俺達とナミの船が、並んで海を行く。
俺達の船は本当にただの小船といった感じだが、ナミの船には小さいながらも船室がついており、雨風を凌げるようになっていた。
羨ましい。
というか、船室もなしに外洋に出るとかありえない。
寝ている時に大波に襲われたら、船の外に放り出されてしまう。
俺、ナミの船に移籍したいんだけど。
そんな事を考えながら、電撃を受けてぷかぷか浮いた魚を次々に回収していく。
今日は、いい鯛が取れた。
塩焼きは飽きたので、あんかけにでもしようかな。
料理のレパートリーが少ないので、取れる手段が少ない。
前世では、魚なんて丸焼きしかしたことが無かった。
あ、みりんが無い。酒で代用して大丈夫だろうか。
あんを少量だけ作って味見してみたが、まぁ大丈夫だった。
思っていた味とはちょっと違うけど……この酒、辛いな。
もう少し甘い味にしたかったんだが、この酒に砂糖いれるのは駄目っぽい。
もうこれでいいや。
俺は、自作冷蔵庫(樽に敷居を作って氷をぶち込んだだけ)からキャベツとニンジンを取り出し、調理を始めた。
コンロはない。
こんな狭い船にキッチンなどあろうはずもない。
俺の不思議パワーで代用だ。
ついでにいうと、樽に投入する氷も同様に代用している。
この体は雷を出すだけでなく、物を燃やしたり、凍らせたりする事だってできるのだ。
チートボディ万歳。
鯛に直接火をかけて焼き、傍らに用意した鍋であんを用意する。
鉄製の鍋は、この世界で初めて訪れた漁村で貰ったものだ。
電撃を使って乱獲した魚(日本でやっちゃだめだよ、逮捕されてしまう)と交換で手に入れたのだ。
要るかどうか迷ったが、貰って正解だった。
前世で新品の鉄鍋を使ったときはなんじゃこりゃ使いにくいと思ったものだが、使い込まれた鉄鍋は容易に焦げ付かず、俺の出した強い炎に晒されても変質しない。
アルミ製や表面加工された鍋であれば、こうは行かないだろう。
しっかり手入れして大事に使おう。
手入れ方法は、この鍋を使っていたおばちゃんからマンツーマンでみっちり教えてもらった。
徐々に、いい匂いが立ち込め始める。
空っぽの胃が自己主張を始めようとするが、我慢、我慢。
……ん? 天翼種に胃ってあるのか? そういえば食事も睡眠も不要な種族だった気が。
まぁいい。このハラペコ感は本物だ。
あんができあがったら皿にとり、スープの用意を始める。
鍋、もう一つ欲しいな。どんな鍋がいいだろうか。
次の町についたらいろいろ物色しようと考えつつ、スープの調理を開始。
スープは、塩胡椒とバターで簡単に味付けしたものに、キャベツを千切ってぶち込んだだけ。
鯛が焼けるまでには温め終わるだろう。
あとは皿に盛り付けパンを出して、飯の準備は完了だ。
ああ、ダシと白米がほしいなぁ。
◇◇◇
「あんたって、なんで海賊やってるの?」
飯の片付けが終わった後、俺の羽をもふりながら、ナミが尋ねてくる。
ここは、ナミの船の船室内だ。
食材をルフィたちの船においておいたら気づくとなくなっているので(不思議だ)、料理関連のものはナミの船においている。
なんで、ってなぁ。あんまり考えてなかったが。
「気づいたら無人島に一人でおりまして。途方に暮れていた所で、ルフィさんが現れて、仲間に誘われて……ホイホイついていった、という感じです」
行き倒れたら困るしな。
「なによそれ……あんたなら町までひとっ飛びだろうし、その外見なら適当に金持ち引っ掛けて生きていけるでしょうに」
綺麗で羨ましい、とナミがこぼす。
そういうのはなぁ。
男女間の話とか、ちょっと今は考えられない。
「あの二人はどうなのよ?」
え、ちょっとまって。
これってガールズトーク的なものをはじめようとしているの?
