名前にどんな願いが込められているかを調べてみたらどうだろうか。

 

 

 ちなみに、人の名前には願いが云々のくだりは、エロゲーから引用した。

 何で名前の意味なんか聞くんだと問われたならば、「エロゲーに感化されちゃってねHAHAHA!」と答えるといい。

 年齢によっては、家族会議が開かれる事になるだろう。

 家族の親睦を深めるには、重要なイベントだ。

 

 

 

 俺がなんでこんな事を考えているかというと、ルフィに名前を尋ねられているからだ。

 ルフィが満面の笑みを浮かべてこちらの返事を待っていた。

 周囲の森からは、鳥の鳴き声がやかましいぐらいに響いてくる。

 てか、ほんとにうるさい。

 こっちの世界の鳥は自己主張が激しいようである。

 雉も鳴かずば撃たれまいにという(ことわざ)を知らんのか。

 

 

「名前……ジン、です」

 

 名前を言うのに迷いは無かったが、口調をどうするかに迷った。

 女の子の外見なのに、俺の素の口調で話すのは躊躇われる。

 俺には、俺っ娘属性も僕っ娘属性もないのだ。

 あるのは、眼鏡属性と巨乳属性である。

 普段はしっかりしているのに、弱点的なものがあったりするとなお良い。

 ギャップ萌えというやつだ。

 

 俺の性癖はどうでもいい。

 結局、解決策は思い浮かばなかった。

 とりあえず、丁寧に話しとけば問題はないだろう。

 真面目に考えるのもあほらしくなってきた。

 どうとでもなるさ。たぶん。

 

「ジンか。よろしくな、ジン!」

 

「あ、はい」

 

 差し出された手を取り、握手する。

 意外と普通の手だな。

 ゴムなのだから、もっと柔らかいかと思っていた。

 

「よーし、仲間第一号だ!」

 

 え、ちょっと待って。

 今ので仲間入りOKの回答になっちゃうの。

 異世界で放置なんてされたら路頭に迷うから、仲間入り自体は願ってもないけどさ。

 接近具合といい、こいつパーソナルスペース狭すぎだろ。

 コビーを見習え。

 チラチラこっちを伺うだけで、俺と目を合わそうとすらしないぞ。

 

 そう思ってコビーをじっと見ると、ルフィの影に隠れるようにジリジリと移動しはじめた。

 何だこれ。俺、怖がられてるのか。子供に怖がられるとかショックだわ。

 

「羽はえてんだなーお前」

 

 ショックを受けている俺に語りかけるルフィ。

 そういえば俺には羽が生えているんだった。

 羽を利用してコビーとコミュニケーションできないものか。

 難しいな。もう少し小さいか大きいと問題ないが、思春期の扱いは難しい。

 

 ……あれ、もしかして、女性に耐性ないだけか?

 そうだ。特に今は女の子の外見なんだから、俺が怖がられる要素がないじゃないか。

 俺がコビーの前でやった事なんて、この世界で目を覚ました瞬間目の前にいたルフィにびっくりしてアッパーカットをかまし、空の旅へご招待したぐらいのものだ。

 ルフィはゴム人間だから怪我一つしていない。

 

 てかそういえば、殴られて俺を仲間に誘う事に決めたのかルフィは。

 なにそれ。ドMなの。

 

「いいなー俺も飛んでみてぇ」

 

 ルフィが目をキラキラさせている。

 さっき(俺のパンチにより強制的に)飛んでたじゃん。

 

 てか俺は飛べるのか?

 訓練して魔法的な物を使えるようになったらいずれ飛べるようになるとは思うが……

 

「羽はえてんのに飛べねぇのか?」

 

 こんな羽で飛べるわけ無いだろ常識で考えろ。

 これで飛べるならニワトリだって大気圏突破するわ。

 

「根性で飛べたりしないか?」

 

 根性で飛べるわけ……(パタパタ) あ、飛べた。

 

「なんだ飛べるじゃん」

 

 すげぇな根性。目から鱗だわ。

 常識とは投げ捨てるもの。

 

「……なんか、ルフィさんが二人に増えた気がします」

 

 お、コビーが接近してきた。

 なんだこいつ、ちょっと飛んだだけで近寄ってきおって。チョロイではないか。

 

 

 しかし、いまのコビーのセリフ。

 俺の耳には「バカが二人に増えた気がします」と聞こえたんだが、どうなのか。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 さて、あっさり海賊の仲間入りを果たした俺だが(お天道様に顔向けできねぇ)、今は体の慣らし運転をしている。

 ルフィとコビーは周囲の探索に行った。

 他にも仲間になってくれる奴いねぇかなぁとか言ってたが、さっき飛んだ時に見た感じ、この島は無人島である。

 仮に誰かいたとしても、こんな所にいる奴はまともな奴じゃないから仲間にしないほうがいいぞ。

 

 ……ん、何? 鏡を見ろって?

