天竜人? いいえ天翼種です。   作:ぽぽりんご

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第3話 おじいさん、超優秀だな

 ただ今、絶賛漂流中です。

 

 

 見渡す限りの水平線。

 上空には、雲ひとつ無い青空が広がっている。

 視界に変化があるとすれば、太陽の位置が変わっていく所と、たまによくわからない謎生物(海王類?)が遠くに見えるぐらいだ。

 なにあれこわい。

 

「どういけばグランドラインにいけるのかなぁ」

 

 地図を眺めながら言うルフィ。

 海王類より恐ろしいやつがここにいた。

 まずは陸地を目指そうぜ。

 

「だいたい、お前が航海術持ってねぇってのはおかしいだろ。海賊なんだろ」

「ルフィさんの言う"海賊"と私達の思うそれは、たぶんまったく別物なんでしょう」

 

 海賊名乗る必要まったくねぇ。

 っていうか、海賊って名乗るもんじゃないだろう。

 海賊行為働いたら海賊と呼ばれるだけだ。

 とりあえず、ルフィに期待するのは止め、ルフィから地図を取り上げる。

 

 しまったな。コビーに地図の見方を教えてもらえばよかった。測量や現在位置の割り出し方ばっかり聞いて、地図は少し見せてもらっただけだ。地図の見方なんて全然気にしてなかったわ。地図があっても、見方がわからなければ意味が無い。

 無いが、この時代の技術力や、世界が丸い事について知れ渡っている事を考えると、既にメルカトル図法が一般的になっているのではないだろうか。

 

 たしかメルカトル図法というのは、方角を正しく記述する方法だ。

 地図に従った方角に進み続ければ、目的地にたどり着けるはず。

 現在地を割り出すのが難しそうだが、目指す方角が大まかにでもわかれば上出来だ。

 方角さえわかれば、最悪飛んでいく事も可能である。

 時刻と太陽の方向から現在の進路を割り出し、出発地点の町の位置から現在地を推測し……

 推測し……

 

「ルフィさんルフィさん」

「何だ?」

「これ、どこの地図ですか?」

「知らん!」

 

 たぶんフーシャ村周辺の海図だろう。

 村を中心に、周囲の海の深さや、障害物等の位置が記されている。

 ああ、大事な地図だね。座礁とかしたら困るもんね。

 

 って、あほか!!

 なんでフーシャ村から出て行くのにフーシャ村の地図もってくるんだよ。

 コビーの見てた地図って、ルフィが持ってた奴じゃないのかよ。

 こんな地図、糞の役にも立たねぇ。

 こんなざらざらした紙(皮?)を使ったらアソコが血まみれなっちまうぜ。HAHAHA!

 

「西にむかえばいいんじゃねぇか? いずれレッドラインにぶち当たるだろ」

「…レッドラインまで無補給で行く気ですか?」

 

 グランドライン目指すのと大差ねぇ。

 この前も即身仏になりかけていたし、こいつは飢餓による自殺願望でもあるのだろうか。

 

「このドMが」

「あぁ?」

「なんでもありません」

 

 とりあえず、飛ぼう。

 適当に飛んでいたら、陸も見つかるだろう。

 もうどうにでもなーれ。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 とりあえずあたりを飛び回って20分で陸を発見。

 1時間ほどかけて、船に戻る。

 

 なぜか船に戻るのにやけに時間がかかったが、おそらくあのパーフェクトマゾヒスト……ゾロの仕業だろう。

 必死にオールを漕いで、高速で移動している。だから船に戻るのに時間が掛かったんだ。

 断じて迷子ではない。

 海上保安庁だって、遭難船を探すのに1週間掛かったりする事もあるのだ。

 波に隠れるから、小船だとたとえ上空からでも見つけにくいのだ。

 いったん移動されたら、船を見つけるのに手間取ったとしても何の不思議もない。

 

 自己暗示を掛けつつスタイリッシュ着艦で船に戻ると、いつのまにかルフィがアフロになっていた。

 

「なん……だと?」

 

 いや、ルフィがいなくなって、代わりにアフロとその他二名が船に乗っていた。

 何を言っているのか全くわからないと思うが、俺も何を言っているのかわからねーよ。

 なんだこれ。誰得だよ。俺たちのルフィを返せ。

 

「ジン、ルフィが鳥に攫われた!」

「鳥……ですか?」

 