俺にはそんなトーク無理だぞ。
「あの二人も、私と大差ないのでは?」
あの二人が恋愛だのなんだのしているのなんて想像できない。
ルフィなんて、男女の区別をしているかどうか怪しいレベルだ。
ゾロは、全くないわけではないようだが……
ルフィが乗っているほうの船で料理をしている時は、台となるものが無かったため、どうしても前かがみにならざるを得ない場面が多々あった。
その時にたぶん胸チラしてしまっているのだろう。
ゾロの視線を感じたことは、一度や二度ではない。
まぁ、男だからな。しょうがないよな。
俺だったらもっとガン見するよ。
「ちょっとは身の危険ってものを感じなさい」
ないなー。
もし危険があっても、殴って粉砕してしまえばいいのだ。がはは。
ナミは溜息をついた。言っても無駄だと悟ったのだろう。
ルフィ達ほどではないが、俺もルフィ達と同じ側の人間であると最近自覚した。
「ジンは、どこで教育を受けたの?」
ナミが話題を転換する。
曰く、俺の知識はありえないらしい。
え、何か変な知識披露したっけ?
聞くが、地図の読み方を聞いた時に感じたそうだ。
平面で地図を書き表す時の投影法。
緯度経度の基準や測量方法。
星の大きさ、極点の位置、磁極点との差異や地軸の角度。
緯度と貿易風の関係。
星の丸みを考慮した最短ルートを選ばない理由。
地図の読み方すら知らない奴が、下手したら正規の航海士でも答えられない質問をしてきたのだ。
これはおかしいと思ったらしい。
そういやそうか。
日本だと小中学校レベルの話を確認しただけなんだが、こっちの世界ではろくな学校もないだろう。
でも、ナミえもんは聞いたら何でも答えてくれるからな。
つい、いろいろ質問してしまうのも仕方が無い。
というか、小さな村で過ごしたナミがそれだけ知っているほうがおかしいんじゃないか。
天才かこいつ。
前世がどうのこうの答えるのは電波ちゃんになってしまうので、空から見ていたら色々と気になるのだと答え、お茶を濁した。
どう見ても納得していないナミだが、それ以上の追求はやめてくれた。
◇◇◇
気分転換に空を飛んでいると、海にぷかぷか浮かんでいる男を発見した。
すわ土左衛門かとも思ったが、俺を発見すると、手を振ってきた。
なんだこいつ。変人のにおいがする。
俺にはわかる。
俺でなくともわかる。
放置するのも躊躇われたので、俺は男を引き上げて船まで戻る事にした。
男の身なりは良く、賊の類ではなさそうだ。
今は濡れてわかめみたいになってる頭も、セットしたらおそらく正装が似合う形になるのだろう。
ダンディな口髭を生やしており、なんか公爵っぽい感じだ。
なんでこんな所で浮いていたのだろうか。
船に戻ってから話を聞くと、わかめ公爵ことクロス・ガーメントと名乗った男は商人らしい。
主に上流階級向けの服飾関係を商い、商船であたりの島々の有力者を回っているのだそうだ。
海にぷかぷか浮いていたのは、見習い商人の女性に手を出そうとしていたのを女房に見つかり、海に叩き落されたと。
なんだそれ。デンジャラスすぎるだろ。
ナミが、私は命の恩人なんだから報酬は期待していいのよねーとクロスにタカる。
え、助けたの俺なんだけど。ハゲタカも真っ青だ。
俺とナミ、ついで後の二人をまじまじと眺めたクロスは、助けてくれたお礼に、最高の服をデザインしてプレゼントすると約束した。
意外とみんな食いつきがよく(いや、みんないつも同じ服装だから、そういうのには興味がないとばかり……)、どんな服を取り扱っているのかや、どうやってデザインしているのか等の話題で華を咲かせた。
そんな中で、ナミは抜け目無く情報も収集する。
有力者に伝手があると聞いたナミは、この辺りで船を所有している人の話を聞き、船をタカる相手を見定めているようだ。
クロスは、シロップ村に住むという有力者を紹介してくれた。
昔の主は船で旅をするのが趣味だったそうだが、既に他界しており、今は船を使っていないという話を執事から聞いたらしい。
地図でその村の場所を教えてもらったが、地形を見る限り、シロップ村というのはおそらくウソップのいる村の事だろう。
となると、クロスが言っている有力者というのは、カヤの事か。
有力者本人の事を聞いてみたが、クロスは直接会ったことがないとの事。
いつも執事を経由して取引するそうだ。
