天竜人? いいえ天翼種です。   作:ぽぽりんご

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活動報告にも書きましたが、ここからしばらく先までの話は特に考えてないので、書きたいものができたら書くぐらいになるかと思います。

あとマッパマッチョマンの性格と口調がよくわかりませんでしたが、偽者なのでまぁいいかと開き直りました。



閑話1 散りゆく者

■■■閑話:万翼の眠る地■■■

 

 

 

 ふと。

 男は、自分に近しい力の波動を感じて目を覚ました。

 

 男が目を覚ますと、周期の空気が変わる。

 王座に座って頬をつき、闇のように輝く金の相貌でただ世界を見つめる。そんな仕草は、男に非常に似合っていた。

 凛とした静けさで覆われていた空間は、侵してはならない神聖さのようなものを感じさせる。

 そう感じるのは、目を逸らしたいからだろう。生命として格の違う存在から逃れたいと思うのは、生きとし生けるものの本能。男に敵対して生き残る事など不可能だと、本能的に感じ取っているのだ。

 ゆえに、男の周囲は常に静けさが覆っている。誰しもが息を呑み、気配を殺し、男に認識されないよう振舞う。

 

「簒奪者の類か? 余の創造物を侵すとは不遜極まりない。万死に値する」

 

 そこまで口に出してから、男は苦笑した。

 

「いや、そも……余自身が、模造品。簒奪者のようなものであったな。ははは、なんとも滑稽な話だ」

 

 自虐とはいえ、男が笑うのは久しぶりだった。

 数百年前、男に戦いを挑んだ者たちが現れたとき以来だろうか?

 それからは挑んでくる者もおらず、男の感情が動かされる事など無かった。

 

「許そう。余を弑逆(しいぎゃく)せんとする者達の全てを、余は許そう。思考の範疇に外する事が起きるなど、むしろ歓ぶべきではないか?」

 

 この程度の事で腹を立てるとは自分もずいぶんと矮小になったものだと、男は自嘲した。

 もしかすると、生まれたときから矮小だったのかもしれないが。

 

 

「――?」

 

 愉快な気分が収まってくると、男は自身の体に違和感を覚えた。

 

 力が弱まっている。

 いかに脆弱な世に身を置いているとはいえ、最強の概念を持った存在であるこの身を弱いと感じようはずもない。

 異常だ。

 

 

「……何事か、仕掛けてきているのか」

 

 男は目を閉じ、思慮に耽った。

 

 挑むものが居ないなど、とんだ勘違いだ。

 連中は、ずっと戦い続けているのだろう。

 

 最強の概念が揺らぐような世界。

 それは、争いのない世界か? それとも……

 

「――弱者が、強者を支配するような世界?」

 

 ありえない、とは言い切れなかった。一部の氏とはいえ、過去にそのような社会を作り出した者達もいたのだ。

 そのような社会になったのにも理由はあったのだろう。それが、強さに繋がっていた事もあるのだろう。

 だが長い年月の間に理由が失われ、"強さ"という概念からかけ離れたものが持てはやされるという結果だけが残った。 

 

 たとえば、耳の長さ。持っている金属細工の数。出身地。

 

 弱者とて……いや、弱者であればこそ。群れればそれなりの力を持つ。

 彼らが共通の概念を作り出したのならば、それは現実をも侵食する病魔となろう。

 それは酷く脆い幻想ではあるが、罅割れ壊れる前にこの身を喰らい尽くす事もあるやもしれぬ。

 

 

 なんにせよ、面白い。概念そのものを捻じ曲げようなどとは、想像もしていなかった。

 それに、先ほど感じた力の残滓の出所も気になる。男は、戦いの予兆を感じ心を震わせた。

 

「少し、様子を見るか」

 

 男は、戦いの予兆を眺めるのが好きだった。自分は、このために生きている。戦いのために、生きている。戦いの中に身を置いている時こそ、自身の存在をより強く認識する事ができる。

 逆に言えば。今のように戦いの無い時間は、男にとっては死んでいるのと大差なかった。

 

 

 思考を打ち切り、再び金の相貌を光らせる。

 久しぶりに心を躍らせ、長らく腰を掛けていた椅子から立ち上がる。気まぐれに周囲を歩いて周る事にしたのだ。

 

 男が立ち上がっただけで周囲の空間が軋むように歪み、よがり狂う。三メートルを超える巌のような肉体を堂々と晒した男が歩みを進めるたび、世界の傷が広がり、侵食され、壊れていく。背に背負った十八もの光翼は、男が超常の存在である事を示していた。