 はて、何かの隠語だろうか。

 文化の差異によるコミュニケーションエラーが発生したようである。

 俺は、現地住民との異文化コミュニケーションを試みた。

 状況は困難を極めたが、俺は諦めなかった。

 状況を整理した結果、俺はこの状況に結論を出す事に成功した。

 

「つまり……ルフィが鳥に攫われた、と」

「だからそう言ってんだろ! お前は先に行ってルフィを探してくれ。もし海に落ちたらやばい」

「了解しました」

 

 最近マイフェイバリットの、無意味なスタイリッシュ発艦でGO。

 そういえば、この辺の話は原作にもあった気がするな。

 てことは、あのアフロ達はバギーの一味か。

 俺が絡んでも、原作とあまり差異は出ていないようだ。

 

 ……あれ、俺がいてもいなくても変わらないって事は、俺も迷子属性を持っているって事だろうか。

 そんな馬鹿な。

 

 いやいや違うよ。

 地図すらない状況で迷子にならないわけないよ。

 あとは、そう。歴史の修正力さ。

 運命とカミさんの尻には逆らえないのさHAHAHA。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 びゅーんとひとっ飛びで、町まで到着。

 バギー一味が占領しているため、町は静寂に包まれている。

 そのため、酒場の屋上で宴会している連中、おそらくナミとバギー一味であろう連中を見つけるのに苦労はしなかった。

 よって、一緒にいたルフィを見つけるのは簡単だった。

 簡単だったが……

 

 檻の中に入っていらっしゃる。

 なんか檻の格子をガジガジとかじってるし。

 噛み切ろうというのか? さすがに無茶だろう。

 それよりゴム人間なんだから、体全体を平べったくして檻の間を通り抜けるほうが現実的では。

 

 

 あー、どうしようかな。

 原作なんてうろ覚えだし、俺がいる以上は原作どおりに進ませるなんて無理だから気にしなくて良いと思っていたが。

 よく考えてみると、ナミがいないと困るよな。

 なんせ、我ら迷子トリオは(あっ、トリオって認めちゃった)目的地にたどり着くことすらできないのだ。

 旅をするっていうレベルじゃない。

 漂流しているだけである。

 

 さて、ナミを仲間にする上で、俺はどう立ち回ればいいのか。

 うん。

 わかんねぇよそんなの。

 どうしていいかわからず、俺は近くの建物の屋根の上からバギー達の酒盛りを覗いている。

 

 

 このまま見ていてもしょうがないな。

 ナミとバギーがだんだん不穏な空気になってきているし。

 ゾロは来ないし。(たぶん迷子だろう)

 なんかルフィはバギー玉とやらを喰らいそうになってるし。

 ナミはバギー一味に襲われてピンチだし。(不穏な空気どころか開戦しちゃってたよ)

 

 

 

 そんなわけで、俺はバギー玉の入った大砲の向きを、ルフィからバギー達の方向へひっくり返す事にしたのだ。

 既に導火線に火は着いている。

 

「は……!?」

 

 俺の姿を見て一瞬動きを止めるナミだが、俺が檻の鍵を探してくれというと、すぐにこの場を離れた。

 たぶん、探してくれるだろう。

 右往左往しつつ、バギー玉の射線上から離れて床に伏せるバギー一味。

 直後、バギー玉がド派手にぶっ放され、あたりは粉塵に包まれた。

 この隙に逃げるとしよう。

 

「ジン!」

 

 満面の笑みを浮かべるルフィ。笑顔が眩しい。

 

「さぁさぁ、ルフィさん。逃げますよー」

 

 持てるかなこれ。

 5kgはありそうな格子が20本ほどあるのに加え、台座と天板部分にまで金属補強がされている。

 おまけにルフィ自身の重さまで加えると……

 

 不安に思いながら檻を抱えてみると、軽々と持ち上げられた。

 なんだよ軽いじゃないか。見掛け倒しもいいところである。

 中身はスカスカなんだろうか。骨粗鬆症に気をつけろよ。

 

「なっ、檻ごとだとぉ!?」

「あの檻は300kgはあるのに……!!」

 

 バギー玉の被害から逃れていた海賊達が驚いている。

 え、何。この檻300kgもあるの?

 原作のゾロなんて、腹から腸が飛び出そうな状況で持ち上げてなかった?