まぁ、本人が寝たきりの病人である事を知っていたら紹介なんてしないか。
◇◇◇
「ハニー、私寂しかったわ!!」
商船が近づいてくるなーと思ったら、品のいい感じの女性が商船に取り付けられた小船に乗り込んでこちらに近づき、クロスに飛びついてきた。
こいつが女房か。
寂しかったもなにも、お前がクロスを海に叩き落したと聞いたが。
「やあメアリー。僕も寂しかったよ。君に会えないまま夜を迎えなくて良かった。そしたらきっと僕は、寂しさで死んでしまっていただろうからね」
クロスもノリノリだ。
お前が浮気したんじゃなかったんかい。
しばらくイチャイチャしていた二人だが(リア充爆発しろ)、メアリーと呼ばれた女性が俺とナミの存在に気がつくと、その目は急速に冷たくなっていった。
え、なにこれ怖い。
「ところでハニー……反省は、きっちりしたのかしら」
「もちろんさ。海に浸かって頭は冷やしたよ。おかげで頭がふやけてこの通りさ」
メアリーは、クロスに抱きついたまま、クロスの肩越しにこちらを絶対零度の眼差しで凝視する。
瞳孔開いてない? こいつ、ヤンデレとかいうやつだろうか。初めて見た。
ヤンデレるのはいいが、俺とナミは関係ないぞ。無実だ。
少し肝を冷やしたが、俺達がクロスを助けたと聞くと態度を一変させ、お礼を言ってきた。
俺達の服をデザインしてプレゼントしようという話をクロスから聞くと、まぁと口に手をあて、最高の服を作りましょうと同意する。
そんな時間はあるのかと思ったが、シロップ村に向かうなら途中までは同行できるので、その間に作れるとの事だ。
◇◇◇
「へぇ、いいじゃない」
プレゼントされた服を着込み、鏡の前でくるりと回ってポーズを取るナミ。
黒を基調にしたドレスは、ナミのずる賢さ……ゲフンゲフン、知的な妖艶さを引き立ている。
正面から見ると黒が多いが、背中が大きく開いており、またスカートにもスリットが入っている。
そのため今のようにくるりと回れば、黒いドレスの隙間からのぞく肌の白さが際立つ。
姿勢を変えた際や体の向きを変えた時等、ふとした瞬間に色っぽさが顔を出す仕様になっているようだ。
狙った瞬間に獲物を襲うイメージのあるナミにはぴったりだろう。
ルフィの服は、すらっとしたシルエットのシャツに、チーノパンツというのだろうか?
名前はよくわからないが、上下共にスリムな印象を与える服装となっている。
普段はアホっぽいが、この服装だとルフィが知的な青年に見えるな。
だが、口を開くとルフィはルフィだ。
この服装はルフィに合っているのかなと疑問に思ったが、クロス曰く、ギャップがあったほうが強く印象に残るので女性にモテるのだそうだ。
なんと。
対するゾロは、見た目の印象を生かした服装となっている。
皮のジャケットにジーンズ。
ジャケットの襟には毛皮が付けられ、服の所々にはシルバーの飾りがあしらわれている。
ワイルドな感じだ。
こうしてみると、ゾロってイケメンだよな。
てか、何だ。グラサン外したドフラミンゴっぽいぞお前。
俺?
自分の描写はあまりしたくないが一応言うと、白を基調とした、海兵服に近いものとなっている。
羽がある都合上、ウエスト周りが開かざるをえないので、その辺りのデザインを工夫したそうだ。
羽と直線状になるように紅と白のラインが入っており、スポーツカーのような印象を与える。
なんか速そう。
また、デザインだけでなく、着やすいようにも気を使ってくれている。
頭からかぶるタイプのシャツと羽織る形のシャツを組み合わせて、一枚の服に見えるようになっているのだ。
これなら確かに、着る時も羽が邪魔にならない。
スカートの方も、同様に二重構造になっている。
これなら飛んでも大丈夫だ。
何が大丈夫なのかは言わないが。
「マーベラス。みんな、とても似合っているよ」
パチパチと拍手しながらこちらに近づいてくるクロスとメアリー。
これはご丁寧にどうも。素晴らしい服をありがとうございます。
「サンキューな、おっちゃん!!」
俺に続き、ルフィもお礼を言う。
おっちゃん……
公爵っぽい外見の人だが、そういわれると凄い親しみを持てるな。
その後、クロス達の船で晩餐をご馳走になった後、俺達はクロス達と別れた。
ルフィは、仲良くなった船員達と別れの挨拶をしている。
ナミは、船員にタカっていろいろ貢いでもらっている。
ゾロは、寝ている。
平和だなー。