 

 

 ここで眠り始めてずいぶん長い時を経たが、男の目に見える風景は全く変わった様子が無い。

 直径数百メートルにも及ぶ、ドーム状の建物。白く輝く外壁はドームの内部を照らし、周囲には光が溢れている。

 外周部分にはドームを一周するような通路が何段も設けられており、その上には白い繭のようなものが整然と並ぶ。ドームの頂きにはぽっかりと穴が開いており、まるで闇を落としたかのような深遠を覗かせていた。周囲の輝きと相反するような深く暗い色は、生物の存在を許さぬ冷たさを持っている。

 

 一通り辺りを見て回った男は、並んだ繭の一つに向かって命令を下した。

 

「起きろ」

 

 男の言葉に従って白い繭が鳴動し、活動を始める。

 やがて繭がバラバラと解けるように広がり、中に居たものが姿を現した。

 繭の表面を覆っていたものは、糸ではなかった。

 それは、翼だった。

 

 翼の中から現れたのは、純白の髪に純白の翼を持つ、美しい女性。

 頭には二重になった光輪が輝き、鳥の翼のような耳を生やしている。

 目を閉じている間は清廉で神聖な気配を感じさせたが、その瞳が開いた瞬間、周囲の抱く印象は正反対に裏返る。暗く輝く赤い瞳は、女性が内に抱いた残虐性を隠そうともしていなかった。

 

 女性は数百年ぶりに主の声を聞いた喜びで身を震わせながら男の下まで降り立つと、恭しく跪いた。

 

「ご用命ですか、我が主様」

「余興だ。地上の様子を見て来い」

 

 ついで、ふと思いついた命令を追加する。

 今までに下した事のない類の命令だ。そんな事を思いつくという事は、自身の概念が揺らいでいる証だろうか?

 

「せっかくの余興だ。何か、お前が面白いと思うものを一つ。見つけてこい」

「かしこまりました。我が主――アルトシュ様」

 

 曖昧な命令に困惑の色も見せず、純白の天使は主の命に従い空を舞い、天井の穴を超えて深い闇の中に旅立った。

 

 

 

 それを見届けたアルトシュは自身の椅子に腰掛け、過去の戦いに想いを馳せる。

 

 前回の戦いでは、数十の翼を失った。

 精霊のほとんど居ないこの世界では、天翼種の力を十全に発揮する事など望むべくもない。

 

 人類は、巨大な戦艦郡を作り出した。

 精霊の力を一人に集中させ天撃を放つ事で瞬く間に消滅していったが、全てを潰すまでに十を超える翼が地に落ちた。

 

 一つの肉体に複数の魂を宿す、人類最強の戦士が居た。

 彼はそれぞれの魂に精霊を宿し、多彩な能力を持って一対一で天翼種を打倒するという偉業を成し遂げた。

 

 他にも、海の中で戦った魚人達や海王類。体を実体の無い物質に変えることで、一部の攻撃を無効化する事に成功した者達。あげくには、魂を入れ替える事で天翼種の体を奪おうとした者さえいた。

 結果として、彼らは天翼種を打倒せしめた。

 

 

 

 次は、どんな事をしてくるのか?

 

 

 アルトシュは期待と諦めが混濁した複雑な笑みを浮かべつつ、再び周囲の様子を見回した。

 先ほどとの変化点は、ドームの外周に並んでいた繭の数が一つ減っただけだ。

 それすら、アルトシュ以外の者が見たならば気づきもしないだろう。

 

 

 なにしろ、数が多すぎる。

 外周部分に並んだ繭の数は、千や二千どころではないのだから。

 

 

「万の翼で空を覆い尽くしてなお敗れる……そんな(いくさ)を、してみたいものだ」

 

 

 アルトシュは自身の望みを口に出し、目を閉じた。

 

 

 

 

 

 

■■■閑話:ドMがいるなら、ドSもいたっていいじゃない!■■■

 

・注意事項1:羽を洗っているだけです。健全なのは確定的に明らか。

・注意事項2:鳥の羽の油は落としてはいけません。石鹸はNGです。お湯すらNGの場合も。

 

 

 

 水を吸って重くなった頭を上げて、俺は叫んだ。

 

「今、フル・フロンタル(意訳:全裸)なムキマッチョにターゲットロックオンされた気がするっ」

「……またこの子は、変な事を言い出した」

 