 ゾロさん、まじパねぇっす。

 

 さて、逃げるにあたって、一回言ってみたかったセリフがあるんだよな。

 今こそ言う時だろう。

 

 

 あばよ、とっつぁ~ん!

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

「……何やってんの、あんたら」

 

 逃げ出した後。

 ルフィが犬(シュシュって首輪に書いてある)と喧嘩してるシーンを、ナミに目撃されてしまった。

 

 適当に逃げたつもりだったが、原作通りの場所に辿り着いてしまったようだ。

 ゾロ……大怪我した状態で、300kgもある檻を担いでここまで逃げてくるはずだったのか?

 もうあいつを人とみなすのはやめよう。

 

「あんたら、海賊だけでなく犬にまで喧嘩を売るの? バカじゃないの」

「バカなのは否定できないですね。航海士さん」

「誰が航海士よ!」

 

 ふははは、話はすでにルフィから聞かせてもらった。

 ルフィはやはり、ナミを航海士として誘うつもりのようだ。

 あと、ついでにバギーからグランドラインの海図を頂くのだ。

 

「ルフィは言い出したら聞かないんですよ、航海士さん」

「肉くいてぇ」

「はいはい、後でね」

 

 ルフィは檻に入れられてもブレない。

 

「はぁ……一応助けてもらったからね。お礼だけはしとくわ」

 

 そう言い、鍵を投げてよこすナミ。

 おお、これが本物のツンデレだよ。

 ヘルメッポのツンデレとかいらねぇよ。

 

 俺は鍵を受け取り、一瞬迷った後(このハラペコの猛獣を解き放っていいものか?)、ルフィを開放する。

 解き放たれたルフィは、諸手を挙げて喜びを爆発させた。

 

「出れたーーーー!!!」

 

 

 おい馬鹿大声だすんじゃねぇ。

 バギーに見つかったらどうする。

 

 幸い、バギー一味の耳にルフィの大声は届かなかった。

 やつらの耳は節穴のようだ。

 あれ、節穴って表現するのは目だけだっけ。

 

 

 その後、ルフィと共にナミに勧誘攻撃を仕掛けたが、梨の(つぶて)だった。

 こいつ、もはや話きいてねぇ。もう無理だ。

 しかもルフィはハラペコ状態だ。

 ハラペコのルフィは肉の事しか考えられない。

 仕方ないのでナミと別れ、ルフィと手分けしてゾロを探す事にした。

 ルフィは目的を忘れて飯を探してそうだけど。

 

 

 

 俺は、再び空に舞う。

 うーん、どこにいるのかな。

 なんとなく高いところにいそうだな。ゾロだし。

 言外にゾロを馬鹿呼ばわりしつつ上空を飛びまわっていると(鏡なんてありません)、ナミがライオンに跨ったたぬ耳おじさんに襲われているのを発見した。

 

 

 へ、変態だーーー!!

 三次元でおっさんがたぬ耳つけてるとかキモイの一言しかない。

 

 想像してみてほしい。

 誰もいない街中で、たぬきの耳を頭につけたおっさんがライオンに跨って若い女性を襲うシーンを。

 ホラーである。

 

 

 ナミは絶叫を上げ、涙まで流して全力で逃亡している。

 しかし、さすがにライオンの脚からは逃げられない。

 このままでは、追いつかれるのも時間の問題だろう。

 

 一刻も早く世界に平和を取り戻すため、あとナミのポイントを稼ぐため、俺は上空から変態に奇襲を掛けた。

 速度を上げていくと、世界が縮んでいくような錯覚を覚える。

 徐々に飛行角度を浅くしていき、高速のまま変態に体当たり。

 変態はぶっとび、星になって視界から消え去った。

 たぶん音速を超えてしまったので、衝撃波であたりの窓ガラスが全部割れた……若干やってしまった感がある。

 反省しつつ、俺は地面に降り立った。

 

 

 ナミに泣いて感謝されたが、なら仲間にと言うと「それは無理」との返答。

 ええー。麦わらの一味おすすめだよ。

 楽しい・頼もしい・おバカの三拍子がそろってるよ。

 イーストブルー最強と名高いアーロン一味だって鎧袖一触(がいしゅういっしょく)だよ。

 

 アーロンの名前を出した時にピクッと反応があったが、やはり仲間になる所まではいかないようで、「考えとくわ」という回答に留まった。

 日本人的に考えるとその回答は無理と大差ないのだが、一応は心を動かされたようである。

 これは、ルフィやゾロの強さを見せれば行けるかもしれん。

 

「ていうか、その翼って本物なの?」

「? 本物ですよ」

 

 恐る恐るといった雰囲気で指をさし問いかけるナミに対し、俺はパタパタと羽を動かしながら答える。

 飾りの羽を着けてる不思議ちゃん系の子と思われていたのだろうか。心外である。

 

「そんな翼でなんで空飛べるのよ。おかしいでしょ」

「私もそう思うのですが、なんか知らないけど飛べてしまったんです」

 

 俺が空を飛べるのに、理由がいるのかい?