 なにを言っているんだ。鏡なんてここには無いよ。

 

 

 しかし、この体のスペックはすごい。

 岩を殴れば砂になり、100mを二歩で駆け抜ける。

 魔法的なものが使えないかと試してみたら、体に帯電させる事ができた。

 放出はまだできないが、触れた敵にダメージを与える事はできそうだ。

 また、岩を殴っても拳に傷がつかないので、防御力も相当なもんだろう。

 そういや原作のジブリールって、水爆喰らっても無傷だったな。

 さすがに最強の天翼種(フリューゲル)レベルには遠く及ばないだろうが、この世界で一般的であろうマスケット銃程度では傷つかないと思っていいだろう。

 

 

 ジブリールで思い出した。

 原作に、ジブリールが外見を(ソラ)(原作主人公。男)に変えたシーンがあったな。

 つまり、うまく力を使えば俺も男に戻れるかもしれない。

 

 うーん。でもなぁ。アザリーみたいなことになっても困るし。

 

 ……え、アザリー知らない? 魔術士オーフェンの。

 体を作り変える的な魔術道具の実験に失敗して、化け物になって戻れなくなった人。

 うわー、ジェネレーションギャップ感じるわー。時代は移り変わってるのか。

 俺の毛髪も寂しくなるわけだ……だれがハゲやねん。今はフサフサだっつうの。

 

 

 ……フサフサだよな?

 俺が乱暴狼藉を働いた結果できた水溜りの上に滞空し、水面に移った自分の姿を確認する。

 

 うん、フサフサだ。

 ワインレッドの髪は背中まで伸びており、その中ほどからはふんわりとした三つ編み状に纏められている。

 髪の一房だけがやけに輝いており、角度が変わるたびにプリズムのようにその色を変える。

 なにこれどうなってんの。

 

 服装に関しては、若干露出が激しいのではないかとも思えたが、翼がある以上しょうがないか。

 腹までの長さの黒いタンクトップに、胸を×字に覆うようにして白い布を巻いている。

 下は、クォーターパンツの上に、これまた白い布を上から巻きつけていた。

 

 髪以外に人間と違うところは、耳、翼、あとは頭の光輪か。

 

 耳は、翼にも見えなくも無いような獣耳が横に長く伸びている。

 獣耳と言っても、頭の上についているわけではなく、耳の位置は人間と同じだ。

 

 翼は、おそらく腰骨から繋がっている。

 天使というと背中から羽が生えているイメージがあるが、重心を考えるとこの位置が妥当だろう。

 

 光輪は……なんだかよくわからない。

 輪っかというより、文字が連なった結果丸くなりましたみたいな形状をしている。

 中の文字はゆっくりと回転しつつ、常にその形を変えていた。

 原作の描写を考えるに、おそらく力を使用している間は回転するのだろう。

 今は飛行に少し力を使っているので、ゆっくりと動いているようだ。

 

 ……あ、これ自分の意思である程度位置をコントロールできるぞ。

 原理は、不明だ。

 とりあえず、服の中に隠れるように仕舞っておこう。

 さすがに頭に変な輪っか付けてると目立つからな。

 翼の時点でも目立つような気はするが、隠せるものは隠しておきたい。

 

 

 

 思考を戻して、体をどうするかの検討に戻る。

 幸い、ワンピースは恋愛要素的なものがほとんど出てこない話である。

 麦わら一味内部での影響としては、サンジからの対応がゴミムシ扱いからゴッド扱いに変わる程度だろう。

 些細な問題である。

 

 うん、とりあえずこのままで大丈夫だ。問題ない。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 収穫なしで戻ってきたルフィたちと共に、俺は次の目的地に向かって出航した。

 目的地は、海軍基地。

 コビーが海軍に入るため、そこを目的地に定めているらしい。

 その間、三つほど村を経由するとの事。

 

 その村で、生活に必要な物を買っておきたいな。服とか。

 ルフィ、金持ってるだろうか。

 俺は持ってない。

 

 

 

 俺は、電撃を使って魚を乱獲し、物々交換で生活必需品を手に入れた。

 


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