 ナミが、泡だらけの俺の頭をかき回しながら呆れ声を漏らす。

 いや、結構大事な危険信号だと思うよ。今後の人(?)生にも関わってくる事だ。

 

「じゃ、流すわよー」

 

 俺の言葉をスルーし、ナミが俺の頭にお湯をぶっ掛ける。

 髪を包み込んだ泡が汚れと一緒に流れ落ちていき、気分はスッキリだ。

 

 

 

 今俺達が居るのは、ナミの生家があるココヤシ村。そこにある風呂場だ。

 俺は今、ナミと一緒に風呂に入っている。

 肩の刺青を隠す必要がなくなったからだろうか。やけに激しく一緒に風呂に入ろうと迫るナミに押し負けた形だ。

 

 ……あれ、全裸のマッチョなんかよりこっちのイベントの方が一大事な気がしてきた。

 男の裸とか、誰得だよ。パンツはけよ。せめて腰蓑とかさぁ……いや腰蓑は無いな。

 パンツをはかない男など、俺の前から消えていなくなれー!

 

「ほんとに、あんたの髪ってふわふわのサラサラね。潮風に当たる者として、これはおかしいんじゃないかしら。一体どんな秘密が……」

「秘密なんてありませんよー。私の普段の生活は、ナミがきつく目を光らせているではありませんか」

「そうなんだけど、なんか納得がいかない」

 

 ナミが俺の頭を撫で回す。

 指が髪を通り過ぎるたび、頭にこそばゆい感触が広がった。

 あー、気持ちええー。

 

 どうでもいい……いやどうでもよくないけどナミさん、背中に当たってますよ。

 ナミのはでかいからな。造られた存在であろう俺のよりでかい。

 中二病マッチョ神か中二病ヒッキー神のどっちの趣味かはわからないが、俺の体は全体のバランスを意識して造られているような気がする。どこか一点に視線が集中するのではなく、全体の調和を見てしまう、みたいな。俺にはよくわからない境地だ。おっぱいがエロかったらそれで良くね?

 

 

「じゃ、次は翼ね」

「ほいさ。人に洗ってもらうのは初めてなので、優しくお願いします」

 

 羽をタオルで洗うわけにもいかないので(いや、手触りとは裏腹に鋼鉄もびっくりな強靭さだから全然大丈夫だけど)、ナミは泡だらけになった手で直接羽の一枚一枚に手を這わせてくる。

 

「ひゃうんっ!?」

 

 あへ、何か変な声出た。

 ナミの指が羽の間をぬるりと滑り抜けるとゾクゾクした感覚が体中を駆け巡り、思わず体をビクつかせてしまう。

 今までは、神経通ってないんじゃないかと思うぐらい感覚が希薄だったのに。急にどうしたんだ?

 ……あ、天撃のせいか。あの時、翼に神経が通っていくような感覚あったもんな。

 

「変な声ださないでよ」

「そんな事言われても……ひあっ!?」

 

 ナミが俺の翼を洗いながら、無茶な注文を突きつけてくる。

 そう思うなら、手を止めてくれ。

 そう思いつつ俺が身をよじらせてナミの手から逃れようとすると、逆にナミは俺の体をがっちりホールドする構えを見せた。

 Why?

 

「……あの、ナミさん? 逃げられないのですが」

「うん。逃がすつもり無いもの」

 

 そしてナミのこの笑顔である。

 今、確信した。今までも片鱗を感じてはいたが、こいつは生粋のドSだ。

 

「た、助けてー! ゾロ、あなたの出番ですよっ、ナミの嗜虐心を満たしてあげてください!」

 

 こういう時こそ、無敵のゾロバリアーの出番……しまった! ここは風呂場だ。ゾロが来れない!?

 絶望する俺の頭をペシッと叩き、ナミからお叱りの言葉を貰う。

 

「風呂場で男に助けを求めるとか何考えてるの。そっちの方が危険でしょ」

「いや、私的にはナミの方が飢えた獣的な何かを感じ……何でもありません」

 

 ナミに睨まれた俺は沈黙した。俺、超よわい。

 日常生活におけるヒラエルキーは、ナミ>俺>ゾロ・ウソップで固定されてしまった感がある。

 サンジはまだよくわからないが、女性に逆らう事は無いだろう。

 ルフィ? 奴はフリーダムだ。

 

「そんな事より、今はこっち。じゃあ、しっかり洗うわよー。大事な部分だもんね。隅から隅まで洗わなくちゃ」

「ナミがお叱りより優先するなんて。今の状況、超楽しんでませんか?」

「すっごく楽しんでる」

 