 いりますよね。すみません。

 

 

 その後、飛び立ってゾロを探しに行こうとしたが、ナミに止められた。

 まぁ、あんなホラーな目にあった直後に一人でいるのは怖いもんな。

 ゾロは見つからなかったが収穫(ナミ)はあったので、ルフィと合流する事にした。

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 んで、ルフィとの合流地点に定めた食堂の中に入ったわけだが、予想外の事があった。

 ルフィが肉を食っている。

 

 いや肉はどうでもいい。

 ルフィが合流地点にたどり着いているのである。

 奥のテーブルでは、おじいさんがお茶を入れている姿が見える。

 ルフィが自力で辿りついたとは思えないので、おそらく一緒にいるおじいさんに連れて来てもらったのだろう。

 てか誰だあのおじいさん。なんで一緒にいるんだ?

 

 聞けば、俺と別れた後に喧嘩して仲良くなったそうである。

 意味がわからないが、ルフィの言う事なので理解した。

 

 あともうひとつの予想外の事として、ゾロが床に寝ていた。

 ルフィが見つけたとは思えないので、おそらく一緒にいるおじいさんが見つけたのだろう。

 おじいさん超優秀だな!

 このおじいさんを仲間にさそうべきじゃないか?

 

 

 とりあえずゾロを起こして状況を説明しようと思い、ゾロの所まで歩いていく。

 ゾロに手を伸ばそうとした所で、俺はゾロが腹からかなりの出血をしているのに気づいた。

 

 ……え、なんで大怪我してるの。

 トレードマークの腹巻がおじゃんである。

 人がすぐ傍まで近寄っているのに、目を覚ます気配がない。

 普段の獣じみたゾロなら、一瞬だけ目を覚ましてちらりとこちらを一瞥するだろうに。

 おかげで、(ろく)にいたずらも仕掛けられやしない。

 

 おじいさんに聞くと、どうやらバギーと邂逅し負傷したらしい。

 原作と同じじゃん。もしかして本当に歴史の修正力ってのがあるのかもしれん。

 あ、じゃあナミも仲間になるねやったー!

 

「あんたの仲間って、海賊狩りだったの?」

「ええそうですよ」

 

 言ってなかったっけ。

 

「言ってないわよ!」

 

 しまった、勧誘を掛ける時にセールスポイントを言わないとは……

 この俺も、衰えたものである。

 

 

 あ、やばい。

 

 ドゴォォォッッ!!

 

 砲弾が壁を突き破ってきたのが見えたので、ナミとおじいさんを庇う。

 あとの二人は……まぁ大丈夫だろう。

 

「あーっ、俺の肉ぅぅぅぅっっ!?」

「……寝覚めの悪ぃ目覚ましだぜ」

 

 肉の心配をするルフィと、むくりと起き上がるゾロ。

 ほら大丈夫だった。

 ゾロに至っては、腹の出血が止まっている。なにそれふざけてるの?

 まぁゾロだしな……そういうもんだと思っておこう。

 

 しかし、砲弾が壁を突き破ったのを目視してから庇うのが間に合うとは。

 音がこっちに伝わってくる前に砲弾を知覚できたぞ。

 この体のスペックは、俺が思っていた以上に高いかもしれん。

 

 

「ぶじか、皆……!」

 

 砲弾が町を破壊する音が響く中(最初の一発目が直撃するとかどんだけだよ)、一番大丈夫そうでないおじいさんが言う。

 すまん、庇う時に引っ張ったのがかなりのダメージを与えた模様。

 皆の無事を確認した後、胸を押さえて倒れこむおじいさん。

 

「胸をえぐられる様じゃ……

 町を潰され! 住民を傷付けられ! わしらを助けてくれた恩人にも砲を向ける!

 わしの許しなくこの町で勝手な真似はもうさせん!」

 

 まっておれ道化のバギー、みたいな事を叫びながら、穴の開いた壁から外に飛び出て駆けて行く。

 熱いね、あのおじいさんは。

 

「そうだろ。おれ、あのじいさん好きだ」

「なら止めなさいよ! なんで行かせてるのよ!」

 

 激昂するナミ。

 いや、止めるという発想がなかったわ。

 いつもルフィやゾロと一緒にいるからかな。

 こいつら止めても意味ないもんな。

 

「大丈夫。じいさんは絶対死なせない」

 

 麦わら帽子を手に取り、遠い目をして見つめながら言うルフィ。

 麦わら帽子に触る仕草をする時のルフィは、本気だ。

 語った言葉は、必ず実行する。

 命を掛けてでも。

 

「バギーは、俺が倒す」

「……なんでそんなあっさり言えるのよ。相手は海賊よ?」

 

 ゾロと俺が、ルフィに続く。

 

「俺達も海賊だ。

 それに、バギー一味には借りができちまった。

 このままにしておくのは、俺の名に傷がついちまう」

「ついでに言わせてもらえば、町がこの状態だと食料の補給もままなりません。

 私達の道を塞ぐ障害は粉砕しなければ」

 

 現実的な問題として、もういい加減食料がないと話にならない。

 もう勢いに流されて、補給無しで行くのは無しだ。

 

「そして、俺達が目指すのはグランドライン。

 これから、その海図をもう一度奪いにいく。

 ナミ。仲間になってくれ」

 

 わお。

 普段はアホの極みだけど、こういう時のルフィはかっこいいな。

 

「……私は海賊にはならないわ」

 

 そういいつつ、ナミはもう決心しているように見えた。

 

「手を組むって言ってくれる?

 お互いの目的のために!」

「ああ。行こうか!!」

 

 全員で拳を突き合わせ、歩き始める。

 目指すはバギーの首だ。

 

 

 ……首とっても、バギーなら死なないよな?

 

 

 

◇◇◇

 

 

 

 さて、役者の勢ぞろいである。

 バギーに特攻をかけようとしていたおじいさんを物理的に説得(誤記ではない)し、俺達はバギーの前に姿を現した。

 酒場の屋上に陣取ったバギーは腕を組んでどっしりと構え、道化の化粧に似合わぬ冷たい視線をこちらに向ける。

 

「そっちから来るとはな。手間が省けたが……なにを考えてやがる?」

 

 こうしてみると貫禄あるなこいつ。

 記憶にあるのはギャグシーンばっかりだったんだが。

 

「お前を倒しに来た」

 

 だがそれで気圧されるようなルフィではない。

 言いたい事は何があってもそのまんま発言する奴だ。

 アホの子なのだ。

 

「ほう。コソ泥風情が大きく出たな」

「コソ泥じゃねぇ。海賊だ!」

「海賊だと? てめぇらみたいなバカやってる奴らがか!?」

 

 ……うん? なんか馬鹿なことやってたっけ?

 やばい、最近感覚が麻痺してきたかもしれん。

 

「そうだ。俺は、海賊王になる」

「……ほおー、そうか。なるといい。なれるもんならな」

「ああ。なる。

 だから、グランドラインの海図よこせ」

 

 海賊の名を出した瞬間は少し感情を表に表したバギーだが、海賊王の話に至ると逆に能面のように無表情になる。

 余裕あるな、バギー。馬鹿な事を言う奴がまた現れた、ぐらいの認識なのだろう。

 まだ、たぬ耳おじさんぐらいしかやられてないしな。

 

 

「バギー船長! あの羽人間の相手は、ぜひ私に!」

 

 とおもったら、たぬ耳おじさん……モージというらしい男(すまん、名前覚えてなかった)が現れ、バギーの脇で膝をつく。

 え、いたのかよ。星になったんじゃないのかよ。

 てか俺を指名か。

 もしかして、俺が攻撃したってばれてた?