 こいつ、言い切りやがった。

 だが、俺にはどうする事もできない。借りてきた猫のようにおとなしくなった俺に対し、サディスティック・ナミが攻勢を再開する。

 

「……っ! ~~~!! ―――ッッ!?」

 

 笑顔で俺の体を抱きかかえたナミは、翼を隅から隅まで余す所無く蹂躙していった。

 手のひらで口を覆い息を殺し声を出さないようにするが、ナミの指が翼を撫で上げる度に堪えきれない吐息が端から漏れ出てしまう。這い回る手の平が敏感な所に触れた瞬間体が戦慄(わなな)き、それに気づいたナミは執拗に俺の弱点を攻め立ててきた。

 

 腿を擦り合わせて身をよじるが、俺の体に完全に密着したナミから逃れる事はできない。

 

 

 ナミの攻撃は、どんどん苛烈さを増していった。

 指を立てて羽の付け根をほぐし、俺が感覚に慣れてきた頃を見計らって一気に羽先まで指を滑らせる。

 やわらかく羽を握ったかと思うと、小指から順番に波打つように指を握って揉み解す。

 空気を多量に含む羽はスポンジのようによく泡立ち、周囲を泡で包み込む。

 

 堪えきれなくなった俺は、洗い終わったために解放された側の翼を丸め、顔を覆った。

 手の平どころか脚の指先までぎゅっと握り締め、体を跳ね上がらせる。

 目の前が真っ白になった。

 

 

 ……うん? 何か変な想像していないか、君。

 白いのは翼だよ? 隅から隅までしっかり洗ったからね。

 まったく一体、どんな想像をしたのやら。おねーさんに教えてみなさい。

 

 

 

 

 しばらくして。

 現実逃避をしつつ風呂から上がると、ナミはサッパリスッキリした表情でツヤツヤと肌を輝かせていた。

 俺は、まるでナミに精気を吸われたかのように疲労でぐったりしていた。

 

 俺、どんどんナミに逆らえないようになってきてる気がするんだけど。

 チート種族とは一体なんだったのか。

 

 

 

 

 

 

■■■閑話:生存戦略■■■

 

 

 

 のどかで平穏さを感じる庭園。

 その空気とは裏腹に、庭園の外れには圧迫感を与える巨大な建物がそびえ立ち、建物の正面には戦闘訓練を行うためのやや物騒な広場が点在している。

 中でもっとも大きな広場には六千もの屈強な人々が整然と立ち並び、白い外套を風にたなびかせていた。その背中にある二文字を見れば、イーストブルーの海賊達であれば尻尾を巻いて逃げ出す他無いだろう。背中には、正義という文字が燦然と輝いている。それは、ここにいる者達すべてが海軍将校である事を示していた。

 

 

 ここは、海軍本部。人類の力と平和の象徴。

 ここでは今、海の治安を維持するための重要な会議が開かれている。

 

 

 

「では次の議題へ。……イーストブルーで、情勢が大きく動きました」

 

 会議の進行役を勤めるチリチリ頭の将校……ブランニュー少佐が、報告書をめくりながら情勢報告を執り行う。

 普段重要視される事がないイーストブルーの議題を早いタイミングで取り扱う事に、会議の参加者達は疑問の視線をブランニュー少佐に向けた。

 だがその疑問も、続きを聞けば納得せざるを得なかった。

 

「第77支部からの報告です。魚人海賊団、アーロン一味の殲滅に成功」

 

 予想だにしなかった報告を聞いた一同は、大きくどよめいた。

 動揺を隠せないまま、ブランニュー少佐の傍に座っていた海軍将校が思わず聞き返す。

 

「アーロン一味を、支部の戦力で殲滅したというのか?」

「外部協力者の助力を得て、との事です。なんでも、天使が現れたとか」

 

 ブランニュー少佐からの反応に困る報告を受けて、一瞬の沈黙が辺りを覆った。

 

「……天使、だと? 何かの比喩か?」

「いえ、文字通り。天使の翼を持つ美しい女性だそうです。空を駆け、手を触れずに魚人を倒し、傷ついた海兵達を癒したとの事。……未確認情報であり関連性も不明ですが、天にそびえ立つ光の壁を目撃した住人もいるのだとか」

 

 困惑していた者達も、報告を聞くに連れて興味を持ち始めたのか。次々と天使についての質問や見解が飛び交う。

 