 完全に奇襲だったと思うんだが。

 

「かまわん。やれ」

「はっ!」

 

 バギーの了承を取ったモージは、こちらを感情の篭った眼で一瞥すると、一気に屋根から飛び降りる。

 

「たとえ悪魔の実の能力者だろうと、種さえわれていればやりようはある」

 

 モージの周りに無数の鳥が集まり始めた。

 そういやあまり気にした事なかったけど、俺って悪魔の実の能力者扱いなのか。

 

「ルフィ。あいつの相手は私がやっても?」

「いいぞ。ぶったおせ」

「はいな」

 

 こちらも一歩前に出て、戦闘態勢を整える。

 正直、いくら鳥を大量に集めたとしても、眼球すら強靭なこの体を傷付けられるとは思えないが……

 

「光栄に思え。お前の相手をするために、辺り一帯の鳥を集めてきてやったぞ……はじめろ、ルッチ!」

 

 モージの掛け声に答えてモージの傍にいる鳥が一声鳴いたかと思うと、鳥達が陣形を組み始める。

 どうやら、全部の鳥をモージが動かしているわけではないようだ。

 モージを倒す以外に、あの鳥を倒しても勝負がつくかもな。

 ああでも、鳥の区別なんてつかないから難しいか。

 

「一番だ!」

 

 鳥達が左右に広がり、こちらに向かってくる。

 さて、どうするか。

 こちらの世界に来てしばらくたつ。

 鳥を捌いた事もあるし、下手をすれば死に至る攻撃を人に向けて行った事もある。

 だが、これだけ大量の、しかも命令されてるだけの鳥を皆殺しにするのは躊躇われた。

 練習中の雷攻撃(たぶん天撃の縮小版……だと思う)はおろか、音速を超えただけで衝撃波で全滅しそうだ。

 

「こういうのは、本体を攻撃するものと相場がきまってますよね」

 

 鳥が左右に広がっているため、中央ががら空きだ。

 俺は、まっすぐモージに突っ込む。

 

「五番!」

「ッ!?」

 

 と、モージの背後にいた鳥が前に出て、モージの姿を完全に覆い隠す。

 だが、モージ自身がそんなにすばやく動けるとは思えない。

 俺は少しだけ進路を変え、すれ違いざまにモージに攻撃を仕掛ける。

 だが、それは悪手だったようだ。

 

「あれ?」

 

 気づけば、俺の体は民家に激突していた。

 

 なんだ?

 何か体に衝撃が走った……おそらく何かの攻撃を受け、バランスを崩して飛行経路がずれたのだろうが。

 音速に近い砲弾すら目視できる俺にも見えない攻撃?

 

「二番!」

 

 おっと、今は考えている場合じゃない。

 鳥に群がられる前に、俺はその場を飛びのいた。

 飛びのいた衝撃で、民家が完全に倒壊する。

 ああ、すまん。住人の人。

 バギー達を倒すから、どうか許してくれ。

 

「チッ、思ったより頑丈だな」

 

 モージが手に持った武器を振り回しながら毒吐く。

 ……ああ、あれがモージの武器か。

 たしかに、らしい武器だ。

 

 10m近くあるだろう、長い鞭。

 ああいったしなる武器の先端は、その長さに比例して恐ろしく速くなる。

 腕の先端が時速100kmだったとしたら、鞭の先端部分は音速を軽く超えるだろう。

 ましてや、ワンピースの世界の住人は、でたらめな身体能力を誇っているのだ。(鏡? 用意したが、今は見る必要がない)

 あの鞭、マッハ3ぐらいには到達しているかもしれん。

 おまけに細く、更に色とりどりの鳥達が(うごめ)きながら視界を覆っているこの状況では、見えないのも仕方がない。

 

 

 さて、どうするか。

 体の頑丈さを活かし、鳥を無視して突っ込んでもいいが……

 せっかく戦いになってるんだ。訓練がてら、いろいろ試させてもらおう。

 それに、罠が仕掛けられていたら困るしな。

 

 俺は、モージの周囲を旋回しながら、様子を伺う。

 ある程度まで旋回半径を小さくすると、鳥を囮にした鞭による攻撃が来る。

 うん、全く見えないというわけではない。

 軌道までは追えないので避けるのは無理だが、攻撃が来るタイミングだけなら知覚できるため、九割がたは防御できる。

 

 これなら、あれを試すか?

 体の外に力を放出すると鳥達虐殺コースしかないが、二つほど使えそうな手があった。

 これを組み合わせよう。よし、即断即決だ。

 急旋回し、モージとの距離を縮める。

 

「五番!」

 

 鳥達が視界を塞ぐが、無視だ。

 狙いはモージではない。

 鳥達の隙間を縫ってこちらに向かってくる鞭。

 俺は、腕に雷を纏って、鞭を防御した。

 

「あがッ!?」

 

 モージの体が硬直する。

 お、成功した。

 鞭をうまく電気が伝っていってくれるか不安だったが、ある程度は通電するようだ。

 続いて俺は翼をはためかせ、モージの方に強風を送った。

 鳥達が散り散りになり、モージの姿が現れる。

 

 あ、なんか罠っぽいものがある。

 腰ぐらいの高さに糸が張られており、その先を見ると網に繋がっていた。

 バギーが手の部分だけでこっそり罠を展開していたようだ。

 何も考えずまっすぐ突っ込んでいたら網に絡めとられていた。あぶねぇ。

 

 だが、視界が開ければこっちのものだ。

 俺は地面すれすれを滑空して接近し、モージの顎を蹴り上げた。

 うし、勝負ありだ。

 

 

「かっ……なさけねぇ。

 あれだけ攻撃を当てておいて倒しきれないとはな」

 

 マフラーを巻いた男(この糞暑い中、マフラーとか明らかに不自然だろ……)が唾を吐き捨てる。

 え、大健闘だったと思うけどなー。

 

 

「さて、次は私かな……

 参謀長、"曲芸のカバジ"が参る。

 先ほどの情けない輩とこの俺を一緒にするなよ?」

「剣士か。なら、俺が相手をしよう」

 

 当然のようにゾロが進み出る。

 お前怪我してるだろ無茶すんなよと釘を刺したかったが、俺より早くナミが突っ込みを入れた。

 でもまぁ、それでゾロがやめるわけないよな。

 

 

 カバジの曲芸に翻弄され、傷口を抉られる事数回。

 援護したかったが、本当に援護したらゾロがぶち切れると思うので、俺はバギー一味の動向を注視するに留めた。

 

 ゾロ、全力で戦ってないな。

 相手の技を見定めようとしている節がある。

 怪我してるのに馬鹿なの? ギガンティックドMなの?

 ハァハァ息を乱しながらお前との格の違いを教えてやるとか言ってるが、そんなもん教えなくていいのでさっさと怪我無く勝って欲しい。

 

 ゾロの宣言を聞いたルフィは、うおーかっこいーと叫んでいる。

 俺は、ドン引きしている。

 ルフィと俺のかっこいい基準は、大きなズレがあるようだ。

 

 その後、ようやく三刀流の技が飛び出し、カバジは体に三本の太刀傷を残して地面に倒れこむ。

 うん、もう少し早く技を出してくれたほうが、見てるこっちとしては安心するんだけど。

 そういや、バギーはちょっかい掛けてこなかったな。

 さっきみたいに、何かしてくるかと思ったけど。

 俺がガン見しているからだろうか。

 

 

 戦いが終わったら、カバジに続いてゾロも地面にぶっ倒れる。

 手当てするか。

 手当ての仕方なんて知らないが、ゾロのことだ。

 止血さえすれば、あとは自力で回復するだろう。

 

 

 

 さて、最後のメインディッシュは我らがルフィ船長とバギーの戦いである。

 メインディッシュだが、多くは語るまい。

 いや、伸びたりばらばらになったりして、見ていてもよくわからなかったというのが正直な所だが。

 人外の争いはちょっと理解できかねます。(鏡? 顔を洗うときに毎回ちゃんと見てるよ)

 

 

 ルフィがバギーを倒してグランドラインの海図を手に入れた後(バギーの部下達は襲い掛かってこなかった)、いつの間にか宝を山ほど強奪してきたナミと共に、町の人に追われながら町を後にする。

 どうやら、おじいさんを物理的に説得したのが不味かったらしい。

 

 たまには落ち着いて町を出たいんだけど。

 このパターン、お約束になったりしない?

 俺、何か心配になってきたよ。

 

 

 誰に向けた言葉でもなかったが、背中に背負ったゾロには聞こえたらしく、怪我を押して律儀に返してくれた。

 

「いいや、船出はコレぐらいがちょうどいいのさ。

 後腐れなくて、すっきりする」

 

 えー。

 ゾロのその言葉には、同意できないなぁ。

 

 俺は、この時はそう思った。

 

 

 

 あ、心配といえば。

 水と食料、また補給できなかったわ。

 

 助けて! ナミえもーん!

 


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