「未確認情報はともかく……天使の翼に、美しい女性。民衆の支持を集められそうな逸材ですな」

「確かに。ぜひ海軍に入って、旗印になっていただきたい」

「翼は、トリトリの実の能力者だと考えれば合点がいく」

「勧誘はしているのか? トリトリの実の能力者だとしたら、高速で移動されてしまう。見失う前に補足しなければ」

 

 雑然とした空気になる中、会議の参加者達は手近な者達と思い思いに意見交換を始めた。

 まとまった意見交換をしているわけではなかったが、その方向性は海軍の味方に引き込もうとする方向性に固まりつつある。

 だがその方向性に異を唱える物が現れた。

 

 

「黙れ」

 

 

 周囲に響いた言葉に、雑然とした雰囲気は一瞬で吹き飛んだ。

 水を打ったような静けさが広がるが、その言葉を発したのは水とはもっとも程遠い存在。この場に居る中でもっとも階級の高い者。

 

 海軍大将、サカズキ。

 

 赤犬の呼称で呼ばれるこの男は部下にすら制裁を加える過剰なまでの過激さで知られているが、それが許されるだけの力と権力を持っている。

 

「海軍が"天"の字を持つ者を旗印に……? おどれら、自分がどんな組織に属しとるんか、忘れちょりゃせんかのう?」

 

 サカズキは、周囲をゆっくりと見回した。

 その視線に応答を返す者は、居なかった。

 

「ワシらが"絶対正義"たりえるのは、唯一つの正義を掲げるからこそ。別の正義を掲げ、絶対正義の理念を揺るがしかねん存在など、むしろ敵……いいや」

 

 サカズキは躊躇わない。

 その言葉を発することにも、実際に行動を起こす事にも、躊躇う事は無い。

 

「それは、もはや悪と呼ぶべきもの。根絶やしにすべきじゃァ」

「し、しかしそれは!?」

 

 押し黙っていた一同も、さすがにこの言葉には反応を返した。

 だが、続く言葉は出てこない。引く気配を見せないサカズキに対し、議論などしても無駄だと言うのは誰しもが理解していた。会議という体裁をとってはいるが、この会議には大将の決定権を覆すような力など無かった。

 

 ピリピリとした沈黙を破ったのは、先ほどまで起きているのか寝ているのかわからない姿勢をとっていた屈強な老人。老人は欠伸をし耳をほじりながら、非常に珍しい事に会議に口を挟んだ。

 

「別に、いても構わんと思うがのぉ……図体ばかりでかくなったが、相変わらず肝っ玉の小さい男よ。おぬし、一体何をそんなに怯えておる?」

「ガープ……ワシは、何も間違ったことは言っちょりゃせん。それは、お前にもわかっとるはずじゃがのォ……」

 

 ピリピリした空気を通り超えて剣呑な気配がサカズキ・ガープ両名の間に交わされ始めるが、佐官以下は押し黙ったままだ。中将以上、更にその一部の者にしか公開されない情報があるのだ。それを盾に取られれば、議論の余地すらない。

 

「およし。ここで言い合ったって、何も変わりゃしないよ」

 

 静止を呼びかけたのは、ガープと同じく古くから中将として海軍を支える女性、おつるだった。

 おつるの介入を受けた事で、剣呑な雰囲気はあっさり霧散する。二人が剣呑な空気を引きずることは無い。お互い、分かり合える相手でないという事を理解しているが故に。

 おつるは溜息を漏らしつつ、両者に対して愚痴を零した。

 

「……あんた達は両極端すぎる。たまに会議に出たかと思えば、子供の喧嘩かい? すこしは成長ってもんを見せて欲しいもんだねぇ」

「がはははは! つまらん人間になるのが成長というなら、儂はそんなもん願い下げじゃ。子供でいたほうが楽しいわい!!」

「悪を赦すぐらいなら、死んだほうがマシじゃァ」

「……あんた達は本当に、正反対の方向で似たもの同士だよ」

 

 止まってしまった議論を進めるため、おつるは自身の見解を述べた。

 

「どんな人となりにしろ、あの子達(アーロン一味)を倒すような奴だ。調査は必要だろうねぇ……反対意見はないかい? なら、ブランニュー少佐。そっちの方向で話をまとめとくれ」

「ハッ!!」

 

 

 不満そうな顔を隠さないサカズキだったが、口には出さない。

 場所が遠すぎるため、すぐにどうこうするつもりも無かった。

 

 

 今は、まだ。

 

 

 


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